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2019.07.19

予測-結果の不一致と運動主体感の関係〜ニューロリハビリテーション研究センター

「この行為を引き起しているのは自分だ」という感覚を“運動主体感”といいます。運動主体感は、予測と実際の感覚結果が一致することによって引き起こされる感覚であることが知られています。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡 周 教授と大住倫弘 准教授らは、明治大学理工学部の嶋田総太郎 教授、慶應義塾大学の前田貴記 講師らと共同で、予測-結果の一致だけで運動主体感が構成されていない可能性を実験的に示しました。この研究成果は,PLoS One誌(The relationship and difference between delay detection ability and judgment of sense of agency)に掲載されています。

研究概要

「この行為を引き起しているのは自分だ」という“運動主体感”は、「この行為によってどのような感覚が引き起こされるか」という予測と、実際の感覚結果の一致によってもたらされる感覚と考えられてきましたが、互いがどれほど密接な関係にあるのかは不明でした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡 周 教授と大住倫弘 准教授らは、明治大学理工学部の嶋田総太郎 教授、慶應義塾大学の前田 貴記 講師らと共同で、予測-結果の不一致に気づく時間窓と、予測-結果の不一致によって運動主体感が損なわれる時間窓との関係を調査しました。その結果、予測-結果の不一致に気づきやすい被験者ほど運動主体感を損ないやすい傾向があることが確認されましたが、互いの関係は決して強固なものではないことも明らかにされました。この結果は、運動主体感は単なる予測-結果の一致だけで構成されている感覚ではなく、それ以外の要因によって修飾されることを示唆するものです。

本研究のポイント

運動主体感は、予測-結果の一致/不一致だけによって左右されるものではない可能性を示した。

研究概要

1.予測-結果の不一致に気づく時間窓の計測

健常大学生を対象に、映像遅延システム(図1)の中で人差し指を1回だけ動かしてもらいます。映像遅延システムでは、被験者の手の鏡像をビデオカメラで捉えて、そのカメラ映像を「映像遅延装置」経由でモニターへ出力させます。出力されたモニター映像を鏡越しに見ることによって自分の手を見ることができます。また、映像遅延装置によって作為的に映像出力を時間的に遅らせることができます。この遅延時間を100, 200, 300, 400, 500, 600, 700, 800, 900, 1000ミリ秒の10条件設定をして、被験者がどのくらいの遅延時間で遅延に気づくことができるのかを定量化しました(図3左)。

fig.1

図1:映像遅延システム

 

 

2.予測-結果の不一致によって運動主体感が損なわれる時間窓の計測

健常大学生を対象に、Agency attribution task(Keio method: Maeda et al. 2012, 2013)を実施してもらいました(図2).被験者のボタン押しによって画面上の■がジャンプするようにプログラムされており、さらにボタン押しと■ジャンプの間に時間的遅延を挿入することができ、この遅延時間を100, 200, 300, 400, 500, 600, 700, 800, 900, 1000ミリ秒の10条件設定をしました。そして、被験者は“自分が■を動かしている感じがするかどうか”を回答するように求められ、被験者がどのくらいの遅延時間で運動主体感が損なわれるのかを定量化しました(図3左)。

fig.2

図2:Agency attribution task(Keio method)

 

 

そして、「遅延に気づく時間窓」と「運動主体感が損なわれる時間窓」の相関関係を算出したところ、お互いに一定の関係が認められるものの、その関係は決して強固なものではありませんでした(図3右)。

fig.3

図3:「遅延に気づく時間窓」と「運動主体感が損なわれる時間窓」の関係

 

本研究の臨床的意義および今後の展開

運動主体感はリハビリテーションを進める上で欠かすことのできないものです。その運動主体感のメカニズムの一端を明らかにすることができましたが、どのような要因によって運動主体感が修飾されるのかは、今後の研究で明らかにしていかなければなりません。

関連する先行研究

Shimada S et al. Rubber hand illusion under delayed visual feedback. PLoS One. 2009 Jul 9;4(7):e6185. 

Maeda T, Kato M, Muramatsu T, Iwashita S, Mimura M, Kashima H. Aberrant sense of agency in patients with schizophrenia: forward and backward over-attribution of temporal causality during intentional action. Psychiatry Res. 2012 Jun 30;198(1):1-6.
Maeda T, Takahata K, Muramatsu T, Okimura T, Koreki A, Iwashita S, Mimura M,
Kato M. Reduced sense of agency in chronic schizophrenia with predominant
negative symptoms. Psychiatry Res. 2013 Oct 30;209(3):386-92.

論文情報

Osumi M, Nobusako S, Zama T, Yokotani N, Shimada S, Maeda T, Morioka S. The relationship and difference between delay detection ability and judgment of sense of agency. PLoS One. 2019 Jul 9;14(7):e0219222.

 

なお、本研究は明治大学理工学部 嶋田総太郎教授、慶應義塾大学 前田 貴記 講師らと共同で行われたものです。また、本研究は文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「脳内身体表現の変容機構の理解と制御」の支援(研究課題番号 17H05915)を受けて実施されました。

 

問い合せ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

教授/センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600

E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

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