[JournalClub]慢性腰痛患者における座位保持中の腰部伸筋群の筋活動変動性

Reduced muscle activity variability in lumbar extensor muscles during sustained sitting in individuals with chronic low back pain

Inge Ringheim, Aage Indahl, Karin Roeleveld
PLOS ONE | https://doi.org/10.1371/journal.pone.0213778 March 14, 2019

慢性腰痛患者において,運動変動性(筋活動変動性)の減少は,筋疲労の増加や持久力の低下,疼痛強度の増加と関連が報告されており,慢性腰痛の原因の一つとして考えられています.しかし,筋活動変動性の減少が必ずしも慢性腰痛の重症度と一致しないことも報告されており,この理由として過去の研究報告では古典的な双極表面筋電図が使用されており,腰部には数多くの筋が存在することから,筋活動の変動性を十分に抽出できていない可能性が指摘されています.高密度表面筋電図を使用した先行研究において,動的課題時に慢性腰痛患者では,筋活動の時間的・空間的変動性が減少していることが報告されています.著者らの研究では,健常者で座位保持時の筋活動変動性が筋疲労と関連することを報告していましたが,慢性腰痛患者が座位保持中に時間的および空間的変化を変化させたかどうかは不明でした.

今回紹介する論文では,健常者と比較した慢性腰痛患者の時間的および空間的筋活動の変動性を調査することを目的にしています.対象は健常者32名と慢性腰痛患者18名であり,9×14チャネルの高密度表面筋電図を左右の傍脊柱筋に貼付し,第12胸椎・第1仙椎に傾斜計を取り付け,30分間の座位保持時の脊柱角度と傍脊柱筋の筋活動を測定しました.測定結果から,脊柱角度の変動性,経時的な筋活動変動性,空間的な筋活動変動性を算出しました.また,座位保持時の疼痛強度および自覚的な運動強度の聴取も行いました.統計解析では,各評価指標について健常者と慢性腰痛患者で比較を行いました.

その結果,健常者と比較して慢性腰痛患者は座位姿勢の角度の変動性は増加しているにも関わらず,時間的および空間的な筋活動変動性は小さいことが明らかになりました.筋疲労については周波数解析の結果には現れませんでしたが,自覚的な疲労度と疼痛強度は座位保持中に増加がみられました.また,慢性腰痛患者では30分間の座位保持が困難な症例もみられた.

今回の結果より,慢性腰痛患者では座位保持中の時間的・空間的な筋活動変動性が減少していることが明らかになりました.慢性腰痛患者では腰部の筋活動を抑制して他部位の筋活動を高めるといった代償的な戦略をとっている可能性もあり,また心理的因子などが筋活動変動性の減少に関連している可能性があると著者らは述べています.

[Journal Club]リハビリテーションの目標設定におけるシェアードディジションメイキング

Rose A, Soundy A, Rosewilliam S.

Shared decision-making within goal-setting in rehabilitation: a mixed-methods study.

Clin Rehabil. 2019 Mar;33(3):564-574.

リハビリテーションの目標設定は、患者と医療者が関わる重要な機会とされています.しかし,多くの報告から患者がその過程に関与できていないことが分かり,近年では意思決定への患者参加を保障するシェアードディジションメイキング(以下,SDM)という方法に焦点が当てられています.この研究では,リハビリテーションの目標設定会議の中で、(1)スタッフがどの程度SDMを実践しているか,(2)目標設定過程の中で患者とスタッフ間の認識に違いがあるか,(3)目標設定に関与するための要因を患者視点で調査することを目的に調査されました.
対象は,リハビリテーションを受けている60歳以上の虚弱高齢者とし,入院患者20名と地域患者20名でした.研究に参加したスタッフは,リハビリテーション助手13名,理学療法士6名,作業療法士5名でした.この研究で定義された目標設定会議は,入院では患者とチームメンバーで行われる45~60分の体系的な会議とし,地域では自宅での最初の治療・評価の間に療法士と患者間で行われた会議でした.評価は,目標設定会議の後にSDMの実践程度を測定するMultifocal Approach to Sharing in Shared Decision Making (MAPPIN’SDM)という質問紙に患者,スタッフ,観察者が回答した.その後,MAPPIN’SDMの項目のうち1つ以上で不十分と回答した患者15名に追加のインタビューの同意を確認し,最終的に 9名の患者に半構造化面接を行いました.また,この研究に参加した全スタッフは、SDMに関する半日の勉強会に参加していました.結果,MAPPIN’SDMではスタッフがSDMの多くの項目を順守していました.ただし,リハビリテーションの『選択肢』やそれらの『長所と短所』に関する項目では不十分と回答する割合が多くなっていた.また,『患者の問題の議論』という項目では,患者とスタッフ間で齟齬が生じており,スタッフはしていると認識する一方,患者の一部はされていないと認識していました.次に,インタビュー結果から目標設定への関与に影響する要因として3つのテーマが抽出されました.

