[Journal Club]前庭脊髄反射や前庭動眼反射は姿勢脅威が増加した立位中に変調される
Naranjo EN, Cleworth TW, Allum JH, Inglis JT, Lea J, Westerberg BD, Carpenter MG.
J Neurophysiol. 2016 Feb 1;115(2):833-42.
「立っているのが怖い」と訴える方はリハビリテーション現場において数多く見受けられます.健常者を対象とした数多くの研究により,この「恐怖心」が姿勢制御を変調させるということがわかってきています.
今回紹介する論文は,恐怖心が起こる条件(高い場所での立位保持)において前庭脊髄反射や前庭動眼反射の活動がどのように変調するのかを調べたものです.
健常若年者を対象とし,低い床面(地上から0.8m)と高い床面(地上から3.2m)の2条件での立位保持を行います.高い床面は恐怖心を惹起するために実施しています.
第一実験では,先の低い床面と高い床面の各条件で前庭器官を刺激し,下斜筋,胸鎖乳突筋,僧帽筋,ヒラメ筋の表面筋電図から反応を測定しました.これはvestibular evoked myogenic potentials (VEMPs)という方法で,前庭動眼反応とともに内側前庭脊髄路や外側前庭脊髄路を経由する前庭脊髄反射を評価しています.
第二実験では,低い床面と高い床面の各条件で,機能的な前庭動眼反射のgainsを計算するためにvideo head impulse test (vHIT)を使用しました.実験者が被験者の頭部を上下,または左右に30~200°/sの速さで動かし,その際の眼球と頭部の速度を計測しました.
結果として,下斜筋,僧帽筋,ヒラメ筋で測定したVEMPの振幅やvHIT gainsは,低い床面と比べ高い床面での立位保持中に増加しました.
下斜筋や胸鎖乳突筋のVEMPの振幅や頭部を左右に動かした際のvHIT gainsの変化は皮膚電位活動(恐怖心などを感じると増加すると報告されています.)の変化と正の相関を示しました.
下斜筋のVEMPの振幅は恐怖心と正の相関を示しました.
これらの結果から,姿勢脅威に誘発された恐怖心や覚醒は前庭脊髄反射や前庭動眼反射に影響することが示されました.背景の神経メカニズムとしては恐怖心や覚醒などを処理する神経中枢から前庭核に興奮性の入力が存在し,前庭核からの反射経路への出力を変調させると考えられます.