大学院生が国際学会ISPGR2019でポスター発表をしてきました!
令和1年6月30日から7月4日にかけてスコットランドのエジンバラで開催されたInternational Society of Posture and Gait Research World Congress 2019に私(水田直道 博士後期課程)と蓮井(岡田ゼミ修士課程修了生)が参加・発表してきましたので報告させていただきます.
本学会は姿勢や歩行に関連する非常に多くの一般演題ならびにシンポジウムがあり,どの演題・講演も議論が非常に活発でした.
シンポジウムでは「ウェアラブルセンサーの活用方法や現実世界での計測方法」や「歩行に関連する転倒のメカニズム」などが取り上げられており,多施設共同研究の成果や臨床現場での現象が多く示されておりました.また,小型で簡便かつ多機能な評価機器ならびにそれらを応用したアルゴリズムなどが多く発表されており,私も初めて目にするものもあったため,ついつい聞き入ってしまっておりました.ロボットによるリハビリテーション研究も散見されており,興味深い研究もありましたが,同時にこれから適応症例を抽出できるような仕組みの必要性も感じました.
本研究室からは,2日目に私が脳卒中後症例の歩行障害の特徴分類について,3日目に蓮井が脳卒中後症例に対する多種類の短下肢装具による歩行への影響についてポスター発表を行いました.私にとって2度目の国際学会でしたが,多くの方から質問に来ていただき,2時間以上の発表時間があっという間に感じました.頂戴した質問やアドバイスは非常に有益となる情報が多くあり,今後の進展へ向けモチベートされました.
シンポジウムや一般演題は,非常に穏やかな雰囲気でありながら議論は活発に行われ,否定的な質疑は非常に少なく,建設的で前向きな議論が多いように感じ,相互向上を目的とした姿勢には襟が正されました.また自身の研究領域とは異なる発表に対しても興味を持っている印象を受けました.
このような貴重な経験ができたのは森岡教授をはじめとする研究室の仲間の日頃のご指導と,畿央大学の手厚いバックアップがあったからであり,ここに深く感謝致します.
【発表演題】
水田 直道(博士後期課程)
Post-stroke walking characteristics on association between motor paralysis and walking speed by cluster analysis
蓮井 成仁(岡田ゼミ修士課程修了生)
Influence of ankle-foot orthosis with different type of joint on walking parameters in stroke patients
水田 直道(博士後期課程)
脳卒中患者における自己と他者の運動観察による影響の違い
PRESS RELEASE 2019.7.4
脳卒中後のリハビリテーションとして,他者の運動を観察する「運動観察療法」があります.近年では,他者の運動を観察するだけではなく,自分の運動を観察する効果が報告されています.自己の身体表象に関わるのは右前頭・頭頂ネットワークであり,自己の運動観察では右前頭・頭頂領域が活動することが報告されています(Fuchigami and Morioka 2015).このように,自己観察と他者観察で活動する脳領域が異なるため,大脳皮質の左右どちらが損傷したのかによって,運動観察の効果に違いが生じる可能性が考えられますが,それは明らかになっていませんでした.畿央大学大学院 渕上健氏(博士後期課程)と森岡周教授は,右半球損傷者では自己の運動観察に比べ,他者の運動観察の方が鮮明なイメージを惹起させ,パフォーマンスが改善しやすいことを明らかにしました.この知見は,脳卒中者に運動観察療法を実施する場合,損傷側によって自己を観察させるのか,他者を観察させるのかを検討する重要性を示唆しています.この研究成果は,Stroke Research and Treatment誌(Differences between the influence of observing one’s own movements and those of others in patients with stroke)に掲載されています.
本研究のポイント
■ 脳卒中者を右半球損傷者と左半球損傷者に分け,自己の運動観察と他者の運動観察のどちらがパフォーマンスに影響するのかを検証した.
■ 右半球損傷者では,自己に比べ他者の運動観察の方が鮮明なイメージを惹起させ,パフォーマンスへの影響が強かった.
研究内容
34人の脳卒中片麻痺者が実験に参加しました.課題は脳卒中者でも安全かつ容易に実施することができるという理由で,座ったままでの非麻痺側下肢によるステップ運動としました.運動観察は運動イメージや運動実行に影響することからパフォーマンステストにはステップ運動のイメージ時間と実行時間を用いました.実験は,運動観察の前にステップのイメージ時間と実行時間を計測し,運動観察を行い,再びステップのイメージ時間と実行時間を計測するという手順で行いました(図1).
図1:実験の流れ
自己の運動観察では,実行時間を計測中に撮影した自分の映像を0.5倍速で再生して観察し,他者の運動観察では,自分と同じ運動実行時間の他者の映像を0.5倍速で再生して観察しました.運動観察中は,身体は動かさずに映像と同じようにステップすることをイメージするよう指示し,その時のイメージの鮮明度をthe Kinesthetic and Visual Imagery Questionnaire (KVIQ)の段階付で評価しました.データの解析について,イメージ時間と運動実行時間は観察後の時間から観察前の時間の差分を算出しました.差分が大きい方が観察の影響を強く受けたということになります.KVIQは 視覚イメージ項目と筋感覚イメージ項目に分けました.各評価項目について,損傷半球(右半球損傷vs左半球損傷)と観察条件(自己vs他者)について比較しました.
図2:結果
その結果,右半球損傷者において,他者の運動観察は自己に比べKVIQの筋感覚イメージ得点が高く(図2d),イメージ時間と実行時間の差分が大きいことが明らかになりました(図2a, b).左半球損傷者において,自己の運動観察は他者に比べイメージ時間の差分が大きいことがわかりました(図2a).損傷半球間での比較では,他者の運動観察において右半球損傷者が左半球損傷者に比べイメージ時間の差分が大きいことを認めました(図2a).このように損傷半球によって自己と他者の運動観察による影響に違いがあることが示されました.
本研究の臨床的意義および今後の展開
本研究成果は,脳卒中者に対して運動観察療法を実施する場合,脳の損傷側によって自己の運動観察と他者の運動観察のどちらを用いるべきか検討する必要性と,右半球損傷者では他者の運動観察の方が効果的である可能性を示唆しています.しかし,本研究は非麻痺側下肢のパフォーマンスを用いて即時効果のみを調査しているため,麻痺側下肢のパフォーマンスで検証する必要があります.また,運動観察療法の効果的な方法を見つけるためにも,この結果のメカニズムについて検討していくことが必要で,今後検証していく予定です.
論文情報
Fuchigami T, Morioka S.
Stroke Res Treat 2019
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 渕上 健(フチガミ タケシ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: fuchigaminet@yahoo.co.jp
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
教授/センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
第14回日本訪問リハビリテーション協会学術大会で大学院生が発表しました.
6月29日から30日にかけて,新潟で開催された第14回日本訪問リハビリテーション協会学術大会に石垣智也(客員研究員)と私(尾川達也 博士後期課程)で演題発表をしてきましたので報告させていただきます.
本学会はPT・OT・STだけでなく,訪問リハビリテーションに関わる様々な職種が参加されており,演題の内容も社会参加や介護負担感,終末期医療,チーム連携,社会資源の活用,人材育成など多岐に渡っていました.また,教育講演やシンポジウムも数多く企画され,その中で立命館大学総合心理学部の齋藤清二先生からは「臨床におけるナラティブとエビデンス」というテーマでご講演がありました.お話しの中ではエビデンスやEBMの正しい理解,ナラティブとエビデンスをどのように統合していくかなどについて,現場の先生に分かりやすく伝えていただきました.
当研究室から発表した演題は,どちらも「訪問リハビリテーションにおける意思決定」をテーマとしており,私の方は現場の実態調査から多くの利用者が受動的な役割となっていること,石垣からは利用者と共に意思決定を行うShared Decision Makingの実践程度と患者満足度が関係するという内容でした.どちらの演題も質疑の時間だけでなく,終了後にも興味を持って頂いた先生方から声をかけて頂き,訪問リハビリテーションの分野で課題となっていること,そして,その解決に向けて今後も進めていかなくてはいけないと強く思った学会でした.また,私自身が学会参加で最も重要だと思っていることは,現場の課題解決に向けて取組んでいる他府県の先生方と出会い,その先生方と協力していける関係を築くことだと考えています.そして,本学会ではそのような先生とも出会うことができ,今後一緒に仕事ができる喜びも感じることができました.
最後になりましたが,私が昨年度に本学会で発表した「訪問リハビリテーション利用者における社会参加の実態-屋外歩行の自立可否による特徴の比較-」という演題が最優秀賞に選出して頂きました.これは非常に光栄なことであり,早急に原著論文として公に出せるよう進めていきたいと思います.
今後も自身の研究活動とともに,本邦の訪問リハビリテーションにおけるエビデンス構築に向けて,覚悟をもって取り組んでいきたいと思います.
<発表演題:口述発表>
尾川達也:「訪問リハビリテーション利用者と理学療法士における意思決定の実態,および参加促進に向けた課題の抽出」
石垣智也:「訪問リハビリテーションにおける患者満足度と共有意思決定の実践程度との関係-疾患特性による予備的検討-」
博士後期課程 尾川達也
第2回 リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会のご案内(公募研究会)
▶第1回研究会の様子をみる
今年は研究会の内容を一部変更し,①特別講演,②若手講演,③ポスターセッションの3部構成を予定しています.特別講演は広南病院の 阿部浩明 先生を招聘し特別講演「Pusher現象の臨床」を予定しています.また,若手講演として,高崎健康福祉大学の冨田洋介 先生より「脳卒中患者の上肢運動と姿勢制御」,早稲田大学の安田和弘 先生より「工学的手段による感覚代行・補完技術とリハビリテーション」を予定しています.最後のポスターセッションでは,若手講演の内容をポスターでも掲示し,参加者との討議を積極的に行えるように構成しています.さらに,一般演題(研究・症例報告)も広く募集することで参加者の能動的な参加を促すことも目的としています.また,昨年度の第1回研究会ではポスターセッションの時間が足りないという参加者からの声が多かったため,今年はポスターセッションの時間を大幅に増やし,十分なディスカッション・コミュニケーションが行えるように構成しております.そのため,参加のみでも可能ですが,是非ともポスター演題にも積極的にご応募いただき,活発なディスカッションの中から,これまでのセミナーとは違う学びの場,研究の場が創発されればと考えております.皆様のご参加を心よりお待ちしております.
リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会 代表
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員
星ヶ丘医療センター 理学療法士
植田 耕造
開催概要
日時:令和元年 11月2日(土)10時開会(受付9時半)~16時半閉会
場所:畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
定員:100名前後
プログラム
特別講演 10:05-11:05
■Pusher現象の臨床
一般財団法人広南会 広南病院 リハビリテーション科
阿部 浩明 先生
若手講演 11:15-12:50
■脳卒中患者の上肢運動と姿勢制御
高崎健康福祉大学 保健医療学部 理学療法学科
冨田洋介 先生
■工学的手段による感覚代行・補完技術とリハビリテーション
早稲田大学 理工学術院総合研究所
安田和弘 先生
ポスターセッション 13:50-16:30
■ポスターディスカッション
より深い意見交換を行えるように,若手講演で発表した内容をポスターで提示します
■一般演題(ポスター)形式:ポスター掲示によるフリーディスカッション
姿勢,歩行,その他の身体運動の制御,学習に関連した基礎研究から臨床研究,症例報告まで広く演題を募集します
(既に他で発表している内容であっても構いません)
※十分なディスカッションとコミュニケーションが行えるように発表時間を長く設け,発表演題も前半・後半の2部構成とします.
一般演題応募要領
抄録について
姿勢,歩行,その他の身体運動の制御,学習に関連した基礎研究から臨床研究,症例報告まで広く演題を募集します(既に他で発表している内容であっても構いません)
●下記フォーマットをダウンロードして抄録を作成し,メール添付にて送信してください
抄録フォーマット(Word) をダウンロードする
●抄録の提出をもってポスター演題発表の受付とします
●文字数の制限はありません(但しA4用紙1枚以内)
●Microsoft Word(MS明朝・12ポイント)で作成してください
●抄録の編集はこちらでは行いません.
お送り頂いた状態を完成版として抄録集にまとめますので,誤字・脱字等のご確認をお願いします
●文字化け対策の為,WordとPDFの両ファイルをお送りください
抄録締め切り:令和元年 10月19日(土)まで ※延長しました
提出先:rehashiseiundou@yahoo.co.jp (石垣智也)
※メールには「氏名,所属,演題タイトル,メールアドレス」の記載をお願いします
※演題申込を行われた場合でも,お手数ですが下記のフォームから参加申込をして頂くようお願いします
ポスター発表について
●ポスターの貼り付け面は縦175㎝・横85㎝の範囲内としてください
●タイトル(演題名,氏名,所属)は縦20㎝・横65㎝の範囲内で作成してください
●各ポスターパネルの演題番号・画鋲は研究会側で用意します
参加申込
事前参加申込:令和元年 10月23日 まで(水)まで ※延長しました
参加費:3,000円(一般)・1,500円(ポスター演者と大学院生を除く学生は1,500円へ減額対応を行います)
※参加費は当日支払いです
事前参加申込はこちらのフォームからお願いいたします
問い合わせ先
リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会
E-MAIL rehashiseiundou@yahoo.co.jp (石垣智也)
第1回 小脳リハビリテーション研究会のご案内(公募研究会)
本会は,小脳を様々な視点から扱っている臨床のセラピスト,研究者による①話題提供のためのショートトーク,②総合討論,および③ポスターセッションの3部構成を予定しております.ショートトークでは,学際的情報提供による研究シーズ発見のために,(1)計算論的・モデル解析の立場から小脳研究を行っている東京都医学総合研究所の本多武尊氏,(2)工学技術を用いて小脳の姿勢制御研究を行なっている電気通信大学の舩戸徹郎氏,(3)脊髄小脳変性症(SCD)・多系統萎縮症(MSA)へのリハビリテーション介入効果に関する研究を行なっている森之宮病院の平松佑一氏,その他運営幹事4名からの話題提供を予定しています.②総合討論では話題提供者とフロアーの参加者で現在の小脳リハビリテーションの課題と課題解決に向けた研究テーマについてディスカッションを行います.
また③ポスターセッションでは(研究・症例報告)では,既発表のものや着想段階のテーマなどの発表も受付け,一般参加者間のインタラクションによる新しいアイデアが生み出され,参加者相互のネットワークが構築されることを期待しています.
冒頭で述べましたように,本研究会は臨床で示される現象に対する解釈や検証を,科学的態度をもって議論できるプラットフォームの構築,そして今後の研究コミュニティの構築を目指しております.本研究会が皆様にとっての良い出会いの場となれば幸いです.皆様のご参加をお待ちしております.
小脳リハビリテーション研究会 代表
公益財団法人 脳血管研究所附属美原記念病院 理学療法士
菊地 豊
開催概要・プログラム
日時:令和元年9月21日(土) 10時開会(受付9時半)~17時閉会
場所:畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
<パネルディスカッション>臨床と基礎のクロストーク(10時00分~13時55分)
臨床
■ 小脳リハビリテーションに関する問題提起
菊地豊(脳血管研究所附属美原記念病院)
■ 脊髄小脳変性症における評価の現状と課題
近藤夕騎(国立精神・神経医療研究センター)
■ 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症に対する短期集中リハビリテーションと臨床研究についての紹介
平松佑一(森之宮病院)
基礎
■ 小脳の運動学習機能から考えるリハビリテーション
本多武尊(東京都医学総合研究所)
■ 小脳姿勢制御の力学と小脳傷害の影響評価
舩戸徹郎(電気通信大学大学院)
■ 小脳と電気生理
松木明好(四條畷学園大学)
■ MRI画像の臨床・研究応用と限界について
板東杏太(国立精神・神経医療研究センター)
<総合討論>(14時00分~15時00分)
<ポスターセッション>(15時00分~17時00分)
・ポスターディスカッション
より深い意見交換を行えるように,運営幹事が発表した内容をポスターで提示します
・一般演題(ポスター)形式:ポスター掲示によるフリーディスカッション
小脳に関連した基礎研究から臨床研究,症例報告まで広く演題を募集します(既に発表している内容であっても構いません)
演題応募要領
抄録について
小脳に関連した基礎研究から臨床研究,症例報告まで広く演題を募集します(既出発表内容,着想段階の内容であっても構いません)
● 下記フォーマットをダウンロードして抄録を作成し,メール添付にて送信してください
▶抄録フォーマット(Word)をダウンロードする
● 抄録の提出をもってポスター演題発表の受付とします
● 文字数の制限はありません(但しA4用紙1枚以内)
● Microsoft Word(MS明朝・12ポイント)で作成してください
● 抄録の編集はこちらでは行いません.お送り頂いた状態を完成版として抄録集にまと
めますので,誤字・脱字等のご確認をお願いします
● 文字化け対策の為,WordとPDFの両ファイルをお送りください
抄録締め切り:8月31(土)
提出先:cerebellum.rehabilitation@gmail.com(国立精神・神経医療研究センター 近藤)
※メールには「氏名,所属,演題タイトル,メールアドレス」の記載をお願いします
ポスター発表について
●ポスターの貼り付け面は縦175㎝・横85㎝の範囲内としてください
●タイトル(演題名,氏名,所属)は縦20㎝・横65㎝の範囲内で作成してください
●各ポスターパネルの演題番号・画鋲は研究会側で用意します
参加申し込み
事前参加申込:令和元年9月 14日(土)まで
参加費:3,000円(一般)・2,500円(ポスター発表を行う方は参加費の減額対応を行います)
事前参加申込はこちらのフォームからお願いいたします
問い合わせ先
小脳リハビリテーション研究会
E-MAIL:cerebellum.rehabilitation@gmail.com(国立精神・神経医療研究センター 近藤)
ニューロリハビリテーションセミナーが再開されました!
2019年6月8日に3年ぶりにニューロリハビリテーションセミナーが再開されました.全国各地から奈良までご足労頂き有難うございました(※参加人数:300名以上).
前回のまでの当セミナーでは,「〇〇の脳内機構」や「〇〇のニューロリハビリテーション」というタイトルでセミナーを開催していましたが,休止中の3年間に『そもそも,人間の行動あるいは認知・社会性の根本的理解が必要ではないか?』という考えに至り,今回のセミナーでは“リハビリテーションのための人間理解”ということを主眼に構成しました.そのため,今回のセミナーでは,認知・運動制御・学習・社会性・身体性・発達から人間を理解することを試みました.我々にとっても,非常に挑戦的な構成にしており,どこまで参加された皆さんと共有できるか心配しておりましたが,アンケートの回答をみていると,今回のようなセミナー形式にして正解であったと実感しております.また,個別対応での質疑応答では,非常にハイレベルな質問が飛び交い,こちらも更に研究をしていかなければならないと体感しつつ,皆さんの日々の努力に感激するところでありました.今後とも,皆さんとディスカッションできることを楽しみにしておりますので,次の機会(2020年 2月22日『人間理解からリハビリテーションへ』)でも,どうぞ宜しくお願い致します.
以下,講義内容と簡単な概略を記載しておきます.
「生活の基盤となる注意のメカニズム」(森岡 周)
“注意”の機能を細かく分類しながら,それぞれのメカニズムについて概説された.
「社会とつながる脳と心のメカニズム」(松尾 篤)
社会ネットワークのサイズ・共感・利己/利他的・感情などについて概説された.
「運動学習をもたらす身体メカニズム」(冷水 誠)
運動学習の種類とそれぞれの神経メカニズムについて概説された.
「自己および環境から影響される痛みのメカニズム」(前岡 浩)
痛みが心理社会的背景によって影響を受けること示したエビデンスが紹介された.
「しなやかな歩行を支えるメカニズム」(岡田洋平)
単なる平地歩行だけでなく,あらゆる環境で臨機応変に歩くことのできるメカニズムが概説された.
「身体性を形づくる感覚運動メカニズム」(大住倫弘)
身体性を形づくるのは,感覚運動の統合だけではなく,それより高次な認知的要素が必要であることが概説された.
「子どもの健やかな発達メカニズム」(信迫悟志)
自他区別・身体表象・共感・視点取得・利他性などの発達が幅広く概説された.
慢性腰痛者の運動恐怖は,腰の曲げ伸ばし動作を緩慢にさせる
PRESS RELEASE 2019.5.27
慢性腰痛者には“腰を曲げるのが怖い”と訴える方が多く,これは「運動恐怖(Kinesiophobia)」と呼ばれています.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授,森岡 周 教授および大学院生と研究員らは,東京大学医学部付属病院緩和ケア診療部 住谷昌彦 准教授,甲南女子大学理学療法学科 西上智彦 准教授,壬生 彰 助教らと共同で,地域在住の慢性腰痛者における運動恐怖が,運動にどのような影響を及ぼすのかを明らかにしました.この研究成果はEuropean Spine Journal誌(Kinesiophobia modulates lumbar movements in people with chronic low back pain: a kinematic analysis of lumbar bending and returning movement)に掲載されています.
研究概要
“運動恐怖”とは,「動かすと痛くなりそうで怖い」あるいは「(再)損傷をしそうで動かすのが怖い」という感情です.この運動恐怖は,慢性腰痛者の日常生活動作を悪くすることが明らかになっていましたが,具体的に,どのような運動異常をもたらすのかは分かっていませんでした.
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授,森岡 周 教授らは,地域在住の慢性腰痛者を対象に「腰の曲げ伸ばし」動作を計測しました(下図1).その結果,運動恐怖がある慢性腰痛者は「動き始めに時間がかかる」ことと,「腰の曲げ伸ばし方向を切りかえるのに時間がかかる」ことを明らかにしました.“運動恐怖”は目には見えないものではありますが,それが運動に表出されていることを明らかにしたとともに,運動恐怖をシンプルな運動計測で客観的に捉えらえたこととなります.
本研究のポイント
腰の曲げ伸ばし運動における「運動の開始」と「運動方向の切り返し」は,運動恐怖によって修飾されることを明らかにしました.
研究内容
無線タイプの電子ゴニオメーターを用いて,地域在住の慢性腰痛者を対象に「腰の曲げ伸ばし」動作を計測しました(下図1).計測に参加した慢性腰痛者は,「合図の音が鳴ったら,できるだけ大きく・速く腰を曲げて,スグにもとの姿勢に戻って下さい」と指示をされて運動タスクを実施しました.
図1:腰の曲げ伸ばし動作と解析区間
そして,本研究では,腰の曲げ伸ばし運動を,以下の4つの相に分けて分析をしました.
Phase 1: 合図音から腰曲げ動作が始まるまで
Phase 2: 腰曲げ動作開始から腰曲げの速度が最大になるまで
Phase 3: 腰曲げ動作最大速度の時点から腰伸ばし動作の速度が最大になった時点まで
Phase 4: 腰伸ばし動作最大速度の時点からもとの姿勢に戻るまで
図2:各動作相における時間を比較した結果
その結果,運動恐怖がある慢性腰痛者においてのみ,Phase 1とPhase 3に時間がかかることが明らかになりました.これは,運動への“躊躇(initial hesitation)”あるいは“凍結(freezing-like behavior)”のような現象であり,いずれも腰椎を過剰に保護しようとしたがゆえにもたらされると考えられています.
本研究の臨床的意義および今後の展開
“運動恐怖”は目に見えづらいものではありますが,それを運動計測によって客観的に捉えた点は,非常に臨床的意義があります.今回は,地域在住の慢性腰痛者が対象でしたので,過去の研究と比較しても,顕著な運動障害は認められませんでしたが,運動開始あるいは運動方向の切り返しは,腰痛が重症化する前にも出現する初期症状であることが考えられます.今後は,これをリハビリテーションによって改善させることができるのかが検証される予定です.
論文情報
Osumi M, Sumitani M, Otake Y, Nishigami T, Mibu A, Nishi Y, Imai R, Sato G, Nagakura Y, Morioka S.
Eur Spine J. 2019 May 21. doi: 10.1007/s00586-019-06010-4.
問い合わせ先
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
准教授 大住倫弘(オオスミ ミチヒロ)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp
心理的因子と痛みの関係における中枢性感作の媒介効果
PRESS RELEASE 2019.4.11
中枢性感作は,心理的因子とともに痛みを増悪する因子であることが報告されています.しかし,中枢性感作と心理的因子がどのような関係性で痛みを増悪しているかは明らかにされていませんでした.畿央大学大学院博士後期課程の重藤隼人氏と森岡周教授らは,外来を受診している筋骨格系疼痛患者を対象に媒介分析を用いて,心理的因子が中枢性感作をもたらして痛みを重症化させていることを明らかにしました.この知見は,今後中枢性感作に焦点をあてた介入手段の重要性を示唆するものとして期待されます.この研究成果は,Pain Research and Management誌(The Mediating Effect of Central Sensitization on the Relation between Pain Intensity and Psychological Factors: A Cross-Sectional Study with Mediation Analysis)に掲載されています.
本研究のポイント
■ 心理的因子が中枢性感作をもたらして,痛みを重症化させているという仮説を,媒介分析を用いて検証した.
■ 媒介分析の結果,不安,抑うつ,破局的思考と痛みとの関係において中枢性感作の媒介効果を認めた.
研究内容
外来受診患者を対象に,中枢性感作の評価として「中枢性感作」(Central Sensitization Inventory:CSI),「痛み」(Short-form McGill Pain Questionnaire-2:SFMPQ2),「破局的思考」(Pain Catastrophizing Scale-4:PCS),「不安・抑うつ」(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADS),「運動恐怖」(Tampa Scale for Kinesiophobia-11:TSK) を評価しました.独立変数を「不安」,「抑うつ」,「破局的思考」,「運動恐怖」,従属変数を「痛み」,媒介変数を「中枢性感作」としたブートストラップ法による媒介分析を行いました.
媒介分析の結果,各心理的因子と疼痛強度における総合効果は「不安」,「抑うつ」,「破局的思考」,「運動恐怖」で認められましたが,直接効果は「破局的思考」のみ認められ,他の心理的因子では認められませんでした.また,媒介変数を「中枢性感作」とした間接効果は「不安」,「抑うつ」,「破局的思考」で認められました (図1).
図1:心理的因子と痛みの関係における中枢性感作の媒介効果
本研究の臨床的意義および今後の展開
本研究成果は,心理的因子によって増悪する痛みが中枢性感作を介して引き起こされていることを示唆するものです.そのため,中枢性感作に焦点をあてた介入手段の重要性を提唱する臨床研究となります.
論文情報
Shigetoh H,Tanaka Y,Koga M,Osumi M,Morioka S
Pain Research and Management 2019
問い合わせ先
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
第2回 京都大学大学院 大畑研究室 合同研究会
3月22日(金),京都大学にて畿央大学大学院 神経リハビリテーション学研究室 研究交流会が開催されました.今回は京都大学へお尋ねし,大畑光司先生の研究室の大学院生から現在取り組まれている研究の紹介を行って頂きました.また,畿央大学から大学院生の藤井(慎),尾川,田中(陽)からも研究紹介を行い,双方の研究に関して意見交換を行いました.
最初に大畑研究室の大学院生から,「脳卒中後片麻痺者の開扉課題に必要な能力」について野木さんが,「脳卒中後片麻痺者のまたぎ動作」について鶴田さんが,「脳性麻痺児に対するHONDA歩行アシストの効果」について川崎さんより話題提供して頂きました.それぞれの研究が現在進行形で取り組まれている研究内容であり,念密な実験の手続きなど,大変興味深く聴講することができました.森岡教授からもそれぞれの発表に対して意見やアドバイスを発しておられ,活発なディスカッションが行われました.
最後に,畿央大学から「意思決定場面で生じている患者参加の課題解決」について尾川が,「慢性疼痛の日内律動性」について田中が,「立位姿勢制御の特徴分類」について藤井が話題提供させて頂きました.それぞれの研究紹介に対して,大畑先生との意見交換だけでなく、大畑研究室の大学院生からの意見も発せられ、発表時間が超過しても議論が続く程の充実した会となりました.異なる研究室の方からのご指摘やご意見は非常に新鮮であり,日頃塾考できていないような内容の議論を通してそれぞれの研究をさらに良い方向へ進めていくきっかけになったと思います.
大畑先生の研究室との合同研究会は今回で2回目でしたが,前回の話題提供とは異なる内容も多く,新たな視点を得ることができました.短い時間の中で開催された会でしたので,もっとディスカッションしたい気持ちを抑えつつも,建設的な意見交換が活発に行われたことに喜びを感じ,それぞれがリハビリテーションという文脈に置き換えて研究成果を発信していければと思います.
最後になりましたが、ご多忙のなか快くご対応してくださった大畑先生ならびに大畑研究室の皆様、本会の調整役を務めてくださった大学院生の川崎さん,そして、このような機会を与えてくださった森岡教授に深く感謝を申し上げます.
博士後期課程 1年 水田直道
第7回身体性システム領域全体会議で発表してきました
平成31年2月28日から3月2日に岩手で開催された”第7回身体性システム領域全体会議”に森岡周教授,信迫悟志助教,大住倫弘助教,西祐樹さん(博士後期課程)と私(宮脇裕,博士後期課程)が参加発表してきましたので,ここに報告させていただきます.
本領域は,脳科学とリハビリテーション医学の融合をシステム工学が仲介することで,「身体性システム科学」という新たな学際領域を創出することを目的としたプロジェクトです.本会議では,これまでの集大成として各研究機関が,その研究成果を発表しました.私たちも2日間にわたり主体感などに関する研究を発表し,多くの研究者と貴重な情報交換をすることができました.
本会議で発表された研究成果は,主体感や運動制御のメカニズムに関する基礎的なものから,臨床応用を試みたものまで多岐にわたり,それらに施された工夫と英知を感じられたことは,私にとって何事にも代えがたい貴重な経験となりました.そして一分野に限定されないその多彩な研究手法を学べたことは,研究の幅を広げる上で良いきっかけとなりました.本領域はこれで終了となりますが,私自身,この会議を通して素晴らしい研究者との強固な繋がりを得ることができました.この場で得た経験と繋がりを今後の活動に活かし,リハビリテーションへ貢献する研究を創造していきたいと思います.
今回,私が発表させていただいた脳卒中後遺症の主体感に関する研究成果は,近々論文投稿を行い,引き続き臨床研究に邁進したいと思います.
このような貴重な経験ができたのは森岡教授をはじめとする研究室の仲間の日頃のご指導およびご支援と,畿央大学の手厚いバックアップがあったからであり,この場をお借りして,深謝申し上げます.
博士後期課程 宮脇裕