2015.03.06 

災害に強い地域づくりへの大学の貢献を考える-DMAT訓練を通して-

本学の在学生、卒業生、教員が参加・協力した近畿ブロックDMAT訓練について、看護医療学科堀内准教授からレポートが届きました。
 
【近畿ブロックDMAT訓練の開催】
2月14日、近畿ブロックDMAT(Disaster Medical Assistance Team災害派遣医療チーム)訓練が奈良県下で行われました。
2府4県58医療機関からDMATが参集、奈良県下の医療機関としては、災害基幹病院である奈良県立医科大学病院をはじめ、大和高田市立病院、済生会中和病院、土庫病院という実習でお世話になっている病院、平成23年の紀伊半島南部水害で大きな被害を受けた十津川村の診療所、南部水害の被災地へいち早く医療班を送った県立五條病院など7施設が訓練に参加しました。また、医大や県立の看護学校の学生、総勢400名も傷病者役として参加し、1000人規模の大規模訓練となりました。
 
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橿原運動公園とかしはら安心パークにDMAT本部や活動拠点本部、そしてSCU広域搬送拠点臨時医療施設が置かれ、災害医療(訓練)の中心的役割を担いました。
 
【DMATとは】
DMATの説明を少しだけします。「ディーマット」と呼ばれています。
「救える命を見逃さない、ひとりでも多くの命を救う」ことをミッションとしています。1995年の阪神淡路大震災で亡くなられた6425名の方のうち、少なくとも500名は、適切な初期医療が施されていたら救えたと報告されており、DMATはそうした苦い経験の中、構想が練られ、議論が繰り返され、厚生労働省の元、平成17年4月に発足しました。
3年前より、ブロックごとの訓練が行われるようになり、今年の近畿ブロック訓練の担当が奈良県でした。まず、2月14日の訓練の様子をご覧ください。
 
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▲DMATの車両もいろいろ、仮設診療所が開設できるほどの物品を積んだ車両もあります。奈良県は…地味?(笑)
 
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続々と運ばれてくる傷病者(グレーのウインドブレーカー:奈良医大の学生さんたち)のトリアージが行われます。トリアージとは、治療の優先順位念頭に「治療に緊急を要す:赤」「治療を数時間は待つことはできる:黄色」「治療の必要はない(自力で病院を受診してもらうことで対応できる、など):緑」「救命の可能性はない:黒」の振り分けです。
 
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治療は要すが緊急性はない「黄色」の判定で、テント内で待機する傷病者と付き添いの家族役、治療優先群「赤」で、搬送を待つ傷病者たち(すべて奈良医大学生)
 
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▲訓練の傷病者にムラージュを施しているのは…そう裏方も頑張っています。ピンクのウインドブレーカーを着ているのはボランティアスタッフ、橿原運動公園に配置されたムラージュ応援隊、畿央大学看護医療学科1回生6人もそのメンバーです。
 
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こちらは、かしはら安心パークに配属されたボランティアスタッフ、教育学部、理学療法学科のボランティア学生が配属されました。しかし、突然、欠席した学生の代わりに傷病者役を演じることになって、メイク、演技を確認、打ち合わせ中。
 
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▲誰の足でしょうか?家屋の下敷きになって足が挟まれた、という設定。「赤」から「黒」へ、つまり生存が厳しい、という病状悪化を演技することになりました。答え:ムラージュ指導者講習会から参加してくださった看護医療学科の文先生の足です。
 
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▲ムラージュ応援隊から傷病者へ。担架に固定され「赤」エリアに運ばれた教育学部の学生さん。
 
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ド派手な演出、時間が経過すると退色するので、濃めのメイクで準備します。ひどい顔になってしまいましたが結構楽しんでいた「災害に強い大和の町づくりネットワーク」(詳細は後ほど)のメンバー。
 
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看護医療学科の卒業生も応援に駆け付けてくれました。あんしんパーク組の2人。橿原運動公園組の2人共に、ムラージュだけではなく、後輩たちのサポートもしっかり行ってくれました。文先生とは初めてお目にかかる卒業生たちです。
 

【近畿ブロックDMAT訓練に係った経緯】
本来DMATの訓練ですから、DMATのメンバーたちがDMAT間および、医療機関、自衛隊、警察、消防など連携や動きを確認できればいいのですが、せっかくの大掛かりな訓練です。また、この訓練は県の事業という位置づけ、私たちの税金を使っているわけです。
DMATだけの訓練ではもったいない、「私たちも参加しよう!(したい!)」と、筆者が世話人をしている『災害に強い大和の町づくりネットワーク(以下ネットワーク)』が手を挙げたのは、昨年の5月でした。ネットワークは立ち上げから3年が経過しようとしていますが、近畿ブロックDMAT訓練への関わりを平成26年度の取り組みに決め動き始めました。ただ、どんな風に関わることができるのかを考えるというゼロからのスタートでした。 傷病者役を看護学生さんにお願いすることはほぼ決まっているという情報がありました。
そこで、本格的なムラージュ(傷病者メイク)を患者役として参加する看護学生さんたち全員に経験してもらおうという企画案を出しました。しかし、所属先がDMAT訓練に参加する医療機関であったり、DMAT隊員であったり、当日ムラージュのサポーターとして動けるネットワークメンバーは、10名弱、どのように400名ものムラージュが行えるか・・・ その答えが奈良県医療政策部地域連携推進課とネットワークのコラボによる『ムラージュ(傷病者メイク)指導者講習会』の開催です。
奈良県医療政策部地域連携推進課より畿央大学にも正式な協力依頼が届き、講習会の会場の提供、ボランティア学生の募集(ボランティアセンター)、講習会を受けた本学の学生たちによるムラージュ講習会などで協力することが決まりました。
 
【ムラージュ(傷病者メイク)指導者講習会】
 
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昨年の2014年11月15日に『ムラージュ(傷病者メイク)指導者講習会』を畿央大学看護実習室で開催し、傷病者役として学生が参加する看護学校の教員、傷病者役として参加する奈良医大の学生リーダーグループ、訓練に参加する医療機関のスタッフ、畿央大学からは、看護医療学科教員、4回生の「災害看護論」履修学生、訓練当日にムラージュサポーターを申し出てくれた畿央大学のボランティア学生、広陵町職員の皆さん、そして、ネットワークのメンバーおよび奈良県医療政策部の担当職員、総勢68名が集まりました。
 
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講師には、日ごろから地域での防災教育などでご活躍の赤十字京都府支部レスキューチェーンの皆様をお迎えしました。
 
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看護実習室に防汚シートを敷き準備万端!奈良県医療政策部地域連携推進課担当職員より近畿ブロックDMAT訓練の目的や概要について説明があったのち2グループに分かれてデモンストレーションを見学。予想よりも多くの皆さんにお集まりいただき、防災訓練への関心が高まっていることがわかります。
 
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手早くメイクを施していきます。上段は火傷、オブラートを置いて水を噴霧、ウブラートがチュルチュルっと縮みながら肌に張り付きます。下段は、シリコン製の既存のシールとカラーを使った解放骨折。見ているだけで痛くなります。
 
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参加者の皆さんが互いに練習。手際よく、かつ、大胆に、ムラージュを進めていきます。
 
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ムラージュが施されたところで演技の練習。看護医療学科4回生「災害看護論」履修学生たちが痛みや不安を表情で示しています。上手にできているでしょうか? 彼女たちを含む13名は、他校の看護学生のムラージュ指導に出向というミッションがありましたが、緊張・・してないですね。
 
【本学看護医療学科4回生「災害看護論」履修学生13名によるムラージュ講習】
そのミッションの様子です。2月14日の傷病者役として最も大人数が参加する奈良県立医科大学医学部看護学科において、12月22日および1月19日の2回、近畿ブロックDMAT訓練の説明会およびトリアージ・ムラージュ勉強会が2コマずつの授業として開催されました。畿央大学看護医療学科4回生の「災害看護論」履修学生13名が医大看護学科1-3回生までの学生約200名に対しムラージュを伝授しました。わかりやすい説明と手技を披露、頼もしいピアエデュケーターの誕生です! ほんの一部ではありますが、こうした大規模訓練の準備に参加できたことは貴重な経験です。
 
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【伝えたいこと】
2月14日訓練当日から遡って振り返りをしてみました。長い記事を最後まで読んでいただきありがとうございました。
 
筆者は、阪神大震災を兵庫県西宮市の勤務先の病院で経験しました。諸事情で天理にある祖父母の家へ引っ越してきた時には、既に震災から2年を経過しようとしていましたが、勤務先でも地域でも、阪神大震災は既に「過去の出来事」のようで、同じ近畿圏の県とは思えないほど災害に対する意識が薄いと驚いたことが忘れられません。あれからずいぶん時間も経ち、その間にも多くの災害がありました。しかし、私たち奈良県に住む者たちの災害に対する関心や意識を大きく変えたのは、やはり東日本大震災と紀伊半島南部水害の経験だったと思います。たくさんの学び、教訓をぜひ役立ててください。
 
災害時の被害を最小限に留めるためには、DMATなど特殊な役割を持つ人たちだけではなく一般住民が知識や日頃の備えをしていることが大きなカギとなります。今回は、災害訓練そのものに参加するのも初めてという学生さんも多く、災害に関心を持って考えるきっかけになればと思います。さらに欲を言うと、地域防災活動が活発になってきているところも多いので、ムラージュを経験した皆さんがそれぞれの地域で、なんらかの貢献をしていただければと思います。学校や病院に就職された時にも習得した技を積極的に披露して防災訓練を盛り上げてください。災害シミュレーションは有事の際には必ず役に立ちます、自分自身や大切な人の命を守ることに役立ててください。
 
最後になりましたが、今回の一連の準備から、広陵町役場や香芝広陵消防組合の職員の皆様にご協力いただきました。本当にありがとうございました。災害に強い大和の町づくりネットワークの皆さん、これからもボチボチ出来ることを頑張っていきましょう。

看護医療学科准教授 堀内 美由紀

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