患肢に嫌悪感を持つCRPS患者に対して『影絵』を用いたリハビリは有効か?

PRESS RELEASE 2020.5.10

複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome: CRPS)は,骨折などの外傷や打撲など比較的軽微な障害を受けた後,その痛みが長期間残存する症候群です.その症状は,痛みのみならず,通常の治癒過程と異なる異常感覚,自律神経症状,骨や皮膚の萎縮性変化など多岐にわたります.中でも,自己の身体に対する負の概念(醜形感や異形感など)や感情(嫌悪感など)がCRPSの痛みを増悪させることが報告されています.畿央大学大学院博士後期課程の修了生 平川善之 氏(現:福岡リハビリテーション病院・リハビリテーション部長)は,畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター長 森岡 周 教授,大阪河崎リハビリテーション大学 今井亮太 助教らと共同で,「影絵」を用いた新しいリハビリ方法を開発し,それをCRPS患者に対して実践した内容「Clinical Intervention Using Body Shadows for a Patient with Complex Regional Pain Syndrome Who Reported Severe Pain and Self-Disgust Toward the Affected Site: A Case Report」を国際雑誌「Journal of Pain Research」で報告しました.

報告概要

今回報告した症例は,自身の患肢に対し強い醜形感・嫌悪感を有しており,これが痛みなどの症状に対して負の影響を与えていました.CRPS患者に対して,比較的効果があるとされている運動イメージなどの介入ではほとんど効果が得られませんでした.また,現在のリハビリテーション医療において,自肢への負の概念を是正でき得る効果的な治療方法は開発されていないのが現状です.今回,平川 氏らは「影絵」を利用した臨床介入を新たに開発し,CRPS一症例に対して臨床実践し,痛み症状などの改善を確認するに至りました.

本論文のポイント

患肢に対する醜形感や嫌悪感などの負の感情が痛みに影響している症例に対し,「影絵」を用いた介入が有効である可能性を示した.

研究内容

症例は,交通事故により左肩CRPSを発症.左肩を中心に強いアロディニアとneglect-like symptoms (自身の身体の認識障害 以下NLS),身体イメージの障害,左肩・肘関節の機能障害,左手の色調や浮腫などの自律神経障害を認めました.さらに,こうした患肢に対し強い醜形感を持ち,「他者に触れたくない」「触れられる他者も嫌だろうと思う」といった身体意識を有しており,これが痛みやNLSを増悪させていました.そこで図のような「影絵」を用いた介入を段階的に行いました.こうした影絵の介入により,醜形感や痛みを伴わない身体所有感や適切な身体イメージの形成が図られ,痛みやNLS,自律神経障害の改善が認められました.

fig.1

円柱形の風船を長袖服の左袖に通し(a),患者の左上肢は袖を通さずに着服し,セラピストの手を用いて患者の左手を模造する(b).この状態で影絵に投射し,患者の右手の屈曲伸展に同期させてセラピストによる左手も屈曲伸展を行う(c).これにより患者は影絵の左手に醜形感の伴わない身体所有感の生起と身体イメージの形成が図られた.次に模造された左上肢から実際の患者の左上肢に変えた.これにより影絵で自身の顔に触れる事ができるようになり(d),影絵上で他者の手を触れる事が可能となった (e).さらに,全身を影絵に投射し,影絵を見つつ両肩の内外転運動を実施した(f).

本論文の意義および今後の展開

今回報告した影絵を用いた臨床介入は,影絵に対し強い身体錯覚が生じるため,① 患肢を抽象的に映像化でき,醜形感や嫌悪感が生起しない.② 身体所有感や運動主体感が形成されやすい.③ 恐怖心を誘発することなく接触へのシミュレーションが可能である.といった特性があることが考えられ,自肢の認識能力障害や醜形感および患肢使用への恐怖心を有するCRPS患者に対する有効な介入手法であると考えられました.
今後は,症状改善に至るより詳細な機序や適応範囲など多くの課題があり,複数の症例にて,検証作業を進める必要があると思われます.

論文情報

Hirakawa Y, Fujiwara A, Imai R, Hiraga Y, Morioka S

Clinical Intervention Using Body Shadows for a Patient with Complex Regional Pain Syndrome Who Reported Severe Pain and Self-Disgust Toward the Affected Site: A Case Report

Journal of Pain Research, 2020

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

 

 

術後患者の予後予測を行うために開発された新たな解析手法

PRESS RELEASE 2020.5.9

術後患者の入院期間は短縮され,術後痛管理が不十分に陥りやすくなっており,術後痛の遷延化や慢性化が非常に大きな問題となっています.大阪河﨑リハビリテーション大学 今井亮太 助教と畿央大学 森岡 周 教授は,畿央大学 大住倫弘 准教授,県立広島大学 西上智彦 教授,名古屋学院大学 石垣智也 助教,東大阪山路病院 米元佑太らと共同で,術後痛の予後予測が可能になりうる新たな解析手法を考案しました.この研究成果は,Pain Practice誌(Development of more precise measurement to predict pain 1 month postoperatively based on use of acute postoperative pain score in patients with distal radial fracture)に掲載されています.

研究概要

術後痛の管理不足は,痛みを遷延化,慢性化させます.術後痛の評価は,一般的に,Visual Analogue Scale(VAS)やNumeral Rating Scale(NRS)が使用されています.しかしながら,これらの代表的な評価データは患者間のばらつきが非常に大きいため,特定の1時点(術後1日目や術後7日目など)の痛み強度から症例の予後予測を行うことは非常に難しい現状にあります.
そこで,大阪河﨑リハビリテーション大学 今井亮太 助教と畿央大学 森岡 周 教授らは,術後1週間の疼痛強度の経過からPain trajectory(傾き・切片=痛みの改善程度・術直後の痛み強度)を算出し,術後1ヵ月の痛み強度の予後予測が可能かどうか,構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling:SEM)を用いてモデルの検討を行いました.さらに,Pain trajectory(傾きと切片)から類型化を行い,それぞれのグループの特徴を調査しました.その結果,特定の1時点(術後1日目や術後7日目など)やPain trajectoryの傾きのみ,切片のみでは,予後予測の精度が低かったが.“傾き”と”切片”の両方を使用することで,優れた予後予測の精度を示すことができました.また,サブグループ化を行った結果,4つのグループに分けられました.なかでも,正の傾きを示すグループと,負の傾きが小さいかつ切片が高いグループは,術後1ヶ月後の痛み予後が悪いことが明らかになりました.

本研究のポイント

■ 術後痛は,Pain trajectoryの”傾き”と”切片”の両方を使用することでを使用することで,予後予測が可能になった.
■ なかでも,正の傾きになっている患者,あるいは負の傾きが小さく切片が大きい患者は,1ヶ月後の痛み予後が悪いことが明らかになった.

研究内容

術後痛患者の痛みの程度を,術後1日,3日,5日,7日に評価し,それらの値を一次関数に近似させ(X:日数,Y:疼痛強度VAS),得られた近似式の傾き(=疼痛強度の改善程度)と切片(=術直後の疼痛強度)を算出しました.これがPain trajectoryです(図1).

図1

 

術後1ヶ月後の痛み強度を使用して,どういったモデルが最も優れた精度で予後を予測できるかSEMを使用して検討しました.そして,Pain trajectoryで算出される”傾き”と”切片”の両方を使用すると,痛みの予後を予測できることが明らかになりました.

このPain trajectoryの傾きと切片をつかってサブグループ化しました.その結果,安静時痛,運動時痛ともにグループが4つに分けられました(図2).

図2

 

これらのクラスターの特徴として,正の傾きをもつグループと,負の傾きが小さく切片が高いグループは,術後1ヶ月後の痛みがつよいことが示されました.

本研究の意義および今後の展開

近年,術後患者の入院日数は減少しているため,疼痛管理が非常に難しくなっています.そのため,早期に患者の予後予測が示すことができれば,それに応じたリハビリテーションを提供できます.本研究は,術後1週間のデータで予後を予測することが可能であることを明らかにしました.今後は,様々な疾患で特徴を明らかにすることと,術後慢性疼痛と言われる術後6ヵ月や術後1年の評価を実施し,検討を行います.さらには,痛みに関連する心理面との関連性も検討していきます.より多くの術後患者が遷延化せず,日常生活に戻れるように貢献できればと考えています.

