[Journal Club]短期間のミラーセラピーにより幻肢の運動主体感が高まる

Imaizumi S, Asai T, Koyama S
Agency over Phantom Limb Enhanced by Short-Term Mirror Therapy
Front Hum Neurosci. 2017 Oct;11:483

 

切断された四肢が実際には存在しないにも関わらず,あたかも存在するかのように知覚する体験を幻肢と呼び,これに痛みを伴う症状は幻肢痛と呼ばれます.四肢切断後には約90%以上が幻肢を体験し,40-80%が幻肢痛を慢性的に感じていると報告されています.
この幻肢痛に対して,Ramachandranらは鏡を用いた治療を考案しました.その治療では,幻肢痛患者の患側肢と健側肢との間に鏡を設置します.そして,鏡に映った健側肢を覗かせた状態で健側肢の運動を行わせます.患者は鏡に映る健側肢の運動を見ることで,あたかも失われた患側肢が動いているかのような錯覚を惹起します.この鏡を用いた治療はミラーセラピーと呼ばれ,10-15分のミラーセラピーを続けることで幻肢痛が軽減したとする報告が多数あります.このミラーセラピーは,切断された四肢への運動指令に対して,鏡からあたかも四肢が存在し動いているかのような視覚入力が得られます.運動指令に伴う感覚情報の予測と実際に運動した際に入力される感覚情報とが一致することで幻肢痛が軽減すると考えられています.

このミラーセラピーが有効であった方々は,幻肢を患者自身の意図で動かすことができたと言われています.「この四肢を動かしたのは自分自身である」といった意識は運動主体感と呼ばれ,運動指令に伴う感覚情報の予測と入力される感覚情報とが一致することで生起されると言われています.さらに「この四肢は自分自身のものである」といった意識である身体所有感も幻肢痛の軽減に関係している可能性が示唆されています.

そこで,今回紹介する研究では「ミラーセラピーにより幻肢への運動主体感および身体所有感に改善がみられるか」,「ミラーセラピーにより幻肢痛が軽減するか」そして「運動主体感,身体所有感と幻肢痛との関係を明らかにする」ことの3つを研究目的に実施されました.
対象は,上肢切断者9名(平均年齢64.78±12.21歳)で全員が幻肢を随意的に動かすことが可能で,5名が幻肢痛を有していました.8項目で構成され,それぞれ5段階での価する質問紙を用いて幻肢への運動主体感(3項目),身体所有感(3項目),幻肢痛(2項目)についてミラーセラピーの前後で評価を行いました.
ミラーセラピーは15分間の手指の屈伸運動でした.
結果は,15分間のミラーセラピー後に幻肢に対する運動主体感の有意な向上を認めました.しかし,身体所有感と幻肢痛には有意な変化を認めませんでした.

今回の研究結果から,短期間でのミラーセラピーでは幻肢の運動主体感に改善を認めるが,身体所有感や幻肢痛の改善には長い期間のミラーセラピーが必要であることが示唆されました.
著者らはこの研究結果をミラーセラピーにより幻肢痛の軽減や複合性局所疼痛症候群,脳卒中片麻痺の運動機能が改善するメカニズムとして,患側肢に対する主観的な知覚経験が関与することを示唆するものであると述べています.