[Journal Club]理学療法士の行動と意思決定プロセス

Held Bradford E, Finlayson M, White Gorman A, Wagner J.

Maximizing gait and balance: behaviors and decision-making processes of persons with multiple sclerosis and physical therapists.

Disabil Rehabil. 2018 May;40(9):1014-1025.

 

多発性硬化症(Multiple Sclerosis; MS)の歩行とバランスの障害は,転倒の発生や機能障害,QOLの低下と関連するため,適切な運動療法や歩行補助具の使用により対処していくことが必要となります.しかし,理学療法士からの推奨(運動や杖の使用など)に対するMS患者の順守率は高いとは言えず,自宅で歩行とバランスを最大化する行動の継続に,どのような決定方法が適切かについての情報が不足している状況です.今回,紹介する論文では,外来リハビリテーション終了後の生活に焦点を当て,MS患者と理学療法士の歩行とバランスを最大化する行動の決定プロセスの比較を行い,両者の視点を理解することを目的としています.

対象は, 外来リハビリテーションを終了したMS患者とその理学療法士の7組とし,終了後4-8週の間に,個別面談にて半構造化インタビューが実施されました.MS患者への質問は,歩行とバランスを最大化する行動の決定理由と順守状況,また,時間経過の伴う変化について聴取し,理学療法士への質問は,歩行とバランスを改善するための推奨事項とその伝達方法について聴取しています.

結果,歩行とバランスを最大化するために行ったことを説明する主なテーマとして,MS患者では『限界を認識しながら,自分自身に挑戦すること』でした.その中で,不確実性に対処するために,自己の認識と外部情報の比較だけでなく,理学療法の経験も通して自分に最適な行動の選択肢を知ることができたとしていました.また,行動の継続には,価値や期待の優先順位付け,スモールステップを用いた目標設定が習慣化に必要とし,このプロセスは自身の状態が変化する度に繰り返され,セルフマネジメントしていくことが不可欠としていました.

理学療法士の主なテーマは,『正しい適合を見つけること』としており, MS患者のニーズと機能的予後を満たすことに焦点を当てていました.その中で,理学療法士はMS患者と自身の考えの類似点を把握することが重要であると同時に,相違点を知るために深い面接を行うことも念頭に置いていました.そして,この類似点と相違点を知るプロセスを通して,MS患者との関係性が構築され,セルフマネジメントを行う適切な行動計画にも繋がるとしていました.

この結果は,MS患者と理学療法士では意思決定における視点が異なる部分もあり,この相違点を理解することによって,より有意義な意思決定が可能になると示しています.また,理学療法を提供する際に,深い面接によって変化する患者の自己同一性を理解し,不確実性への対処を支援していくことが,外来リハビリテーション終了後の歩行やバランスを改善する行動の継続にとって重要であると著者らは述べています.