無料公開:Pain Trajectoryの解析シート

下記URLより無料でダウンロードが可能です.

https://t.co/Crl5QYDNO0?amp=1

論文情報

Imai R, Osumi M, Ishigaki T, Nishigami T, Yonemoto Y, Morioka S.

Development of more precise measurement to predict pain 1 month postoperatively based on use of acute postoperative pain score in patients with distal radial fracture.

Pain Pract. 2020.

問い合わせ先

大阪河﨑リハビリテーション大学 

助教 今井亮太 (イマイ リョウタ)

ryo7891@gmail.com

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)

Tel: 0745-54-1601
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E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

脳卒中後に自他帰属のエラーが生じることを上肢運動タスクで解明

PRESS RELEASE 2020.3.19

私たちが動作の中で得ている感覚は,自分自身の運動により生じた「自己由来感覚」と,他者や外界から生じた「外界由来感覚」に大別できることが知られています.そして,これらの感覚を適切に区別する自他帰属のプロセスは,正確な運動を達成するために不可欠であることが明らかにされています.畿央大学大学院博士後期課程宮脇裕氏森岡周教授は,仁寿会石川病院リハビリテーション部大谷武史室長と共同し,感覚運動障害を有する脳卒中患者が,運動に対する感覚フィードバックを適切に自他帰属できているのかを検証しました.この研究成果は,PLOS ONE誌(Agency judgments in post-stroke patients with sensorimotor deficits)に掲載されています.

研究概要

私たちは,日常生活において常に何らかの感覚刺激を得ながら動作を遂行しています.得られた感覚は,自分自身の運動によって生み出された感覚なのか,または自分が関与していない他者や外界から生じた感覚なのか,脳内で区別されると言われています.この区別は「自他帰属」と呼ばれており,これが上手くいかなくなると,「自分が運動を制御している感じ」である運動主体感が損なわれたり,不必要な感覚に基づいて運動を遂行してしまったりすることが明らかにされています.自他帰属の障害を招く疾患の一つとして脳卒中が疑われていますが,運動麻痺などの感覚運動障害が自他帰属に及ぼす影響は十分に明らかになっていません
宮脇裕氏(畿央大学大学院博士後期課程,慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)と森岡周教授は,大谷武史室長(仁寿会石川病院リハビリテーション部)と共同し,上肢運動課題を用いて,感覚運動障害を有する脳卒中患者の自他帰属について検証しました.その結果,健常高齢者に比べ脳卒中患者では,他者運動を自分の運動と判断してしまう誤った自他帰属をすることが示されました.また,興味深いことに,この誤帰属は非麻痺肢における運動でも同様に観察されました

本研究のポイント

■ 脳卒中患者は,たとえ高次脳機能障害を有していなくとも,感覚フィードバックの誤帰属を起こしうる
■ この誤帰属は非麻痺肢の運動でも起こりうる

研究内容

参加者は,モニタ上に水平に表示されたターゲットラインをなぞるように,ペンタブレット上で水平運動を遂行しました(図1).この際,視覚フィードバックとしてカーソルが表示されました.カーソルの動きに,自分のリアルタイムの運動が反映されている場合(自己運動条件)と,事前に記録した他者運動が反映されている場合(他者運動条件)がありました.参加者は,自分の実際のペン運動とカーソル運動の時空間的な一致性に基づいて,カーソルが自己運動と他者運動のどちらを反映しているか判断することを求められました.

fig.1

図1:実験装置

結果として,健常高齢者に比べ脳卒中患者では,他者運動条件において有意に誤帰属(他者運動のカーソルを自分の運動と判断)したことが示されました(図2).また,この誤帰属は非麻痺肢で運動を遂行したときでさえ観察されました(図3)

fig.2

図2:脳卒中患者と健常高齢者間の比較

fig.3

図3:麻痺肢と非麻痺肢間の比較

本研究の意義および今後の展開

正確な運動制御を達成するためには,適切な感覚の自他帰属が不可欠です.脳卒中患者の誤帰属がなぜ起こっているのか,またその影響はどのようなものなのかさらに精査することで,脳卒中リハビリテーションの新たな可能性を今後も探求していく必要があります.

