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健康科学研究科 , 理学療法学科 , 畿央の学びと研究

教育学部教員による書評~森岡周教授著「コミュニケーションを学ぶーひとと共生の生物学ー」

2018年9月3日(月)

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター長の森岡周教授が執筆した「コミュニケーションを学ぶ -ひとの共生の生物学-」について、森岡教授が担当する教育学部3年次後期配当「発達障害教育特論」で対談形式の授業を行っている教育学部現代教育学科大久保賢一准教授より書評が届きました。

 

無題

 

本書の目的は「人間」を理解することである。人と人との間で繰り広げられるコミュニケーションを主題としながら、社会の成り立ちや有り様を描き、「人間らしさ」とは何かということに迫る。著者は、様々なレベルにおける「相互作用」にフォーカスし、重要な先行研究を引用しつつ、巧みにそれらの知見について解説していく。

 

まずフォーカスされるのは、神経細胞間の相互作用である。細胞同士がシナプスによって結ばれることによって神経システムが形成され、様々な神経伝達物質や電気信号のやり取りが絶えず行われ、それが感覚や運動の基盤となっていることを理解することができる。つまり、「細胞間のコミュニケーション」が我々のあらゆる活動の土台となっているのである。専門外の読者には、一見取っ付きにくい内容に思えるかもしれないが、美しいイラストや様々な具体例が用いられ、わかりやすく解説されている。本書は、優れた生物学、あるいは生理学のテキストとしての側面を持つといえる。

 

次にフォーカスされるのは、人と人との相互作用である。本書においては、その基盤となる言語、メタ認知、記憶、共同注意、心の理論、共感、アフォーダンスといった重要な事項について、様々なトピックの中で、その基盤となるメカニズムについて解説されている。本書は、基礎的な心理学のテキストとしての側面を持つといえる。

 

フォーカスの対象は「集団」へと拡げられる。それは個人と集団の相互作用、集団内における個人間の相互作用、あるいは集団間の相互作用である。著者はアリを例にあげ、捕食されるリスクと餓死リスクを同時に最小化するために社会的分業を生み出した超個体(super organism)としての組織プロセスについて解説している。集団内において個体同士が相互作用し、連携・連動・分業を行いながらある目的を共有して組織として機能している様子は、個体内における神経システムのそれによく似ていると感じられる。本書は、先駆的な社会学のテキストとしての側面を持つといえるであろう。

 

皮膚の内側、対人関係、そして社会や組織といった様々な次元における「コミュニケーション」について分析し、「わたし」という自己に対する意識、「あなた」という他者の理解、そして人間社会の有り様を描き出し、さらにそれぞれが相互作用をしているというダイナミズムを体感することができる。さらに本書においては、より発展的なコミュニケーション論として、ゴシップ、文学、儀式、芸術、SNS、拡張現実、AI、機械学習などにも触れられており、現代的なトピックについても「コミュニケーション」という切り口から分析されている。

 

さらに本書の特徴としてあげられるのは、一見「コミュニケーション」という主題との関連性が見えづらい「身体」の役割について重点的に取り上げられている点である。これは著者の理学療法士としての経歴が影響しているのかもしれない。例えば「共感」といわれるプロセスにおいて、表情、姿勢、動きの同調が影響しており、乳幼児期における手さしや指さしといった身体の動きが、共同注意(joint attention)において重要な役割を果たしていることが指摘されている。

 

友人、家族、恋人など様々な対象において、あるいは学校や職場など様々な状況において「コミュニケーション」は重要な役割を果たしており、また同時にそれは我々の重大な悩みの種でもある。本書はそのようなコミュニケーションに関わる悩みに対して具体的に指南をしてくれるようないわゆる「ハウツー本」ではない。本書は「自然現象」としてのコミュニケーションを科学的に解説したものである。それは「なぜ人々がそのように行動するのか?」を知るための材料となり、様々な問題を抱える者の困難性を科学的に理解し、効果的に支援するための材料となるだろう。

現代教育学科 准教授 大久保賢一

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【所属カテゴリ】健康科学研究科理学療法学科畿央の学びと研究

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