[Journal Club]下肢MEPは慢性期脳卒中者の歩行アウトカムに影響しない

Sivaramakrishnan A, Madhavan S

Absence of a Transcranial Magnetic Stimulation-Induced Lower Limb Corticomotor Response Does Not Affect Walking Speed in Chronic Stroke Survivors

Stroke. (2018) 49:2004-2007

 

先行研究のいくつかは,transcranial magnetic stimulation(TMS)-induced motor evoked potential(MEP)の有無が,急性期や慢性期における上肢運動機能の回復に関連していることを示しています.しかしながら,歩行速度や他の下肢機能評価とMEPとの関連ははっきりしていません.加えて,非損傷側からの同側性の伝導が,重度下肢機能障害や運動課題のパフォーマンス低下に関連することを示した研究はほとんどありません.この研究の主要な目的は,前脛骨筋と大腿直筋のMEPの有無を評価して,下肢の皮質脊髄路の損傷が,慢性期脳卒中者の歩行速度と関連しているかを明らかにすることとしています.

発症から6ヶ月以上が経過した初発の脳卒中で,5分間短下肢装具なしで歩行可能な者が研究に参加しました.行動学的評価として,快適10m歩行時間,最大10m歩行時間,6分間歩行試験,Timed up and go test(TUG),Fugl-Meyer Assessment下肢項目(FMA-L),最大筋力が評価され,神経学的評価としてTMS-MEPが評価されました.TMSは損傷側と非損傷側の前脛骨筋と大腿直筋の大脳皮質領域を刺激し,TMSの反応は麻痺側と非麻痺側の前脛骨筋と大腿直筋から計測しました.また,参加者を前脛骨筋と大腿直筋からのMEPの大きさに基づいてMEP+群とMEP−群に分け,MEP+群において,MEPのパラメーターと最大筋収縮,FMA-L,年齢,発症からの期間,歩行速度との関連を重回帰分析で調査しました.
61人の参加者からのデータが分析され,MEPは28人の参加者の麻痺側前脛骨筋と大腿四頭筋から観察されました.MEP+群とMEP−群との間に快適10m歩行時間,最大10m歩行時間,6分間歩行,TUGに有意差はありませんでした.FMA-Lと麻痺側前脛骨筋の最大筋力は,MEP+群が有意に高い値でした.MEP+群とMEP−群に皮質脊髄路の興奮性に有意差はありませんでした.MEP+群の重回帰分析において,快適歩行速度と最大歩行速度を決定する要因を見つけることができませんでした.
今回の結果から損傷半球からの下肢MEPの有無が,慢性期脳卒中者の歩行アウトカムに影響しないことが示されました.このことは皮質脊髄路の残存の有無が,慢性期脳卒中者の歩行の回復を予測するバイオマーカーとして利用できないと著者らは述べています.