論文情報

Yu Miyawaki, Takeshi Otani, Shu Morioka: Agency judgments in post-stroke patients with sensorimotor deficits. PLoS One, 2020.

問い合わせ先

博士後期課程 宮脇裕(ミヤワキ ユウ)
E-mail: yu.miyawaki.reha1@gmail.com

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)

Tel: 0745-54-1601
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E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

 

 

子どものメディア視聴は知覚バイアスと微細運動機能に悪影響を与えるわけではない

PRESS RELEASE 2020.2.26

TV,DVD,インターネット,ゲームなどのメディア視聴は,子どもたちの認知発達(注意,言語,記憶,学習,実行機能)や運動発達に良い影響と悪い影響を与えることが知られています.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らは,中井昭夫 教授(武庫川女子大学),前田貴記 講師(慶應義塾大学)らと共同で,メディア視聴が子どもにおける知覚バイアスと微細運動機能に与える影響を調査しました.この研究成果は,Brain Sciences誌(Manual dexterity is not related to media viewing but is related to perceptual bias in school-age children)に掲載されています.

研究概要

メディア視聴は,子どもにおいて,肥満や睡眠障害など健康状態の悪化を引き起こすだけでなく,注意力の低下,言語発達の遅れなど認知機能にも悪影響があることが知られています.一方で,メディア視聴であっても,子供の年齢,親の養育態度,メディア・デバイス/コンテンツの種類,親との共同視聴などの要因によっては,認知機能や運動機能に良い影響をもたらすことも明らかになっています.しかしながら,メディア視聴が子どもの知覚バイアスや微細運動機能に与える影響は不明でした.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らの研究チームは,学童期の子どもにおけるメディア視聴時間,メディア嗜好度,知覚バイアス,微細運動機能との関係を調査しました.その結果,年齢の増加に伴いメディア視聴時間が増加し,メディア視聴時間が増加するほどメディア嗜好度が増加することが確認されましたが,メディア視聴時間/メディア嗜好度は知覚バイアスや微細運動機能とは関連していないことが明らかにされました.一方で,知覚バイアスと微細運動機能との間には重要な関係性があることが示されました.※ ちなみに,ここでいう“知覚バイアス”とは,「身体からの情報(体性感覚)と目からの情報(視覚)のどちらを偏って知覚しやすいか?」についての実験的指標です.

本研究のポイント

■ 学童期の子どもにおいて,メディア視聴は知覚バイアスや微細運動機能とは関連していない.
■ 学童期の子どもにおいて,触覚情報と視覚情報がほぼ同時に提示されるときに,視覚情報を優先してしまう特性(視覚バイアス)は,微細運動機能の低下と関連しているが,それとメディア視聴時間などは関係なかった.

研究内容

6~12歳の学童期の定型発達児100名を対象に,メディア視聴時間,メディア嗜好度,知覚バイアス,微細運動機能を測定しました.メディア視聴時間は,1日あたりの平均視聴時間を抽出し,メディア嗜好度は“とても好き”から“とても嫌い”までの7件法で抽出されました.知覚バイアスは「視覚-触覚時間順序判断課題*(下図左)」用いて測定されました.この課題では,様々な時間間隔で視覚刺激(緑色LEDの点滅)と触覚刺激(振動)が呈示され,子どもたちは視覚と触覚のどちらの刺激が早く(先に)呈示されたのかを回答します.例えば,実際には触覚刺激が先に呈示されたのに,「視覚刺激の方が早かった」と回答すれば,それは視覚バイアスが強いというように,視覚と触覚のどちらに偏り(バイアス)があるかを定量的に表す課題です.微細運動機能は,国際標準評価バッテリー(M-ABC-2)の手先の器用さテストが使用されました.
*Keio Method: Maeda T. Method and device for diagnosing schizophrenia. International Application No.PCT/JP2016/087182. Japanese Patent No.6560765, 2019.

fig.1

左図:視覚-触覚時間順序判断課題,
右図:知覚バイアスと微細運動機能との相関関係

 

結果として,年齢の増加とメディア視聴時間の増加,メディア視聴時間の増加とメディア嗜好度の増加には,相関関係がありました.しかしながら,メディア視聴時間/メディア嗜好度と知覚バイアス/微細運動機能との間には相関関係は認められませんでした.一方で,相関分析と階層的重回帰分析の結果,視覚への偏り(視覚バイアス)が強くなるほど,微細運動機能が低下するという関係性が認められ,微細運動機能が比較的低い子どもでは,視覚バイアスが強いことが示されました図右).

本研究の意義および今後の展開

一般的にも,メディア視聴は,子どもの発達に悪影響を与えると考えられており,実際に肥満,睡眠障害,摂食障害などの健康への影響をはじめ,様々な認知機能・運動機能への負の影響が示されています.しかしながら,本研究では,メディア視聴が子どもの知覚バイアスや微細運動機能に与える悪影響は認められませんでした.興味深いことに,本研究では,メディア嗜好度の7件法において,メディアについて少しでも嫌いと答えた児は皆無であり,子どもにおけるメディア嗜好の高さが窺えました.近年では,アクティブビデオゲームを用いた介入が,脳性麻痺や発達性協調運動障害といった運動障害に効果的であることも報告されています.これらのことは,メディア自体ではなく,メディアの使い方が重要であることを示唆しており,どのような要因が交絡因子となるのかについての更なる研究が求められます.
本研究では,視覚バイアスの増加が微細運動機能の低下と関連していることが示されました.しかしながら,図右の散布図を見ても分かるように,決して触覚バイアスの増加が微細運動機能の向上につながるわけではなく,知覚バイアスがどちらにも偏っていないことが,微細運動機能の向上につながる可能性が示唆されました.

論文情報

Nobusako S, Tsujimoto T, Sakai A, Shuto T, Furukawa E, Osumi M, Nakai A, Maeda T, Morioka S. Manual Dexterity is not Related to Media Viewing but is Related to Perceptual Bias in School-Age Children. Brain Sci. 2020, 10(2), 100.

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
准教授 信迫悟志
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

 

 

畿央大学ニューロリハビリテーションセミナー開催の感染症対策について

2月22日(日)開催ニューロリハビリテーションセミナー
「人間理解からリハビリテーションへ」にご参加の皆様へ

この度は、2019年度ニューロリハビリテーションセミナーにお申込みいただき誠にありがとうございます。

日本で新型コロナウイルス感染症が拡散しつつありますが、ニューロリハビリテーションセミナーは、皆様に下記感染症対策のご協力をお願いした上で開催することとしております。

なお、今後の感染症拡大状況によっては、急遽中止とする場合もあります。その際は、改めてご案内いたします。

感染症対策について

• 咳や発熱症状、倦怠感がある場合には、ご参加をお控えください。
• 手洗い等の防護策をしっかり行ない、適切な感染症対策にご協力をお願いします。
• 会場入り口に手指消毒剤を準備します。手指消毒にご協力をお願いします。
• 直接、新型コロナウイルス感染者の検査や診療、ケアに携わった医療従事者の皆様におかれましては、所属施設の指針、ご指示(例:自宅待機、等)などに準じて行動をお願いします。
• 所属施設(医療機関、大学等)より新型コロナウイルス感染対策として、何らかのご指示、ご通達がある場合には(例:不要不急な集まりは控える等)、そちらに準じて行動をお願いします。
• スタッフがマスクを着用したままご対応させていただくことがございますのでご了承ください。

令和元年度 神経リハビリテーション研究大会が開催されました!

令和2年1月13-14日に信貴山観光ホテルにて,神経リハビリテーション研究大会が開催されました.この研究大会は,毎年恒例の合宿形式となっており,今年で14年目を迎えました.
本年度は,ニューロリハビリテーション研究センターの教員と大学院博士課程・修士課程メンバー総勢25名が参加しました.また,大学院修了生の佐藤剛介さん(3期生)と脇田正徳さん(3期生)をお招きし,それぞれ現在進めている研究について紹介して頂きました.

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森岡教授の開会の挨拶から始まり,修士課程2年の最終審査に向けた予演会と博士課程3年の研究進捗状況の報告,および上記修了生の研究紹介が行われ,様々な視点から質疑応答や意見交換が繰り広げられました.

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修士課程2年の発表では,内容に関する質問はもちろん,スライド構成やプレゼンテーション時の目線の使い方といった自分の考えを伝えやすくするためのアドバイスが活発にされていました.博士課程3年の発表では,細かな研究手続きを行いながら,大量のデータを丁寧に解析されていて,研究の質や精度を上げるための相当な努力を感じました.また,修了生の方は,大学院で学んだことを臨床現場で活かしながら継続して研究に取り組まれていて,自分の今後目指していくべき姿を見させていただき,身が引き締まる思いでした.

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夕方には,3グループに分かれて,修士課程1年の研究計画に対するディスカッションが行われました.各グループのメンバーが,朝からの発表・聴講での疲労感を見せることなく,研究計画に対して時間が超過するのを忘れて議論している光景が印象的でした.

1日目終了後の夕食時,入浴時,懇親会においても,それぞれが白熱した議論を継続し,2日目の帰りのバスや畿央大学に戻り解散してからも,研究室で議論が続いている状態でした.

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森岡教授からは,修了生の方の研究に取り組む態度に習い,継続的な取り組みを行っていくことの重要性が説明されました.
現状では,博士課程・修了生の方々の研究を深く理解し,意見を述べることは困難でしたが,大学院在学中に知識を深めながら,教えてもらう一方ではなく,共にディスカッションできるように成長していきたいと思いました.
最後になりましたが,このような機会を与えてくださった森岡教授をはじめとする研究センターの皆様,神経リハビリテーション研究大会の開催にご尽力頂きました関係者の方々に深く感謝を申し上げます.

畿央大学大学院 健康科学研究科 修士課程 乾 康浩

[Journal Club]腰痛有訴者は実生活において腰部運動の自由度が減少する

People with low back pain show reduced movement complexity during their most active daily tasks

Gizzi L, Röhrle O, Petzke F, Falla D

Eur J Pain. 2019 Feb;23(2):410-418. Doi: 10. 1002/ejp. 1318. Epub 2018 Oct 11.

 

腰痛が運動の自由度や適度な変動性を減少させることが明らかにされています.しかしながら,腰痛有訴者の身体運動を分析した先行研究の多くは実験室内での計測であるため,実生活における運動学的異常はこれまで分析されていません.近年,長時間にわたって脊椎の運動学的データを記録できる加速度計が開発されました.この研究では,その機器を用いて日常生活活動中の胸椎と腰椎の運動を24時間記録し,運動の自由度を分析しました.

対象は,慢性の非特異的腰痛を有する17名と18名の腰痛のない健常者とし,脊椎運動の評価にはEpionics SPINEというデバイスが用いられました.Epionics SPINEは,2本の細長いテープに12個の加速度計が連なるような形状をなしています.対象者の胸椎〜腰椎の棘突起を挟むように貼付されました.実験室にてEpionics SPINEをセッティングした後,対象者はそれぞれ通常の日常生活を過ごすことを求められました.その際の24時間のデータを記録し,運動学的に分析しました.また,対象者は,計測中の24時間をどのように過ごしたかを日記で記すことを求められました.

分析の結果,腰痛有訴者と健常者で1日の過ごし方に違いはないことが明らかとなりました(活動内容の内訳:座位,立位,歩行,サイクリングなど).運動学的分析について,24時間の平均的な腰部運動の自由度に違いはありませんでした.しかし,活動度の違いに着目して分析した結果,腰痛有訴者は,健常者と比較してより活動性の高い時間で腰部運動の自由度が減少していることが明らかとなりました.

今回の結果に対し,筆者らは腰部運動がより要求される日常生活動作において,痛みを緩和させるための代償動作として,このような腰を固めて動く戦略を選択しているのではないかと述べています.

第12回日本運動器疼痛学会(@六本木ヒルズ)で発表してきました!

2019年12月7日~8日に開催されました第12回日本運動器疼痛学会(@六本木ヒルズ)で,大住倫弘准教授,重藤隼人(博士後期課程)が発表して参りました.本学会は,整形外科の医師を中心に,看護師,臨床心理士,理学療法士,作業療法士など,多職種が一同に会して演題発表およびディスカッションができる学会です.今回の学会のテーマは「ロコモと痛み」であり,高齢者の人口が増加傾向にある日本において,「ロコモディブシンドローム」に該当する方は年々増加傾向にあり,さらに「サルコペニア」,「フレイル」といったキーワードの講演や発表も多くあり,「ロコモディブシンドローム」,「サルコペニア」,「フレイル」は様々な分野にも共通する病態ですが,運動器疾患および痛みに関わる医療従事者に必要な共通言語として,定義や病態の整理が行われた学会プログラムであるように感じました.また,近年の本学会では「ペインリハビリテーション」というタイトルのセッションが設けられるようになり,ペインリハビリテーションの重要性が様々な職種に認知されるとともに,理学療法士,作業療法士が多職種の関連する学会で発表することが多くなってきたことを反映しているように思いました.他の施設・研究室の方との横のつながりも年々増えてきており,演題発表時以外にも様々な意見交換が行われるようになっており,共同して「痛み」という病態と向き合い,社会に貢献できる臨床・研究活動を行っていきたいと強く感じた学会でした.

今回の発表演題名は以下であり,様々な意見をいただき多くの議論ができたと感じております.

最後になりましたが,このような貴重な機会をいただき,いつもご指導をいただいています森岡先生,畿央大学に感謝申し上げます.

博士後期課程 重藤隼人

<口述発表>
大住倫弘 ほか「地域住民における慢性腰痛患者の運動恐怖が腰椎運動に及ぼす影響」
<ポスター発表>
重藤隼人 ほか「疼痛緩和過程時に中枢性感作症候群が影響する痛みの性質特性」
重藤隼人 ほか「慢性腰痛患者の特徴的な運動制御と疼痛関連因子との関連」

写真1

学会会場(六本木ヒルズ)からの写真
向かって右に東京タワー
向かって左から,今井亮太さん(博士修了生),平川善之さん(博士修了生),森岡周 教授,田中創さん(修士修了生),重藤隼人さん(博士後期課程)

 

【第2回 リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会が開催されました】

令和1年11月2日(土),畿央大学にて「第2回 リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会」が開催され,総勢92名の参加者による活発なディスカッションが行われました.

集合写真

本研究会は,畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター公募研究会制度の承認と支援を受けて開催されたものであり,今回で2回目の開催となります(前回の様子).前回に引き続き,今回の目的は「リハビリテーションにおける姿勢運動制御分野の若手研究者と療法士を対象としたオープンな研究会を開催し,臨床で示される現象に対する解釈や検証を,科学的態度をもって議論できるプラットフォーム構築,および今後の研究コミュニティの構築を目指す」こととしています.そのため,研究会の運営は若手研究者かつ理学療法士ら(代表:植田 耕造・畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員)で高い自由度をもって行っております.

今回はスタッフを合わせ総勢92名の参加,25のポスター演題(若手講演演題のポスター発表含む)と,昨年に引き続き多くの方に参加して頂けた盛会となりました.

特別講演では 阿部 浩明 先生(一般財団法人広南会 広南病院)に「Pusher現象の臨床」について,自身の研究成果も含めたPusher現象に関する包括的レビューと臨床知見までも統合した内容を講演頂きました.科学的態度を持ちつつも現象に対峙する,療法士として真摯な姿勢が強く印象的なものでした.また,若手講演では 冨田 洋介 先生(高崎健康福祉大学 保健医療学部 理学療法学科)より,「脳卒中患者の上肢運動と姿勢制御」というタイトルで,運動の自由度問題や冗長性・協調性について,複雑な内容の話であるにも関わらず理路整然と自身の研究成果を交えつつ,分かりやすくお話し頂きました.さらに,同じく若手講演をお願いしました 安田 和弘 先生(早稲田大学 理工学術院総合研究所)からは,「工学的手段による感覚代行・補完技術とリハビリテーション」について,工学とリハとの接点に関する講演を自身の研究成果を基に行って頂きました.「モノづくり」がゴールではなく,その先の対象者(患者)への適応やユーザー(療法士)の臨床使用可能性についてまで視野に入れて研究を行っておられ,将来的なリハの姿を垣間見るものでした.さらに,いずれの講演においてもフロアからの活発な質疑がみられ,会全体で問題意識を共有する雰囲気がありました.

講義写真

そして,ポスターセッションでは昨年の経験を生かし,午後から2時間30分にも及ぶ長時間のディスカッションの時間を設けました.これだけ長いディスカッションタイムを設けるのはどうか?とも考えましたが,結果的には規定時間後も積極的にディスカッションを続けている光景があり,発表者や参加者同士の繋がりを深める場として効果的に機能していました.

ポスター写真

本公募研究会は「3年で見直し」と規定で決まっております.来年がその3年目です.その後の展開や研究会の在り方についても大きな節目となる会になるかと思います.また来年もどうぞ宜しくお願い致します.

最後になりましたが,ご講演を賜りました阿部先生,冨田先生,安田先生,そして,参加者,演者の皆様,畿央大学および畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターのご支援に深く感謝申し上げます.

 

リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会
石垣 智也(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員)

[JournalClub]慢性腰痛患者における座位保持中の腰部伸筋群の筋活動変動性

Reduced muscle activity variability in lumbar extensor muscles during sustained sitting in individuals with chronic low back pain

Inge Ringheim, Aage Indahl, Karin Roeleveld
PLOS ONE | https://doi.org/10.1371/journal.pone.0213778 March 14, 2019

慢性腰痛患者において,運動変動性(筋活動変動性)の減少は,筋疲労の増加や持久力の低下,疼痛強度の増加と関連が報告されており,慢性腰痛の原因の一つとして考えられています.しかし,筋活動変動性の減少が必ずしも慢性腰痛の重症度と一致しないことも報告されており,この理由として過去の研究報告では古典的な双極表面筋電図が使用されており,腰部には数多くの筋が存在することから,筋活動の変動性を十分に抽出できていない可能性が指摘されています.高密度表面筋電図を使用した先行研究において,動的課題時に慢性腰痛患者では,筋活動の時間的・空間的変動性が減少していることが報告されています.著者らの研究では,健常者で座位保持時の筋活動変動性が筋疲労と関連することを報告していましたが,慢性腰痛患者が座位保持中に時間的および空間的変化を変化させたかどうかは不明でした.

今回紹介する論文では,健常者と比較した慢性腰痛患者の時間的および空間的筋活動の変動性を調査することを目的にしています.対象は健常者32名と慢性腰痛患者18名であり,9×14チャネルの高密度表面筋電図を左右の傍脊柱筋に貼付し,第12胸椎・第1仙椎に傾斜計を取り付け,30分間の座位保持時の脊柱角度と傍脊柱筋の筋活動を測定しました.測定結果から,脊柱角度の変動性,経時的な筋活動変動性,空間的な筋活動変動性を算出しました.また,座位保持時の疼痛強度および自覚的な運動強度の聴取も行いました.統計解析では,各評価指標について健常者と慢性腰痛患者で比較を行いました.

その結果,健常者と比較して慢性腰痛患者は座位姿勢の角度の変動性は増加しているにも関わらず,時間的および空間的な筋活動変動性は小さいことが明らかになりました.筋疲労については周波数解析の結果には現れませんでしたが,自覚的な疲労度と疼痛強度は座位保持中に増加がみられました.また,慢性腰痛患者では30分間の座位保持が困難な症例もみられた.

今回の結果より,慢性腰痛患者では座位保持中の時間的・空間的な筋活動変動性が減少していることが明らかになりました.慢性腰痛患者では腰部の筋活動を抑制して他部位の筋活動を高めるといった代償的な戦略をとっている可能性もあり,また心理的因子などが筋活動変動性の減少に関連している可能性があると著者らは述べています.