入院中の脳卒中者はなぜ歩行を重要と認識しているか-歩行に関する語りから重要性を探索-
PRESS RELEASE 2026.2.22
脳卒中を発症すると,多くの人が歩行能力の低下を経験し,日常生活や社会参加にさまざまな影響を受けます.しかし,入院中の脳卒中者が,どのような理由で歩行を重要と捉えているのかについては,これまで十分に明らかにされていませんでした.畿央大学大学院博士後期課程の三枝 信吾 氏と森岡 周教授らは,回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中者19名を対象にインタビュー調査を行い,歩行の重要性に関する認識を質的に分析しました.この研究成果は Frontiers in Neurology誌(Perceived importance of walking among hospitalized patients with stroke: A thematic analysis)に掲載されています.
本研究のポイント
■回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中者を対象に,歩行の重要性について半構造化インタビューを行い,質的に分析した.
■歩行は,日常生活の再開や健康の促進および機能低下の予防に加え,歩行に伴う不安,他者との関係性,歩行能力低下のラベリング,さらに社会環境とも深く結びついていることが明らかとなった.
研究概要
脳卒中を発症すると,多くの人が歩行能力の低下を経験します.歩行は移動手段としてだけでなく,日常生活の自立や社会参加,健康維持にも深く関わる重要な活動です.しかし,入院中の脳卒中者が,どのような理由で歩行を重要と捉えているのかについては,これまで十分に明らかにされていませんでした.畿央大学大学院博士後期課程の三枝 信吾 氏と森岡 周 教授らの研究チームは,回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中者19名を対象に,歩行の重要性について半構造化インタビューを実施し,質的分析を行いました.その結果,歩行は発症前の生活を再開するための重要な要素として強調されていました.一方で,歩行は健康を維持するために重要ではあるが,環境への適応に対する不安も示されました.そして,参加者は歩行能力低下が他者との関係性に悪影響を及ぼすことを懸念していることや,他者からの視線を通じて脳卒中者として捉えられることを避けたいという思いも示されました.さらに,歩行の重要性は経済的負担や交通手段,外部支援の必要性といった,より広範な社会的課題にまで及んでいました.本研究は,入院中の脳卒中者が歩行を重要と捉える理由を質的に明らかにした初めての研究です.
研究内容
本研究では,回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中者19名を対象に,歩行の重要性に関する対面での半構造化インタビューを実施しました.インタビューに先立ち,Community Integration Questionnairを用いて,発症前の生活状況や社会参加の背景を把握しました.次に,歩行の自立性,バランス,質,距離,速さの5つの歩行要素の中から,参加者が最も重要と認識している要素を選択してもらい,その理由について詳しく語ってもらいました.インタビューはすべて音声録音され,逐語録として文字起こしされた後,体系的にコーディングされてテーマを生成するための分析が行われました(図1).

図1.インタビューの手順と内容
結果,6つの主要なテーマが抽出されました.(1) 日常生活の再開:歩行は,発症前に行っていた活動や生活習慣に戻るために不可欠な要素として認識されていました.(2) 健康の維持および機能低下の予防:参加者は,歩行は健康を維持し,身体機能の低下を防ぐために重要であると捉えていました.(3) 歩行に伴う不安:参加者は,歩行時に生じる身体的および環境的な困難について語っていました.(4) 他者との関係性:歩行の困難さが,家族や周囲の人々との関係性に影響を及ぼす可能性について懸念が示されていました.(5) 歩行能力低下のラベリング:参加者は,自身の歩き方が他者からどのように見られているかを強く意識していました.(6) 社会環境:歩行は,仕事や交通手段といった,より広範な社会的要因と結びついていました.
研究グループは,これらの結果から,入院中の脳卒中者にとって歩行は,発症前の生活の再構築や健康の維持,人間関係および社会環境への再適応と深く関わる行為であると考えています.一方で,歩行は他者からの視線をはじめとする周囲との関係性といった心理社会的側面からもその重要性が形づくられており,今後の歩行リハビリテーションでは,身体機能や移動能力といった視点に加えて,個々人が認識する歩行観を踏まえた包括的な支援が必要であると考察しています.
本研究の臨床的意義および今後の展開
本研究の臨床的意義は,理学療法士等が歩行リハビリテーションを行う際に,脳卒中者自身が歩行に見出している意味や価値に着目する必要性を示しています.今後は縦断データを使用し,時間の経過に伴歩行の捉え方の変化を検討する必要があります.なお、本研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「生体マルチセンシングシステムの究明と活用技術の創出」における研究課題「ナラティブ・エンボディメントの機序解明とVR介入技術への応用」の支援を受けて実施しました.
論文情報
Mitsue S, Ogawa T, Minamikawa Y, Shimada S and Morioka S (2026)
Perceived importance of walking among hospitalized patients with stroke: a thematic analysis.
Front. Neurol. 17:1742132.
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本研究の出版報告は、NARRATIVE EMBODIMENT PROJECT(NARRA BODY)のウェブサイトにも掲載されています。
問い合わせ先
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
博士後期課程 三枝 信吾
教授 森岡 周
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp




