2009.10.02 

ソロモン諸島における妊婦のマラリア予防教育カリキュラムと教材開発

~2009 活動報告~

健康科学部 看護医療学科 講師 堀内美由紀

 

こんにちは、看護医療学科の堀内です。 現在、私はトヨタ財団の研究助成金を受け、南太平洋に浮かぶ島国ソロモン諸島妊婦のマラリア予防のための保健教育教材作りに現地の看護師たちと取り組んでいます。マラリアってどんな病気だった?と考えている方もいらっしゃると思いますが、途上国の保健事情や国際保健協力の実際を知っていただける良い機会と思いこのブログの使わせていただくことにしました。

 

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途上国における女性の健康、特に「女性の健康とマラリア」を研究フィールドとして7年になります。マラリアは最も広く分布する感染症のひとつであり世界では3億人もの人々がマラリアと闘っています。また、適切な治療を受ければ命を落とすことはない疾患とされながら、年間300万人もの人々がマラリアで死亡していると推計されています。                                     リスクグループは5歳以下の乳幼児と妊産婦ですが、妊婦のマラリアは赤血球の破壊によって引き起こされる重度の貧血と、マラリア原虫が臍帯の血管壁に張り付いて母体から胎児への血流を妨げるなどの機序によって妊産婦死亡のみならず、流早産、胎内発育不全など、すなわち新生児死亡に大きな影響を及ぼしています。途上国では新生児死亡の40~80%は低出生に関係し、またマラリア流行地帯においては低出生体重児の30%がマラリアに起因するという報告もあります。


ソロモンではクロロキンという抗マラリア薬を妊婦全員に処方し、妊娠期間中週に1回のペースで飲むことになっていますが、「どうも飲んでいないようだ」と保健局や省庁のマラリア関係者は口々に話をしていました。「調べたことはあるの?」「いやぁ、ないんだけど・・・大体分かる。」「どうしてわかるの?」「みんなそう言っているから」「みんなって誰?」「・・・・」 よ~し!調べてみるか?これが研究動機でした。
 
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3ヶ月間で345人の妊婦さんにインタビューを実施し、看護師を集めて5回のフォーカスグループディスカッションを開催しました。「予防内服を処方に従って行っている妊婦は約半数であった」という事実のほかに「高等教育を受けている妊婦ほど内服していない(つまり知識がないから内服しないのではない)」「看護師の多くは”マラリアについてはよく知っている”と答えるが、マラリアの病態生理や治療・予防の基本を正しくこたえられる看護師は少ない」などが示され、マラリア対策に関わる他の関係者の関心も引きました。
 
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今年の夏はこの調査結果をもとに「エビデンスに基づいた健康教育教材の開発」に取り組みました。「妊婦への保健教育のみならず保健指導を行う看護師・助産師のマラリアに対する知識や保健指導技術のレベルを上げる」ことを目的に考えられたのが右の写真でメンバーが持っているフリップチャートです。                           A3サイズ10枚のカードで個別指導にも小集団指導にも対応できます。女性の識字率を60%程度と考え、表は絵を中心に、裏には教育レベルの高い妊婦にも、マラリアを全く知らない妊婦にも「なぜ妊婦のマラリア予防は重要か」が順序を追って理論的に説明されるように保健指導内容を記述しました(紙芝居のアイデアを使用!)。                                        看護師・助産師はこの裏をテキストとしてマラリアに関する知識を上げることができますし、保健指導が苦手な看護師たちでも必要なことはもれなく妊婦に伝えることができるようになっています。コスト削減の目的で、現地の大学で絵画を教えるおじさん(一応教員?)に依頼したイラストは、現地の女性や診療所の様子が反映された『ソロモンテイスト』の教材に仕上がりました。表紙にはソロモン国保健省、一緒に活動している現地のカレッジと並んで畿央大学のロゴも入っています。
途上国での保健医療協力活動は限られた資源とシステムやインフラの不備などで難しいことが多くあります。しかし、肩の力を抜いて、あるがままを正面から受け入れられたとき、解決策がひらめくのです。その解決策はとかくシンプルで「なぜ今まで気づかなかったのだろうか?」と思うことも。海外に出ると私は外国人(当たり前ですね)、大きな目標は大切ですが現地の人たちとのコミュニケーションを大切に目の前にある問題と共に闘う誠実な姿勢を忘れない事が大切だと思います。                                                                                     ソロモン国の看護教育を含めた保健医療システムははるかに日本より劣ります。しかし、住民の健康へのニーズは同じ、また看護師たちは”熱い”です。文化や社会的背景を超えてディスカッションできることはたくさんあります。途上国では「フレンドリーな看護」と定評のある日本の看護職、その誇りを持ってグローバルに活動を続けていきたいと考えています。
 
最後に国際保健分野での研究と保健医療協力への本学のご理解・サポートに大変感謝いたします。ソロモン国保健省、およびソロモンカレッジからも感謝の言葉をいただきましたので、重ねてここでご報告申し上げます。

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