運動によるセロトニンシステムの活性化が不安を軽減する
PRESS RELEASE 2014.09.16
近年,うつ病(気分障害)がわが国において社会的損失の大きな疾患第1位に位置づけられており,こころの病気は私たちにとって身近な問題となってきています. このような状況の中,運動を行うことがうつ病に効果があるという数多くの報告があります.しかし,なぜ効果があるのかといったメカニズムは明らかとなっていません.今回は,そのメカニズムを明らかにするためにセロトニンという神経伝達物質に着目して検証を行いました.
本研究では,運動することで気分が良くなるメカニズムを明らかにするため,運動するグループ(運動群)と運動しないグループ(コントロール群)に分け,気分のアンケート,尿中のセロトニン,脳波を測定し,運動することによるそれらの変化を確認しました.
※セロトニンは,ドパミンやノルアドレナリンといった他の神経伝達物質の調整を行うことで,気分や感情のコントロールを行っていることが知られています.セロトニンが枯渇することでうつ病をはじめとする気分障害やその他の精神疾患が発症しやすくなることが知られています.
運動群は30分間ペダリング運動(自転車こぎ)を実施し,その間コントロール群は安静に過ごしました.被験者は運動習慣のある20歳代の男女としました.
図1は運動群の運動前と運動後のアンケート結果です.運動前と比べて,運動後では不安が軽減し,活気が向上したことが分かります.一方,このような変化はコントロール群には起こりませんでした.
図1.気分のアンケート
尿中のセロトニン量は,運動前は運動群,コントロール群とも大きな差が無い状態でしたが,60分後には有意に運動群の方がコントロール群と比べて尿中セロトニン量が多い状態でした(図2).
図2.尿中セロトニン
脳波は,運動群において運動前と比べて運動後に前帯状回という脳部位(図3の青色部分)の活動が有意に低下していました.一方,コントロール群でそのような変化は見られませんでした.
※前帯状回は情動反応を調節する働きがあり,うつ病の責任領域ということが知られています.また,痛みにも関連があると言われています.
図3.脳波
また,尿中セロトニン量の変化率と,脳波による前帯状回の活動量の変化率の関係は強い負の相関を認めました.つまり,セロトニン生成量が増えるほど前帯状回の活動量が軽減するということが示唆されました.
図4.セロトニンと前帯状回の関係
本研究の臨床的意義
今回の結果から,運動することで気分が良くなるメカニズムとして,セロトニンの働きが重要ではないかと考えられます.さらに,脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患や整形疾患により,今まで通り運動できなくなった方々に対するリハビリテーションを行う上で,単純に身体として運動できないだけでなく,脳機能・精神に及ぼす影響を踏まえて関わっていく必要があると考えられます.
一方,今回は運動習慣がある若い方を対象としているため,今後は年齢や運動習慣などの要因の影響についても調べる必要があり,検討していきたいと考えています.
論文情報
Satoko Ohmatsu, Hideki Nakano, Takanori Tominaga, Yuzo Terakawa, Takaho Murata, Shu Morioka. Activation of the serotonergic system by pedaling exercise changes anterior cingulate cortex activity and improves negative emotion. Behav Brain Res. 2014 Aug 15;270:112-7. doi: 10.1016/j.bbr.2014.04.017. Epub 2014 May 6.
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション研究室
博士後期課程 大松聡子 (オオマツ サトコ)
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畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周 (モリオカ シュウ)
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E-mail: s.morioka@kio.ac.jp