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腱振動刺激による運動錯覚が手関節骨折後の運動機能改善に与える影響
PRESS RELEASE 2017.1.13
畿央大学大学院健康科学研究科博士後期過程の今井亮太らは,橈骨遠位端骨折術後患者に腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで痛みの軽減のみならず,手関節の運動機能の改善が認められたことを示しました.また,この効果は術後2ヵ月経っても持続していました.その研究成果は,Clinical Rehabilitation誌(Effect of illusory kinesthesia on hand function in patients with distal radius fractures: a quasi-randomized controlled study)に1月12日に掲載されました.
研究概要
2015年に今井らは,橈骨遠位端骨折術後患者に腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで,痛みの感覚的側面だけではなく情動的側面(不安や恐怖)の改善が認められたことを報告した.またこの時,2ヵ月後まで効果が持続したいことも示された.しかしながら,理学療法において痛みを改善軽減させることは重要であるが,1番の目的は手関節の運動機能(ADL)の獲得であるにも関わらず,調査ができていなかった.そこで,本研究では2ヵ月後まで手関節の運動機能を評価し検討した.その結果,運動錯覚を惹起しなかった群と比較して運動錯覚を惹起した群では有意に手関節の運動機能の改善が認められた.
本研究のポイント
術後翌日から腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで,手関節の運動機能も有意に改善が認められた.また,術後2ヵ月後も効果が持続した.
研究内容
橈骨遠位端骨折術後より,腱振動刺激による運動錯覚を経験させた.
図1:腱振動刺激による運動錯覚の課題状況
その結果,理学療法だけを行うよりも,運動錯覚を経験する方が,痛みの感覚的側面や情動的側面の改善だけではなく,手関節の運動機能も改善した.また,2ヵ月後まで効果が持続していたことから,痛みの慢性化を防ぐ一助になる可能性が示された.
図2:運動錯覚群とコントロール群のPRWE(手関節の運動機能)の経時的変化
赤線:運動錯覚群(理学療法+運動錯覚)
緑線:コントロール群(理学療法のみ)
本研究の意義および今後の展開
今後は,痛みが抑制されたメカニズムが明確になっていないため,脳波を用い神経生理学的に明らかにしていきます.
論文情報
Imai R, Osumi M, Ishigaki T, Morioka S. Effect of illusory kinesthesia on hand function in patients with distal radius fractures: a quasi-randomized controlled study. Clin Rehabil 2017.
関連する先行研究
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 今井 亮太(イマイ リョウタ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail:ryo7891@gmail.com
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
感覚-運動が不一致した際に惹起される異常知覚の要因
PRESS RELEASE 2016.12.9
運動を行おうとする運動の意図と実際の感覚情報との間に不一致が生じると,手足に痛みやしびれといった感覚に加え,奇妙さや嫌悪感といった異常知覚が惹起されます.畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程の片山脩らは,これらの異常知覚の惹起には頭頂領域の活動が関係していることを明らかにしました.この研究成果は,Journal of Pain Research誌(Dysesthesia symptoms produced by sensorimotor incongruence in healthy volunteers: an electroencephalogram study)に12月9日に掲載されました.
研究概要
脊髄損傷や腕神経損傷といった神経に損傷が生じた後に,一般的に治癒すると言われている期間を過ぎても痛みが残存することがあります.この痛みを慢性化させる要因の一つとして,神経に損傷を受けた手足を動かそうとする意図と,実際には動かないという感覚フィードバックとの間に生まれる「不一致」があげられています.過去の研究では,このような不一致を実験的に付加すると,健常者でも「痛みの増強」や「腕の重さ」の異常知覚,あるいは嫌悪感といった情動反応が惹起されると報告されています.しかし,これまでの研究報告では,「不一致」が生じた時の異常知覚と関係している脳領域は明らかにされていませんでした.そこで研究グループは,異常知覚の惹起と関係している脳領域を脳波解析によって検討しました.その結果,「不一致」によって生じる「奇妙さ」と右後頭頭頂領域の脳活動に有意な相関関係があることが認められました.
