自己と他者の歩行観察における大脳皮質活動の違い

PRESS RELEASE 2015.2.25

脳卒中発症後,運動麻痺の影響で歩行ができなくなることがあるため,歩行再獲得は脳卒中後のリハビリテーションにおいて重要な目標となります.近年,脳卒中後の歩行再獲得のための新しい治療法として歩行観察を取り入れた介入の効果が紹介されています.しかしながらその効果の神経メカニズムや,どのような歩行を観察すれば良いのかは明らかになっていませんでした.そこで今回,「自分自身の歩行」と「他者の歩行」を観察したときの脳活動を比較しました.また,歩行を観察しているときに自分自身が歩行するイメージを想起することが重要であることから,観察時の歩行イメージの鮮明度も評価しました.

実際には,歩行観察中の脳活動を計測し,その直後に観察中に想起したイメージの鮮明度を評価しました.

下の図は実験の流れになります.

自分自身の歩行を観察しながらイメージを想起する条件(自己条件)と,会ったことがない他人の歩行を観察しながらイメージを想起する条件(他者条件)の2条件を設定し比較しました.

どちらの条件もイメージは自分自身が歩行するイメージを想起するように指示しました.

図1

図1.実験の流れ(各条件の順番はランダムで実施)

 

脳活動はfunctional near-infrared spectroscopy (fNIRS)を使用して,前頭葉から頭頂葉の範囲を測定しました.

下の図のようにプローブと呼ばれる検出器を頭部に装着し(図2),

ターゲットとなる脳領域からデータを抽出しました(図3).

イメージの鮮明度はvisual analog scale (VAS)で評価しました.

図2.fNIRS装着時の様子

  図3

図3.本研究で抽出した脳領域

 

下の図は13人の健常者で測定した脳活動の大きさをグラフ化したものです.

自己条件ではRt dPMC(右背側運動前野)とRt SPL(右上頭頂小葉)が歩行観察時に活動し,他者条件と比較してその活動が大きい結果となりました.

一方,他者条件ではLt IPL(左下頭頂小葉)が歩行観察時に活動し,自己条件と比較してその活動が大きい結果となりました.条件間で有意差はありませんでしたが,Lt vPMC(左腹側運動前野)が安静時よりも活動していました.

なお,歩行観察時に作ったイメージは,自己条件が他者条件に比べ有意に鮮明でした.

 

 図4.歩行観察時の脳活動

SMA;補足運動野,dPMC;背側運動前野,vPMC; 腹側運動前野,SPL;上頭頂小葉,IPL;下頭頂小葉.*p < 0.05, **p < 0.01;自己条件 vs 他者条件.p < 0.05, ††p < 0.01;安静時 vs 観察時.

本研究の臨床的意義

歩行観察において自分自身の歩行観察の方がより鮮明なイメージを想起できることが明らかになりました.このことは,自分の歩行を観察させることでより効果的な介入が可能になることを示唆しています.また,自分自身の歩行観察では右半球が,他者の歩行観察では左半球が有意に活動することが明らかとなったことから,脳卒中患者に対する歩行観察を取り入れた介入を行う時は,損傷半球側を考慮することが必要と考えられます.

 

論文情報

Fuchigami T, Morioka S. Differences in cortical activation between observing one’s own gait and the gait of others: a functional near-infrared spectroscopy study. NeuroReport. 2015 Mar 4;26(4):192-196.

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科

博士後期課程 渕上健(フチガミ タケシ)

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600

E-mail: fuchigaminet@yahoo.co.jp

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp