感覚運動の時間的不一致による身体性変容の神経メカニズムが明らかに~ニューロリハビリテーション研究センター

2018/11/22更新

脳卒中や脊髄損傷、慢性疼痛患者において、患肢を自己身体の一部と認識できないといった身体性の変容が生じることが報告されています。こうした身体性変容の要因の1つには、運動指令と実際の感覚フィードバックとの間に生じる不一致(感覚運動の不一致)が考えられています。しかしながら、感覚運動の不一致による身体性の変容が、①どれくらいの時間的不一致により生じるのか? あるいは、②その神経メカニズムは? については明らかになっていませんでした。畿央大学大学院 博士後期課程 片山脩と森岡周教授らは、感覚運動の時間的不一致が、150ミリ秒では身体に対する奇妙な感覚のみが惹起され、250ミリ秒以上の不一致では身体の喪失感や重さの知覚変容が生じることを明らかにしました。また、350ミリ秒以上の不一致で運動の正確性が低下することを明らかにしました。さらに、これらの身体性変容と運動制御への影響には、補足運動野と頭頂連合野の神経活動が関わっていることを脳波のネットワーク解析にて明らかにしました。この知見は、脳卒中や脊髄損傷、慢性疼痛患者の病態解明に貢献し、新たなニューロリハビリテーション技術開発に向けた基礎的知見になるものと期待されます。この研究成果は、Frontiers in Behavioral Neuroscience誌(Neural mechanism of altered limb perceptions caused by temporal sensorimotor incongruence)に掲載されています。

 

本研究のポイント

 ■ 感覚運動の時間的不一致は、身体性の変容(「奇妙な感覚」「身体の喪失感」「重さの知覚変容」)を生じさせるだけでなく、運動制御にも悪影響を与える。

 ■ 身体性の変容と運動制御への影響には、補足運動野と頭頂連合野の神経活動が関わっている。

 

研究内容

健常大学生を対象に、映像遅延システム(図1)の中で手首の曲げ伸ばしを反復させます。映像遅延システムでは、被験者の手の鏡像をビデオカメラで捉えて、そのカメラ映像を「映像遅延装置」経由でモニターへ出力させます。出力されたモニター映像を鏡越しに見ることによって自分の手を見ることができるものの、映像遅延装置によって作為的に映像出力が時間的に遅らされるため、被験者は“あれ?自分の手が遅れて見える” “自分の手が思い通りに動いてくれない” “自分の手のように感じない”という状況に陥ることになります。

 

図1

 

図1:映像遅延システムを用いた実験

自分で動かした手が時間的に遅れて映し出される細工がされることによって、ヒトの感覚運動ループを錯乱させることができ、“身体性の変容”という状況を仮想的に設定することができます(技術提供:明治大学 理工学部 嶋田総太郎 教授)。

実際の実験では、① 0ミリ秒遅延、② 150ミリ秒遅延、③ 250ミリ秒遅延、④ 350ミリ秒遅延、⑤ 600ミリ秒遅延の5条件で手首の反復運動を被験者に実施してもらいました。運動中の手関節の運動を電気角度計で計測し、身体に対する「奇妙さ」「喪失感」「重さ」についてアンケートで定性的に評価しました。

実験の結果、動かした手の映像を150ミリ秒遅延させて視覚的にフィードバックすると、“自分の手に奇妙な感覚がする”といった変化が生まれました。さらに250ミリ秒以上遅延させると“自分の手のように感じない” “手が重くなった”という身体性の変容が生じました。遅延時間をさらに長くするとそれらの変化が増大することも確認されました(図2)。一方で、手関節の反復運動は、動いている手の映像を350 ミリ秒遅延させると、正確性が低下することが確認されました。これらの結果から、身体性の変容だけでなく運動制御までをも変容させてしまうということが明らかにされました。

 

図2

 

図2:感覚運動の時間的不一致による身体性の変容と運動の正確性の乱れ

さらに、身体に対する「奇妙さ」においては、150ミリ秒遅延では両側の腹内側前頭前野の神経活動性(図3)、600ミリ秒遅延では左の補足運動野と右の背外側前頭前野および右の右上頭頂小葉の神経活動性が関わっていることが明らかとなりました。「喪失感」および「重さ」においては、左の補足運動野の神経活動性が関わり、運動制御には右の下頭頂小葉の神経活動性が関わることが明らかとなりました。

 

図3

 

図3:150ミリ秒遅延条件での「奇妙さ」に関わる神経活動領域

 

図4

 

図4:600ミリ秒遅延条件での「運動の正確性」に関わる神経活動領域

 

本研究の臨床的意義および今後の課題

本研究成果は、脳卒中や脊髄損傷、慢性疼痛患者の身体性変容や運動制御への影響に補足運動野と頭頂連合野の神経活動性が関わっていることを示唆するものです。そのため、感覚運動の不一致を最小限にしながらリハビリテーションを進めることの重要性を提唱する基礎研究となります。今後は、実際に身体性の変容が生じている患者を対象に神経メカニズムの検証を行い、ニューロモデュレーション技術などを用いて、特定された脳領域の神経活動性に修飾を与えるニューロリハビリテーションの効果を検証していく予定です。

 

論文情報

Katayama O, Tsukamoto T, Osumi M, Kodama T,Morioka S.

Neural mechanism of altered limb perceptions caused by temporal sensorimotor incongruence.

Front. Behav. Neurosci. Vol 12. 282

 

問合せ先

畿央大学大学院健康科学研究科

博士後期課程 片山 脩(カタヤマ オサム)

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600

E-mail: b6725634@kio.ac.jp

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

教授/センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600

E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

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