本研究のポイント
不一致によって生じる異常知覚には,頭頂領域の活動が関与していることを明らかにした..
研究内容
鏡を身体の真ん中に設置して,テーブルに肘をつけた状態で肘関節の曲げ伸ばしの運動を異なる4種類の条件で行ってもらいました(図1).
図1 設定した4種類の条件
本研究では様々な不一致条件を設定しました.
(a): 一致条件(運動の意図,体性感覚,視覚がすべて一致した条件)
肘関節の曲げ伸ばしの運動を同じ方向に左右対称に行ってもらいました.
(b): 不一致条件(運動の意図と体性感覚に対して,視覚が不一致した条件)
一側の肘関節を曲げた際に,もう一方の肘関節は非対称の運動になるように伸ばす(非対称の関係になるように曲げ伸ばし運動を繰り返します).
(c): 意図不一致条件(運動の意図と視覚が不一致した条件)
左の肘関節のみ曲げ伸ばしの運動を行ってもらい,右肘関節は左肘関節とは非対称の運動方向になるように動かすイメージをしてもらいました(実際には動かしていない).
(d): 体性感覚不一致条件(体性感覚と視覚が不一致した条件)
左の肘関節のみ曲げ伸ばしの運動を行ってもらい,右肘関節は左右非対称の運動になるように他動的に動かされました.
本研究では各条件中に脳波を測定し,運動中に鏡に隠れた右腕に感じた異常知覚とその強さを聴取しました.その結果,いずれの不一致条件においても奇妙さと嫌悪感が強く惹起されました(図2).各条件の脳活動をみると前頭領域ではいずれの条件でも活動の増大を認めたましたが,頭頂領域においては条件間に違いがみられました。不一致条件(b)では両側半球で活動の増大を認め、意図不一致条件(c)では、左半球にて活動の増大、体性感覚不一致条件(d)では、右半球で活動の増大が認められました.その中でも,不一致条件(b)と体性感覚と視覚情報とを不一致させた体性感覚不一致条件(d)に生じる異常知覚の強さと右後頭頭頂領域の脳活動に有意な相関関係を認めました(図4).このことから,異常知覚の惹起には頭頂領域の活動が関与することが明らかになりました.
図2 各条件で惹起した異常知覚の強さの比較
奇妙さと嫌悪感といった異常知覚が一致条件に対して,それぞれの不一致条件で強く惹起されました.
図3 各条件の脳活動の比較
全ての条件で前頭領域の活動の増大を認めたが,頭頂領域の活動の増大には条件間で違いが認められました.a: 一致条件,b: 不一致条件,c: 意図不一致条件,d: 体性感覚不一致条件
図4 異常知覚の強さと脳活動の相関分析
不一致条件(b)と体性感覚不一致条件(d)が類似して異常知覚の強さと右後頭頭頂領域の脳活動に有意な相関関係を認めました.
本研究の意義および今後の展開
本研究成果は,脊髄損傷や腕神経損傷後などに痛みが慢性化している方や慢性化を早期から予防していくリハビリテーションとして,運動を行ってもらう際に体性感覚と視覚情報を一致させることを意識した介入が痛みの慢性化を改善および予防することにつながると考えられます.
今後は感覚-運動の不一致による運動の側面への影響を検証していく予定です.
論文情報
Katayama O, Osumi M, Kodama T, Morioka S. Dysesthesia symptoms produced by sensorimotor incongruence in healthy volunteers: an electroencephalogram study. J Pain Res. 2016.
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 片山 脩(カタヤマ オサム)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: b6725634@kio.ac.jp
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
第14回日本神経理学療法学会学術集会で大学院生が最優秀賞・優秀賞に選出されました!
平成28年11月26・27日に宮城県仙台市の仙台市民会館にて第14回日本神経理学療法学会学術集会が開催されました.本学会は「脳卒中理学療法最前線」というテーマにて開催され,1000人を超える方が参加されておりました.会場では2日間にわたり活発な議論が繰り広げられており,学会全体を通してとても興味深い演題やシンポジウム,講演ばかりでした.これらを通して,臨床場面における症例の病態や症候症状の適切な分析と,理論的背景に基づく仮説検証的な介入の適応判断の重要性について改めて考えさせられました.
