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2018.06.13

子どもの手運動機能は、視覚と運動を統合する能力に起因する~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

子どもの手運動機能は、視覚と運動を統合する能力に起因する

 

ヒトの運動発達、運動学習を支える脳内システムの一つに、教師あり学習があります。教師あり学習とは、フィードフォワード(運動)情報とフィードバック(感覚)情報を比較し、誤差信号を教師信号として、迅速な運動の修正を可能にします。反復練習により、運動が徐々に上達していく背景には、この教師あり学習が関与しています。

一方で、この教師あり学習の基本形である運動と感覚を比較し統合する能力は、子ども時代に年齢増加に伴って発達変化することが分かっています。すなわち、乳児期⇒幼児期⇒学童期⇒青年期と成長(年齢が増加)するにつれ、感覚-運動統合能力は向上します。しかしながら、子どもが有する運動機能と感覚-運動統合能力との関係は、よく分かっておらず、子どもが有する運動機能が感覚-運動統合能力の予測因子となるか否かは明確になっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 助教と森岡周 教授らは、嶋田総太郎 教授(明治大学)、中井昭夫 教授(武庫川女子大学)らと共同で、子どもが有する手運動機能は、年齢に関わらず、運動情報と視覚情報を統合する(視覚-運動統合)能力の強力な予測因子であることを明らかにしました。この研究成果は、Frontiers in Psychology誌 (Manual Dexterity Is a Strong Predictor of Visuo-Motor Temporal Integration in Children)に掲載されています。

 

研究概要

視覚情報と運動情報を時間的に統合する能力(視覚-運動時間的統合能力)とは、自己の運動とその視覚フィードバックが同期しているか否かを認識する能力です。そして、この視覚-運動時間的統合能力は、小児期に年齢増加に伴い、発達変化することが分かっています。具体的には、生後1-5カ月の乳児では、自己運動とその視覚フィードバックとの間に3秒もの誤差を与えても認識できませんが、生後6-11カ月の乳児では2秒もの誤差であれば認識できることが示されています。さらに5歳児では約250ミリ秒の誤差が、8歳児では約110ミリ秒の誤差が、そして成人前には約60ミリ秒の誤差が認識できるとされています(誤差時間については、実験方法によって異なります)。このように、年齢は視覚-運動時間的統合能力の予測因子であることが分かっていました。
一方で、この視覚-運動時間的統合能力は、運動機能とも深い関係があることが予想されますが、視覚-運動時間的統合能力と子どもが有する運動機能との関係性は明らかになっていませんでした。
そこで信迫助教らの研究グループは、4歳児から15歳児までの手運動機能と視覚-運動時間的統合能力を調査しました。その結果、先行研究と同様に、視覚-運動時間的統合能力は年齢増加に伴って向上することが示されましたが、同時に、手運動機能の向上に伴って視覚-運動時間的統合能力が向上することも示されました。結論として、子どもにおける手運動機能は、年齢に関わらず、視覚-運動時間的統合能力の有意な予測因子であることが示されました。

 

本研究のポイント

子どもが有する手運動機能(手運動の器用さ)は、年齢とは関係なく、子どもが有する視覚-運動時間的統合能力の強力な予測因子であること、すなわち子どもにおける手運動機能と視覚-運動時間的統合能力との間には、直接的な関係(ダイレクト-リンク)があることを明らかにした。

 

研究内容

本研究には、医療的状態、発達障害、知的障害の診断を持たない4歳から15歳までの139児が参加しました。そのうち、132児が実験課題を完了しました。手運動機能の測定には、共同研究者の中井昭夫教授(武庫川女子大学)が日本での標準化研究を実施している国際標準評価バッテリーが使用されました。このバッテリーで測定された得点が高いほど、手運動機能が高いことを表します。視覚-運動時間的統合能力の測定には、共同研究者の嶋田総太郎教授(明治大学)が開発した映像遅延検出課題が使用され、この課題で抽出される遅延検出閾値と遅延検出確率曲線の勾配が、視覚-運動時間的統合能力を反映する指標となりました。遅延検出閾値の短縮と勾配の増加は、視覚-運動時間的統合能力が高いことを表します。

 

fig.1

図1:年齢と視覚-運動時間的統合能力との関係

A:年齢と遅延検出閾値の関係。年齢が増加するほど、遅延検出閾値は短縮した。
B:年齢と勾配との関係。年齢が増加するほど、勾配は増加した。

 

 

fig.2

図2:手運動機能と視覚-運動時間的統合能力との関係
A:手運動機能と遅延検出閾値の関係。手運動機能が向上するほど、遅延検出閾値は短縮した。
B:手運動機能と勾配との関係。手運動機能が向上するほど、勾配は増加した。

 

 

結果、年齢の増加に伴って、遅延検出閾値は短縮し、勾配は増加しました(図1-A・B)。このことは、年齢の増加に伴って、視覚-運動時間的統合能力が向上することを意味しました。一方で、手運動機能の向上に伴って、遅延検出閾値は短縮し、勾配は増加しました(図2-A・B)。このことは、手運動機能の向上に伴って、視覚-運動時間的統合能力が向上することを意味しました。
しかしながらこの段階では、(本研究で使用した国際標準評価バッテリーは年齢調整テストであるが、)偶然に高年齢児ほど手運動機能が高かったために、年齢だけでなく、手運動機能と視覚-運動時間的統合能力との間にも相関関係が認められた可能性がありました。
そこで、階層的重回帰分析によって、年齢と手運動機能の交互作用を検討しました。その結果、年齢と手運動機能との間には交互作用はありませんでした。したがって、子どもが有する手運動機能(手の器用さ)は、年齢とは独立して、視覚-運動時間的統合能力の強力な予測因子であることが示されました。

 

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究結果は、子どもが有する手運動機能は、年齢と同様に、子どもの視覚-運動時間的統合能力の重要な予測因子であることを示しました。
本研究結果と先行研究(Nobusako et al., Front. Neurol. 2018)は、一貫して、運動の器用さと視覚-運動統合との間には重要な関連性があることを示し、子どもの運動の不器用さの改善のために、視覚-運動統合を促進・向上するリハビリテーション技術の必要性を強調しました。

 

関連論文

Nobusako S, Sakai A, Tsujimoto T, Shuto T, Nishi Y, Asano D, Furukawa E, Zama T, Osumi M, Shimada S, Morioka S, Nakai A.

Deficits in Visuo-Motor Temporal Integration Impacts Manual Dexterity in Probable Developmental Coordination Disorder.

Front Neurol. 2018 Mar 5;9:114.

論文情報

Nobusako S, Sakai A, Tsujimoto T, Shuto T, Nishi Y, Asano D, Furukawa E, Zama T, Osumi M, Shimada S, Morioka S, Nakai A.

Manual Dexterity Is a Strong Predictor of Visuo-Motor Temporal Integration in Children.

Front Psychol. 2018 June 12. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2018.00948

 

問合せ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
畿央大学大学院健康科学研究科
助教 信迫 悟志(ノブサコ サトシ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

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