2013年2月6日の記事

2013.02.06

書評『リハビリテーションのための神経生物学入門』

畿央大学大学院健康科学研究科 森岡周教授による本書『リハビリテーションのための神経生物学入門』は、前著「リハビリテーションのための脳・神経科学入門」、「リハビリテーションのための認知神経科学入門」に続く第3弾の書となっています。これら全てのタイトルは「リハビリテーションのための〜」となっており、リハビリテーションに関与する専門家に向けて書かれた本であります。しかしながら、この第3弾である「リハビリテーションのための神経生物学入門」は、これまでの2冊とは異なるメッセージが込められているように思います。       リハビリテーションの定義は全人間的復権であり、単純な疾患・障害の治療だけではなく、その真の意は対象となる患者(ヒト)が今後どのように生き、どのように暮らし、何を求めて、何を感じて生きていくかを全面的・包括的に、そして科学的な態度で支え続けていくことである。その真髄は、すなわち「人間の理解」であろうかと思います。本書の目次を見ると、各章のタイトルには「私(私たち)は〜」とあります。病気、疾患、病理、障害などに関する脳・神経機構の解説に主軸を置いて述べられているわけではなく、「私」という1人称、あるいは人間のレベルに焦点をあてて内容が構成されているのです。この「人間の理解」の背景には、最良のリハビリテーションを実践していくために、患者の理解を深めることに役立てるという意味だけではなく、私たちリハビリテーション専門家自身の思考や意志決定、チームワークや行動を理解するという意味も含まれているように思われます。  リハビリテーションは医療者と患者・家族間で行われる双方向性のコミュニケーションであり、医療者が一方的にリハビリテーションを提供するだけではその成功はない。その基本・原点に立ち返り、科学的視点を持ちながらも、単にそれらの情報や知識を当てはめるのではなく、「私」と「あなた」を感じながら共存することがリハビリテーションの成功の第一歩となるのです。おそらく著者である森岡先生はそんな想いを抱きながら、今を生きる患者、そして今を見つめ、未来を創造するセラピストに向けてこの書を執筆されたのだと思います。 理学療法学科 准教授 松尾 篤