新学術領域研究「身体性システム」若手の会に参加しました
12/4に名古屋大学にて行われた身体性システム若手の会主催・勉強会に参加させていただきました.本勉強会は新学術領域研究「身体性システム」http://embodied-brain.org/の一環で行われ,森岡周教授が畿央大学大学院で行われている研究を主に講演されました.また,東京農工大学の矢野史朗 先生と東京大学の藤木聡一朗 先生の話題提供も行われました.その後,矢野先生にベイズ推定等の学習アルゴリズムに関する研究相談をさせていただき,今後の研究指針を定めることができました.今回の勉強会に参加し,研究相談の機会を与えてくださった森岡教授に感謝申し上げます.
畿央大学大学院 健康科学研究科
神経リハビリテーション学研究室
博士後期課程 西 祐樹
東京大学 今水 寛 学習機構研究室を訪問しました.
12/1に東京大学の今水研究室(心理学研究室)に森岡周教授,西祐樹(博士後期課程)と私(林田一輝 修士課程)が訪問し,研究成果の発表および今後の研究計画の検討に行って参りましたので報告させていただきます.
今回は新学術領域研究「身体性システム」の一環で行われました.本領域は,脳内身体表現の神経機構とその長期的変容メカニズムを明らかにし,リハビリテーション介入へと応用することを目的としています.また別分野の研究室とインタラクションすることで新しい研究へ発展させることも重要視されています.今水研究室は認知学習や運動学習に関わる脳の仕組みを解明するとともに,学習や適応を支援する技術の開発を行っており(ホームページ引用 http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~imamizu/index.html),運動制御・運動学習分野でご活躍されている今水教授から貴重な意見をいただきました.森岡教授のagency attribution,西のBayesian inference,私のintentional bindingに関するの研究についてそれぞれ発表し,今後について検討致しました.今すぐに解決できる簡単な問題ばかりではありませんが,ブレークスルーできるように頂いた意見を元に研究計画を立てていきたいと思います.
また私自身,今水教授とディスカッションできたことは大きな報酬となり,今後の研究活動に対してモチベートされました.このような機会を与えてくださった森岡教授に感謝申し上げます.今後,共同研究へと発展させ,成果を挙げられるよう努力していこうと思います.
畿央大学大学院 健康科学研究科
神経リハビリテーション学研究室
修士課程 2年 林田一輝
大学院生が日本基礎心理学会第36回大会でポスター発表をしました!
12/1〜3に立命館大学大阪いばらきキャンパスで開催された日本基礎心理学会第36回大会で大学院生の石垣智也(博士後期課程)と私(林田一輝 修士課程)が発表してきましたので,が報告させていただきます.
本大会の扱う分野は非常に多岐にわたり,知覚,運動,動物研究,高次脳機能,言語,発達など様々でした.「共感覚的体験:ワークショップと研究の最前線」という題で行われたシンポジウムでは,ブーバ・キキ効果などの「音象徴」と各感覚モダリティを越えて知覚される「共感覚」の違いについての説明とその最前線の研究の紹介が行われ,その不思議さに非常に興味を注がれました.懇親会では「錯視・錯聴コンテスト」の授与式が行われ,受賞された作品をみんなで鑑賞しながら,そのメカニズムについて和気あいあいとディスカッションがなされていました.普段参加している医療やリハビリテーション関連の学会とは違い,本学会は終始穏やかで,優しい雰囲気でした.今回の参加で感じたことは,皆が非常に楽しみながら研究しており,新しい発見に対して高いモチベーションを持って活動をしていることです.本来科学に対する姿勢はこうあるべきだと関心する反面,研究結果が意味する社会的意義を考慮すると批判的に向き合うことも重要であり,両者の行き来が大切であると感じました.
私は「他者との目的共有が行為主体感と運動パフォーマンスに及ぼす影響」という題で発表させていただきました.普段とは違い,医療従事者ではない相手に研究内容を理解してもらうのは難しく非常に勉強になりました.発表時間を超えても質問に来てくださる方がおり,自分自身の研究分野の位置付けを確認する良い機会となりました.
このような経験ができたのは森岡教授をはじめとする多くの方のご指導と畿央大学の支援があってものです.この場を借りて感謝申し上げます.今後,速やかに国際雑誌へ投稿し,少しでも還元できるよう努力致します.
発表演題
石垣智也「身体接触を介した暗黙的な二者間姿勢協調とラポールとの関係」
林田一輝「他者との目的共有が行為主体感と運動パフォーマンスに及ぼす影響」
畿央大学大学院 健康科学研究科
神経リハビリテーション学研究室
修士課程 2年 林田一輝
身体に軽く触れることで示される無意識的な二者間姿勢協調と社会的関係性との関係
PRESS RELEASE 2017.11.23
日常生活やリハビリテーション場面において,身体接触を介して二者の姿勢や運動が影響し合うこと(例えば,手を繋いで歩く,動作介助など)があります.実際,立位姿勢でお互いに軽い身体接触を行うと,両者の姿勢の揺らぎが無意識的に類似することが知られています.畿央大学大学院健康科学研究科の石垣智也らは,この揺らぎの類似性と二者間の社会心理学的な関係性(親密度)が関係することを明らかとしました.これは,身体接触による触覚情報を用いたヒトとヒトの姿勢運動制御の相互作用を理解する基礎的知見になるものと期待されます.この研究成果は,Frontiers in Psychology誌(Association between Unintentional Interpersonal Postural Coordination Produced by Interpersonal Light Touch and the Intensity of Social Relationship)に掲載されています.
