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大学院生が21st ESCOPで発表してきました!
9月25日から28日にかけてスペインのテネリフェで開催された21st conference of the European Society for Cognitive Psychologyにおいて,宮脇裕(博士後期課程)と私(林田一輝 博士後期課程)が演題発表をしてきましたのでここに報告させていただきます.
本大会はヨーロッパで2年に1度行われる歴史ある学会であり,認知科学や神経科学を主に扱っています.学会会場はビーチの真横にあり,日本人の私には独特の雰囲気に感じましたが,リラックスしながら議論を促進させることが目的であったようです.今回の学会では様々な内容のセクションが組まれていましたが,身体性やagencyのみを取り上げたシンポジウムがいくつもあり非常に興味深く拝聴させていただきました.特に「Acting in a Complex World – Emerging Perspectives on Human Agency.」と題されたセッションのシンポジストは,社会性の心理学をagencyの観点で研究しているWilfried Kunde教授のグループで構成されており,日頃より論文を参考にしている方々の講演を聴くことができました.どのシンポジストもイントロダクションからリサーチクエッションへの流れが明確で,20分の講演時間で提示される結果のスライドは1つか2つであり,複雑な内容をいかにシンプルに伝えるかという点で非常に勉強になりました.私は「Diffusion of responsibility and the outcomes on sense of agency」という題でポスター発表をさせていたただきましたが,まさに社会性とagencyに着目した内容であり,Kunde教授のグループの数人の方に聴いていただけました.特に私が修士の頃より注目しているRoland Pfister博士に直接発表を聴いていただいたことは相当な報酬となりました.その他の一般演題でもagencyの発表はいくつもあり,質問にいけないほど活発に議論されているものもありました.今回の学会に参加して自身の取り組んでいる研究領域が注目されているのは確かですが,研究として取り扱うことが本当に難しいものだと痛感しました.相応の成果を出し,研究領域の発展につながるよう尽力していきたいと思います.
宮脇 裕(博士後期課程)
「Cue integration strategy for self-other sensory attribution in motor control」
林田一輝(博士後期課程)
「Diffusion of responsibility and the outcomes on sense of agency」
第17回日本神経理学療法学会学術大会で大学院生が発表しました!
2019年9月28日,29日の二日間,パシフィコ横浜で開催された第17回日本神経理学療法学会学術大会が開催されました.
当日のオープニングセミナー,教育講演「身体性システム科学から考える「一歩先」の神経理学療法」では森岡 周先生が登壇されました.
演題発表では客員研究員の佐藤さん,博士後期課程の高村さん・藤井さん・水田さん・私(赤口)が発表を行いました.
演題名は下記の通りです.
佐藤剛介「安静時脳波を用いた頚髄損傷に対する理学療法の長期的効果の検証-しびれに着目した 1 例による予備的検討-」
高村優作「半側空間無視に対する腹側注意ネットワークへの直流電気刺激と視覚刺激の併用効果-残存する受動的注意機能の最大化を企図した新たな介入手法の試み-」
藤井慎太郎「静止立位時の重心動揺変数を用いた姿勢制御戦略の特徴分析 -神経疾患症例の特性に着目して-」
水田直道「脳卒中後症例における長下肢装具を使用した介助歩行時の非麻痺側歩幅の違いが麻痺側下肢筋活動に与える影響」
赤口 諒「慢性期脳卒中患者の把持力調節の特徴-上肢機能ならびに使用頻度との関係に着目して-」
本大会のテーマは「一歩先へ〜 One more step forward」とされ,神経理学療法領域の対象とされる神経疾患の「重複障害」に加えて,本来,理学療法士として重要なテーマである「歩行」に基づいた特別講演,教育講演等が企画されました.多数の講演,演題が重複する中でどれを聴講しようか悩まれた方も少なくなかったのではないでしょうか.私は「歩行」についての講演を重点的に聴講して参りましたが,科学の発展に伴いVRやロボットの活用する演題が多数あり,示唆に富む興味深いものがありました.その一方で,そうした最先端の技術を取り入れる上では限界点を見極め,病態,分類・評価に基づいた上での介入手段として意思決定されることが重要であると改めて強く感じました.このことから,森岡先生が教育講演で強調していた「理学療法士はエビデンスに基づいた治療を提供する専門職であると同時に,対象者にとって必要な,報酬価値のあるサービスを提供することができる専門職である」といったメッセージには,これからを担う我々若いセラピストが真摯に受け止め(概念化し),共有していくことが重要であると感じました.
博士課程課程 赤口 諒
第24回日本ペインリハビリテーション学会で発表してきました!
2019年9月21日、22日の二日間、名古屋学院大学で開催された第24回日本ペインリハビリテーション学会学術集会が開催されました.
本研究室からは,特別講演「痛みの中枢制御機構」と,シンポジウム「痛みに挑む-適応と限界を語る-」で大住倫弘准教授が登壇されました.また,同一のシンポジウムでは本学理学療法学科の瓜谷大輔准教授も登壇されました.
演題発表では佐藤さん(客員研究員),西さん・重藤さん・田中陽一さん・藤井廉さん(博士後期課程)と,古賀(修士課程)が発表を行いました.
演題名は下記の通りです.
【口述】
佐藤 剛介「有酸素運動がしびれと安静時脳波活動に及ぼす長期的効果の検証ー頚髄損傷者1例による予備的研究ー」
西 祐樹「慢性腰痛有訴者における体幹屈曲伸展運動の姿勢制御
重藤 隼人「慢性腰痛患者のADL障害と運動制御の特徴および疼痛関連因子との関連性ー連関規則分析を用いてー」
田中 陽一「慢性疼痛の日内律動性についてー律動性の各タイプ分類と疼痛特性についてー」
古賀 優之「中枢性感作症候群と痛みの関係性ークラスター分析による特徴抽出ー」
【ポスター】
藤井 廉「腰痛の程度と運動恐怖による就労者の運動学的特徴ー作業動作の経時的変化に着目してー」
本学会は「痛みを治療する-ペインリハビリテーションの真価-」というテーマを掲げて開催されており,痛みのメカニズム,評価,痛みに対する介入手段という一連の流れがよくわかるプログラム構成となっておりました.
これまでの学会では,痛みの多面的要素をいか捉え,適切な運動療法や患者教育,活動量の調整を行っていくことが重要というお話が多かったように思いますが,本学会では物理療法や徒手療法,ニューロリハビリテーション,作業療法といった様々なリハビリテーション介入の視点から,適応と限界がどういった点なのかということを明確化させるようなセッションが組まれておりました.
それぞれの介入を,手技・手法ではなく,病態解釈も含めた「概念」として捉え,「科学に方向づけされながら,適切な治療に発展させていくことが重要である」というような強いメッセージ性を感じ,まさに「ペインリハビリテーションの真価」が垣間見えた素晴らしい学会でした.このような考え方をいかに実践して,また,その結果がどうであったのかということの検証を積み重ねていくことを,今後の課題として日々の研究活動ならびに臨床へ生かしていきたいと思います.
最後になりましたが,今回の発表にあたりご指導いただきました森岡周教授と,研究室の皆さま,研究データ収集を手伝ってくださった皆様に深く感謝申し上げます.
修士課程2年 古賀優之
[Journal Club]行為主体感形成における意図の強さの役割
行為主体感形成における意図の強さの役割
The Role of Intentional Strength in Shaping the Sense of Agency
Front Psychol. 2019; 10: 1124.
Samantha Antusch, Henk Aarts, and Ruud Custers
意図は,行為の準備,開始,認識の重要な構成要素となります.さらに,意図は行為主体感の経験を促進する上で重要な役割を果たします.行為主体感における意図の重要性を示した先行研究において,(意図がある)能動的な行為とそれによって引き起こされた結果の主観的時間間隔は,(意図が無い)受動的な行為と比較して,短く知覚されることがわかっています(意図による結合効果).これまでの研究は意図の「有無」によって行為主体感のメカニズムが議論されてきましたが,意図の「質」にはあまり着目されていませんでした.行為の動機付けにおける意図の強弱は行為主体感に影響する可能性があります.行為の動機付けには予測される結果の価値(報酬)が関与することは明らかです.いくつかの先行研究で,意図的な行為が経済的損失をもたらす場合と比較して,利益がある場合に行為主体感が増幅することが示唆されています.この研究では,行為を結果の報酬と関連づけることにより,意図の強さが行為主体感に与える影響について調査されました.
実験参加者は80%の確率で報酬が与えられるキー(高報酬条件)と20%の確率で報酬が与えられるキー(低報酬条件)を事前に学習しました.実験課題では,事前に学習したキーを押した時の意図による結合効果が調べられました.その結果,高報酬を学習したキー条件の方が低報酬条件よりも結合効果が高くなることが示されました.著者らは,ドーパミン作動系によって結合効果が駆動されたのではないかと考察しています.
意図の有無ではなく,強さという質に着目し,それを意図による結合効果によって定量的に示したことが本研究のポイントだと思います.意図の質がなぜ行為主体感に影響したのか,そのメカニズムについてはまだ推論の域を出ず,今後の研究が期待されます.
第1回 畿央大学・名古屋大学 研究交流会
9月8日(日),畿央大学にて畿央大学大学院神経リハビリテーション学研究室研究交流会が開催されました.今回は名古屋大学大学院 内山研究室と記念すべき第1回の研究交流会となり,内山靖先生をはじめ大学院生,学部生の方々に遠路はるばるお越しいただきました.プログラムとしては,まず最初に,内山先生に内山研究室についてのご紹介をいただき,その後に内山研究室の大学院生から,高橋さんが「脳性麻痺児における生活の質と生物心理社会的な関連因子の探索的研究」について,川路さんが「じん肺検診受信者における身体活動量の要因に関する研究」について,佐藤さんが「Smart Walkerにおける治療・誘導刺激制御の最適化に関する実証的研究」について現在進行形の研究を発表していただきました.いずれの研究も研究背景の説明がわかりやすく丁寧に構成されており,普段聞きなれない領域の発表でしたが,初めて聞く分野の話題でも理解が深まる内容・プレゼンテーションであり,大変参考になりました.午前の最後には両研究室の数名の院生から,自己紹介も含めて簡単に研究分野や現在行っている研究の概要について発表させていただきました.午後からはまず森岡先生から森岡研究室についてのご紹介をいただき,その後,赤口さんが「慢性期脳卒中患者の把持力調節の特徴-上肢機能並びに使用頻度との関係に着目して-」について,水田さんから「脳卒中後症例における運動麻痺と歩行速度の関係性からみた歩行特性・クラスター分析に基づく特徴分析-」,西さんから「痛みの予期は目標志向的な運動制御に影響する-痛み恐怖条件付けパラダイムを用いて-」について発表していただきました.内山研究室・森岡研究室双方の院生から研究について意見交換がされ,特に休み時間に気楽な雰囲気の中で議論が自然とされていたのが非常に良い雰囲気であったと印象的に思いました.
内山研究室・森岡研究室ともに研究分野が多岐にわたっていますが,特に内山研究室では医工連携を踏まえた研究もされており,今後のリハビリテーション分野も大きく変遷していくことを実感しました.内山先生,森岡先生からもお話をいただき,両先生に共通していたことは,理学療法とは何か,どのような病態にはどのような介入をしていくべきか,ということを標準化・アルゴリズム化していくことが今我々には求められており,人間を対象としている分野なので,個別性と普遍性を踏まえた関りを高めていくことで,理学療法士の価値を高めていくことが重要であるということでした.このことを踏まえた上で,我々一人ひとりが,自分がどのような部分に貢献できるかということを考えていくことが求められているので,日々の行動を意識していきたいと再認識しました.
最後になりましたが,ご多忙の中快くご対応してくださり,かつ遠方までお越しいただきました内山先生ならびに内山研究室の皆様,研究交流会の運営幹事としてご尽力いただきました佐藤さんと藤井さん,そしてこのような機会を与えてくださった森岡先生に深く感謝を申し上げます.
