脳卒中者が不整地を歩きつづけたときの歩き方の変化

PRESS RELEASE 2026.1.23

脳卒中者は,歩行障害を有することで,不整地を含む屋外の地域社会での歩行が困難となる場合があり,結果として社会参加を妨げ,生活の質に不利益をもたらします.さらに、脳卒中者は不整地上で長い距離を歩いた場合に課題を抱える可能性があります.畿央大学大学院博士後期課程の乾 康浩 氏と森岡 周 教授らは,脳卒中者と健常者が80mの不整地を歩行した際の距離に応じた変化の違いを検証しました.この研究成果はClinical Biomechanics誌(Distance-related changes in gait parameters during uneven-surface walking in people with stroke versus healthy controls: A cross-sectional analysis)に掲載されています.

本研究のポイント

■健常者と脳卒中者の不整地歩行中の距離に応じた変化の特徴の違いを自作の不整地路を用いて評価しました.

■脳卒中者は,不整地歩行中に歩行速度,安定性,股関節および膝関節の角度は維持する一方で,健常者とは異なり踵接地の際に前脛骨筋の筋電図振幅が増大せずに足関節背屈角度が低下し,立脚終期には中殿筋の周波数が低下することが明らかとなりました.

研究概要

脳卒中者は,中枢神経系の損傷により歩行障害を有し,不整地を含めた屋外の地域社会での歩行が困難になります.これは,社会参加を妨げ,生活の質の低下にもつながります.また、脳卒中者は不整地上で長い距離を歩いた場合に課題を抱える可能性があります.畿央大学大学院  博士後期課程 乾 康浩 氏,森岡 周 教授らの研究チームは,自作の予測困難な摂動が生じる不整地路を用いて,脳卒中者が80mの不整地行中の歩行速度,体幹の加速度,麻痺側の関節運動,および下肢筋電図振幅と周波数を計測し、脳卒中者と健常者で歩行距離に応じた変化の特徴の違いを分析しました.その結果,脳卒中者は, 不整地歩行中に歩行速度,安定性,股関節および膝関節の角度は維持する一方で健常者とは異なり踵接地の際に前脛骨筋の筋電図振幅が増大せずに足関節背屈角度が低下し,立脚終期には中殿筋の周波数が低下することを明らかにしました.本研究は,健常者と脳卒中者の不整地歩行中の距離に応じた変化の違いを明らかにした初めての研究です.

研究内容

本研究では,脳卒中者が予測困難な摂動が生じる不整地80mを歩行する際の距離に応じた歩行パラメータ変化を健常者と比較することを目的とし,自作の不整地路(図1)を用いて検証しました.

図1. 不整地路と実験環境

実験で得られたデータから,歩行速度,歩行安定性を評価するための3軸の体幹の加速度のRoot Mean Square,麻痺側下肢の最大関節角度,麻痺側下肢の筋電図振幅と瞬間平均周波数を算出しました.その結果,脳卒中者は, 不整地歩行中に歩行速度,安定性,股関節および膝関節の角度は維持する一方で,健常者とは異なり踵接地時に前脛骨筋の筋電図振幅が増大せずに足関節背屈角度が低下し,立脚終期には中殿筋の周波数低下がみられました(図2).

図2. 不整地歩行中の脳卒中者と健常者の歩行パラメータの変化の違い

研究グループは,この結果のうち,脳卒中者が不整地歩行中に歩行速度,安定性,股関節および膝関節角度を維持したことは不整地への適応と考えています.一方で,前脛骨筋の筋電図振幅を増大せずに足関節背屈角度が低下したことは皮質脊髄路損傷による神経駆動の低下に起因し,中殿筋の周波数が低下したことは疲労の可能性があると考察しています.

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究成果は,予測困難な摂動が生じる不整地を歩く際の距離に応じた変化について,脳卒中者と健常者の違いを明らかにしており,リハビリテーション専門家が脳卒中者の屋外歩行の適応や疲労を考える際に着目すべき点を示しています.今後は,より長い距離での歩行パラメータの変化や非麻痺側を含めた戦略の特徴を調査する必要があります.

 

論文情報

Yasuhiro Inui, Naomichi Mizuta, Yuta Terasawa, Tomoya Tanaka, Naruhito Hasui, Kazuki Hayashida, Yuki Nishi, Shu Morioka.
Distance-related changes in gait parameters during uneven-surface walking in people with stroke versus healthy controls: A cross-sectional analysis.
Clinical Biomechanics, Volume 133, 2026, 106747.

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

博士後期課程 乾 康浩

教授 森岡 周

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

『ピアジェ・思考の誕生』が開くリハビリテーションの新しい問い

先日出版された森岡周教授(ニューロリハビリテーション研究センター長)の新刊『ピアジェ・思考の誕生 —— ニューロサイエンスと哲学から読み直すリハビリテーションの新しい地平 —— 』について、私(博士後期課程 三枝信吾)が読み進める中で考えたことをブログ記事としてまとめました。

 

なお、こちらの大学ブログでは、森岡教授ご自身が本書を紹介しています。
【新刊紹介】生成AI時代にあらためて問う「人間の知性」 —— ピアジェをハブに、時空を超えた知の対話へ ——

所感

本著作は、ジャン・ピアジェをはじめとして、発達心理学、教育学、神経科学、哲学など、多領域の研究者の思考が合流する書である。これは、リハビリテーションという営みが、それだけ多様な学問領域との交差を必要とする奥深い分野であることを示すと同時に、リハビリテーションにおいて自身に到来し得たであろう理論的・実践的袋小路に対して、著者自身が長年にわたり、他者との対話や交流を重ねながら、幾度となくその突破を試みてきた歴史の痕跡でもあるように思われる。また本著作は、予測符号化、身体性(エナクティブアプローチ)、物語性、中動態、さらには自由や東洋思想といった文脈にまでリハビリテーションを展開し、これまでのリハビリテーションを再計しながら、これからのリハビリテーションとの地平融合を目指している。

 

私は、知覚や行為、そして対象者への眼差しは、予測に関する知識が大量に蓄積される以前の乳児期、あるいは臨床経験の浅い一年目の頃のほうが、より「真」に近いのではないかと考えることがある。しかし実際には、私たちは物事をありのままに見ているのではなく、常に自分自身に則して世界を見ている。すなわち、過去の経験が浸透したかたちで未来を予期する予測によって形作られ、つねに何らかの仕方で自分自身を世界へと投影している。本書では、こうした知覚と行為の基盤として、生きられた身体が言及される。身体は対象としての世界を前反省的に私に現前させる透明な媒体として機能し、それ自体(身体)が主題化されないことによって、別のものを主題化する。この身体と環境の関係、さらにはそこに伴う実存の問題を通して、意味の復権が説かれているように思われる。一方で、対象者の物語を「前」と「後」に分ける軸が、脳卒中といった出来事に置かれ、将来の回復を実在した過去に近似した未来として思い描くことが少なくないようである。私自身、療法士であることがゆえに身体機能や歩行能力といった観点から改善を評価することに重きを置いてきたが、果たして実践されたアプローチは、対象者の物語の更新と紐づいていたのだろうかという疑問が生じた。非力ではあるものの、物語的自己同一性といった言葉が示すように、しばしば別の軸や視点から筋を創作し直すことが人間には可能であるため、その場に居合わせ、その過程を見つけられる・立ち会うことのできる療法士でありたいと感じた。また、対象者は自己の意思で行動しつつも、自ら創り出したのではない非意志的なもの―身体、他者、社会、必然性―からの影響を受けている。対象者から「プロではないのであなたに従う」と言われることがあるが、その言葉をそのまま引き受けてしまえば、対象者の本来性(存在を維持しようとする方向性を持った力)を見落とすことになりかねず、その結果として中動態的な自由の可能性を閉ざしてしまうのではないかという危惧が生じた。

 

本書を読み進めるにつれ、私は、リハビリテーションというパラダイム自体が自明のものとなり、知らず知らずのうちに私自身の世界の見え方を限定していた可能性について考えさせられ、改めて問い直す契機を与えられたと感じた。最後に、本記事は、森岡周教授の手元を離れて自立したテキストと、私が交差するなかで生じた、一つの地平融合である。そこには当然ながら解釈の相違や余地が多分に含まれており、本書の射程を尽くすものではない。しかし、このように本書と向き合い、その思考の広がりを自らの実践や経験と重ね合わせながら記事として言葉にする機会を得られたことは、療法士として、また一読者として大変光栄なことである。

 

畿央大学大学院 健康科学研究科

博士後期課程2年 三枝信吾

身体知覚の変容のカギは「うずく・引きつる」痛み-機械学習による検証-

PRESS RELEASE 2025.12.23

痛みを有する患者の中には,「自分の身体がどこにあるかわからない」,「身体の大きさや位置が変に感じる」といった身体知覚の変容を経験する場合があります.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの重藤隼人 客員研究員(京都橘大学助教)と同センター長の森岡周 教授らは,機械学習手法の一つであるSHAP(SHapley additive exPlanations)解析を用いて,複数の痛みの性質(かじられるような痛み,刃物でつき刺されるような痛み,割れるような痛み,気分が悪くなるような,ちくちくする,焼けるような痛み,ひきつるような痛み,うずくような痛み,鋭い痛み)が身体知覚異常と関連することを明らかにしました.特に,運動感覚に関わる痛みの性質(ひきつるような痛み,うずくような痛み,かじられるような痛み)が身体知覚の変容に強く影響することが示され,痛みの性質に基づいた評価および介入戦略の重要性が示唆されました.この研究成果はArchives of Physical Medicine and Rehabilitation誌(Pain qualities associated with body perception disturbances: insights from machine learning and SHapley additive exPlanations)に掲載されています.
なお,本研究は厚生労働科学研究補助金(種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割解明とQOL向上,社会啓発を目指した領域統合他施設共同疫学研究班)の研究成果になります.

本研究のポイント

■機械学習(SHAP解析)を用いて,痛みの性質と身体知覚の変容との関連を定量的に解析しました.

複数の痛みの性質が身体知覚異常と関連することを明らかにしました.

特に「ひきつるような痛み)」,「うずくような痛み」,「かじられるような痛み」といった運動感覚に関連することが示唆されている痛みの性質が,身体知覚の変容に強く影響することが示されました.

研究概要

疼痛患者は,痛みだけでなく「自分の身体がどこにあるかわからない」,「身体の大きさや位置が変に感じる」といった身体知覚の変容を経験することがあります.身体知覚異常は痛みの重症度と関連し,運動感覚に関連する痛みの性質とも関連することが示唆されていますが,どのような痛みの性質が身体知覚の変容と関連しているのかは明らかになっていませんでした.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの重藤隼人 客員研究員(京都橘大学助教)と森岡周 センター長・教授らの研究チームは,疼痛患者を対象に身体知覚の変容と痛みの性質の関連性について検証しました.身体知覚の変容および痛みの性質について質問紙を用いて評価した上で,機械学習(SHAP解析)を用いて,痛みの性質が身体知覚異常にどのように影響するかを定量的に解析しました.その結果,複数の痛みの性質が身体知覚異常と関連し,特に「ひきつるような痛み」,「うずくような痛み」,「かじられるような痛み」といった運動感覚に関わる痛みの性質が身体知覚の変容に強く影響することを明らかにしました(図1).

図1.研究の概要

本研究では,各痛みの性質の身体知覚の変容にどれだけ貢献しているか機械学習手法(SHAP解析)を用いて検証しています.

研究内容

本研究の目的は,筋骨格系疼痛患者を対象に機械学習を用いて痛みの性質と身体知覚異常との関連を明らかにすることでした. 質問紙評価を用いて,身体知覚の変容(Fremantle Back Awareness Questionnaire: FreBAQ)と痛みの性質(Short-Form McGill Pain Questionnaire-2:SFMPQ-2)を評価し,機械学習(SHAP解析)を用いて,各痛みの性質が身体知覚の返答にどれだけ貢献しているかを示す寄与度を可視化・定量化しました. SHAP分析の結果,「ひきつるような痛み」が最も身体知覚異常への寄与度(SHAP値)が高いことが明らかになりました(図2).また,運動感覚に関連する痛みの性質でもある「うずくような痛み」も寄与度が高いことが明らかになりました.

図2.身体知覚異常に対する各痛みの性質のSHAP値(寄与度)

各痛みの性質が身体知覚の変容にどれだけ貢献しているかを示すSHAP値をプロットしており,横軸がSHAP値(寄与度),各点が個別の患者の痛みの性質スコアを表してます.特に「ひきつるような痛み」が最も高い寄与度を示しています.

 

さらに,各対象者における痛みの性質の寄与度(SHAP値)と身体知覚変容スコアとの相関分析の結果,複数の痛みの性質(かじられるような痛み,刃物でつき刺されるような痛み,割れるような痛み,気分が悪くなるような,ちくちくする,焼けるような痛み,ひきつるような痛み,鋭い痛み)が身体知覚の変容と高い相関(r > 0.7)を示しました.特に運動感覚に関連する痛み(かじられるような痛み,ひきつるような痛み)が高い相関を示しており,運動感覚に関連する痛みの性質が身体知覚変容の病態と関連していることを示唆しています.

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究成果は,特定の痛みの性質が身体知覚の変容に関連する可能性を示しています.特に,運動感覚に関連する痛みの性質を訴える患者に対しては,感覚運動連関に焦点を当てた評価やリハビリテーションアプローチが有効である可能性が考えられます.

論文情報

Shigetoh H, Koga M, Tanaka Y, Hirakawa Y, Morioka S.

Pain qualities associated with body perception disturbances: insights from machine learning and SHapley additive exPlanations.

Arch Phys Med Rehabil. 2025 Dec 3:S0003-9993(25)01070-6.

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

客員研究員 重藤 隼人

教授 森岡 周

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

第25回認知神経リハビリテーション学会学術集会にて本学関係者が学会長・多数登壇!

2025年11月29日(土)~30日(日)に、大阪市中央公会堂にて第25回認知神経リハビリテーション学会学術集会が開催されました。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの大松聡子客員准教授が学会長を務め、本学からは多くの大学院生・修了生・教員が登壇しました。

冒頭の学会長講演では、大松聡子客員准教授が、畿央大学大学院在学時から取り組んできた視線計測や脳画像を用いた研究を紹介しながら、学術集会テーマ「見えないものを観る〜行為と認知のVisualization〜」の背景や視座を示しました。

クリニカルディスカッションでは、9名の本学関係者が以下の各病態に関するセッションでモデレーターやパネリストを務め、最新の研究活動や臨床経験にもとづく発表を行い、『見えない「病態」を観る』視点や思考について議論を展開しました。

・慢性疼痛

大住倫弘准教授が「疼痛リハビリテーションにおける情報の不一致と身体情緒」を捉える視点について、修了生の井川祐樹さん(西大和リハビリテーション病院)が「痛みという現象の再考―臨床的洞察に基づく多角的評価の重要性―」について、修了生の長倉侑祐さん(たつえクリニック)が「肩関節鏡視下腱板修復術後の疼痛患者におけるナラティブと客観的指標の統合―個別性を捉えた病態把握と介入の視点―」について発表しました。

・姿勢バランス

修了生の菅沼惇一さん(中部学院大学)が「姿勢バランスの見えない病態を多角的側面から観る」枠組みを提示し、植田耕造客員准教授(JCHO大和郡山病院)が「見えない恐怖感や注意は姿勢バランスをどう変えるか」について研究成果にもとづく発表を行いました。

・小児疾患

修了生の浅野大喜さん(日本バプテスト病院)が発達に関する理論や症例をもとに「当たり前の視点に至るまでの臨床思考」を整理し、大学院生の私長森由依(北陸大学)が『「この子なりの成長」の可能性を観る~重度肢体不自由児と養育者の相互作用のVisualization~』と題して多層的・多角的・微視的な観察の視点について発表しました。

・高次脳機能障害

修了生の玉木義規さん(甲南病院)が「左半球損傷者をどのように観察し、病態を捉え介入につなげていくか」と題して失語症や失行症の症例を提示し、大学院生の産屋敷真大さん(市立福知山市民病院)が「脳卒中後症例の身体に対する感情」の強度や空間的な広がりを可視化するbody mapping法を用いた取り組みについて発表しました。

教育講演では、本学関係者4名を含む講師陣が登壇しました。

信迫悟志教授が「実験的手法で明らかにする認知の構造」、石垣智也准教授が「症例検討の在り方を再考する」、修了生の上田将吾さん(結ノ歩訪問看護ステーション)が「言語の質的分析」、修了生の塩崎智之さん(奈良県立医科大学)が「前庭系の多面的評価の視点」といったテーマを掲げ、それぞれの立場から「見えないものを観るための手段」について講演しました。

ポスター発表では、CREST研究の一部として、大学院生の三枝信吾さん(東海大学文明研究所)が「入院中の脳卒中者における上肢経験の変容過程–二症例に基づく比較的アプローチ–」について発表しました。異なる変容過程を辿った2症例の経過をもとに、活発な議論が行われました。

シンポジウムでは、修了生の赤口諒さん(摂南総合病院)が「上肢機能の回復可能性と治療ストラテジーを把持力制御と認知神経リハビリテーションの視点から紐解く」というテーマで、大学院生の南川勇二さん(西大和リハビリテーション病院)が「実生活における上肢活動の観える化と心理と文脈統合による行動変容支援」というテーマで発表し、見えない変化を可視化し実践へとつなげるストラテジーについて議論しました。

 

学会の最後には、2日間の総括と今後の課題について議論が行われました。ときにユーモアを交えながら忌憚のない意見が交わされ、あたたかい空気と身が引き締まる思いを胸に、学会は幕を閉じました。

この2日間では、一般化されたエビデンスから漏れてしまう対象者の個別性や主観的体験をどのように観るかについて、認知神経リハビリテーションの枠組みやそれにとらわれない視点で議論が繰り広げられました。日々の取り組みを異なる立場から振り返るとともに、視野を広げる貴重な時間とすることができました。また、私たち大学院生にとって初のパネリストやシンポジストとしての機会を、神経リハビリテーション学研究室の尊敬する先輩方と同じ壇上で経験し議論できたことは、かけがえのない財産となりました。

 

このような貴重な機会をくださった学会長の大松聡子客員准教授はじめ運営のみなさま、そして日頃より親身にご指導くださり、この2日間も私たちをあたたかく見守り、励まし、誰よりも刺激的な議論を展開する背中を見せてくださった森岡周教授に、心より感謝申し上げます。本学会での学びを活かして、引き続き神経リハビリテーション学研究室の仲間たちと切磋琢磨し研鑽に努めてまいりたいと思います。

 

 

畿央大学大学院 健康科学研究科

博士後期課程2年 長森由依

北海道大学学術交流会館において、CREST「マルチセンシング」研究領域の領域会議が開催されました!

2025年12月17-19日、北海道大学学術交流会館において、CREST「マルチセンシング」研究領域の領域会議が開催されました。CREST(国立研究開発法人科学技術振興機構〈JST〉による戦略的創造研究推進事業)は、学際的かつ先端的な研究を推進することを目的とした大型研究プログラムです。本領域会議では、各研究プロジェクトの進捗報告や研究成果の共有に加え、今後の研究展開について分野横断的な議論が行われました。

====================================================================================================

本会議では、本プロジェクトの研究代表者である嶋田総太郎教授(明治大学)より、研究チームのテーマである「身体的自己とナラティブセルフの関係性」に関する研究成果および進捗状況について報告が行われました。具体的には、ラバーハンド錯覚において錯覚が生起する際の主観的経験のフェーズ遷移と、それに対応する脳活動の特徴との関係について紹介がありました。また、VRを用いたフルボディ錯覚実験に基づき、脳活動、重心動揺、心拍などの複数の生体指標を統合的に解析することで、錯覚の生起およびその強度との関連を検討した研究成果と進捗が示されました。さらに、脳卒中後患者を対象とした研究として、現象学的インタビューによって得られたナラティブと、慣性センサーや筋電図を用いて評価した歩行機能の時間的変化との関係について、現在進行中の研究状況が共有されました。これらの報告に対する質疑応答では、哲学や数理科学など多様な専門分野の研究者から示唆に富む意見が寄せられ、今後の研究の方向性について活発な議論が交わされました。

また、本年度採択された若手チャレンジの発表として、西祐樹助教(長崎大学、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員)より、「パーキンソン病患者におけるすくみ足の状態遷移モデルの構築とその機序の解明」をテーマとした研究発表が行われました。本発表では、すくみ足の発生前・発生中・発生後における眼球運動、心拍、筋活動など複数の生体指標の時間的遷移に着目し、これらを統合的に捉えることで、すくみ足の状態変化をモデル化する試みについて、その途中経過が報告されました。発表後には、計測手法および解析手法の可能性に関して、活発な意見交換が行われました。

本領域会議を通して、私たちのプロジェクトに対する貴重な助言を得るとともに、他大学・他分野の研究者による発表を聴講することで、本研究にとって新たな視点や着想を得る大変有意義な機会となりました。また、本プロジェクトに参画する各大学(明治大学、東海大学、畿央大学)の研究メンバーが一堂に会し、それぞれの研究内容について直接意見交換を行うとともに、今後の研究協力体制について改めて確認することができました。

本研究は、日仏共同提案による国際共同研究(CREST–ANR)として実施されており、今後は研究内容をさらに発展させ、2026年3月にフランス・ボジョレーで予定されている日仏合同シンポジウムにおいて、国際的な視点から研究成果を発信していくことを目指します。本領域会議で得られた知見や議論を今後の研究活動に積極的に反映し、国際的な議論の深化につなげていきたいと考えています。

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

JAPAN PAIN WEEK 2025にて本学関係者が登壇・受賞しました!

2025年12月4日~6日に,東京都江東区の東京ビッグサイトにて「JAPAN PAIN WEEK 2025」(JPW2025)が開催されました.本大会は第47回日本疼痛学会,第18回日本運動器疼痛学会,第29回日本ペインリハビリテーション学会,第30回日本口腔顔面痛学会による本邦の疼痛関連では初の4学会合同開催で,全国から約1300名が参加されました.

畿央大学大学院およびニューロリハビリテーション研究センターからも多くの大学院生・修了生・研究員・教員が参加し,研究発表や講演,そして受賞という形で大きな成果を収めました.

学会での主な講演・発表

■シンポジウム/教育講演

初日には,大住倫弘准教授が「慢性疼痛の脳波ネットワーク異常とリハビリテーション」というテーマでシンポジウムに登壇され,脳波を活用した慢性疼痛の神経病態解明やリハビリテーション応用への展望について話題提供されました.

2日目には客員研究員の西祐樹氏(現・長崎大学生命医科学域(保健学系) 助教)が「慢性疼痛患者の運動特性から考える運動療法の新展開」というテーマでシンポジウムに登壇され,個別最適化を目指す運動療法の新たな展開について提言されました.また,「痛みを有する患者に対する物理療法」について,私(佐々木遼)が教育講演を担当いたしました.

3日目には大住倫弘准教授が「義手の身体化の背景にある脳内メカニズム」というテーマでシンポジウムに登壇され,身体所有感の誘起プロセスについて,医工連携研究の知見を紹介されました.

 

■一般演題/受賞

一般演題でも多数のメンバーが発表しました.本学およびニューロリハビリテーション研究センター所属メンバーの発表演題は以下の通りです.

<客員研究員>

西 祐樹:しびれ同調経皮的電気神経刺激の即時効果を規定する臨床指標:末梢・中枢神経障害を対象とした疾患横断的決定木分析

佐藤 剛介:経頭蓋交流電気刺激が脳波リズムと疼痛閾値に与える影響

<研究員>

佐々木 遼:サーマルグリル錯覚はプレゼンティーイズムのスクリーニングツールとなりうるか:小型機器の信頼性・妥当性を含めた検討

<大学院生>

田中 智哉:人工膝関節置換術後における痛みと身体性の関係性に基づくサブタイプ分類

森川 雄生:高周波電気刺激で誘発された中枢感作に伴う空間的注意と脳ネットワークの変化

江田 朱里:脊髄損傷後に出現する触覚アロディニアに特徴的な脳波成分の分析

古賀 優之:人工膝関節全置換術の周術期における運動恐怖の縦断経過分類と疼痛および運動学的指標の特徴―予備的研究―

海藤 公太郎:療法士として働く非特異的腰痛有訴者の患者教育ニーズに関するパイロット混合研究

内沢 秀和:亜急性期脳卒中後疼痛に対する早期経皮的電気刺激(TENS)介入の有効性:単一症例ABABデザインによる時系列分析

南川 勇二:しびれ同調経皮的電気神経刺激によるしびれ感・アロディニアの改善と長期持続効果:脳波所見を含めた症例報告

 輝かしい受賞

その中で,客員研究員の西祐樹氏(現・長崎大学生命医科学域(保健学系) 助教)が「しびれ同調経皮的電気刺激の即時効果を規定する臨床指標:末梢・中枢神経障害を対象とした疾患横断的決定木分析」というテーマで発表し,奨励賞を受賞しました.多職種が参加する合同学会の中で,本学関係者が受賞したことは大変喜ばしい成果です.

 終わりに

来年度開催のJAPAN PAIN WEEK 2026(12月3日~5日,東京ビッグサイト)では大住倫弘准教授が第30回日本ペインリハビリテーション学会の大会長を務められます.合同学会に向けて,より一層盛り上げていきたいと思います.

今後も,畿央大学大学院とニューロリハビリテーション研究センターが疼痛領域,そして社会に貢献できるよう,臨床・研究・教育ともにさらに精進してまいります.

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

研究員 佐々木 遼

 

大学院生がSociety for Neuroscience – NEUROSCIENCE2025 (SfN2025)に参加しました!

2025年11月15日~11月19日にかけて,アメリカ・サンディエゴにて,神経科学分野の世界最大級の国際学会である「SfN2025(Society for Neuroscience)」が開催されました.

本学会には,南川勇二さん(畿央大学大学院 博士後期課程),吉川里彩さん(畿央大学大学院 修士課程),江田朱里さん(同 修士課程)が参加し,いずれもポスター発表を行いました.

会場には世界中から研究者が集まり,来場者数は約20,121名と,まさに世界規模の学会でした.広大な会場の各所で,連日絶え間なく活発な議論が交わされていました.世界で活躍する日本の研究者も多く参加されており,初の国際学会参加であった本学の大学院生も,国内外を問わずそれぞれの分野で活躍される著名な研究者と意見交換を行うことができ,大変有意義な時間を過ごすことができました.

以下に各参加者のコメントを載せています.

 各参加者からのコメント

■南川 勇二さん

今回,私は「脳卒中後の上肢協調活動分析 ― 前腕・上腕活動量計測を用いた新たな試み ―」というテーマでポスター発表を行いました.他分野の研究者の方々にも興味を持っていただき,研究内容について多くのご質問やご意見を頂くことができました.また,脳画像解析や脳波解析,心理実験課題を用いた上肢研究など,本研究センターで取り組んでいるテーマや手法と近い研究が世界中から数多く集まっており,世界最先端の研究に直接触れることができました.その一方で,自身の研究をより発展させ,世界水準の研究を目指していきたいという思いが一層強まりました.

今回が私にとって初めての国際学会参加でしたが,会場の雰囲気や研究者同士の活発なディスカッションを通して得られた「わくわく感」の余韻は,今も続いています.今後も国際学会への参加に積極的にチャレンジし,研究活動に還元していきたいと思います.

 

■吉川 里彩さん

私は,「脳画像解析・脳波解析を用いた半側空間無視の回復過程」というテーマでポスター発表を行いました。臨床場面でみられる半側空間無視の症状を,脳のネットワークレベルからどのように理解できるのかを検討した内容で,これまで取り組んできた縦断的な評価を中心に紹介しました。SfNは基礎研究の発表が多い印象ですが,その中でも臨床研究に関心を持つ研究者の方々がブースに立ち寄ってくださり,意見交換を行うことができました。臨床研究だからこそ扱えるデータや視点に対して関心を示していただき,今後の研究の進め方を考えるうえで多くのヒントを得られたと感じています。また,会場では注意機能やネットワーク解析に関連した多様な発表に触れることができ,日本国内だけではなかなか出会えない研究テーマやアプローチを知る貴重な機会となりました。

初めての国際学会参加で不安もありましたが,多くの研究者と直接ディスカッションできたことは,大きな励みになりました。今後も,半側空間無視の回復過程をより多面的に捉えられるよう,脳画像解析・脳波解析の技術を高めながら臨床研究を継続していきたいと思います。

 

 

■江田 朱里さん

私は「脊髄損傷後に生じるアロディニアに特徴的な脳波成分の分析」についてポスター発表してきました.私にとっては初めての国際学会であり,全てのポスターを見ようとするとヒールを履いた足では筋肉痛になってしまう程の広大な学会会場や,ポスターの発表時間が4時間もあり多くの研究者がとめどなくディスカッションをしている雰囲気に圧倒される日々でした.会場では多くの若手研究者が発表をしていたことに,親近感が沸いたとともに,彼らに劣らない様にさらに研究の精度を高め臨床的意義のある研究発表ができるように励みたいと思いました.今回以上に深みのあるディスカッションができる様に,今後も研究活動や英語スキルの習得に努めたいと思います.

 

 

最後に,今回の報告にあたり,森岡周教授ならびに大住倫弘准教授に手厚いご指導をいただきました.この場をお借りして深く感謝申し上げます.

 

畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター

南川 勇二

 

 

「重り×速度」が脳による歩行修正を促進-重り負荷は「速く歩く」ことで中枢神経系の適応を引き出す-

PRESS RELEASE 2025.12.1

歩行には、脚の重さや速さの変化による誤差を感知し、徐々に動きを修正・適応・学習する機能があります。畿央大学大学院健康科学研究科(修了生/現 トヨタ記念病院)の本川剛志氏と森岡周教授(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター・センター長)らは、健常成人を対象に「片脚への重り」と「歩行速度」の組み合わせが、この学習効果に与える影響を検証しました。その結果、単に重りをつけるだけでなく、「重い×速い」という高強度の条件下でのみ、歩幅や関節運動に顕著な学習(遅延適応)と、重りを外した後も効果が続く現象(残効)が確認されました。これは、リハビリテーションにおいて歩行の修正を促すには、負荷と速度を組み合わせた強度の設計が重要であることを示唆する成果です。この研究成果はHuman Movement Science誌(Effects of Unilateral Leg Weight Perturbation Intensity on Spatiotemporal Gait Parameter Symmetry and Lower Limb Muscle Activity: An Exploratory Laboratory Study in Healthy Adults)に掲載されています。

本研究のポイント

「重い×速い」高強度条件のみで、歩幅や関節角度などの空間的指標に学習効果(遅延適応・後効果)が認められました。

一方、スイング時間などの時間的指標には学習効果が生じず、脳による学習よりも即時的な調整に依存することが示唆されました。

負荷と速度の条件により筋活動パターンが異なることから、リハビリにおける適切な「処方設計(重さ・速さ)」の重要性が示されました。

研究概要

 私たちの脳には、歩行中に脚の重さや環境が変化しても、その誤差を感知して少しずつ動きを修正し、最適なパターンを学習する能力(適応)が備わっています。この学習効果は、重りなどの刺激を外した後もしばらく残ることがあり、これを「残効(aftereffects)」と呼びます。 リハビリテーションの現場では、脳卒中などによる歩行の左右非対称性を改善するために、片脚に重りをつけて歩く手法が用いられます。しかし、どのような「重さ」と「歩行速度」の組み合わせが、脳(中枢神経系)による効果的な運動学習を引き出すのかについては、これまで十分に分かっていませんでした。

 畿央大学大学院 健康科学研究科(修了生/現所属:トヨタ記念病院)の本川剛志氏、同大学 ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周教授らの研究チームは、健常成人15名を対象に、片脚に重りを装着してトレッドミルで歩く実験を行いました。実験では、負荷の強度を変えるために「軽い×速い」「重い×遅い」「重い×速い」という3つの条件を設定し、歩幅(ステップ長)の対称性や関節の角度、筋肉の活動パターンがどのように変化するかを詳細に解析しました。

 その結果、最も負荷が高い「重い×速い」条件においてのみ、歩行中に徐々に対称性が改善していく「遅延適応」という学習プロセスが明確に観察されました。さらに、重りを外した後も強い「残効」が現れ、歩幅や膝・股関節の動きに学習効果が定着しやすいことが示されました。 一方、他の2条件(軽い×速い/重い×遅い)では、重りを外した後の「残効」は見られましたが、歩行中の明確な「遅延適応」は生じませんでした。これは、負荷が不十分な場合、脳が積極的に動きを予測して修正する(フィードフォワード制御)までには至らない可能性を示唆しています。また、歩行のリズム(時間的指標)は空間的な動き(歩幅など)とは異なり、学習効果が残りにくいことも明らかになりました。

 本研究の新規性は、歩行の左右差を修正するためには、単に重りをつけるだけでなく、「速く歩く」ことを組み合わせた高い強度の負荷設定が、脳の学習機能を最大限に引き出す鍵であることを体系的に示した点にあります。 この知見は、「どの脚に、どれだけの重さをつけ、どのくらいの速さで歩けばよいか」という、効果的なリハビリテーションプログラムを設計するための科学的な根拠となります。今後は、実際に歩行障害を持つ患者さんへの応用が期待されます。

研究内容

 歩行中に脚の重さなどの環境が変化すると、私たちはその誤差を感知して動きを修正し、徐々に新しいパターンを学習します(遅延適応)。この学習効果は、環境が元に戻っても一時的に残存すること(後効果)が知られています。本研究では、リハビリテーションへの応用を見据え、「重さ(負荷量)」と「歩行速度」の組み合わせが、この学習プロセスにどのような影響を与えるかを検証することを目的としました。

 健常成人15名を対象に、片脚に重りを装着してトレッドミル歩行を行う実験を実施しました(図1)。条件は、負荷(体重の3%または5%)と速度(3.5 km/hまたは5.0 km/h)を組み合わせた「軽い×速い」「重い×遅い」「重い×速い」の3パターンとし、別日にランダムな順序で測定しました。 各条件のプロトコルは、ベースライン(5分)重りありの適応期(10分)重りなしの脱適応期(5分)とし、ステップ長(歩幅)とスイング時間(脚を振る時間)の対称性、下肢屈伸角度、筋活動を計測しました。

図1.実験環境および条件とプロトコルの概略

データ解析では、各時期(ベースライン:BL、適応期:EA/LA、脱適応期:EP/LP)から10歩ずつを抽出し、統計的に比較しました。

 実験の結果、最も高強度である「重い×速い」条件においてのみ、ステップ長の対称性と下肢屈伸角度の両方で、明瞭な遅延適応(徐々に対称性が改善する現象)と、強い後効果が確認されました(図2、3)。 一方、「軽い×速い」や「重い×遅い」条件では、ステップ長には後効果が見られましたが、関節角度の変化に顕著な後効果は認められませんでした。また、時間的な指標である「スイング時間の対称性」は、どの条件でも後効果を示しませんでした。

図2.ステップ長(歩幅)とスイング時間(脚を振る時間)の対称性の変化

各時期の定義 ・BLBaseline):ベースライン期終盤の10歩 ・EAEarly Adaptation):適応期開始直後の10歩 ・LALate Adaptation):適応期終了直前の10歩 ・EPEarly Post-adaptation):重り除去後(脱適応期)開始直後の10歩 ・LPLate Post-adaptation):重り除去後(脱適応期)終了直前の10

図3.下肢の関節角度(屈伸)における遅延適応と後効果

歩行周期全体を通した関節角度の変化(SPM1D解析)。 上段の**「低重量/高速度」条件では、重り側(摂動側)の振り出し動作において、初期(EA)から後期(LA)にかけて元の動きに戻る遅延適応が見られた(上部赤矢印)。 下段の「高重量/高速度」条件では、重りをつけていない側(非摂動側)において遅延適応**(下部赤矢印)が生じ、重りを外した後には両脚の蹴り出し動作(立脚後半)に強い後効果が出現した(右側赤枠)。これらの結果は、条件によって学習の現れ方が異なることを示している。

 

 これらの結果から、重い負荷と速い歩行の組み合わせは、感覚的な誤差信号と筋肉への出力要求を高め、その場しのぎの修正(フィードバック制御)だけでなく、脳による予測的な制御(フィードフォワード制御)を強く動員させると考えられます。これにより、空間的な運動パターン(歩幅や関節角度)の学習が促進されたと解釈されます。対照的に、時間的なリズム調整は即時的な反応に依存しやすく、学習効果が残りにくい特性があることが示唆されました。 本研究は、歩行のリハビリテーションにおいて、「どの脚に・どれだけの重さを・どの速さで」**という処方設計が、再学習の効果を決定づける重要な要素であることを示しています。

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究は、「重さ×速さ」の強度が歩行学習の効果を左右し、特に「高負荷×高速度」条件が空間的パターンの学習を強く促進することを実証しました 。これは、リハビリテーションにおける「どの脚に・どれだけの重さを・どの速さで」という科学的な処方設計の基盤となります 。今後は、脳卒中後の歩行障害に対する安全性を検証しつつ、個々の歩行特性に合わせた負荷設定や、日常歩行への波及効果を含めた臨床ガイドラインの構築を目指します。

 

論文情報

Motokawa T, Terasawa Y, Nagamori Y, Onishi S, Morioka S.

Effects of unilateral leg weight perturbation intensity on spatiotemporal gait parameter symmetry and lower limb muscle activity: An exploratory laboratory study in healthy adults.

Hum Mov Sci. 2025 Nov 4;104:103426.

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科

修士課程修了生(現所属:トヨタ記念病院) 本川剛志

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

教授 森岡 周

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

脳卒中患者の「二重課題歩行」の安定性、普段の歩行パターンから予測可能に

PRESS RELEASE 2025.11.16

脳卒中後、歩行中に同時に他の作業を行うとバランスを崩しやすくなることがあります。畿央大学健康科学研究科の北郷龍也氏、日本福祉大学健康科学部の水田直道助教、畿央大学健康科学研究科の蓮井成仁氏、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周教授らの研究グループは、通常歩行時の体幹の揺れや筋活動のパターンが、二重課題(歩行中に計算などを行う課題)歩行時の安定性に関係していることを明らかにしました。本研究の新規性は、二重課題歩行中の不安定さを、通常歩行中の特徴から予測できることを実証した点にあります。この成果は、転倒予防や脳卒中患者における歩行リハビリテーションの個別化に貢献するもので、今後の効果的な治療プログラム開発につながると期待されます。この研究成果はJournal of Electromyography and Kinesiology誌(Factors Influencing Instability during Dual-Task Walking in Stroke Patients)に掲載されています。

本研究のポイント

■単一課題歩行中の歩行速度、体幹加速度(RMS)、体幹動揺の規則性(サンプルエントロピー)を用いて、二重課題歩行時における不安定性の程度が予測可能であることを明らかにしました。

二重課題歩行時には、単一課題歩行時に比べて体幹の揺れや筋の共収縮が増加し、これらの変化が歩行速度の低下と関連していることが示されました。

本研究では、二重課題歩行中の不安定性を単一課題歩行の特性から予測可能であり、転倒リスク評価や個別化されたリハビリテーション介入の根拠に資する基盤が示されました。

研究概要

脳卒中を経験した多くの方々は,歩く際にバランスを崩しやすくなったり,転びやすくなったりすることがあります.さらに,日常生活では「歩きながら会話する」「考え事をしながら移動する」など,複数のことを同時に行う場面が頻繁にあります.しかし,脳卒中の後遺症を持つ方は,このような“二つのことを同時にこなす”状況,つまり「二重課題」に特に弱く,バランスを崩しやすくなることが知られています.

このような背景のもと,畿央大学健康科学研究科の北郷龍也,日本福祉大学健康科学部の水田直道 助教,畿央大学健康科学研究科の蓮井成仁,畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周 教授らの研究グループは,二重課題歩行時の不安定さを,単一課題歩行時の特性から予測できるかを検証しました.研究には30名の脳卒中患者が参加し,通常歩行(単一課題)と,計算などの課題を同時に行う二重課題歩行を比較.その際の歩行速度や体幹の揺れ,体幹の動きの複雑さなどを計測・分析しました.

その結果,単一課題歩行時の「歩行速度が遅い」「体幹の動きが大きい」「体幹の動きのリズムが不規則」といった特性が,二重課題歩行時の不安定さと強く関係していることが明らかになりました.つまり,複雑なタスクをしながらの歩行に不安がある人は,通常の歩行時にもすでに特有の不安定な動きが表れているということです.

この研究の新規性は,これまで感覚的・経験的に語られがちだった「二重課題に弱い」という問題を,具体的な身体データによってその特徴を定量的に示した点にあります.これにより,転倒リスクの早期発見や,認知と運動を組み合わせた個別リハビリテーション計画の立案が,より科学的な根拠をもって進められる可能性が広がります.

研究内容

脳卒中を経験した多くの方々は、歩く際にバランスを崩しやすくなったり、転びやすくなったりすることが知られています。さらに、歩きながら別の作業(例えば、計算や会話など)を同時に行う二重課題歩行では、よりバランスを失いやすくなります。しかし、脳卒中後の患者がなぜ、このような不安定さを感じやすいのか、通常の歩行との関連性については十分に解明されていませんでした。

本研究では、脳卒中後の患者30名を対象に、単一課題歩行(通常の歩行)と二重課題歩行(歩行中に引き算を行う)の両方において、慣性センサーと筋電図を用いて体幹の動きや筋活動を測定しました。その結果、二重課題歩行時には通常歩行時に比べて歩行速度が低下し、体幹の揺れ(RMS)や体幹動揺の規則性(サンプルエントロピー)、下肢筋の共収縮が増加することが明らかになりました(図1)。

また、単一課題歩行から二重課題歩行における歩行速度低下率は臨床評価と有意な相関を示しませんでしたが、同時収縮指数、サンプルエントロピー、RMSにおいては有意な負の相関を示しました(図2)。

さらに、通常歩行時の歩行速度、体幹の揺れ、体幹動揺の規則性が、二重課題歩行時の不安定性を予測する因子であることを統計的に示しました。

図1.単一課題および二重課題条件下での体幹加速度、下肢筋活動、および歩行評価

左および中央パネル:単一課題歩行時(a)および二重課題歩行時(b)における体幹の前後方向、側方方向、垂直方向の加速度;単一課題歩行時(c)および二重課題歩行時(d)における前脛骨筋およびヒラメ筋の筋活動.右パネル:条件間における単脚支持時間対称性指数(e);RMS(f);サンプルエントロピー(g);同時収縮指数(h)の箱ひげ図.

図2.歩行速度低下率と臨床評価および歩行評価との関連性

この研究の新規性は、これまで歩行中の認知課題が与える影響だけに着目されていた「二重課題における問題」を、通常時の歩行特性データによって予測できる可能性を示した点にあります。これにより、脳卒中リハビリテーションの新戦略や、歩行の個別化治療の設計に貢献できる可能性があります。

本研究の臨床的意義および今後の展開

脳卒中後における歩行不安定性が、単一課題歩行時の特性から予測可能であることを示し、二重課題歩行時の転倒リスク評価に新たな視点を提供しました。今後は、単一課題歩行の指標を活用した新規リハビリテーションの効果検証と、認知機能負荷に対応したトレーニングプログラムの開発を行う予定です。

 

論文情報

Ryuya Kitago, Naomichi Mizuta, Naruhito Hasui, Shu Morioka

Factors Influencing Instability during Dual-Task Walking in Stroke Patients

J Electromyogr Kinesiol. 2025 Oct 26;85:103077

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科

博士後期課程 北郷 龍也

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

教授 森岡 周

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

第23回日本神経理学療法学会学術大会にて本学関係者が多数登壇・受賞しました!

2025年10月31日〜11月1日に、石川県金沢市の石川県立音楽堂にて「第23回日本神経理学療法学会学術大会」(以下、第23回学術大会)が開催されました。
本大会は全国から約2,000名が参加し、発表演題数は800を超える過去最大規模での開催となりました。畿央大学大学院およびニューロリハビリテーション研究センターからも多くの大学院生・修了生・研究員・教員が参加し、研究発表や講演、そして多数の受賞という形で大きな成果を収めました。

今回は、第23回学術大会での畿央大学大学院,ニューロリハビリテーション研究センター関係者の活躍をご紹介したいと思います。

 学会での主な講演・発表

初日には、大住倫弘准教授がモーニングセミナーにて「感覚機能低下に対する理学療法」をテーマに講演を行い、臨床現場に即した感覚リハビリテーションの最新知見を共有しました。

続く特別講演では、立教大学の河野哲也先生を講師に迎え、「科学の哲学 − 根拠と反証のための問いの立て方」というテーマで講演が行われ、森岡周教授が司会として哲学的観点から科学の根拠を掘り下げる議論を展開しました。

スキルアップレクチャーでは、客員研究員の水田直道氏(現・日本福祉大学 助教授)が「歩行リハビリテーションの個別化治療戦略」をテーマに講師を務め、臨床実践に根ざした講演が多くの聴講者を引きつけました。

さらに、基幹シンポジウムでは、客員研究員の藤井簾氏(現・武蔵ヶ丘病院武蔵ヶ丘臨床研究センター 主任研究員)が「臨床と研究を架け橋する地方民間病院の実践モデル:歩行障害の定量的評価から個別化アプローチまで」をテーマに発表し、様々な機器を導入し地域病院から発信する臨床研究の新たなモデルを提示しました。

一般演題では、CREST研究(https://www.kio.ac.jp/nrc/2023/10/06/crest/)の一部として、研究センター長の森岡周教授が「脳卒中後の上肢に関する経験の構造:現象学的アプローチによる縦断事例研究」を発表し、

大学院生の三枝慎吾氏が「脳卒中後の歩行に関する経験の構造:現象学的アプローチによる縦断事例研究」を発表しました。

両演題は、従来の研究とは異なり、データのみならず“患者の語り”に焦点を当てた新しい研究アプローチとして注目を集めました。

また、セレクション演題(表彰対象)には、大学院生の寺澤雄太さん、山崎雄一郎さん、田上友希さん、堀めぐみさん、および修了生の本川剛志さん(現・トヨタ記念病院)の演題が選出されました。
中でも、博士後期課程の田上友希さんが最優秀賞
に輝き、他の方々も優秀賞・奨励賞を受賞する快挙を達成しました。

2日目のランチョンセミナーでは、佐々木遼研究員が「非侵襲的な温冷刺激を用いた疼痛の可視化:サーマルグリル錯覚の活用」というテーマで講師を務め、革新的な疼痛評価技術に関して活発な議論が行われました。

このほかにも、2日間にわたり多くの一般演題が発表され、本学関係者が多方面で活躍を見せました。

 畿央大学大学院生・修了生の輝かしい受賞

800を超える演題の中から、本学大学院健康科学研究科の修了生および在学生が多数表彰されました。
以下に受賞者の皆さんとその研究内容を紹介します。

最優秀賞(1名中1名)

田上 友希 氏(博士後期課程在籍/森岡周研究室、写真左から4番目)
演題名: 脳卒中後体幹機能評価の統合的構造解明 ― 多尺度因子分析とRasch解析による新評価モデル ―
コメント:このたび最優秀賞を受賞でき、大変光栄に思います。ご指導いただいた先生方やご協力くださった皆さまに、心より感謝申し上げます。

 

優秀賞(3名中2名が本学関係者)

寺澤 雄太 氏(西大和リハビリテーション病院/博士後期課程在籍、写真左から3番目)
演題名: スペクトログラム形状特徴量を用いた定常歩行からのパーキンソン病のすくみ足の識別:横断研究
コメント:このような賞を受賞でき、大変光栄に思っております。今後も臨床現場や対象者に貢献できるよう、研究を続けてまいります。

 

本川 剛志 氏(トヨタ記念病院リハビリテーション科/2025年3月修士課程修了、写真左から5番目)
演題名: 重症虚血性脳卒中患者における注視偏倚と体幹起居能力は脳卒中関連肺炎を独立に予測する
コメント:森岡ゼミでの学びと先生方のご支援のおかげで受賞できました。この経験を励みに、今後も臨床・研究に励んでいきます。

 

奨励賞(5名中2名が本学関係者)

山崎 雄一郎 氏(博士後期課程在籍/森岡周研究室、写真左から2番目)
演題名: 小脳性運動失調歩行における方向特異的・速度依存的な体幹制御特性の定量的解析
コメント:森岡先生、水田先生、歩行チームの多大なサポートに感謝しています。今後も臨床課題の解明に向け、研究を続けていきたいです。

 

堀 めぐみ 氏(宝塚リハビリテーション病院/修士課程在籍、写真左から1番目)
演題名: 歩行時視線制御の特異的代償戦略 ― 脳卒中患者における機能・能力と視線パターンの関連 ―

コメント:このような賞を受賞でき、大変嬉しく思っております。今後も成果を出せるよう、研究を続けてまいります。

 終わりに

今回の成果は、指導教員をはじめとする多くの関係者の支えと、研究に真摯に取り組む院生・研究員一人ひとりの努力によって実現したものです。全ての関係者の皆様に心からの感謝を申し上げます。
本学は今後も、理学療法学および神経リハビリテーションの発展に貢献できるよう努めてまいります。

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター長

森岡  周

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

特任研究員 大西 空