身体の見た目の変化に伴う不快感が、痛みに与える影響を解明

PRESS RELEASE 2014.09.12

痛みは、様々な感覚により影響を受けます.例えば身体の大きさや色などの見た目を変化させると,痛みを軽減あるいは増幅する現象も報告されています.このような不思議な現象はもちろん個人によって差がありますが、この個人差が「何によって生じるのか」はこれまで明らかになっていませんでした.
本研究では個人差が生じる要因の一つとして身体の見た目を操作した時に生じる「不快感」に着目し,それをユニークな手法を用いて検証しました.

本研究では,身体の見た目を操作して「不快感」を引き起こせば、痛みが変化するのではないかと考えました.そしてその「不快感」を与えるために3つの特殊なダミーハンド(図1)を作成し,「この手は自分の手である」という錯覚を生じさせて,痛みの閾値(痛みを感じる最低の刺激量)を測定しました.

 

図1.4種類のダミーハンド

dammy-hands1

 

ダミーハンドが「自分の手である」と錯覚させるために,ダミーハンドを机の上に置き,自分の手が直接見えないようにその横に置いて,ダミーハンドと自分の手を同時に筆でなでられ続けました.(図2)

 

図2.実験イメージ

dammy-hands2

 

ねじれたダミーハンドに関してはそれほど錯覚が生じませんでしたが,傷ついたダミーハンドと毛深いダミーハンドは通常のダミーハンドと同程度の錯覚が生じました.それと同時に「不快感」も引き起こすことに成功しました.痛みの閾値に関しては,傷ついたダミーハンドに錯覚をした時では明らかに痛み閾値が低い結果となりました.つまり,傷ついたダミーハンドに「自分の手である」という錯覚が生じることで不快感が惹起され,痛みを感じやすくなるということが明らかになりました.

 

図3.実験結果

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本研究の臨床的意義

近年バーチャルリアリティなどを用いて身体の見た目を変化させる痛みのリハビリテーション(ペインリハビリテーション)が報告されてきています.しかしながら鎮痛効果が一定していないのが現状です.今回の実験結果は,一定した効果が得られにくい要因の1つに自分の身体への「不快感」が関わっていることを示唆するものです.視覚フィードバックを用いた痛みのリハビリテーションの適応や改良の必要性を示唆するものであると考えられます。

また「皮膚が傷ついている」という見た目が主観的な痛みを強くするという本研究の結果は美容的な視点からも意義があります.怪我をした箇所の皮膚の管理が不十分であるために過度な乾燥や軽微な傷が目立つケースがよく見られますが、皮膚の管理をしっかり行い,身体の見た目を綺麗にすることによって,痛みの軽減が図られる可能性を示唆しています.

そのため今後は,痛みを抱える患者さんに美容的な視点からのアプローチも検討していきたいと考えています.

 

論文情報

Michihiro Osumi, Ryota Imai, Kozo Ueta, Satoshi Nobusako, Shu Morioka. Negative Body Image Associated with Changes in the Visual Body Appearance Increases Pain Perception. PLoS ONE 9(9): e107376. doi:10.1371/journal.pone.0107376

 

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
特任助教 大住 倫弘 (オオスミ ミチヒロ)

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