[Journal Club]壊れたミラーニューロン仮説??
Biol Psychiatry. 2010 Dec 15; 68(12): 1148-55.
ヒトはある運動反応をする際に,同じ運動を観察しながらであれば,その運動反応は促進されますが,違う運動を観察しながらであれば,その運動反応が難しくなる傾向にあります。これはミラーニューロンシステム(MNS)が自動的に活性化するのを抑制しなくてはならないためで,それを担うのが,メンタライジングや心の理論に重要な領域である内側前頭前野(mPFC)や側頭-頭頂接合部(TPJ)であることが分かっています。
この研究では,自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ被験者に対して,模倣抑制課題を実施しています。この課題は,示指か中指を持ち上げる動画を観察しながら,被験者も示指か中指を持ち上げる運動を行うものです。そして動画と一緒に示指あるいは中指を持ち上げなさいという指示が出ます。被験者は,動画を無視して指示に従うことが要求されます。そのため,動画の運動と指示運動が同じ条件(例:動画も指示も示指を持ち上げる)と違う条件(例:動画は示指を持ち上げる,指示は中指を持ち上げる)が作られます。通常,一致条件と比較して,不一致条件の方がその反応時間が遅くなり,正解率も低下します。それを模倣干渉効果と呼びます。
結果,ASDグループでは,定型発達グループと比較して,大きな干渉効果を示し,干渉効果とASD重症度には相関関係があり,そして干渉効果が大きいほど,心の理論課題におけるmPFCやTPJの活動が弱いことも明らかになりました。
この研究は,ASDの最も有力な神経科学的仮説の一つである「壊れたミラーニューロン仮説」とは異なり,ASDではMNSの働き(自動模倣)は保たれており,むしろMNSを調整(抑制)するシステムに問題があることを示唆した重要な研究となりました。