脳卒中患者における歩行の時間的非対称性と筋シナジー

PRESS RELEASE 2022.2.28

歩行時における下肢筋活動パターンは筋シナジー(多数の筋を低次元化し制御するメカニズム)によって制御されています.我々はこれまでに,脳卒中患者における筋シナジー障害が歩行能力に影響し,歩行時の運動学的特性が筋シナジー障害と関連していることを明らかにしています.しかし,筋シナジー障害と歩行時の時間的非対称性の関係性は明らかになっていませんでした.畿央大学大学院博士後期課程の水田 直道 氏と森岡 周 教授らは,脳卒中患者における歩行時の時間的非対称性と筋シナジーの関係性について検証しました.この研究成果は, Archives of Rehabilitation Research and Clinical Translation誌(Association between temporal asymmetry and muscle synergy during walking with rhythmic auditory cueing in stroke survivors living with impairments)にオンライン先行掲載されています.

研究概要

多くの脳卒中患者は歩行能力が低下し,日常生活や屋外での移動時にさまざまな困難さを経験します.歩行能力の低下には下肢筋活動パターンの異常が影響すると言われています.歩行時における下肢筋活動パターンは筋シナジー(多数の筋を低次元化し制御するメカニズム)によって制御されています.我々はこれまでに,脳卒中患者における筋シナジー障害が歩行能力に影響し,歩行時の運動学的特性が筋シナジー障害と関連していることを明らかにしています.しかし,筋シナジー障害と歩行時の時間的特性の関係性は明らかになっていませんでした.そこで畿央大学大学院博士後期課程の水田 直道 さん,同 教授 の 森岡 周 さんらの研究グループは,歩行時にリズム聴覚刺激を併用することで時間要因を主として操作し,歩行時における時間的非対称性は筋シナジーと関連することを明らかにしました

本研究のポイント

■ 脳卒中患者を対象に、歩行時にリズム聴覚刺激を併用することで麻痺側単脚支持時間が延長し,時間的非対称性が改善しました.
■ リズム聴覚刺激を併用した際における麻痺側単脚支持時間の変化量(快適歩行との差分)は,筋シナジーの単調性の変化量と関連しました.
■ 一方で,本研究のプロトコルにおいて運動学的要因の変化量は筋シナジーの単調性の変化量と関連しないことが分かりました.

研究内容

介助なく歩行可能な脳卒中患者を対象としました.対象者は2つの歩行条件(快適歩行CWSリズム聴覚刺激:rhythmic auditory cueing; RAC)で10m歩行テストを行いました.RAC条件では,対象者にメトロノームのテンポに下肢の接地タイミングを合わせながら歩くよう指示しました.歩行動作には時間要因以外にもさまざまな要因が関与するため,RAC条件を設けることで時間要因を主として操作しました

アセット 1-100

図1:条件間における歩行パラメータ
条件間における歩行パラメータの結果.RAC条件ではピーク下肢屈曲角度や単脚支持時間が増大し,筋シナジーの単調性は減少した.

アセット 5

図2:歩行時における筋活動パターン

fig3

図3:歩行パラメータの相関関係
(A)CWS条件における相関関係.多くのパラメータ間において相関関係を認めた.(B)歩行条件間の変化量における相関関係.筋シナジーの単調性はケイデンスおよび単脚支持時間と相関関係を認めた.

 

1:筋シナジーの単調性を目的変数とした階層的重回帰分析

Fig4

全てのパラメータは歩行条件間の変化量としている.Step1では運動学的要因を,Step2では時間的要因を投入した.Step1では有意な変数は抽出されなかったが,Step2では麻痺側単脚支持時間を投入したことで有意なモデルとなり,説明率は約39%となった.

本研究の臨床的意義および今後の展開

この研究では,歩行時にリズム聴覚刺激を併用することで時間要因を主として操作し,歩行時における時間的非対称性と筋シナジーの関係性を調査しました.結果として,歩行時の時間的非対称性と筋シナジーは関連することが分かりました.今後は筋シナジー障害の神経メカニズムを明らかにするとともに,脳卒中患者に筋シナジー障害がどのような回復過程をたどるかを調査する予定です.

論文情報

Naomichi Mizuta, Naruhito Hasui, Yuki Nishi, Yasutaka Higa, Ayaka Matsunaga, Junji Deguchi, Yasutada Yamamoto, Tomoki Nakatani, Junji Taguchi, Shu Morioka.

Association between temporal asymmetry and muscle synergy during walking with rhythmic auditory cueing in stroke survivors living with impairments.

Archives of Rehabilitation Research and Clinical Translation, 2022(2022年2月24日オンライン先行掲載)

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

 

博士後期課程 水田 直道(ミズタ ナオミチ)

医療法人尚和会 宝塚リハビリテーション病院

E-mail: peace.pt1028_@_gmail.com(※@の前後の_を削除してお送りください)