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2019.01.15

徒手牽引の鎮痛効果を「信号検出理論」で検証~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

徒手牽引は鎮痛手段の1つとして用いられていますが、その鎮痛効果が“主観的なバイアス”によるものか“徒手牽引そのもの”による効果なのか明らかになっていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程の重藤隼人氏と森岡周教授らは、心理物理学的手法である信号検出理論による実験で、徒手牽引はAδ線維由来の一次痛に対して主観的なバイアスよりも、徒手牽引そのものによって鎮痛効果が引き起こされていることを明らかにしました。この知見は、徒手牽引を介入手段として選択する際の意思決定に役立つ基礎的知見になるものと期待されます。この研究成果は、Pain Medicine誌(Experimental Pain Is Alleviated by Manual Traction Itself Rather than Subjective Bias in the Knee: A Signal Detection Analysis)に掲載されています。

 

研究概要

徒手牽引は臨床場面で鎮痛を目的とした治療に用いられています。しかし、徒手牽引の鎮痛効果が主観的なバイアスによるものか、徒手牽引によるものかは明らかにされていませんでした。また、徒手牽引に伴う触刺激自体も鎮痛効果を有しているとされていますが。徒手牽引と触刺激の鎮痛効果の違いは明らかになっていませんでした。そこで、疼痛研究分野で応用されつつある「信号検出理論」と呼ばれる心理物理学的手法を用いて、徒手牽引および触刺激のAδ線維由来の一次痛およびC線維由来の二次痛に対する鎮痛効果が、疼痛感受性の低下によるものか、主観的なバイアスによるものかを鑑別し検討しました。その結果、徒手牽引は一次痛に対して鎮痛効果を有し、触刺激は一次痛および二次痛に対して鎮痛効果を有していることがわかりました。そして、徒手牽引の一次痛の鎮痛効果は、主観的なバイアスよりも疼痛感受性の低下によって引き起こされていることが明らかになりました。

 

本研究のポイント

■ 信号検出理論による解析によって、鎮痛効果を疼痛感受性と主観的なバイアスの影響に鑑別した。

■ 徒手牽引はAδ線維由来の一次痛に鎮痛効果を有し、触刺激はAδ線維由来の一次痛およびC線維由来の二次痛に鎮痛効果を認めた。

■ 徒手牽引の一次痛に対する鎮痛効果は、主観的なバイアスよりも疼痛感受性の低下による影響が大きかった。

 

研究内容

健常成人を対象に、1)徒手牽引×Aδ線維、2)触刺激×Aδ線維、3)徒手牽引×C線維、4)触刺激×C線維、の4条件の実験を実施しました。介入(図1)前後に疼痛強度の選択課題を実施させます。この課題では、「低強度」・「高強度」の2つの刺激強度を設定し、ランダムに「低強度」もしくは「高強度」の電気刺激を被験者に実施し、被験者は電気刺激が「低強度」・「高強度」どちらであったか回答を行いました。

回答は下記の4パターンに分類され、各回答の割合を解析に用いました。

Hit:高強度を高強度と回答

Miss:高強度を低強度と回答

False Alarm:低強度を高強度と回答

Correct Rejection:低強度を低強度と回答

本研究ではHit率(Hitの割合)の低下を鎮痛効果と定義しています。

信号検出理論による解析では、Hit率およびFalse Alarm率を用いて、d`(感度)とC(バイアス)を算出することができ、d`の低下が識別能力の低下(≒疼痛感受性の低下)による鎮痛を示し、Cの低下が主観的なバイアスの増大による鎮痛を示しています。

 

fig.1

図1:徒手牽引(A)、触刺激(B)

実験の結果、徒手牽引ではAδ線維でHit率の低下を認め、触刺激ではAδ線維およびC線維でHit率の低下を認めました(図2)。鎮痛効果を認めた徒手牽引のAδ線維のd`(感度)とC(バイアス)に着目すると、C(バイアス)よりもd`(感度)の変化が大きく認められました(図2)。つまり、徒手牽引によるAδ線維由来の痛みの軽減は、主観的なバイアスよりも疼痛感受性の低下によって引き起こされていました。

 

fig.2

図2:A.Aδ線維での徒手牽引・触刺激前後のHit率とFalse Alarm率、d`(感度)とC(バイアス).

B.C線維での徒手牽引・触刺激前後のHit率とFalse Alarm率、d`(感度)とC(バイアス).

*p<0.05. #p<0.10.

 

 

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究成果は、徒手牽引はAδ線維由来の痛みに対して有効であり、その鎮痛効果は主観的なバイアスによるものではなく徒手牽引そのものによって引き起こされていることを示唆するものです。徒手牽引による鎮痛効果が、主観的バイアスによるものではないという事実は、臨床的には意義がある基礎研究と考えられます。

 

論文情報

Sigetoh H, Osumi M, Morioka S.

Experimental Pain Is Alleviated by Manual Traction Itself Rather than Subjective Bias in the Knee: A Signal Detection Analysis

Pain Medicine 2019 

問合せ先

畿央大学大学院健康科学研究科

博士後期課程 重藤隼人(シゲトウ ハヤト)

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600

E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

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