脳卒中後に自他帰属のエラーが生じることを上肢運動タスクで解明

PRESS RELEASE 2020.3.19

私たちが動作の中で得ている感覚は,自分自身の運動により生じた「自己由来感覚」と,他者や外界から生じた「外界由来感覚」に大別できることが知られています.そして,これらの感覚を適切に区別する自他帰属のプロセスは,正確な運動を達成するために不可欠であることが明らかにされています.畿央大学大学院博士後期課程宮脇裕氏森岡周教授は,仁寿会石川病院リハビリテーション部大谷武史室長と共同し,感覚運動障害を有する脳卒中患者が,運動に対する感覚フィードバックを適切に自他帰属できているのかを検証しました.この研究成果は,PLOS ONE誌(Agency judgments in post-stroke patients with sensorimotor deficits)に掲載されています.

研究概要

私たちは,日常生活において常に何らかの感覚刺激を得ながら動作を遂行しています.得られた感覚は,自分自身の運動によって生み出された感覚なのか,または自分が関与していない他者や外界から生じた感覚なのか,脳内で区別されると言われています.この区別は「自他帰属」と呼ばれており,これが上手くいかなくなると,「自分が運動を制御している感じ」である運動主体感が損なわれたり,不必要な感覚に基づいて運動を遂行してしまったりすることが明らかにされています.自他帰属の障害を招く疾患の一つとして脳卒中が疑われていますが,運動麻痺などの感覚運動障害が自他帰属に及ぼす影響は十分に明らかになっていません
宮脇裕氏(畿央大学大学院博士後期課程,慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)と森岡周教授は,大谷武史室長(仁寿会石川病院リハビリテーション部)と共同し,上肢運動課題を用いて,感覚運動障害を有する脳卒中患者の自他帰属について検証しました.その結果,健常高齢者に比べ脳卒中患者では,他者運動を自分の運動と判断してしまう誤った自他帰属をすることが示されました.また,興味深いことに,この誤帰属は非麻痺肢における運動でも同様に観察されました

本研究のポイント

■ 脳卒中患者は,たとえ高次脳機能障害を有していなくとも,感覚フィードバックの誤帰属を起こしうる
■ この誤帰属は非麻痺肢の運動でも起こりうる

研究内容

参加者は,モニタ上に水平に表示されたターゲットラインをなぞるように,ペンタブレット上で水平運動を遂行しました(図1).この際,視覚フィードバックとしてカーソルが表示されました.カーソルの動きに,自分のリアルタイムの運動が反映されている場合(自己運動条件)と,事前に記録した他者運動が反映されている場合(他者運動条件)がありました.参加者は,自分の実際のペン運動とカーソル運動の時空間的な一致性に基づいて,カーソルが自己運動と他者運動のどちらを反映しているか判断することを求められました.

fig.1

図1:実験装置

結果として,健常高齢者に比べ脳卒中患者では,他者運動条件において有意に誤帰属(他者運動のカーソルを自分の運動と判断)したことが示されました(図2).また,この誤帰属は非麻痺肢で運動を遂行したときでさえ観察されました(図3)

fig.2

図2:脳卒中患者と健常高齢者間の比較

fig.3

図3:麻痺肢と非麻痺肢間の比較

本研究の意義および今後の展開

正確な運動制御を達成するためには,適切な感覚の自他帰属が不可欠です.脳卒中患者の誤帰属がなぜ起こっているのか,またその影響はどのようなものなのかさらに精査することで,脳卒中リハビリテーションの新たな可能性を今後も探求していく必要があります.

論文情報

Yu Miyawaki, Takeshi Otani, Shu Morioka: Agency judgments in post-stroke patients with sensorimotor deficits. PLoS One, 2020.

問い合わせ先

博士後期課程 宮脇裕(ミヤワキ ユウ)
E-mail: yu.miyawaki.reha1@gmail.com

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

 

 

子どものメディア視聴は知覚バイアスと微細運動機能に悪影響を与えるわけではない

PRESS RELEASE 2020.2.26

TV,DVD,インターネット,ゲームなどのメディア視聴は,子どもたちの認知発達(注意,言語,記憶,学習,実行機能)や運動発達に良い影響と悪い影響を与えることが知られています.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らは,中井昭夫 教授(武庫川女子大学),前田貴記 講師(慶應義塾大学)らと共同で,メディア視聴が子どもにおける知覚バイアスと微細運動機能に与える影響を調査しました.この研究成果は,Brain Sciences誌(Manual dexterity is not related to media viewing but is related to perceptual bias in school-age children)に掲載されています.

研究概要

メディア視聴は,子どもにおいて,肥満や睡眠障害など健康状態の悪化を引き起こすだけでなく,注意力の低下,言語発達の遅れなど認知機能にも悪影響があることが知られています.一方で,メディア視聴であっても,子供の年齢,親の養育態度,メディア・デバイス/コンテンツの種類,親との共同視聴などの要因によっては,認知機能や運動機能に良い影響をもたらすことも明らかになっています.しかしながら,メディア視聴が子どもの知覚バイアスや微細運動機能に与える影響は不明でした.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志 准教授らの研究チームは,学童期の子どもにおけるメディア視聴時間,メディア嗜好度,知覚バイアス,微細運動機能との関係を調査しました.その結果,年齢の増加に伴いメディア視聴時間が増加し,メディア視聴時間が増加するほどメディア嗜好度が増加することが確認されましたが,メディア視聴時間/メディア嗜好度は知覚バイアスや微細運動機能とは関連していないことが明らかにされました.一方で,知覚バイアスと微細運動機能との間には重要な関係性があることが示されました.※ ちなみに,ここでいう“知覚バイアス”とは,「身体からの情報(体性感覚)と目からの情報(視覚)のどちらを偏って知覚しやすいか?」についての実験的指標です.

本研究のポイント

■ 学童期の子どもにおいて,メディア視聴は知覚バイアスや微細運動機能とは関連していない.
■ 学童期の子どもにおいて,触覚情報と視覚情報がほぼ同時に提示されるときに,視覚情報を優先してしまう特性(視覚バイアス)は,微細運動機能の低下と関連しているが,それとメディア視聴時間などは関係なかった.

研究内容

6~12歳の学童期の定型発達児100名を対象に,メディア視聴時間,メディア嗜好度,知覚バイアス,微細運動機能を測定しました.メディア視聴時間は,1日あたりの平均視聴時間を抽出し,メディア嗜好度は“とても好き”から“とても嫌い”までの7件法で抽出されました.知覚バイアスは「視覚-触覚時間順序判断課題*(下図左)」用いて測定されました.この課題では,様々な時間間隔で視覚刺激(緑色LEDの点滅)と触覚刺激(振動)が呈示され,子どもたちは視覚と触覚のどちらの刺激が早く(先に)呈示されたのかを回答します.例えば,実際には触覚刺激が先に呈示されたのに,「視覚刺激の方が早かった」と回答すれば,それは視覚バイアスが強いというように,視覚と触覚のどちらに偏り(バイアス)があるかを定量的に表す課題です.微細運動機能は,国際標準評価バッテリー(M-ABC-2)の手先の器用さテストが使用されました.
*Keio Method: Maeda T. Method and device for diagnosing schizophrenia. International Application No.PCT/JP2016/087182. Japanese Patent No.6560765, 2019.

fig.1

左図:視覚-触覚時間順序判断課題,
右図:知覚バイアスと微細運動機能との相関関係

 

結果として,年齢の増加とメディア視聴時間の増加,メディア視聴時間の増加とメディア嗜好度の増加には,相関関係がありました.しかしながら,メディア視聴時間/メディア嗜好度と知覚バイアス/微細運動機能との間には相関関係は認められませんでした.一方で,相関分析と階層的重回帰分析の結果,視覚への偏り(視覚バイアス)が強くなるほど,微細運動機能が低下するという関係性が認められ,微細運動機能が比較的低い子どもでは,視覚バイアスが強いことが示されました図右).

本研究の意義および今後の展開

一般的にも,メディア視聴は,子どもの発達に悪影響を与えると考えられており,実際に肥満,睡眠障害,摂食障害などの健康への影響をはじめ,様々な認知機能・運動機能への負の影響が示されています.しかしながら,本研究では,メディア視聴が子どもの知覚バイアスや微細運動機能に与える悪影響は認められませんでした.興味深いことに,本研究では,メディア嗜好度の7件法において,メディアについて少しでも嫌いと答えた児は皆無であり,子どもにおけるメディア嗜好の高さが窺えました.近年では,アクティブビデオゲームを用いた介入が,脳性麻痺や発達性協調運動障害といった運動障害に効果的であることも報告されています.これらのことは,メディア自体ではなく,メディアの使い方が重要であることを示唆しており,どのような要因が交絡因子となるのかについての更なる研究が求められます.
本研究では,視覚バイアスの増加が微細運動機能の低下と関連していることが示されました.しかしながら,図右の散布図を見ても分かるように,決して触覚バイアスの増加が微細運動機能の向上につながるわけではなく,知覚バイアスがどちらにも偏っていないことが,微細運動機能の向上につながる可能性が示唆されました.

論文情報

Nobusako S, Tsujimoto T, Sakai A, Shuto T, Furukawa E, Osumi M, Nakai A, Maeda T, Morioka S. Manual Dexterity is not Related to Media Viewing but is Related to Perceptual Bias in School-Age Children. Brain Sci. 2020, 10(2), 100.

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
准教授 信迫悟志
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.nobusako@kio.ac.jp

 

 

畿央大学ニューロリハビリテーションセミナー開催の感染症対策について

2月22日(日)開催ニューロリハビリテーションセミナー
「人間理解からリハビリテーションへ」にご参加の皆様へ

この度は、2019年度ニューロリハビリテーションセミナーにお申込みいただき誠にありがとうございます。

日本で新型コロナウイルス感染症が拡散しつつありますが、ニューロリハビリテーションセミナーは、皆様に下記感染症対策のご協力をお願いした上で開催することとしております。

なお、今後の感染症拡大状況によっては、急遽中止とする場合もあります。その際は、改めてご案内いたします。

感染症対策について

• 咳や発熱症状、倦怠感がある場合には、ご参加をお控えください。
• 手洗い等の防護策をしっかり行ない、適切な感染症対策にご協力をお願いします。
• 会場入り口に手指消毒剤を準備します。手指消毒にご協力をお願いします。
• 直接、新型コロナウイルス感染者の検査や診療、ケアに携わった医療従事者の皆様におかれましては、所属施設の指針、ご指示(例:自宅待機、等)などに準じて行動をお願いします。
• 所属施設(医療機関、大学等)より新型コロナウイルス感染対策として、何らかのご指示、ご通達がある場合には(例:不要不急な集まりは控える等)、そちらに準じて行動をお願いします。
• スタッフがマスクを着用したままご対応させていただくことがございますのでご了承ください。

令和元年度 神経リハビリテーション研究大会が開催されました!

令和2年1月13-14日に信貴山観光ホテルにて,神経リハビリテーション研究大会が開催されました.この研究大会は,毎年恒例の合宿形式となっており,今年で14年目を迎えました.
本年度は,ニューロリハビリテーション研究センターの教員と大学院博士課程・修士課程メンバー総勢25名が参加しました.また,大学院修了生の佐藤剛介さん(3期生)と脇田正徳さん(3期生)をお招きし,それぞれ現在進めている研究について紹介して頂きました.

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森岡教授の開会の挨拶から始まり,修士課程2年の最終審査に向けた予演会と博士課程3年の研究進捗状況の報告,および上記修了生の研究紹介が行われ,様々な視点から質疑応答や意見交換が繰り広げられました.

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修士課程2年の発表では,内容に関する質問はもちろん,スライド構成やプレゼンテーション時の目線の使い方といった自分の考えを伝えやすくするためのアドバイスが活発にされていました.博士課程3年の発表では,細かな研究手続きを行いながら,大量のデータを丁寧に解析されていて,研究の質や精度を上げるための相当な努力を感じました.また,修了生の方は,大学院で学んだことを臨床現場で活かしながら継続して研究に取り組まれていて,自分の今後目指していくべき姿を見させていただき,身が引き締まる思いでした.

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夕方には,3グループに分かれて,修士課程1年の研究計画に対するディスカッションが行われました.各グループのメンバーが,朝からの発表・聴講での疲労感を見せることなく,研究計画に対して時間が超過するのを忘れて議論している光景が印象的でした.

1日目終了後の夕食時,入浴時,懇親会においても,それぞれが白熱した議論を継続し,2日目の帰りのバスや畿央大学に戻り解散してからも,研究室で議論が続いている状態でした.

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森岡教授からは,修了生の方の研究に取り組む態度に習い,継続的な取り組みを行っていくことの重要性が説明されました.
現状では,博士課程・修了生の方々の研究を深く理解し,意見を述べることは困難でしたが,大学院在学中に知識を深めながら,教えてもらう一方ではなく,共にディスカッションできるように成長していきたいと思いました.
最後になりましたが,このような機会を与えてくださった森岡教授をはじめとする研究センターの皆様,神経リハビリテーション研究大会の開催にご尽力頂きました関係者の方々に深く感謝を申し上げます.

畿央大学大学院 健康科学研究科 修士課程 乾 康浩

[Journal Club]腰痛有訴者は実生活において腰部運動の自由度が減少する

People with low back pain show reduced movement complexity during their most active daily tasks

Gizzi L, Röhrle O, Petzke F, Falla D

Eur J Pain. 2019 Feb;23(2):410-418. Doi: 10. 1002/ejp. 1318. Epub 2018 Oct 11.

 

腰痛が運動の自由度や適度な変動性を減少させることが明らかにされています.しかしながら,腰痛有訴者の身体運動を分析した先行研究の多くは実験室内での計測であるため,実生活における運動学的異常はこれまで分析されていません.近年,長時間にわたって脊椎の運動学的データを記録できる加速度計が開発されました.この研究では,その機器を用いて日常生活活動中の胸椎と腰椎の運動を24時間記録し,運動の自由度を分析しました.

対象は,慢性の非特異的腰痛を有する17名と18名の腰痛のない健常者とし,脊椎運動の評価にはEpionics SPINEというデバイスが用いられました.Epionics SPINEは,2本の細長いテープに12個の加速度計が連なるような形状をなしています.対象者の胸椎〜腰椎の棘突起を挟むように貼付されました.実験室にてEpionics SPINEをセッティングした後,対象者はそれぞれ通常の日常生活を過ごすことを求められました.その際の24時間のデータを記録し,運動学的に分析しました.また,対象者は,計測中の24時間をどのように過ごしたかを日記で記すことを求められました.

分析の結果,腰痛有訴者と健常者で1日の過ごし方に違いはないことが明らかとなりました(活動内容の内訳:座位,立位,歩行,サイクリングなど).運動学的分析について,24時間の平均的な腰部運動の自由度に違いはありませんでした.しかし,活動度の違いに着目して分析した結果,腰痛有訴者は,健常者と比較してより活動性の高い時間で腰部運動の自由度が減少していることが明らかとなりました.

今回の結果に対し,筆者らは腰部運動がより要求される日常生活動作において,痛みを緩和させるための代償動作として,このような腰を固めて動く戦略を選択しているのではないかと述べています.

第12回日本運動器疼痛学会(@六本木ヒルズ)で発表してきました!

2019年12月7日~8日に開催されました第12回日本運動器疼痛学会(@六本木ヒルズ)で,大住倫弘准教授,重藤隼人(博士後期課程)が発表して参りました.本学会は,整形外科の医師を中心に,看護師,臨床心理士,理学療法士,作業療法士など,多職種が一同に会して演題発表およびディスカッションができる学会です.今回の学会のテーマは「ロコモと痛み」であり,高齢者の人口が増加傾向にある日本において,「ロコモディブシンドローム」に該当する方は年々増加傾向にあり,さらに「サルコペニア」,「フレイル」といったキーワードの講演や発表も多くあり,「ロコモディブシンドローム」,「サルコペニア」,「フレイル」は様々な分野にも共通する病態ですが,運動器疾患および痛みに関わる医療従事者に必要な共通言語として,定義や病態の整理が行われた学会プログラムであるように感じました.また,近年の本学会では「ペインリハビリテーション」というタイトルのセッションが設けられるようになり,ペインリハビリテーションの重要性が様々な職種に認知されるとともに,理学療法士,作業療法士が多職種の関連する学会で発表することが多くなってきたことを反映しているように思いました.他の施設・研究室の方との横のつながりも年々増えてきており,演題発表時以外にも様々な意見交換が行われるようになっており,共同して「痛み」という病態と向き合い,社会に貢献できる臨床・研究活動を行っていきたいと強く感じた学会でした.

今回の発表演題名は以下であり,様々な意見をいただき多くの議論ができたと感じております.

最後になりましたが,このような貴重な機会をいただき,いつもご指導をいただいています森岡先生,畿央大学に感謝申し上げます.

博士後期課程 重藤隼人

<口述発表>
大住倫弘 ほか「地域住民における慢性腰痛患者の運動恐怖が腰椎運動に及ぼす影響」
<ポスター発表>
重藤隼人 ほか「疼痛緩和過程時に中枢性感作症候群が影響する痛みの性質特性」
重藤隼人 ほか「慢性腰痛患者の特徴的な運動制御と疼痛関連因子との関連」

写真1

学会会場(六本木ヒルズ)からの写真
向かって右に東京タワー
向かって左から,今井亮太さん(博士修了生),平川善之さん(博士修了生),森岡周 教授,田中創さん(修士修了生),重藤隼人さん(博士後期課程)

 

【第2回 リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会が開催されました】

令和1年11月2日(土),畿央大学にて「第2回 リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会」が開催され,総勢92名の参加者による活発なディスカッションが行われました.

集合写真

本研究会は,畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター公募研究会制度の承認と支援を受けて開催されたものであり,今回で2回目の開催となります(前回の様子).前回に引き続き,今回の目的は「リハビリテーションにおける姿勢運動制御分野の若手研究者と療法士を対象としたオープンな研究会を開催し,臨床で示される現象に対する解釈や検証を,科学的態度をもって議論できるプラットフォーム構築,および今後の研究コミュニティの構築を目指す」こととしています.そのため,研究会の運営は若手研究者かつ理学療法士ら(代表:植田 耕造・畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員)で高い自由度をもって行っております.

今回はスタッフを合わせ総勢92名の参加,25のポスター演題(若手講演演題のポスター発表含む)と,昨年に引き続き多くの方に参加して頂けた盛会となりました.

特別講演では 阿部 浩明 先生(一般財団法人広南会 広南病院)に「Pusher現象の臨床」について,自身の研究成果も含めたPusher現象に関する包括的レビューと臨床知見までも統合した内容を講演頂きました.科学的態度を持ちつつも現象に対峙する,療法士として真摯な姿勢が強く印象的なものでした.また,若手講演では 冨田 洋介 先生(高崎健康福祉大学 保健医療学部 理学療法学科)より,「脳卒中患者の上肢運動と姿勢制御」というタイトルで,運動の自由度問題や冗長性・協調性について,複雑な内容の話であるにも関わらず理路整然と自身の研究成果を交えつつ,分かりやすくお話し頂きました.さらに,同じく若手講演をお願いしました 安田 和弘 先生(早稲田大学 理工学術院総合研究所)からは,「工学的手段による感覚代行・補完技術とリハビリテーション」について,工学とリハとの接点に関する講演を自身の研究成果を基に行って頂きました.「モノづくり」がゴールではなく,その先の対象者(患者)への適応やユーザー(療法士)の臨床使用可能性についてまで視野に入れて研究を行っておられ,将来的なリハの姿を垣間見るものでした.さらに,いずれの講演においてもフロアからの活発な質疑がみられ,会全体で問題意識を共有する雰囲気がありました.

講義写真

そして,ポスターセッションでは昨年の経験を生かし,午後から2時間30分にも及ぶ長時間のディスカッションの時間を設けました.これだけ長いディスカッションタイムを設けるのはどうか?とも考えましたが,結果的には規定時間後も積極的にディスカッションを続けている光景があり,発表者や参加者同士の繋がりを深める場として効果的に機能していました.

ポスター写真

本公募研究会は「3年で見直し」と規定で決まっております.来年がその3年目です.その後の展開や研究会の在り方についても大きな節目となる会になるかと思います.また来年もどうぞ宜しくお願い致します.

最後になりましたが,ご講演を賜りました阿部先生,冨田先生,安田先生,そして,参加者,演者の皆様,畿央大学および畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターのご支援に深く感謝申し上げます.

 

リハビリテーションのための姿勢運動制御研究会
石垣 智也(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 客員研究員)

[JournalClub]慢性腰痛患者における座位保持中の腰部伸筋群の筋活動変動性

Reduced muscle activity variability in lumbar extensor muscles during sustained sitting in individuals with chronic low back pain

Inge Ringheim, Aage Indahl, Karin Roeleveld
PLOS ONE | https://doi.org/10.1371/journal.pone.0213778 March 14, 2019

慢性腰痛患者において,運動変動性(筋活動変動性)の減少は,筋疲労の増加や持久力の低下,疼痛強度の増加と関連が報告されており,慢性腰痛の原因の一つとして考えられています.しかし,筋活動変動性の減少が必ずしも慢性腰痛の重症度と一致しないことも報告されており,この理由として過去の研究報告では古典的な双極表面筋電図が使用されており,腰部には数多くの筋が存在することから,筋活動の変動性を十分に抽出できていない可能性が指摘されています.高密度表面筋電図を使用した先行研究において,動的課題時に慢性腰痛患者では,筋活動の時間的・空間的変動性が減少していることが報告されています.著者らの研究では,健常者で座位保持時の筋活動変動性が筋疲労と関連することを報告していましたが,慢性腰痛患者が座位保持中に時間的および空間的変化を変化させたかどうかは不明でした.

今回紹介する論文では,健常者と比較した慢性腰痛患者の時間的および空間的筋活動の変動性を調査することを目的にしています.対象は健常者32名と慢性腰痛患者18名であり,9×14チャネルの高密度表面筋電図を左右の傍脊柱筋に貼付し,第12胸椎・第1仙椎に傾斜計を取り付け,30分間の座位保持時の脊柱角度と傍脊柱筋の筋活動を測定しました.測定結果から,脊柱角度の変動性,経時的な筋活動変動性,空間的な筋活動変動性を算出しました.また,座位保持時の疼痛強度および自覚的な運動強度の聴取も行いました.統計解析では,各評価指標について健常者と慢性腰痛患者で比較を行いました.

その結果,健常者と比較して慢性腰痛患者は座位姿勢の角度の変動性は増加しているにも関わらず,時間的および空間的な筋活動変動性は小さいことが明らかになりました.筋疲労については周波数解析の結果には現れませんでしたが,自覚的な疲労度と疼痛強度は座位保持中に増加がみられました.また,慢性腰痛患者では30分間の座位保持が困難な症例もみられた.

今回の結果より,慢性腰痛患者では座位保持中の時間的・空間的な筋活動変動性が減少していることが明らかになりました.慢性腰痛患者では腰部の筋活動を抑制して他部位の筋活動を高めるといった代償的な戦略をとっている可能性もあり,また心理的因子などが筋活動変動性の減少に関連している可能性があると著者らは述べています.

大学院生がNeuroscience 2019で発表してきました!

10月19日(土)~23日(水)にアメリカのシカゴで開催されたNeuroscience 2019にて,宮脇裕さん(博士後期課程)と私,塩中裕介(修士課程)がポスター発表を行ったので,ここに報告させていただきます.

Neuroscienceは主に神経科学を扱う学会で,アメリカ国内で毎年1度行われております.今年は記念すべき50回目の開催でした.学会はシカゴ市街地から少し離れたミシガン湖のほとりの会場で行われ,参加者が学会に集中しやすい環境となっておりました.

図1

今学会は期間を通して3万人の参加者が見込まれており,会場内は常に活気で満ち溢れていました.ポスター会場では主に神経科学を取り扱った研究が,テーマごとに展示されており,私は特に社会的認知や共感等を取り扱った研究を興味深く拝見させていただきました.どのテーマにおいてもディスカッションが活発に行われており,学会に初めて参加させていただく私としてはとても刺激的であり,いつかこのような研究,ディスカッションが出来るように努力しようと強く感じる機会となりました.

図2

私は「Influence of anti-social behavior in top-down modulation of motor resonance」という題でポスター発表をさせていたただきました.今学会において運動共鳴を扱う研究はあまり見受けられなかったのですが,ポスターを見た方々から質問を頂くことが出来,興味深いですね,写真を撮ってもよろしいですか,などと好意的な感想を頂けたことはとても光栄で,かなり印象に残る出来事となりました.今後研究を進めていく上で,より多くの方に興味を持っていただき,貢献できるような研究を進めていきたいと感じました.
以下発表演題です.

宮脇 裕さん(博士後期課程)
「Top-down modulation of motor resonance through affective attitude toward a non-biological object」

塩中 裕介(修士課程)
「Influence of anti-social behavior in top-down modulation of motor resonance」

ヒトの過剰な疼痛回避行動を捉える実験

PRESS RELEASE 2019.10.17

ヒトは痛みをともなう運動に対して,「全く動かない(=過剰な回避)」,「痛みを避けながらも行動する(=疼痛抑制行動)」,あるいは「避けずに動き続ける」などの行動をとりますが,各行動特性の詳細やどのような性格がそれぞれの行動をとらせるのかは明らかになっていませんでした.畿央大学大学院博士後期課程の西 祐樹 氏と森岡 周 教授らは,痛みをともなう運動を過剰に避ける人(=全く動かなくなる人)は,痛みがなくなっても恐怖が残存しやすいことと,その行動には性格特性が関わっていることを明らかにしました.この研究成果はFrontier Behavioral Neuroscience誌(The avoidance behavioral difference in acquisition and extinction of pain-related fear)に掲載されています.

研究概要

痛みに対する回避行動は,身体を損傷から保護する短期的な利益がありますが,傷が癒えた後でもそれを続けてしまうと,痛みを長引かせる要因になることが知られています.博士後期課程の西 祐樹さんは,「運動をすると痛みが与えられる」実験タスクをオリジナルに作成して,「自らの意志で痛みに対する行動を選択できる」実験環境で行動計測をしました.その結果,過剰な回避行動をとりやすい人は,運動開始に時間がかかりやすい(=躊躇しやすい)行動特性が明らかになりました.また,この過剰な回避行動をとるグループは,痛み刺激を止めても運動の躊躇や恐怖反応が消えないことも明らかになりました.加えて,このグループは,「特性不安」や「リスクに対して過剰に反応する損害回避気質」が高いという性格を有していました.

本研究のポイント

■ 過剰な回避行動をとる人は,運動の開始時に「運動の躊躇」が認められました.
■ そして,過剰な回避行動をとる人は,痛み刺激がなくなっても「運動の躊躇」と「恐怖反応」が残存していました.それとは対照的に,痛みを避けながらでも行動したり,痛みを避けることなく行動する人たちは,痛み刺激がなくなると同時に恐怖反応も消失しました.
■ 過剰な回避行動を示す人は,「特性不安」や「リスクに対して過剰に反応する損害回避気質」を有していました.

研究内容

健常者を対象に,タッチパネルを用いた運動課題を行いました(図1).
この運動課題では,被験者がタッチパネルを塗りつぶしている間は痛み刺激が与えられます.痛みを恐がらない被験者は塗りつぶす行動を続けられますが(=疼痛行動),痛みを過度に恐がってしまう被験者は塗りつぶし行動を止めます(=過剰な回避行動).加えて,この実験では,特定の運動方向(下図 水色部分)に特定の速度で塗りつぶすと,痛み刺激が弱くなる仕掛けにしていました(=疼痛抑制行動).この仕掛けをすることで,被験者を「過剰な回避行動をとる人」,「疼痛抑制行動をとる人」,「疼痛行動をとる人」に分けることができます.

図1

図1:疼痛回避行動パターンを捉える実験手続き

この運動課題は,以下の4つの段階で行われました.

1.練習段階:単なる塗りつぶし行動をしてもらう.
2.獲得段階:塗りつぶし行動をしている間は痛みが与えられる.
3.テスト段階:被験者に「特定の運動方向に特定の速度で塗りつぶすと痛み刺激が弱くなる仕掛けになっている」ことを説明した後に,獲得段階と同じように運動に痛みがともなう状況で塗りつぶしをしてもらう.
4.消去段階:塗りつぶし行動をしても痛みが与えられない.

 

実験の結果,行動パターンから被験者を3つのグループ「過剰な回避行動をとるグループ」,「疼痛抑制行動をとるグループ」,「疼痛行動をとるグループ」に分けることができました.

過剰な回避行動をとる人は,運動の開始時間が遅れていました(=運動の躊躇).また,興味深いことに,この運動の躊躇は,痛みがなくなった消去段階にも残存しており,生理学的データで定量化された恐怖反応も同様に消去段階で残存していました(図2).これは,過剰な回避行動をとる人は,“動くことが恐い(=運動恐怖)” を学習しやすいことを意味します.

図2

図2:それぞれの行動パターンをとるグループの運動躊躇と恐怖反応

痛みをともなう行動についての価値観は,それぞれのグループ間に差はありませんでしたが,過剰な回避行動をとるグループは,損害回避気質や特性不安が高いことが明らかになりました(図3).この結果から,過剰な回避行動はその人の性格特性によって決定づけられる可能性が示唆されました.つまり,不安になりやすい慎重タイプの性格が,過剰な回避行動をとりやすい要因であることが分かりました.

図3

図3:それぞれの行動パターンをとるグループの性格特性

本研究の意義および今後の展開

この研究結果は,回避行動を詳細に評価することの重要性を示唆しました.また,臨床場面で個人の痛みを評価するときには,個人の気質や過去の経験,思考の側面を配慮することも重要であることが分かりました.今後は,痛み患者における回避行動を定量的に評価し,痛みの慢性化に寄与するのか調査する予定です.

論文情報

Nishi Y, Osumi M, Nobusako S, Takeda K, Morioka S. Avoidance Behavioral Difference in Acquisition and Extinction of Pain-Related fear. Frontiers in Behavioral Neuroscience 2019.

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)

博士後期課程 西祐樹(ニシ ユウキ)

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp