静止立位中の重心動揺の随意的および自動的制御の効果
PRESS RELEASE 2015.1.6
立位時のバランスの安定(姿勢動揺の減少)は,日常生活の大部分を立位で過ごすヒトのリハビリテーションにおいて重要です.近年,立位中の姿勢動揺に意識を向け,随意的に動揺を制御する時(随意的制御)に立位中の動揺が減少することが報告されています.一方,立位中に計算などの認知課題を行い,姿勢動揺から意識を逸らした時(自動的制御)も動揺が減少することが報告されています. 今回は,随意的制御と自動的制御のどちらの方が動揺の幅を減少させるのか,また姿勢制御戦略に違いがあるのかについて調査しました.
本研究では,随意的制御条件,自動的制御条件,コントロール条件の3条件の静止立位課題を実施してもらい,重心動揺計で測定した足圧中心(center of pressure; COP)動揺を3条件間で比較しました.
立位条件は両足を閉じ,目は開けた状態で実施しました.
随意的制御条件は,「自分の体の動揺に集中して,可能な限り動揺しないようにして下さい」と指示しました.
自動的制御条件は,数字7個を覚えながら立位保持をしてもらいました.
コントロール条件は,「リラックスして立っておいて下さい」と指示しました.
この3条件中のCOP動揺の前後左右の動揺の振幅,速度,平均パワー周波数,各周波数帯のパワー密度を比較しました.
図1は,1名の方の3課題中のCOP動揺です.随意的制御条件と自動的制御条件で動揺の幅が小さくなっていることが分かると思います.
図1.3条件中のCOP動揺
実際に,被験者23名の結果を平均したものが図2〜4です.
図2は,前後,左右方向のCOPの動揺の振幅(root mean square; RMS)の結果です.随意的制御条件,自動的制御条件ともにコントロール条件より前後,左右の動揺の振幅が減少する結果となりました.このことは,過去の報告通り,随意的制御も自動的制御も姿勢動揺を減少させることを示しています.また,本研究結果は,前後方向のみですが,随意的制御より自動的制御の方が動揺の振幅を減少させる効果が大きいことを示しました.
図2.前後,左右方向のRMSの結果
動揺の振幅の減少は随意的,自動的制御ともに似通っていましたが,図3で示している動揺速度や平均パワー周波数は異なっていました.
動揺速度の結果からは,自動的制御条件はコントロール条件と差がありませんが,随意的制御条件は他の2条件と比べてかなり速く動揺していることが分かりました.また,平均パワー周波数の結果からは,随意的制御は頻回な姿勢調節を行っていることが分かりました.
図3.前後,左右方向の動揺速度と平均パワー周波数
姿勢制御に関与する視覚,体性感覚,前庭感覚の関与の程度を表すとされている各周波数帯域のパワー密度の結果(図4)は,低,中,高周波帯域ともに随意的制御と自動的制御に差がありました.これはこの2つの制御では各感覚の関与が異なる可能性を示しています.
図4.前後,左右方向の各周波数帯域のパワー密度
本研究の臨床的意義
立位バランスを安定させることは,バランスが不安定な脳疾患患者さんのリハビリテーションにおいて重要な課題です.動揺が大きい患者さんは,意識的に動揺を減少させようとしてしまうことが多いですが,本研究結果からは,自動的制御条件のような条件設定で立位練習を行うことにより,特に意識的に動揺を制御しようとしなくても姿勢動揺の減少を促せることを示唆しています.また,自動的制御は姿勢調節の頻度や感覚入力への依存を高めなくても姿勢動揺を減少させることが可能であることを示しており,より自動的な姿勢制御戦略へ近づけることが可能であると考えられます.
論文情報
Ueta K, Okada Y, Nakano H, Osumi M, Morioka S. Effects of Voluntary and Automatic Control of Center of Pressure Sway During Quiet Standing. J Mot Behav. 2014 Nov 25:1-9.
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 植田耕造(ウエタ コウゾウ)
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畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)
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