(1)素因:会議の中で発言する動機や自信は,目標設定に関与する能力と関係し,会議に家族が参加することや過去の目標設定経験などはその能力に影響する.
(2)SDMにおけるスタッフとの相互作用:会議中のコミュニケーションでは,スタッフは傾聴しているかもしれないが,それを患者に分かりやすく表現しないため,患者自身は理解されていないと感じていた.また,スタッフの父権主義的な対応は受身的な役割を強いられ関与に影響する.
(3)SDMへの事前準備:会議前の準備として,議題の設定や選択肢に関する情報を知っておくことは,関与の促進につながる.また,目標の意味や患者の役割,長期目標からどのように短期目標を設定したかなどの説明は有用である.

この結果から,患者が目標設定に関与するには,選択肢に関する情報提供や傾聴していることを明確に表現するなどの行動が必要かもしれません.また,患者が自信をもって発言しやすいように,会議場所や家族の参加なども考慮することが有用であると筆者らは述べています.

[Journal Club]歩行中における筋シナジーの神経相関

Yokoyama H, Kaneko N, Ogawa T, Kawashima N, Watanabe K, Nakazawa K.

Cortical Correlates of Locomotor Muscle Synergy Activation in Humans: An
Electroencephalographic Decoding Study.

iScience. 2019 May 31;15:623-639.

 

古くから歩行制御の基本構造は,皮質下システムに存在する筋シナジーの駆動によって成り立つとされています.近年では,皮質下システムに存在する筋シナジーを,大脳皮質からの下降性投射が調整していると示唆されておりますが,その実証は困難でした.今回紹介する研究の主要な目的は,歩行中の筋活動と脳波を同時記録して皮質活動と筋シナジーの関わりを調べることでした.

この研究では,12名の健常者を対象に,トレッドミル上での歩行中(0.55m/s)に,下肢の筋電図(13チャンネル)と脳波(63チャンネル)を同時記録しています.記録した筋電図波形は,単一筋の筋活動に加え,非負値行列因子分析という手法を用いて,歩行中の筋シナジーが同定されています.そして,脳波パターンから筋シナジー活動パターン(もしくは単一筋活動パターン)を推測する脳情報を機械学習手法により作成したようです.

結果は,脳波情報から筋シナジー活動と単一筋活動の両方を予測することができたようですが,筋シナジーの平均予測精度と筋活動の平均予測精度を比較すると,筋シナジーの予測精度のほうが高いことがわかったようです.このことは,脳活動は,単一筋活動に比べ,筋シナジー活動との関連性が高いことを意味しています.これらは,歩行中に筋肉を個別に制御するのではなく,筋シナジーという協働筋活動のレベルで脳が筋制御に関わることを強く示唆していると著者らは述べています.

 

[Journal Club]ミラーセラピーによる身体所有感の惹起に視覚情報が強く影響する

Liu Y, Medina J 

Integrating multisensory information across external and motor-based frames of reference
Cognition. 2018 173:75-86.

 

四肢切断後の幻肢痛や複合性局所疼痛症候群に対して,鏡を用いたリハビリ(ミラーセラピー)の有効性が報告されています.ミラーセラピーでは,幻肢(患側肢)と健側肢との間に鏡を設置し,鏡に映った健側肢を覗かせた状態で健側肢の運動をしてもらうことで,鏡に映った健側肢があたかも患側肢であるかのような錯覚(身体所有感*)を惹起します.

*身体所有感とは「この身体は私の身体である」という自己の身体に関する意識のことです.

今回紹介する研究では「ミラーセラピーによる四肢への身体所有感の惹起に,視覚と運動感覚(固有感覚)のどちらが強く影響するのか」を明らかにするために3つの実験を行われました.
第1実験では,健常人31名を対象に鏡を挟んで以下の4条件で手指の屈曲/伸展運動を実施しました.
条件a:両手掌を下に向けた肢位で両手指を同じ方向に屈曲/伸展運動(視覚・固有感覚一致条件)
条件b:両手掌を下に向けた肢位で両手指を反対方向に屈曲/伸展運動(視覚・固有感覚不一致条件)
条件c:右側の手掌を下に向け,左側の手掌を上に向けた肢位で両手指を反対方向に屈曲/伸展運動(視覚不一致・固有感覚一致条件)
条件d:右側の手掌を下に向け,左側の手掌を上に向けた肢位で両手指を同じ方向に屈曲/伸展運動(視覚一致・固有感覚不一致条件)

鏡に映った鏡像に対する身体所有感の評価として,固有感覚ドリフトと質問紙が用いられました.固有感覚ドリフトは以下の方法で測定されました.各条件の前後に鏡と天板で隠された左手の示指の位置を右手で回答させました.この際に,実際の左示指の位置と回答した左示指の位置の差を固有感覚ドリフトとしました.つまり,回答した左示指の位置が実際の位置よりも鏡寄りに変位した距離(固有感覚ドリフト)が大きいほど鏡像に対する身体所有感が強まったことを示します.
質問紙では,過去の身体所有感に関連する研究を参考に「鏡の手が私の左手であるかのように感じた」といった7項目をVAS(0mm:全く感じない~100mm:非常に強く感じる)で評価されました.

第1実験の結果は,固有感覚ドリフトは視覚・固有感覚一致条件(条件a)が視覚・固有感覚不一致条件(条件b)と比較して有意に大きい(身体所有感の増大)を認めました.視覚不一致・固有感覚一致条件(条件c)と視覚一致・固有感覚不一致条件(条件d)の比較では視覚情報が一致した条件dが有意に大きな固有感覚ドリフトを認めました.また質問紙においても同様の傾向がみられました.

第1実験の結果から,ミラーセラピーにおける身体所有感の惹起には,視覚情報の一致が重要であることが示されました.そこで第2・第3実験では,運動感覚への感覚情報の重みづけを強くすることで,身体所有感の惹起に関係する感覚情報の重みづけが視覚情報から運動感覚(固有感覚)情報に移行するかが実験されました.具体的には実験二では運動する指の本数を1本から4本に増やし,実験3では示指の運動に対してバネを取り付けて,運動抵抗を増やすことで運動感覚への感覚情報の重みづけが行われました.

しかしながら,結果はいずれも第1実験と同様となり,ミラーセラピーにおける身体所有感の惹起には,視覚情報の一致が強く関わることが示されました.
今回の研究結果は,身体所有感の低下を認める疼痛患者や脳卒中患者などに対するリハビリテーションにおいて視覚情報を用いることの重要性を示唆するものと思われます.

[Journal Club]下肢MEPは慢性期脳卒中者の歩行アウトカムに影響しない

Sivaramakrishnan A, Madhavan S

Absence of a Transcranial Magnetic Stimulation-Induced Lower Limb Corticomotor Response Does Not Affect Walking Speed in Chronic Stroke Survivors

Stroke. (2018) 49:2004-2007

 

先行研究のいくつかは,transcranial magnetic stimulation(TMS)-induced motor evoked potential(MEP)の有無が,急性期や慢性期における上肢運動機能の回復に関連していることを示しています.しかしながら,歩行速度や他の下肢機能評価とMEPとの関連ははっきりしていません.加えて,非損傷側からの同側性の伝導が,重度下肢機能障害や運動課題のパフォーマンス低下に関連することを示した研究はほとんどありません.この研究の主要な目的は,前脛骨筋と大腿直筋のMEPの有無を評価して,下肢の皮質脊髄路の損傷が,慢性期脳卒中者の歩行速度と関連しているかを明らかにすることとしています.

