2011.07.12 

書評「Pain Rehabilitation(ペインリハビリテーション)」

松原貴子、沖田実、森岡周 著

 今回ご紹介する書籍は本学の森岡教授が日本福祉大学の松原貴子教授、長崎大学の沖田実教授と共に執筆された、痛みに対するリハビリテーション、すなわち「ペインリハビリテーション」について現時点での集大成といえるテキストです。具体的には痛みの発生に関与する組織の機能解剖、組織損傷・炎症の病態生理、神経科学から痛み発生のメカニズム、痛みの様々な評価方法やリハビリテーションの考え方など、痛みの基礎から臨床までを文字通り網羅した内容になっています。

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 中でも理学療法士として私が興味深く読んだ部分は「ペインリハビリテーションをどう考える?」という章でした。その章のサブタイトルには「既成概念からの脱却」とあります。痛みはまず、身体のどこかが不具合を起こして生じたものと考えられます。

 夏樹静子氏の著書に「腰痛放浪記 椅子がこわい」という作品がありますが、これは夏樹氏が立つことも座ることもできないほど苦しんだ原因不明の腰痛が、発症から3年以上経ってやっと心因的なものと心療内科医に診断され、専門的な治療によって、指一本触れられることなく腰痛が寛解したという内容です。夏樹氏の作品が発表された約15年前には、痛みとは器質的なものであり、そうでなければ「気持ちの問題」で片づけられていたことが分かります。そしてそのような状況はここ数年前までも変わりませんでした。

 書籍の中で松原氏も言及されていますが、痛みを抱えてセラピストに助けを求める患者は山のようにいるにもかかわらず、数あるテキストの中で痛みは各疾患の一症状程度の記載しかなく、学校教育においても痛みを系統的に学習することもありませんでした。しかし本書では過去の一人称経験に影響を受け、情動的側面をも含む痛みを我々がどのように捉え、どのように関わっていくべきかが具体的かつ詳細に示されています。これまで痛みの治療に難渋してきたセラピストにとって、本書がペインリハビリテーションのバイブルとしての一冊になることは間違いないでしょう。

(健康科学部理学療法学科 助教 瓜谷大輔)

 

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『Pain Rehabilitation(ペインリハビリテーション)』は、5月27日~29日に宮崎で行われた「2011年日本理学療法学術大会」にて売上No.1でした! 

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