博士後期課程 2年 重藤隼人
予測-結果の不一致と運動主体感の関係
PRESS RELEASE 2019.7.19
「この行為を引き起しているのは自分だ」という感覚を“運動主体感”といいます.運動主体感は,予測と実際の感覚結果が一致することによって引き起こされる感覚であることが知られています.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡 周 教授と大住倫弘 准教授らは,明治大学理工学部の嶋田総太郎 教授,慶應義塾大学の前田貴記 講師らと共同で,予測-結果の一致だけで運動主体感が構成されていない可能性を実験的に示しました.この研究成果は,PLoS One誌(The relationship and difference between delay detection ability and judgment of sense of agency)に掲載されています.
研究概要
「この行為を引き起しているのは自分だ」という“運動主体感”は,「この行為によってどのような感覚が引き起こされるか」という予測と,実際の感覚結果の一致によってもたらされる感覚と考えられてきましたが,互いがどれほど密接な関係にあるのかは不明でした.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡 周 教授と大住倫弘 准教授らは,明治大学理工学部の嶋田総太郎 教授,慶應義塾大学の前田 貴記 講師らと共同で,予測-結果の不一致に気づく時間窓と,予測-結果の不一致によって運動主体感が損なわれる時間窓との関係を調査しました.その結果,予測-結果の不一致に気づきやすい被験者ほど運動主体感を損ないやすい傾向があることが確認されましたが,互いの関係は決して強固なものではないことも明らかにされました.この結果は,運動主体感は単なる予測-結果の一致だけで構成されている感覚ではなく,それ以外の要因によって修飾されることを示唆するものです.
本研究のポイント
運動主体感は,予測-結果の一致/不一致だけによって左右されるものではない可能性を示した.
研究内容
1.予測-結果の不一致に気づく時間窓の計測
健常大学生を対象に,映像遅延システム(図1)の中で人差し指を1回だけ動かしてもらいます.映像遅延システムでは,被験者の手の鏡像をビデオカメラで捉えて,そのカメラ映像を「映像遅延装置」経由でモニターへ出力させます.出力されたモニター映像を鏡越しに見ることによって自分の手を見ることができます.また,映像遅延装置によって作為的に映像出力を時間的に遅らせることができます.この遅延時間を100, 200, 300, 400, 500, 600, 700, 800, 900, 1000ミリ秒の10条件設定をして,被験者がどのくらいの遅延時間で遅延に気づくことができるのかを定量化しました(図3左).
図1:映像遅延システム
2.予測-結果の不一致によって運動主体感が損なわれる時間窓の計測
健常大学生を対象に,Agency attribution task(Keio method: Maeda et al. 2012, 2013)を実施してもらいました(図2).被験者のボタン押しによって画面上の■がジャンプするようにプログラムされており,さらにボタン押しと■ジャンプの間に時間的遅延を挿入することができ,この遅延時間を100, 200, 300, 400, 500, 600, 700, 800, 900, 1000ミリ秒の10条件設定をしました.そして,被験者は“自分が■を動かしている感じがするかどうか”を回答するように求められ,被験者がどのくらいの遅延時間で運動主体感が損なわれるのかを定量化しました(図3左).
図2:Agency attribution task(Keio method)
そして,「遅延に気づく時間窓」と「運動主体感が損なわれる時間窓」の相関関係を算出したところ,お互いに一定の関係が認められるものの,その関係は決して強固なものではありませんでした(図3右).
図3:「遅延に気づく時間窓」と「運動主体感が損なわれる時間窓」の関係
本研究の意義および今後の展開
運動主体感はリハビリテーションを進める上で欠かすことのできないものです.その運動主体感のメカニズムの一端を明らかにすることができましたが,どのような要因によって運動主体感が修飾されるのかは,今後の研究で明らかにしていかなければなりません.
関連する先行研究
Shimada S et al. Rubber hand illusion under delayed visual feedback. PLoS One. 2009 Jul 9;4(7):e6185.