発症から6ヶ月以上が経過した初発の脳卒中で,5分間短下肢装具なしで歩行可能な者が研究に参加しました.行動学的評価として,快適10m歩行時間,最大10m歩行時間,6分間歩行試験,Timed up and go test(TUG),Fugl-Meyer Assessment下肢項目(FMA-L),最大筋力が評価され,神経学的評価としてTMS-MEPが評価されました.TMSは損傷側と非損傷側の前脛骨筋と大腿直筋の大脳皮質領域を刺激し,TMSの反応は麻痺側と非麻痺側の前脛骨筋と大腿直筋から計測しました.また,参加者を前脛骨筋と大腿直筋からのMEPの大きさに基づいてMEP+群とMEP−群に分け,MEP+群において,MEPのパラメーターと最大筋収縮,FMA-L,年齢,発症からの期間,歩行速度との関連を重回帰分析で調査しました.
61人の参加者からのデータが分析され,MEPは28人の参加者の麻痺側前脛骨筋と大腿四頭筋から観察されました.MEP+群とMEP−群との間に快適10m歩行時間,最大10m歩行時間,6分間歩行,TUGに有意差はありませんでした.FMA-Lと麻痺側前脛骨筋の最大筋力は,MEP+群が有意に高い値でした.MEP+群とMEP−群に皮質脊髄路の興奮性に有意差はありませんでした.MEP+群の重回帰分析において,快適歩行速度と最大歩行速度を決定する要因を見つけることができませんでした.
今回の結果から損傷半球からの下肢MEPの有無が,慢性期脳卒中者の歩行アウトカムに影響しないことが示されました.このことは皮質脊髄路の残存の有無が,慢性期脳卒中者の歩行の回復を予測するバイオマーカーとして利用できないと著者らは述べています.

[Journal Club]運動学的指標に基づいた腰痛者のサブグループ分析

Robert A Laird, Jennifer L Keating, Peter Kent

Subgroups of lumbo-pelvic flexion kinematics are present in people with and without persistent low back pain.

BMC Musculoskeletal Disorders. (2018) 19:309

 

運動機能障害は持続的な腰痛と関連があると報告されているものの,最適な介入は不明なままです.腰痛のサブグループでは運動の特徴が異なり、介入への反応も異なる可能性が示唆されています.腰痛者では座位,前屈,持ち上げ動作などの腰椎屈曲に関連した活動が特に問題であるとされており,屈曲運動時の腰椎-骨盤の運動異常が特徴的であると報告されていますが,その特徴によってサブグループ化が可能であるかは報告されていませんでした.

今回紹介する論文では,1.屈曲に関連した腰椎-骨盤運動指標のパターン(サブグループ)が存在するのか,2.腰痛の有無でそのパターンの頻度が異なるのかを明らかにし,3.そのパターンが臨床的所見と関連しているのか調査することを目的にしています. 対象は非腰痛者124名と腰痛者140名であり,第12胸椎・第3腰椎・第2仙椎にモーションセンサーを取り付け,第3腰椎の両側に表面筋電図センサーを取り付けて,立位および座位での前屈動作時の運動指標と筋活動指標の評価を行い,潜在クラス分析を行いました.

その結果,立位屈曲運動時の体幹角度・腰椎角度・骨盤角度・腰椎骨盤リズム・屈曲弛緩比率・最大屈曲までの時間・体幹屈曲0度と20度時の腰椎もしくは骨盤の運動遅延の指標がサブグループ化に有用であることが明らかになりました.一方で,座位での運動指標はサブグループ化には有用ではなく用いられませんでした.立位での運動・筋活動指標を用いてサブグループ化を行うと,サブグループ1:標準,サブグループ2:腰椎主体の運動,サブグループ3:骨盤主体の運動,サブグループ4:防御戦略,の4タイプに分類できることが明らかとなりました.特にサブグループ4:防御戦略をとるグループには腰痛者しか属しておらず,他のグループと比較しても痛みや活動制限が有意に大きいことが明らかになりました.なお,サブグループ4の特徴は最大屈曲角度までの時間も最も遅く,屈曲弛緩現象も最も少なかったことも明らかにされました.

今回の結果より,腰椎-骨盤の運動指標に着目した腰痛者の分類が可能であり,その分類に基づいた治療介入が良好な治療反応を示す可能性があると著者らは述べています.

[Journal Club]変形性関節症における身体活動を干渉する痛み

Murphy SL, Schepens Niemiec S, Lyden AK, Kratz AL.
Pain, Fatigue, and Physical Activity in Osteoarthritis: The Moderating Effects of Pain- and Fatigue-Related Activity Interference.
Arch Phys Med Rehabil. 2016 Sep;97(9 Suppl):S201-9.

定期的な身体活動(physical activity; PA)は,循環器系,気分,内臓系などにポジティブな影響を与えると広く認識されています.しかし,骨関節炎(OA)患者では,健常者と比べて日常生活で不活動傾向にあることが報告されています(OA患者の男性40%,女性で57%が国際的PA条件を満たしていない).こうしたOA患者の毎日のPAパターンに対する調査は,定期的な身体活動量を向上させるための知見として重要です.加えて,低い活動レベルと関係している要因として「痛み」は最も認知されているOA徴候です.また最近の調査では,PAと否定的に強い結びつきがある要因として「疲労」を報告しています.今回紹介する論文では,OA患者を対象に痛みと疲労関連の生活干渉とPAの関係性を調査することを目的としています.
対象は膝または股関節痛を有するOA患者で,地域で生活を送っている162名が参加しました.事前評価として6分間歩行やOAのグレード評価,身体部位の評価,自己記載の質問紙を使用して,痛みと疲労関連の活動干渉を評価した後に,7日間にわたって毎日計5回(起床時,午前11時,午後3時,午後7時と就寝時)の痛みおよび疲労強度の評価と,身体活動量計を使用して身体活動量の評価を行いました.
結果,PAは午前中が高く,昼から夕方にかけて減少していくという身体活動パターンを示しました.また,午前中において,その時の痛みが強く,痛みによって生活に支障が出ているという意識が強い者はPAが少なくなっていることが明らかとなりました.つまり,痛みは「朝~昼過ぎ」の生活へ干渉してPAを少なくすることがわかりました.
今回の調査のポイントとして痛みによる生活干渉がありますが,痛みにより生活に支障が出ているという意識が高い者は,痛みを避ける手段として「不活動」を選択してしまいやすいのかもしれません.一方で,支障がでているという意識が低い者は,(痛みから気をそらす手段として)身体活動を選択しているのかもしれません.
今回の結果より,特に午前中の活動において個々の痛みによる生活干渉の高/低に合わせることと,個人が持っている疼痛への対処戦略を考慮して,指導的介入を行っていくリハビリテーションが重要であると著者らは述べています.

[Journal Club]自由な選択は運動主体感を高める

Barlas Z1, Obhi SS
Freedom, choice, and the sense of agency.
Front Hum Neurosci. 2013 Aug 29;7:514. doi: 10.3389/fnhum.2013.00514.

 

「この身体を動かしたのは自分自身である」といった意識を運動主体感と言います.運動主体感は主観的な意識経験ですが,運動主体感を定量的に測定する手法の一つにintentional bindingがあります.

この実験方法は被験者にキー押し(action)をさせ,キー押しの数100ms後に音を提示(effect)し,遅延時間を推定させる課題です.自発的な行動をとると,行為の知覚時間(action)とその結果の知覚時間(effect)がお互いに向かってシフトすることがわかっており,actionとeffectの間の時間が短く感じる程, 運動主体感が高くなると想定されています.運動主体感には行為を実行する前段階(predictive)と行為実行後の後段階(postdictive)により修飾されると考えられており,両者はintentional bindingの実験課題を操作することでそのメカニズムを調べることができると考えられています.

本研究では,predictiveな要素を操作し運動主体感への影響を調査しています.

この研究は行為の自由な選択が運動主体感に影響するかどうかを検討することを目的としており,キー押しの「数」を変えることでbinding効果が変化するかを検証しています.実験はキーの数を7,3,1とし,それぞれ選択の自由度を high,medium,no choiceと条件を定義し,被験者はそれぞれの条件で自由に一つのキーを選択してintentional binding課題を行います(no choice条件は一つのキーしか選択できない).結果は,high条件で知覚時間が最も短くなり運動主体感が高くなりました.

このことから,運動主体感と行為の自由な選択には潜在的な関連性があることが示唆されると著者らは述べています.

[Journal Club]理学療法士の行動と意思決定プロセス

Held Bradford E, Finlayson M, White Gorman A, Wagner J.

Maximizing gait and balance: behaviors and decision-making processes of persons with multiple sclerosis and physical therapists.

Disabil Rehabil. 2018 May;40(9):1014-1025.

 

多発性硬化症(Multiple Sclerosis; MS)の歩行とバランスの障害は,転倒の発生や機能障害,QOLの低下と関連するため,適切な運動療法や歩行補助具の使用により対処していくことが必要となります.しかし,理学療法士からの推奨(運動や杖の使用など)に対するMS患者の順守率は高いとは言えず,自宅で歩行とバランスを最大化する行動の継続に,どのような決定方法が適切かについての情報が不足している状況です.今回,紹介する論文では,外来リハビリテーション終了後の生活に焦点を当て,MS患者と理学療法士の歩行とバランスを最大化する行動の決定プロセスの比較を行い,両者の視点を理解することを目的としています.

対象は, 外来リハビリテーションを終了したMS患者とその理学療法士の7組とし,終了後4-8週の間に,個別面談にて半構造化インタビューが実施されました.MS患者への質問は,歩行とバランスを最大化する行動の決定理由と順守状況,また,時間経過の伴う変化について聴取し,理学療法士への質問は,歩行とバランスを改善するための推奨事項とその伝達方法について聴取しています.

結果,歩行とバランスを最大化するために行ったことを説明する主なテーマとして,MS患者では『限界を認識しながら,自分自身に挑戦すること』でした.その中で,不確実性に対処するために,自己の認識と外部情報の比較だけでなく,理学療法の経験も通して自分に最適な行動の選択肢を知ることができたとしていました.また,行動の継続には,価値や期待の優先順位付け,スモールステップを用いた目標設定が習慣化に必要とし,このプロセスは自身の状態が変化する度に繰り返され,セルフマネジメントしていくことが不可欠としていました.

理学療法士の主なテーマは,『正しい適合を見つけること』としており, MS患者のニーズと機能的予後を満たすことに焦点を当てていました.その中で,理学療法士はMS患者と自身の考えの類似点を把握することが重要であると同時に,相違点を知るために深い面接を行うことも念頭に置いていました.そして,この類似点と相違点を知るプロセスを通して,MS患者との関係性が構築され,セルフマネジメントを行う適切な行動計画にも繋がるとしていました.

この結果は,MS患者と理学療法士では意思決定における視点が異なる部分もあり,この相違点を理解することによって,より有意義な意思決定が可能になると示しています.また,理学療法を提供する際に,深い面接によって変化する患者の自己同一性を理解し,不確実性への対処を支援していくことが,外来リハビリテーション終了後の歩行やバランスを改善する行動の継続にとって重要であると著者らは述べています.

[Journal Club]脳卒中片麻痺における歩行時の下腿筋活動

Kitatani R, Ohata K, Aga Y, Mashima Y, Hashiguchi Y, Wakida M, Maeda A, Yamada S.
Descending neural drives to ankle muscles during gait and their relationships with clinical functions in patients after stroke.
Clinical Neurophysiology 2016; 127: 1512–1520

中枢神経損傷を有する脳卒中後症例の多くは運動を制御する中枢神経下降路の異常をきたすとされています.歩行中においてもそれらの異常は歩行パフォーマンスに影響し,皮質脊髄路の興奮性の低下や,皮質運動野の非対称な興奮性は歩行速度や歩行非対称性と関連するとされています.また正常歩行では少ないとされる歩行時の下腿筋同時収縮は,脳卒中後症例では増大する傾向があり,筋活動パターンの異常が歩行パフォーマンスを制限ならびに代償することが知られています.しかし,過剰な同時収縮がどのような神経メカニズムを背景基盤として干渉しているのか十分に解明されておりません.さらに,中枢神経下降路の異常と臨床機能評価との関連性は知られておりません.今回紹介する論文では,歩行時の下腿筋筋活動と中枢神経下降路の興奮性ならびに臨床機能評価との関連性を調べることを目的としています.
対象は慢性期脳卒中後症例11名(59.3 ± 11.6歳,発症後年数:5.85 ± 2.09年)と健常高齢者9名(55.8 ± 3.87歳)であり,10mの歩行路を快適速度で歩きました.筋電図は麻痺側の前脛骨筋(近位部および遠位部)と内側および外側腓腹筋より記録しました.得られた筋電図波形は振幅二乗コヒーレンス解析(2つの異なる筋電図信号における周波数の同期性から皮質脊髄路興奮性を推定する分析手法)を用いて検証されました.
結果として,脳卒中後症例は健常高齢者と比較して歩行時の皮質脊髄路興奮性が低下しており,特に麻痺側下肢で大きく低下していました.また皮質脊髄路興奮性と歩行速度の関連性を見ると,前脛骨筋に対応した皮質脊髄路興奮性が低下しているほど歩行速度が低下していました.さらに臨床機能評価と皮質脊髄路興奮性の関連性は,前脛骨筋と外側腓腹筋の同時収縮に対応した皮質脊髄路興奮性が高いほど麻痺側足関節底屈筋力が低下していることが分かりました.
このことより,前脛骨筋に対応した皮質脊髄路興奮性は歩行速度と関連すること,また下腿筋の同時収縮に対応した皮質脊髄路興奮性は麻痺側足関節底屈筋力と関連することが示唆されました.脳卒中後症例は低下した足関節底屈筋力を代償するため,下腿筋の同時収縮を基盤とした皮質脊髄路興奮性を高めている可能性があると著者は述べています.