本研究室からは植田さん(客員研究員),渕上さん(博士後期課程),竹下さん(修士修了生),高村さん(博士後期課程),私(藤井 慎太郎 修士課程)が発表いたしました.演題名は以下の通りです.
<口述発表>
竹下和良「一側上下肢を用いた車いす駆動が大脳半球間活動の対称性に及ぼす影響 ―機能的近赤外線分光法(fNIRS) を用いた検討―」
高村優作「能動的注意と受動的注意からみた半側空間無視の病態特性 ―クラスター分析による特徴抽出―」
藤井慎太郎「能動的注意と受動的注意からみた半側空間無視の病態特性 ―縦断記録による回復過程の把握―」
<ポスター発表>
植田耕造「橋出血後一症例の自覚的視覚垂直位の経時的変化」
渕上健「脳卒中片麻痺者における運動観察時のモデルの違いによる影響」
またメインシンポジウムである「高次脳機能障害に対する理学療法の最前線」では,信迫悟志特任助教より「失行-limb apraxia-」というテーマで情報提供がありました.講演では失行の定義,分類,予後,病態メカニズムなどに関する最新の知見について情報提供がありました.また,先生が現在臨床場面において検証中の研究についても一部紹介があり,今後の失行研究における新たな展開を予感させるものであり大変興味深く聴講することができました.
私は多施設共同研究として大学院で研究を進めている半側空間無視の病態を能動/受動的注意システムからみた研究を,共同で進めている高村さんと横断・縦断的研究として発表してきました.またセレクション討議型演題にて,半側空間無視の慢性化症例に対するニューロモジュレーションを併用した介入方法についても共同研究者により発表があり,共同研究チームとして半側空間無視に対する評価から介入まで一貫した発表をすることができました.
さらに,本発表内容で私が最優秀賞,高村さんが優秀賞を頂くことが出来ました.日頃より様々なご指摘,ご指導,研究協力を頂きました共同研究施設の皆様をはじめ,河島客員教授,森岡先生に深く感謝申し上げます.ありがとうございました.今後はこの賞に恥じないように日々研鑚を重ね,より多くの成果を報告できるように努力し続けていきたいと思います.
畿央大学大学院健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室
修士課程2年 藤井 慎太郎
第9回 日本運動器疼痛学会で発表してきました
第9回 日本運動器疼痛学会(東京)で大住倫弘特任助教,今井さん(博士後期課程),片山さん(博士後期課程),西勇樹さん(修士課程),西祐樹さん(修士課程),私(重藤隼人 修士課程)が発表して参りました.教育研修講演では森岡周教授が「慢性痛の脳内メカニズム」というテーマで,慢性痛の病態を前頭葉・頭頂葉の2点に着目し,研究室のメンバーの研究成果も踏まえてとてもわかりやすく説明していただきました.今回の学会では,特別講演で衆議院議員の野田聖子さんに「一億総活躍のための痛み対策」と題して,我が国における慢性疼痛に対する政治活動についてお話していただきました.講演では野田さん自身の疼痛体験も踏まえながら一億総活躍社会のために日本国民,特に高齢者の痛みを減らして健康寿命の延伸を図っていくことの重要性を述べられていました.日本における政治活動としては慢性疼痛に対する議員連盟が2年前に発足し,慢性疼痛という言葉が「ニッポン一億総活躍プラン」の閣議決定の文章に含まれるところまで活動が進んでおり,法律になるまではまだ時間はかかるものの徐々に政治活動においても慢性疼痛に対する取り組みが進んでいる現状を知りました.講演の最後に野田さんから慢性疼痛の治療・研究に取り組んでいる方々からのエビデンスの強い情報を提供していただきたいというメッセージをいただき,今後の研究活動を通して少しでも貢献したいという思いになりました.
我々の演題名は以下であり,いずれも様々な意見をいただき多くの議論ができたと感じております.
<ポスターセッション>
大住倫弘「運動恐怖が運動実行プロセスを修飾する-運動学的解析を用いて-」
今井亮太「橈骨遠位端骨折術後に腱振動刺激による運動錯覚を惹起させた時の脳活動-脳波を用いた検討-」
西勇樹「疼痛刺激による交感神経活動の時間的変動と内受容感覚との関係について」
<一般演題>
片山 脩「感覚-運動の不一致による異常感覚および機能的連関-脳波を用いた検討」
西祐樹「痛み関連回避行動と人格特性の関連性」
重藤隼人「徒手牽引が有する鎮痛効果に関連する因子の検討」
近年は慢性疼痛に対する心理面に着目した講演内容が多い印象がありましたが,今回の学会では整形外科医の方から運動器の疼痛を解剖学や運動学の観点から介入した内容も含まれていたことが印象的でした.解剖学,運動学,神経生理学,心理面や社会的背景など様々な観点から痛みを捉えていく必要性をあらためて感じた学会でした.
研究室の痛み研究メンバーも研究内容は多岐に渡っているので,幅広い観点から研究活動に取り組み,私たちの研究が一人でも多くの方の痛みを解決することにつながり,エビデンスの強い情報を提供できるように,今後も研究室の仲間と協力しながら日々努力していきたいと思います.
畿央大学大学院 健康科学研究科
修士課程 重藤隼人
第40回日本高次脳機能障害学会学術集会に参加してきました
平成28年11月11・12日に長野県松本市のキッセイ文化ホール・松本市総合体育館にて第40回日本高次脳機能障害学会学術集会が開催されました。本学会は高次脳機能障害に関して国内では最も大きな学会であり,医師や作業療法士,言語聴覚士など高次脳機能障害に関わる医療従事者が数多く参加されていました.今学会は「思考のジャンプ」というテーマで行われ,2日間にわたり失行,失認,失語症などに加え,認知症や社会的行動障害など幅広い研究発表がなされていました.また単一症例に関する詳細な症例検討も多く,日々臨床で高次脳機能障害の患者様と向き合っている者として,非常に興味深い知見を得られることができました.
私(藤井 慎太郎 修士課程)は「半側空間無視における反応時間の空間分布特性―注意障害と無視症状の関連性と回復過程における推移の検討―」という演題にて発表させていただきました.この研究は,半側空間無視における注意障害と無視症状の関係性とその回復特性について,タッチパネルPCを用いた選択反応課題にて検討したものであり,現在私が大学院修士課程にて主たる研究内容として実施している内容です.発表には多くの方々にご参加いただくことができ、発表時間以外においても複数の方と討論することができました.また,高次脳機能障害に関して著名な先生方と研究内容について討論させていただき,ご意見をいただけたことは今後研究を続けていく上で貴重な経験となりました.
また今回発表した内容は,半側空間無視に関する研究を実施している5病院による多施設共同研究として実施しており,今学会では共同研究チームにて半側空間無視に対する研究を3演題発表いたしました.日頃からご指導いただいている森岡周教授,河島則天客員教授をはじめ,半側空間無視の研究を実施している共同研究チームの皆様にこの場をお借りして感謝申し上げます.今後は本研究を国際論文に投稿するなど,より多くの方々へ研究結果を還元していけるように努力していきます.
畿央大学大学院健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室
修士課程2年 藤井 慎太郎
北米神経科学会(Society for Neuroscience)でポスター発表をしてきました.
2016年11月12日(土)から11月16日(水)に,アメリカのサンディエゴで開催された北米神経科学会(Society for Neuroscience)に参加してきました.サンディエゴは気温が暖かく,湿度は日本と比べて低いので,とても穏やかでした.
本学会は神経科学を専門とする世界各国の研究者が集まる学会です.今回も世界80か国から3万人以上の参加だったようです.学会の雰囲気はとてもカジュアルで,至るところでディスカッションが行われていました.ラットなどの動物を専門とした研究が多いですが,脳卒中のテーマになるとリハビリテーションの分野も多く,世界の理学療法士や作業療法士も参加しており,研究,臨床両側面からのディスカッションが行われていました.
私たちは半側空間無視の演題を3つ並べて発表しました.画像提示時の視線分析による評価の考案という内容を私(大松聡子D3)が,タッチパネルを使用した選択反応課題にて注意障害と半側空間無視を分けて病態把握するという内容を河島則天客員教授が,そして実際に症例に対して行った視覚刺激とtDCSを併用した介入経過内容を高村優作(D1)が報告しました.
3演題並べることで,内容も伝わりやすく,病態把握からの介入アプローチまで示すことでより理解されやすかったのではないかと思いました.
その他,研究室からは痛み関連では西祐樹(M2)が,片山修(D1),今井亮太(D2)が,そして失行患者の遠心性コピーに関する内容で森岡周教授が発表してきました.
国際学会では海外にいく,英語での発表やディスカッションなど普段経験できないことで,緊張することも多かったですが,多くのディスカッションを行うことで,今後に向けた建設的意見を頂けたこと,また発表の方法など自分自身を振り返る機会にもなり,充実した日々でした.
畿央大学の研究に対する御支援と,森岡教授をはじめとする多くの方々のご指導,ご協力のもとで,このような素晴らしいな経験ができたこと,心より感謝申し上げます.この経験を糧に,より良き研究成果を公のものにできるよう,さらに日々励んでいきたいと思います.
畿央大学大学院健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室
博士後期課程3年 大松聡子
※ 修士課程をM,博士課程をDと表記しています.
河島則天 客員教授がBS1「超人たちのパラリンピック」に出演します
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 河島則天 客員教授が,NHKの依頼を受けてアイススレッジホッケー選手の計測に携わっておられます.
その内容が下記日程で放送されますので是非ご覧ください。
11月13日(日) BS1 21:00「超人たちのパラリンピック」
http://www4.nhk.or.jp/P3791/x/2016-11-13/11/23635/2725005/
河島客員教授は,ヒトの身体計測やリハビリテーション装置開発のアイディアと技術に優れており,本学研究センターの研究にも大きく貢献して下さっています.
今回の放送では,アイススレッジホッケー ニッコー・ランデロス選手の競技スティックの先端に「3軸力覚センサ」を付けた計測や,「BASYS」での体幹調整など放送されるようです.
詳細は下記ををご覧下さい.
(株)テック技販ホームページ:http://www.tecgihan.co.jp/TV_Para/Top.htm
第21回日本ペインリハビリテーション学会学術大会で大学院生が優秀賞に選出されました!
平成28年10月29・30日に名古屋国際会議場で第21回日本ペインリハビリテーション学会学術大会が開催されました.
本学会は「慢性痛対策におけるリハビリテーション戦略」というテーマで行われ,痛みに対する評価や治療戦略に関する研究報告のみならず,慢性痛によって日本経済に齎されている莫大な不利益や,慢性痛対策の現状,そしてリハビリテーションの観点からの施策の立案,実現への展開といったシンポジウムもありました.そのためには,医師や看護師といった医療従事者の理解,協力を得る必要があり,また,慢性痛のメカニズムの解明や介入研究を行い,発信していく意義を再認識致しました.他にも,理学療法士によるベンチャー企業の設立や産業理学療法に関する講演もしていただき,スポーツ現場や医療施設での理学療法士の役割しか知らなかった私にとっては,理学療法士の新たな可能性を感じずにはいられませんでした.
畿央大学大学院からも多くの方が口述あるいはポスター発表をされ,発表後も意見交換を行う等実のある学会になったのではないかと思います.また,担当教授である森岡周教授は「ニューロリハビリテーションによる中枢神経系の再構築」という内容でシンポジウムを行い,慢性痛患者の神経科学的な特性や症状,それらに対するニューロリハビリテーションを本学本大学院のこれまでの研究も踏まえながら,難解な分野ですが平易簡明な講演をされていました.
私(西 祐樹)も「痛み関連回避行動と人格特性の関連性-Voluntary movement paradigm-」という演題を発表し,この度、優秀賞を受賞いたしました.初めての口述発表でこのような賞をいただけたのは,偏に森岡周教授をはじめ,大住倫弘特任助教,信迫悟志特任助教,本学本大学院の神経リハビリテーション学研究室の皆様に研究指導をしていただいたお陰であり、深く感謝申し上げます.今後は本研究を国際雑誌に投稿し,この場で再度公表させていただければと思います.
畿央大学健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室
西 祐樹
ことばと表情の矛盾は信頼性を損ねてしまう
PRESS RELEASE 2016.10.13
人間は言語のみならず,表情やしぐさといった非言語を用いてコミュニケーションをとっています.通常,これら言語,非言語の間には矛盾は起こらないのですが,状況によってはそれらに矛盾が生じる場合があります.例えば,ことばではもっともらしいポジティブなことを話していても,無意識にその表情がネガティブであるといったように. 畿央大学大学院健康科学研究科主任ならびに同大ニューロリハビリテーション研究センター長の森岡 周 教授らの研究グループは,社会的コミュニケーション手段における「言語」と「表情」の間に矛盾が起こると,その矛盾をあらわす人の信頼度が低下することを明らかにしました.また,表情を観察しながら,その人の信頼度をはかっている最中には,大脳皮質の中でも頭頂葉の働きが重要であることを脳波研究によって突き止めました.従来,ヒトの顔を認識している時には側頭葉が,行動の意思決定の際には前頭葉が働くことが明らかにされていましたが,頭頂葉の活動も他者の信頼度をはかるといった高次な認知処理に関与することが本研究によって明らかになりました.この研究成果は10月13日(US東部標準時間)付けで,国際学術雑誌の『PLOS ONE』に掲載されます.
本研究のポイント
ことばと表情の間に矛盾を起こると信頼度を損なうこと,そしてその信頼度をはかっている時には,頭頂葉の神経活動が重要であることを明らかにしました.
研究内容
人間は言語と非言語の両方を用いて適切にコミュニケーションをとっていますが,時折それらに矛盾が生じる場合があります.とりわけ,言語と表情の一致性・不一致性は円滑な社会的コミュニケーションにおいて重要な位置を占めています.
研究グループは,実験的に言語と表情の一致・不一致条件を作成し,その一致あるいは不一致を示す者に対する信頼度,ならびにその信頼度を評価している最中の脳活動を健康な成人で調べました.被験者に対してポジティブな意味を持つ「火事から子どもを救う」など15の文章,ネガティブな意味を持つ「友達を傷つける」など15の文章をランダムに呈示した後,笑顔の表情を示す顔,あるいは怒りの表情を示す顔を呈示し,その顔を観察した後,その表情を示す者に対する信頼度を被験者に決定させました.信頼度は金銭授受課題とし,被験者には「もしあなたの手元に10,000円があるとしたら,この人物(その表情を示す者)が金銭に困っている時,いくら与えることができますか」という問いを与え,被験者はモニタ上に呈示された「0円」「2,500円」「5,000円」「7,500円」「10,000円」の5水準から意思決定しました.その際の与えた金額ならびに意思決定までの反応時間を計測しました.その結果,反応時間に有意差は見られなかったものの,与えた金額において,ポジティブな言語に笑顔の表情といった矛盾がみられない場合に対して,ネガティブな言語に笑顔の表情といった矛盾がみられる場合において有意に低い値となりました(図1).つまり,笑顔を示したとしても,言葉がそれにそぐわないと信頼度を損ねる結果があきらかになりました.
図1 各条件における反応時間(左)と寄付金額(右)
反応時間(左図)には有意差がみられませんが,寄付金額(右図)においてポジティブな言語に笑顔の表情といった矛盾がない条件で有意に高く,逆にネガティブな言語に笑顔の表情が呈示された際、有意に寄付金額が低くなることが示されました.一方で,怒りの表情の場合は、いずれも寄付金額は低いことが示されました.
一方,その意思決定時の脳活動を脳波で記録したところ,矛盾が生じた場合,刺激呈示後300-700msに見られる遅い陽性波形(late positive potential: LPP)が頭頂葉で増加することが確認されました.本来,顔を観察している際には,側頭葉で観察される早い陰性波形(early posterior negativity : EPN)の振幅が増大することがこれまでの研究で示されていますが,今回はその波形には有意差がみられず,LPPに振幅増大を認めました(図2).この結果は,頭頂葉が感覚情報や空間認知の処理に携わるだけでなく,人間がもつ社会的コミュニケーションに関連する機能を有していることが確認されました.
図2 言語と表情が一致・不一致時の脳波振幅(左)ならびにマッピング画像(右)
顔を観察した後,寄付額を決定するまでにおいて左右頭頂葉で観察されるLPPに有意な増大を認めました(左図下段).一方で、顔認知に関わる右側頭葉のEPNの波形には有意な差は認められませんでした(左図上段).なお,マッピング画像(右図)は暖色になればなるほど陽極波形が増大していることを示します.
本研究の意義および今後の展開
本研究結果は,人間社会における円滑なコミュニケーションにとって重要な成果です.意識的に口では立派なことを言っても,無意識的に表情がそれにそぐわないなど,日常生活におけるコミュニケーションの齟齬に関する問題点を,信頼度の視点から突く成果となりました.とりわけ今回の結果は,ネガティブな言動の後,笑顔でごまかすといった状況が当てはまります.すなわち,自ら起こした行動や言動の失敗を時に笑ってごまかす場合がありますが,その場合,信頼性を損ねている可能性が十分に考えられる結果となりました.
これまでの研究から,意思決定の中枢としては前頭葉や前帯状回が挙げられていますが,今回の研究ではそれらに有意な活動の変化がみられませんでした.今後は本研究によって,脳波の振幅差が明確になった頭頂葉とそれら領域のネットワークについて調べ,言語・非言語コミュニケーションに関連するネットワークを調べる必要があります.
論文情報
Morioka S, Osumi M, Shiotani M, Maeoka H, Nobusako S, Okada Y, Hiyamizu M, Matsuo A. Incongruence between Verbal and Non-Verbal Information Enhances the Late Positive Potential. PLoS One. 2016, Oct 13.
問い合わせ先
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
脳卒中後の回復過程についての新たな発見
PRESS RELEASE 2016.10.4
畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程の高村優作さん(医療法人 穂翔会 理学療法士),国立障害者リハビリテーションセンター研究所運動機能系障害研究部の河島則天室長(兼 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員教授),畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周教授らの研究グループは,脳卒中後に生じる「半側空間無視」の回復過程での重要な特徴を発見しました.半側空間無視は,空間にある物体やできごとを認識できない不思議な現象で,症状が残存すると復職時の妨げとなったり自動車運転再開の困難を招くなど,日常生活に大きな影響を及ぼします.研究グループは,半側空間無視の回復過程にある症例の多くが無視空間に注意を向けすぎる傾向があることを明確にし,脳の前頭領域を過剰に活動させる結果,疲れやすさや運動遂行の非効率化を招いていることを明らかにしました.今後の研究により,過剰に注意配分を行うことなく無視空間への気づきを高められるようなリハビリテーションを構築することで,日常生活での困難改善につながる可能性があります.この成果は9月23日付けで,神経学領域で最も権威ある雑誌『Brain』に掲載されました.
研究概要
臨床現場での無視症状の判定には行動性無視検査(Behavioral Inattention Test:BIT)が用いられ,この検査にて基準点以上となることが無視症状の改善を推察する一つの判断基準となります.しかし,臨床経験上,基準点を上回るものの日常生活では依然として無視症状が残存し,生活に困難を持っている症例がいることも良く認識されています.そこで研究グループは,患者群を,①BITで基準点を下回る無視症状が明確な群,②基準点を上回るものの日常生活での軽微な無視が残存する群,③無視症状のない右半球損傷群に分類し,コンピューター画面上に表示されるターゲットを眼で追うような反応課題を実施し,眼球運動の特性と,課題実施時の脳活動を計測しました.その結果,無視あり群では課題実施前の視線は非無視空間である右側に傾き,左無視空間のターゲットへの反応性が低下することを確認し(従来どおりの知見),一方,軽微な無視群では視覚刺激呈示前の時点であらかじめ,左無視空間へ視線を配分して課題に臨んでいることを確認しました.
研究内容
図1研究結果の概要:
患者さんはコンピュータスクリーン上の5つの●のうち,赤点灯するオブジェクトにできるだけ早く視線を移動させる課題を行います.右図のように,無視のない症例(③黒線)の場合には,刺激呈示前にはほぼ真ん中に視線を位置しており,オブジェクトの点滅に応じて,左右対称な視線移動の特徴を示します.一方,無視症状のある症例の場合(①)には刺激呈示前から右空間に視線があり,左空間にあるオブジェクトが点滅しても反応することが困難です.そして,無視症状が軽微に残存する症例(②)では,刺激呈示前の段階からあらかじめ左方向に視線を配分する結果を認めました.
上記のような左空間への視線偏向は,無視症状への認識の高まりとともに,意図的に行われる「代償」的な戦略であると予測されます.そこで,この代償戦略の背景にある脳活動を明らかにするために,USN+群,RHD群を対象として課題実施中の脳波計測を実施しました.
図2脳波計測結果の概要
軽微な無視症状のある群(左)では,課題実施前の段階で前頭領域の活動が大きく,その活動量は視線の偏りと関連を持つことが明らかになりました.
冒頭に述べたように,臨床経験上,基準点を上回るものの日常生活では依然として無視症状が残存する症例が多いことが良く認識されています.今回の結果は,臨床検査で無視症状が改善したと判定される症例の多くが,無視空間への注意配分を高めることで機能低下を「代償」する戦略をとっていることを示唆するものです.脳波計測によって明らかとなった前頭領域の活動増加は,患者の多くが訴える課題実施時の易疲労性と大きく関連している可能性を示しています.
本研究の臨床的意義および今後の展開
軽微な無視症状の残存は,復職時の妨げとなったり,自動車運転再開の困難を招くなど,日常生活に大きな影響を及ぼします.従来より,無視症状のためには『無視』が生じていることへの気づきが重要であり,リハビリテーション現場および病棟生活においては,無視空間に注意を向けるようセラピストが言語教示による働きかけを行ったり,無視空間への注意配分を高めるような課題を実施するということは通例となっています.今回の研究成果は,無視空間に注意を向けすぎることで前頭機能の過剰な活動が生じ,結果として疲労を招く原因となる可能性を示しています.すなわち,無視症状への気づきを高めることの重要性とともに,過剰に注意を向けすぎることの弊害を認識することが重要であると考えられます.今後の研究の進展により,過剰な注意配分を要することなく,無視空間への気づきを高められるようなリハビリテーションが可能となれば,日常生活での困難を改善させる手がかりとなるかもしれません.この点に関して,同研究グループは,半側空間無視症状の改善には,従来重要視されてきた意図的な注意配分を促すようなアプローチとともに,外からの刺激に対しての反応性を促すような,外発的な注意機能を高めることが重要であると考えており,現在,症状改善のための新しいリハビリテーション方法の開発を進めています.
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本研究成果は国立障害者リハビリテーションセンター プレスリリースにも掲載されています.
http://www.rehab.go.jp/hodo/japanese/news_28/news28-03.pdf
論文情報
Takamura Y, Imanishi M, Osaka M, Ohmatsu S, Tominaga T, Yamanaka K, Morioka S, Kawashima N. Intentional gaze shift to neglected space: a compensatory strategy during recovery after unilateral spatial neglect. Brain. 2016 Sep 23. (オンライン先行)
なお、本研究はJST(日本科学技術振興機構)研究成果最適展開支援プログラムA-STEP フィージビリティスタディ(FS ステージ:探索タイプ)の助成を受けて実施したものです。研究成果
の一部は既に実用化され、製品販売されています。
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 高村優作(タカムラ ユウサク)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: takamura0437@yahoo.co.jp
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
教授 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
国立障害者リハビリテーションセンター 研究所 運動機能系障害研究部神経筋機能障害研究室 室長
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員教授
河島 則天(カワシマ ノリタカ)
Tel: 04-2995-3100
Fax: 04-2995-3132
E-mail: kawashima-noritaka@rehab.go.jp