脳卒中患者の不整地歩行の特徴 -高機能者と低機能者による違い-
PRESS RELEASE 2025.4.18
脳卒中患者は,不整地を含む屋外での歩行が困難になりやすく,結果として社会参加を妨げ,生活の質に不利益をもたらします.しかし,脳卒中患者が有する歩行能力によって不整地での歩行戦略に違いがある可能性があります.畿央大学大学院博士後期課程の乾 康浩 氏と森岡 周 教授らは,屋内平地歩行速度0.8m/s未満の低機能脳卒中患者と0.8m/s以上の高機能脳卒中患者の不整地歩行の特徴の違いを検証しました.低機能脳卒中患者は不整地歩行中に,歩行速度が低下するが安定性を維持し,高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大,立脚期の大腿部の共収縮低下を示すことを明らかにしました.この研究成果はTopics in stroke rehabilitation誌(Differences in Uneven-Surface Walking Characteristics: High-Functioning vs Low-Functioning People with Stroke)に掲載されています.
本研究のポイント
■屋内平地歩行速度0.8m/s未満の低機能患者と0.8m/s以上の高機能患者の脳卒中患者の不整地歩行の特徴の違いを自作の不整地路を用いて評価した.
■低機能患者は不整地で歩行速度が低下するが安定性を維持し,高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大,および立脚期における大腿部の共収縮低下を示すことが明らかとなった.
研究概要
脳卒中患者は,中枢神経系の損傷により歩行障害を有し,不整地を含めた屋外での歩行が困難になります.これは,社会参加を妨げ,生活の質の低下にもつながります.また,脳卒中患者の歩行能力には違いがあり,その能力の違いによって予測困難な摂動が生じる不整地での歩行の戦略が異なる可能性があります.畿央大学大学院 博士後期課程 乾 康浩 氏,森岡 周 教授らの研究チームは,自作の予測困難な摂動が生じる不整地路を用いて,脳卒中患者の不整地歩行中の歩行速度,体幹の加速度,麻痺側の関節運動,および下肢筋共収縮を計測し,平地歩行速度0.8m/s未満の低機能脳卒中患者と0.8m/s以上の高機能脳卒中患者で特徴の違いを分析しました.その結果,低機能脳卒中患者は, 不整地歩行中に歩行速度は低下するものの歩行安定性は維持し,高機能脳卒中患者は遊脚期の膝関節屈曲増大,立脚期の大腿部の共収縮低下を示すことを明らかにしました.本研究は,歩行能力の違いによる脳卒中患者の予測困難な摂動が生じる不整地歩行中の特徴の違いを明らかにした初めての研究です.
研究内容
リハビリテーション専門家にとって,脳卒中患者の歩行能力の違いによる不整地歩行時の戦略の違いを捉えることは必要です.本研究では,予測困難な摂動が生じる不整地での脳卒中患者の歩行戦略の特徴を平地歩行速度0.8m/s未満(低機能脳卒中患者)と0.8m/s以上(高機能脳卒中患者)の2グループで比較することを目的とし,自作の不整地路(図1)を用いて検証しました.
実験で得られたデータから,歩行速度,歩行安定性を評価するための立脚期と遊脚期に分けた3軸の体幹の加速度のRoot Mean Square,麻痺側下肢の最大関節角度,麻痺側下肢の立脚期と遊脚期に分けた共収縮指数を算出しました(図2).
その結果,平地と比較した不整地での変化として,低機能脳卒中患者では歩行速度は低下するものの安定性は維持し,高機能脳卒中患者では遊脚期の膝関節屈曲増大(図3),立脚期における大腿部の共収縮指数低下がみられました.
研究グループは,この結果のうち,低機能脳卒中患者の歩行速度低下と歩行安定性の維持に関しては,不整地歩行中の保守的な戦略と考えています.一方で,高機能脳卒中患者の遊脚期膝関節屈曲増大と立脚期における大腿部共収縮指数の低下は適応的な戦略の結果と考察しています.
本研究の臨床的意義および今後の展開
本研究成果は,平地での歩行速度が異なる脳卒中患者において,予測困難な摂動が生じる不整地での適応の違いを明らかにしており,リハビリテーション専門家が脳卒中患者の屋外歩行の問題を考える際に着目すべき点を示しています.今後は,非麻痺側を含めた戦略の特徴や縦断的な経過を調査する必要があります.
論文情報
Yasuhiro Inui, Naomichi Mizuta, Shintaro Fujii, Yuta Terasawa, Tomoya Tanaka, Naruhito Hasui, Kazuki Hayashida, Yuki Nishi, Shu Morioka
Differences in uneven-surface walking characteristics: high-functioning vs low-functioning people with stroke.
Topics in stroke rehabilitation, 2025.
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10749357.2025.2495987
・関連する先行研究
Inui Y, Mizuta N, Hayashida K, Nishi Y, Yamaguchi Y, Morioka S.
Characteristics of uneven surface walking in stroke patients: Modification in biomechanical parameters and muscle activity. Gait Posture. 2023 Jun;103:203-209.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0966636223001376?via%3Dihub
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 乾 康浩
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
教授 森岡 周
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp