痛みの性質からみた脳卒中後疼痛のメカニズム

PRESS RELEASE 2026.2.26

脳卒中を発症した患者の約40%以上は,運動麻痺だけでなく「痛み」に苦しむことがあります.これは「脳卒中後疼痛」と呼ばれる症状であり,日常生活やリハビリテーションの進行に大きな不利益をもたらします.畿央大学 健康科学研究科 博士後期課程 浦上慎司氏 と 大住倫弘 教授ら は,患者が日常的に表現する痛みの性質(「しびれるような」「うずくような」など)の背景にある脳内の損傷部位や神経ネットワークの断絶パターンが異なることを特定し,それによってリハビリテーションによる回復の予後を推定できることを明らかにしました.この研究成果はEuropean Journal of Pain誌(Lesion and Disconnection Profiles of Pain Quality Subtypes After Stroke: Implications for Prognosis and Rehabilitation)に掲載されています.

本研究のポイント

痛みの性質に基づいたクラスター解析と脳画像解析を実施した
脳卒中後疼痛患者を痛みの性質(しびれ,冷刺激誘発痛,深部痛,圧痛)に基づき4つのグループに分類し,それぞれのグループの責任病巣と神経ネットワークの断絶(Disconnection)を解析しました.その結果,「しびれ・冷刺激痛」タイプは感覚系である上視床放線の断絶と関連し,「圧痛」タイプは運動系である皮質脊髄路の断絶と関連していることが特定されました.

損傷している神経ネットワークによってリハビリ予後が異なることを明らかにした
12週間にわたるリハビリテーション経過を追跡した結果,皮質脊髄路(運動系)の障害に関連する「圧痛」などのグループは改善しやすい一方,上視床放線(感覚系)の断絶を背景に持つ「しびれ」が強いグループは,従来の運動療法では痛みが軽減しにくい難治性の予後を辿ることが判明しました.

研究概要

脳卒中後疼痛は,脳卒中を発症した患者の約40%以上が経験するとされる痛みであり,その症状は,服が触れるだけで痛む感覚過敏から,うずくような痛み,しびれまで多岐にわたります.脳卒中後疼痛は患者の日常生活やリハビリテーション過程に大きな影響を及ぼしますが,その病態メカニズムは複雑であり,どのような患者で痛みが改善しやすいのかという「リハビリ予後」を正確に予測することは困難とされてきました.これまでの研究では,痛みの性質が病態を反映している可能性が示唆されていましたが,それが脳内のどの部位の損傷やネットワークの断絶と関連しているのか,具体的な根拠は十分に示されていませんでした.

そこで,畿央大学健康科学研究科博士後期課程の浦上慎司氏と大住倫弘教授らは,脳卒中後疼痛を有する患者を対象に,痛みの性質に基づく分類と脳画像解析,そしてリハビリテーション経過の縦断的調査を行いました.その結果,患者は「冷刺激誘発痛・しびれ(CL1)」,「深部痛(CL2)」,「しびれ(CL3)」,「圧痛(CL4)」という4つの特徴的なクラスターに分類されることが明らかになりました.さらに,脳画像解析(Lesion/Disconnection Mapping)を用いた検証により,しびれや冷刺激痛を主とするグループ(CL1・CL3)は,視床と皮質を結ぶ「上視床放線」という感覚ネットワークの断絶と強く関連している一方,圧痛などを主とするグループ(CL2・CL4)は,運動機能を司る「皮質脊髄路」の断絶と関連していることが特定されました

研究内容

脳卒中後疼痛には,冷たさに反応する痛み,しびれ,圧痛など,多様な痛みの性質が含まれます.本研究では,これらの痛みの性質が脳内のどのような損傷部位やネットワーク断絶に関連しているのか,そしてリハビリテーションによる痛みの予後にどう影響するのかを検討するため,脳卒中後疼痛患者114名を対象に,クラスター解析と脳画像解析(Lesion/Disconnection Mapping)を用いた検証を行いました.

まず,痛みの性質に基づいて患者を分類した結果,①冷刺激誘発痛・しびれ(CL1)②深部痛(CL2)③しびれ(CL3)④圧痛(CL4)の4つのクラスターが特定されました.

次に,各クラスターの責任病巣と白質線維の断絶を検討しました.その結果,感覚過敏やしびれを主徴とするCL1およびCL3は,視床,被殻,後部島皮質といった感覚処理領域の損傷,および上視床放線の断絶と強い関連を示しました(図1).一方で,深部痛,圧痛を主徴とするCL2およびCL4は,前頭葉の運動関連領域の損傷,および皮質脊髄路の断絶と関連していることが明らかになりました(図1).

図1:痛みの性質からみた脳卒中後疼痛のサブタイプ分類ごとの脳画像解析

脳卒中後疼痛患者を痛みの性質(冷刺激誘発痛,しびれ,深部痛,圧痛)に基づき4つのグループに分類し,脳損傷部位を解析しました.その結果,「冷刺激誘発痛・しびれ」タイプは感覚系である上視床放線の断絶と関連し,「圧痛」タイプは運動系である皮質脊髄路の断絶と関連していることが特定されました.

 

さらに,12週間にわたるリハビリテーション経過を追跡したところ,運動ネットワークの障害に関連するグループ(CL2・CL4)では痛みの軽減が認められたのに対し,視床ネットワークの断絶を背景に持つ「しびれ」が強いグループ(CL3)では,統計的に有意な痛みの改善が見られず,難治性である傾向が示されました.研究グループは,この結果について,患者が訴える「痛みの性質」が単なる自覚症状にとどまらず,脳内の特定の感覚・運動ネットワークの損傷状態を反映していると考察しています.特に,上視床放線の断絶を伴うしびれタイプは,従来の運動療法では効果が得られにくい予後不良の指標となる可能性があり,早期から非侵襲的脳刺激法や薬物療法を組み合わせた,病態メカニズムに基づく個別化リハビリテーション戦略の必要性を提唱しています.

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究成果は,脳卒中後の痛みという目に見えない主観的な症状に対し,患者が発する言葉を詳細に評価することの重要性を示しただけでなく,その背後にある脳ネットワークの損傷状態やリハビリテーション予後までもが予測可能であることを明らかにしました.今後は,痛みの表現型に応じた個別化リハビリテーションの有効性について検証していきます.

論文情報

Uragami S, Igawa Y, Takamura Y, Iki S, Morioka S, Osumi M.

Lesion and Disconnection Profiles of Pain Quality Subtypes After Stroke: Implications for Prognosis and Rehabilitation.

Eur J Pain. 2026 May;30(5):e70276.

 

問い合わせ

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

教授 大住倫弘

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp