[Journal Club]脳卒中片麻痺における歩行時の下腿筋活動

Kitatani R, Ohata K, Aga Y, Mashima Y, Hashiguchi Y, Wakida M, Maeda A, Yamada S.
Descending neural drives to ankle muscles during gait and their relationships with clinical functions in patients after stroke.
Clinical Neurophysiology 2016; 127: 1512–1520

中枢神経損傷を有する脳卒中後症例の多くは運動を制御する中枢神経下降路の異常をきたすとされています.歩行中においてもそれらの異常は歩行パフォーマンスに影響し,皮質脊髄路の興奮性の低下や,皮質運動野の非対称な興奮性は歩行速度や歩行非対称性と関連するとされています.また正常歩行では少ないとされる歩行時の下腿筋同時収縮は,脳卒中後症例では増大する傾向があり,筋活動パターンの異常が歩行パフォーマンスを制限ならびに代償することが知られています.しかし,過剰な同時収縮がどのような神経メカニズムを背景基盤として干渉しているのか十分に解明されておりません.さらに,中枢神経下降路の異常と臨床機能評価との関連性は知られておりません.今回紹介する論文では,歩行時の下腿筋筋活動と中枢神経下降路の興奮性ならびに臨床機能評価との関連性を調べることを目的としています.
対象は慢性期脳卒中後症例11名(59.3 ± 11.6歳,発症後年数:5.85 ± 2.09年)と健常高齢者9名(55.8 ± 3.87歳)であり,10mの歩行路を快適速度で歩きました.筋電図は麻痺側の前脛骨筋(近位部および遠位部)と内側および外側腓腹筋より記録しました.得られた筋電図波形は振幅二乗コヒーレンス解析(2つの異なる筋電図信号における周波数の同期性から皮質脊髄路興奮性を推定する分析手法)を用いて検証されました.
結果として,脳卒中後症例は健常高齢者と比較して歩行時の皮質脊髄路興奮性が低下しており,特に麻痺側下肢で大きく低下していました.また皮質脊髄路興奮性と歩行速度の関連性を見ると,前脛骨筋に対応した皮質脊髄路興奮性が低下しているほど歩行速度が低下していました.さらに臨床機能評価と皮質脊髄路興奮性の関連性は,前脛骨筋と外側腓腹筋の同時収縮に対応した皮質脊髄路興奮性が高いほど麻痺側足関節底屈筋力が低下していることが分かりました.
このことより,前脛骨筋に対応した皮質脊髄路興奮性は歩行速度と関連すること,また下腿筋の同時収縮に対応した皮質脊髄路興奮性は麻痺側足関節底屈筋力と関連することが示唆されました.脳卒中後症例は低下した足関節底屈筋力を代償するため,下腿筋の同時収縮を基盤とした皮質脊髄路興奮性を高めている可能性があると著者は述べています.