Maeda T, Kato M, Muramatsu T, Iwashita S, Mimura M, Kashima H. Aberrant sense of agency in patients with schizophrenia: forward and backward over-attribution of temporal causality during intentional action. Psychiatry Res. 2012 Jun 30;198(1):1-6.
Maeda T, Takahata K, Muramatsu T, Okimura T, Koreki A, Iwashita S, Mimura M,
Kato M. Reduced sense of agency in chronic schizophrenia with predominant
negative symptoms. Psychiatry Res. 2013 Oct 30;209(3):386-92.
論文情報
Osumi M, Nobusako S, Zama T, Yokotani N, Shimada S, Maeda T, Morioka S. The relationship and difference between delay detection ability and judgment of sense of agency. PLoS One. 2019 Jul 9;14(7):e0219222.
なお、本研究は明治大学理工学部 嶋田総太郎教授,慶應義塾大学 前田 貴記 講師らと共同で行われたものです.また、本研究は文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「脳内身体表現の変容機構の理解と制御」の支援(研究課題番号 17H05915)を受けて実施されました.
問い合わせ先
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
大学院生が第41回日本疼痛学会で発表してきました!
7月12日‐13日に名古屋国際会議場にて開催された第41回日本疼痛学会に参加してきました.愛知医科大学学際的痛みセンターの牛田享宏先生が学会長を務められ,「心身二元論からの脱却と新たなる挑戦」をテーマに,痛みに関わる様々な分野の専門家が集結し,情報交換を行いました.森岡研究室からは4名の院生が発表参加し,口述・ポスター発表で活発な意見交換を行いました.以下発表演題です.
D2重藤隼人:中枢性感作と疼痛強度に基づいたサブグループにおける疼痛関連因子の特性-クラスター解析を用いて‐
D2田中陽一:慢性疼痛の日内律動性について‐律動性に影響を与える要因の検討-
D1藤井廉:腰痛を持つ就労者の作業動作における痛みおよび運動恐怖の関連性
M2古賀優之:中枢性感作症候群を呈したTKA患者に対する運動療法と患者教育・行動日記の併用効果‐症例報告‐
ポスター発表では田中と藤井が優秀ポスター賞候補に選出されておりましたが,残念ながら受賞はなりませんでした.本学会は,基礎研究や普段あまり目にしない薬理学の内容も多く聞きなれない用語もあって新鮮でしたが,臨床での応用性も高く,興味深く参加できました.本学会の参加は初めてでしたが,リハビリ関連の学会だけではなく,こうした痛みに関わる医師を中心とした学会に触れ,その考えや痛みへの治療法などを深く知ることにより,痛みに対する集学的治療の意識が更に高まりました.学会で取り入れた知識や経験をさっそく臨床に持ち帰り,痛みに悩む患者さんに還元していきたいと思います!
最後になりましたが,このような機会を頂きました畿央大学と指導教員である森岡周教授に深謝いたします.
畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室
博士課程2年 田中陽一
大学院生が国際学会ISPGR2019でポスター発表をしてきました!
令和1年6月30日から7月4日にかけてスコットランドのエジンバラで開催されたInternational Society of Posture and Gait Research World Congress 2019に私(水田直道 博士後期課程)と蓮井(岡田ゼミ修士課程修了生)が参加・発表してきましたので報告させていただきます.
本学会は姿勢や歩行に関連する非常に多くの一般演題ならびにシンポジウムがあり,どの演題・講演も議論が非常に活発でした.
シンポジウムでは「ウェアラブルセンサーの活用方法や現実世界での計測方法」や「歩行に関連する転倒のメカニズム」などが取り上げられており,多施設共同研究の成果や臨床現場での現象が多く示されておりました.また,小型で簡便かつ多機能な評価機器ならびにそれらを応用したアルゴリズムなどが多く発表されており,私も初めて目にするものもあったため,ついつい聞き入ってしまっておりました.ロボットによるリハビリテーション研究も散見されており,興味深い研究もありましたが,同時にこれから適応症例を抽出できるような仕組みの必要性も感じました.
本研究室からは,2日目に私が脳卒中後症例の歩行障害の特徴分類について,3日目に蓮井が脳卒中後症例に対する多種類の短下肢装具による歩行への影響についてポスター発表を行いました.私にとって2度目の国際学会でしたが,多くの方から質問に来ていただき,2時間以上の発表時間があっという間に感じました.頂戴した質問やアドバイスは非常に有益となる情報が多くあり,今後の進展へ向けモチベートされました.
シンポジウムや一般演題は,非常に穏やかな雰囲気でありながら議論は活発に行われ,否定的な質疑は非常に少なく,建設的で前向きな議論が多いように感じ,相互向上を目的とした姿勢には襟が正されました.また自身の研究領域とは異なる発表に対しても興味を持っている印象を受けました.
このような貴重な経験ができたのは森岡教授をはじめとする研究室の仲間の日頃のご指導と,畿央大学の手厚いバックアップがあったからであり,ここに深く感謝致します.
【発表演題】
水田 直道(博士後期課程)
Post-stroke walking characteristics on association between motor paralysis and walking speed by cluster analysis
蓮井 成仁(岡田ゼミ修士課程修了生)
Influence of ankle-foot orthosis with different type of joint on walking parameters in stroke patients
水田 直道(博士後期課程)
脳卒中患者における自己と他者の運動観察による影響の違い
PRESS RELEASE 2019.7.4
脳卒中後のリハビリテーションとして,他者の運動を観察する「運動観察療法」があります.近年では,他者の運動を観察するだけではなく,自分の運動を観察する効果が報告されています.自己の身体表象に関わるのは右前頭・頭頂ネットワークであり,自己の運動観察では右前頭・頭頂領域が活動することが報告されています(Fuchigami and Morioka 2015).このように,自己観察と他者観察で活動する脳領域が異なるため,大脳皮質の左右どちらが損傷したのかによって,運動観察の効果に違いが生じる可能性が考えられますが,それは明らかになっていませんでした.畿央大学大学院 渕上健氏(博士後期課程)と森岡周教授は,右半球損傷者では自己の運動観察に比べ,他者の運動観察の方が鮮明なイメージを惹起させ,パフォーマンスが改善しやすいことを明らかにしました.この知見は,脳卒中者に運動観察療法を実施する場合,損傷側によって自己を観察させるのか,他者を観察させるのかを検討する重要性を示唆しています.この研究成果は,Stroke Research and Treatment誌(Differences between the influence of observing one’s own movements and those of others in patients with stroke)に掲載されています.
本研究のポイント
■ 脳卒中者を右半球損傷者と左半球損傷者に分け,自己の運動観察と他者の運動観察のどちらがパフォーマンスに影響するのかを検証した.
■ 右半球損傷者では,自己に比べ他者の運動観察の方が鮮明なイメージを惹起させ,パフォーマンスへの影響が強かった.
研究内容
34人の脳卒中片麻痺者が実験に参加しました.課題は脳卒中者でも安全かつ容易に実施することができるという理由で,座ったままでの非麻痺側下肢によるステップ運動としました.運動観察は運動イメージや運動実行に影響することからパフォーマンステストにはステップ運動のイメージ時間と実行時間を用いました.実験は,運動観察の前にステップのイメージ時間と実行時間を計測し,運動観察を行い,再びステップのイメージ時間と実行時間を計測するという手順で行いました(図1).
図1:実験の流れ
自己の運動観察では,実行時間を計測中に撮影した自分の映像を0.5倍速で再生して観察し,他者の運動観察では,自分と同じ運動実行時間の他者の映像を0.5倍速で再生して観察しました.運動観察中は,身体は動かさずに映像と同じようにステップすることをイメージするよう指示し,その時のイメージの鮮明度をthe Kinesthetic and Visual Imagery Questionnaire (KVIQ)の段階付で評価しました.データの解析について,イメージ時間と運動実行時間は観察後の時間から観察前の時間の差分を算出しました.差分が大きい方が観察の影響を強く受けたということになります.KVIQは 視覚イメージ項目と筋感覚イメージ項目に分けました.各評価項目について,損傷半球(右半球損傷vs左半球損傷)と観察条件(自己vs他者)について比較しました.
図2:結果
その結果,右半球損傷者において,他者の運動観察は自己に比べKVIQの筋感覚イメージ得点が高く(図2d),イメージ時間と実行時間の差分が大きいことが明らかになりました(図2a, b).左半球損傷者において,自己の運動観察は他者に比べイメージ時間の差分が大きいことがわかりました(図2a).損傷半球間での比較では,他者の運動観察において右半球損傷者が左半球損傷者に比べイメージ時間の差分が大きいことを認めました(図2a).このように損傷半球によって自己と他者の運動観察による影響に違いがあることが示されました.
本研究の臨床的意義および今後の展開
本研究成果は,脳卒中者に対して運動観察療法を実施する場合,脳の損傷側によって自己の運動観察と他者の運動観察のどちらを用いるべきか検討する必要性と,右半球損傷者では他者の運動観察の方が効果的である可能性を示唆しています.しかし,本研究は非麻痺側下肢のパフォーマンスを用いて即時効果のみを調査しているため,麻痺側下肢のパフォーマンスで検証する必要があります.また,運動観察療法の効果的な方法を見つけるためにも,この結果のメカニズムについて検討していくことが必要で,今後検証していく予定です.
論文情報
Fuchigami T, Morioka S.
Stroke Res Treat 2019
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 渕上 健(フチガミ タケシ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: fuchigaminet@yahoo.co.jp
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
教授/センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
第14回日本訪問リハビリテーション協会学術大会で大学院生が発表しました.
6月29日から30日にかけて,新潟で開催された第14回日本訪問リハビリテーション協会学術大会に石垣智也(客員研究員)と私(尾川達也 博士後期課程)で演題発表をしてきましたので報告させていただきます.
本学会はPT・OT・STだけでなく,訪問リハビリテーションに関わる様々な職種が参加されており,演題の内容も社会参加や介護負担感,終末期医療,チーム連携,社会資源の活用,人材育成など多岐に渡っていました.また,教育講演やシンポジウムも数多く企画され,その中で立命館大学総合心理学部の齋藤清二先生からは「臨床におけるナラティブとエビデンス」というテーマでご講演がありました.お話しの中ではエビデンスやEBMの正しい理解,ナラティブとエビデンスをどのように統合していくかなどについて,現場の先生に分かりやすく伝えていただきました.
当研究室から発表した演題は,どちらも「訪問リハビリテーションにおける意思決定」をテーマとしており,私の方は現場の実態調査から多くの利用者が受動的な役割となっていること,石垣からは利用者と共に意思決定を行うShared Decision Makingの実践程度と患者満足度が関係するという内容でした.どちらの演題も質疑の時間だけでなく,終了後にも興味を持って頂いた先生方から声をかけて頂き,訪問リハビリテーションの分野で課題となっていること,そして,その解決に向けて今後も進めていかなくてはいけないと強く思った学会でした.また,私自身が学会参加で最も重要だと思っていることは,現場の課題解決に向けて取組んでいる他府県の先生方と出会い,その先生方と協力していける関係を築くことだと考えています.そして,本学会ではそのような先生とも出会うことができ,今後一緒に仕事ができる喜びも感じることができました.
最後になりましたが,私が昨年度に本学会で発表した「訪問リハビリテーション利用者における社会参加の実態-屋外歩行の自立可否による特徴の比較-」という演題が最優秀賞に選出して頂きました.これは非常に光栄なことであり,早急に原著論文として公に出せるよう進めていきたいと思います.
今後も自身の研究活動とともに,本邦の訪問リハビリテーションにおけるエビデンス構築に向けて,覚悟をもって取り組んでいきたいと思います.
<発表演題:口述発表>
尾川達也:「訪問リハビリテーション利用者と理学療法士における意思決定の実態,および参加促進に向けた課題の抽出」
石垣智也:「訪問リハビリテーションにおける患者満足度と共有意思決定の実践程度との関係-疾患特性による予備的検討-」
博士後期課程 尾川達也