自立歩行が困難な脳卒中者の歩行回復の特徴 -歩行中の内側広筋の筋内コヒーレンスとの関連-

PRESS RELEASE 2025.4.18

脳卒中後,下肢の運動麻痺によって体重支持が困難となり,自立歩行の再獲得に大きな影響を与えます.本邦では,そのような状態からの回復を目的に,長下肢装具を用いた歩行トレーニングを推奨しています.畿央大学大学院 博士後期課程 蓮井 成仁氏と森岡 周 教授らを中心とする研究グループは,監視歩行獲得に関連する要因を明らかにしました.さらに,1ヶ月間の歩行トレーニング後に,監視歩行が獲得できた/できなかった群に分けて分析することで,長下肢装具を用いた歩行トレーニングの「適応」と「限界」を明らかにしました.この研究成果は,Neurological Sciences誌(Association of gait recovery with intramuscular coherence of the Vastus medialis muscle during assisted gait in subacute stroke)に掲載されています.

本研究のポイント

監視歩行が可能となるまでの日数と麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンス値は有意な負の相関関係にありました.

「監視歩行獲得群」は,1ヶ月間の歩行トレーニングによって,運動麻痺の改善と,麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増える特徴がありました.

「監視歩行未獲得群」は,1ヶ月間の歩行トレーニングによって,運動麻痺の改善が特徴としてありました.

研究概要

脳卒中者に対するリハビリテーションとして,下肢の運動麻痺によって体重支持が困難な者には長下肢装具(KAFO)を用いた歩行トレーニングが推奨されています.しかしながら,回復期病棟を退院する際に,介助なく歩行が可能となる症例とそうではない症例が混在しており,歩行回復に関連する要因はこれまで明らかになっていませんでした.畿央大学大学院 博士後期課程 蓮井 成仁氏と森岡 周 教授らを中心とする研究グループは,監視歩行獲得に関連する要因を調査しました.その結果,歩行トレーニング前における歩行中の麻痺側内側広筋への下降性神経出力の強さと監視歩行が可能となるまでの日数が有意に関係することを明らかにしました.さらに,監視歩行が獲得できた/できなかった症例に分類して,長下肢装具を用いた1ヶ月間の歩行トレーニング効果を確認すると,監視歩行獲得群では運動麻痺や体幹機能,バランス機能の改善と,麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増えており,介助歩行トレーニングの利得があることが示唆されました。本研究の成果は,監視歩行獲得群への更なるリハビリテーション効果の促進と,監視歩行未獲得群へのリハビリテーション戦略の開発を進めていくために役立つことが期待されます.

研究内容

本研究は,脳卒中患者20名を対象に,身体機能評価に加えて理学療法中の歩数を評価しました.対象者は,KAFOを装着し,後方より理学療法士1名に支えられた条件下(介助歩行)で10m歩行を行いました.その際,筋電図より麻痺側内側広筋および外側ハムストリングの近位部・遠位部から筋内ならびに筋間コヒーレンス(β帯域;下降性神経出力を反映),下肢屈曲・伸展角度を算出しました.歩行自立度の評価であるFACを用いて,FAC 315m監視歩行が可能)に至るまでの日数を歩行回復の指標としました.

監視歩行が可能となるまでの日数(または監視歩行が獲得できなかった対象者は退院までの日数)と麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンス値は有意な負の相関関係にありました.これは,介助歩行開始早期に内側広筋への下降性神経出力が強い症例ほど監視歩行へ到達しやすいことが考えられます.

さらに,監視歩行の獲得の有無に分けて1ヶ月間の介助歩行トレーニングの影響を下記に示します.

監視歩行獲得群:運動麻痺や体幹機能,バランス機能の改善と,麻痺側内側広筋の筋内コヒーレンスと理学療法中の歩数が増えており,介助歩行トレーニングの利得があることを示しています.

監視歩行未獲得群:運動麻痺のみが改善しましたが,その他の身体機能および歩行中の神経出力の強化,歩行量が停滞しており,介助歩行トレーニングの利得が得られにくいことを示しています.

本研究の臨床的意義および今後の展開

これまでに明らかにされていなかったKAFOを用いた歩行トレーニングによる歩行回復の実態を調査できたことで,症例の応答性に合わせた効果的なリハビリテーションの立案に役立つことが期待されます.今後は,監視歩行獲得群への更なるリハビリテーション効果の促進と,監視歩行未獲得群へのリハビリテーション戦略の開発を進めていく予定です.

論文情報

Naruhito Hasui, Naomichi Mizuta, Ayaka Matsunaga,  Yasutaka Higa, Masahiro Sato, Tomoki Nakatani, Junji Taguchi, Shu Morioka

Association of gait recovery with intramuscular coherence of the Vastus medialis muscle during assisted gait in subacute stroke.

Neurological Sciences, 2025.

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科

博士後期課程 蓮井 成人

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

教授 森岡 周

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp