[Journal Club]大脳白質損傷が半側空間無視の慢性化の予測因子になる
Lunven M, Thiebaut De Schotten M, Bourlon C, Duret C, Migliaccio R, Rode G, Bartolomeo P.
White matter lesional predictors of chronic visual neglect: a longitudinal study.
Brain. 2015 Mar;138(Pt 3):746-60.
半側空間無視は右半球損傷後に生じる神経学的症状の1つで,病巣の反対側の空間にある物体・事象を見落とすといった行動的特徴を呈します.無視症状が慢性化すると,自立した日常生活を送ることが困難となるため,発症後の早い段階で無視症状が慢性化するか否かを予測することは,リハビリテーションを行う上でも重要です.無視症状の病態は局所的な頭頂症候群として理解されてきましたが,近年はさまざまな研究により広範な脳領域を含む注意ネットワークの障害として考え直されてきています.
今回紹介する研究は,脳卒中後に起こる病巣(軸索変性)と無視症状の関連を縦断的に調査したものです.45名の右半球損傷患者に対して,発症3か月以内の亜急性期と,1年以上経過した慢性期で机上検査(総合得点ではなく,左空間の見落とし率で算出)を行い,病巣・軸索損傷との関連をみました.1回目の検査では45名中27名において無視症状を認めましたが,2回目の検査では10名のみ症状が残存していました.亜急性期で無視症状を示した患者は,無視のない患者と比較して上縦束という前頭-頭頂を結ぶ神経線維のⅡ・Ⅲ枝に加え,脳梁膨大部の損傷(拡散異方性値の減少)があったことが確認されました.また,慢性期にも無視症状を認めた患者は,改善した無視患者と比較して両半球の後頭-頭頂-側頭間の連絡を行う脳梁膨大部の大鉗子に損傷を認めました.
これまで,前頭-頭頂を結ぶ上縦束の損傷と無視症状発現の関与は,多くの先行研究によって知られていましたが,この研究ではそれに加えて脳梁膨大部の機能停滞が示されています.脳梁膨大部は左右半球の情報連絡を行っていますが,無視症状の回復にどういった役割を担っているのでしょうか?左半球との連絡が無視症状の回復と何かしらの関連があるということは非常に興味深いです.
運動機能の回復のように非麻痺側の左半球が無視症状の回復の手助けになっている可能性があるかもしれない…などなど,まだまだ改善を促す仮説があるのかもしれません.今後の検討に注目したいです.