研究概要
手を繋いで歩く,ペアでのダンス,そして介護やリハビリテーション場面における動作介助など,身体接触を介して二者の姿勢や運動が影響し合うことがあります.この際,身体接触から加えられる情報は,接触による力学的要因と感覚的要因に分けられます.加えられる力による姿勢や運動への影響は明らかなことですが,本研究では,後者の感覚的要因,つまり身体接触により生じる触覚情報の影響に着目しています.
ヒトの安静立位は一見すると安定しており,運動は生じていないようにみえますが,実際には狭い範囲で常に姿勢は揺ぎながら安定しています.この際,二者が互いに軽い身体接触を行うと,両者の姿勢の揺らぎが無意識的に類似すること(二者間姿勢協調)が知られています.これは,姿勢を制御するために用いている感覚情報に,パートナーの姿勢の揺らぎを反映した触覚情報が取り入れられるために生じると考えられています.一方,社会心理学的な知見によると,運動の二者間協調(模倣や身体同調などとも呼ばれています)は両者の社会心理学的な関係の良さを反映するとともに,良好な関係を形成する“社会的接着剤”として機能していることが知られています.しかし,これまでの研究では,立位姿勢の揺らぎという複雑で無意識的な運動の二者間協調に対して,社会的な関係の良さが影響しているかは明らかになっていませんでした.そこで研究グループは,身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調と,相互作用する二者の社会的関係性との関係を検討しました.
実験では,既存の社会的関係(知人,友人または親友)にある同性ペアを対象に,それぞれパートナーへの関係性(親密度)を評価しました.その後,閉眼安静立位姿勢にて身体接触を行わない条件(非接触条件)と,接触による力学的影響を最小化するライトタッチという方法(約102g未満の接触力)で軽い身体接触を行う条件(接触条件)の姿勢の揺らぎを二者同時測定し,姿勢の揺らぎの類似性とペアの親密度との関係を分析しました.結果,対象者の自覚なしに接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認め,接触条件で無意識的な二者間姿勢協調を生じていることが確認されました.さらに,この姿勢協調の程度とペアの親密度との関係を分析したところ,左右方向(パートナーが立っている側)における姿勢協調の程度と親密度においては正の関係(親密度が高いほど姿勢の揺らぎが類似する)を示したのに対し,前後方向では負の関係(親密度が低いほど姿勢の揺らぎが類似する)を示しました. つまり,身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調は,相互作用する二者の社会的な関係性(親密度)と関係していることが明らかとなりました.
本研究のポイント
■ 軽く身体に触れることで示される無意識的な姿勢の揺らぎの類似性は,相互作用する二者の親密度と関係することを明らかにしました.
研究内容
本研究では,身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調と,相互作用する二者の社会的な関係性との関係を検討しました.実験は,既存の社会的関係(知人,友人または親友)にある同性ペアを対象に行い,はじめに,それぞれ別室でパートナーとの関係性を問う複数の心理アンケート行い,その結果をもとにパートナーへの親密度を評価しました.その後,安静立位姿勢にて軽い身体接触を行う条件(非接触条件)と,接触による力学的影響を最小化するライトタッチという方法(約102g未満の接触力)で軽い身体接触を行う条件(接触条件)(図1)の姿勢の揺らぎを二者同時測定し,測定後に「相手と自分の姿勢の揺らぎが似ていると感じたか」という問いに対する内省を得ました.
図1:実験条件
安静閉眼立位でパートナーの側方に位置し,示指でパートナーの示指に軽く接触を行います.
※軽く接触する程度はライトタッチ(約102g未満の接触力)の設定で行われています.
結果,対象者の自覚なしに接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認め(図2),接触条件で無意識的な二者間姿勢協調を生じていることが確認されました.
図2:姿勢の揺らぎの類似性
左右方向・前後方向の揺らぎともに,接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認めています.
さらに,この二者間姿勢協調の程度とペアの親密度との関係を,階層線形モデリングという個人とペアのデータ構造を扱う統計手法で分析したところ,左右方向(パートナーが立っている側)における姿勢協調の程度とペアの親密度は正の関係(両者が親密と感じているほど強く協調する)を示し,前後方向では負の関係(両者が親密と感じているほど協調は弱い)を示しました(図3)(図4).
図3:接触条件における二者間姿勢協調と親密度との関係
ダイヤが個々の値,丸がペアでの値を示します.いずれの値も左右方向における二者間姿勢協調の程度と親密度において正の関係を示しており,前後方向では負の関係が示されていることを確認できます.
図4:階層線形モデリングの結果
左右・前後ともに接触条件の揺らぎの類似性が,それぞれペアの親密度に対して正の関係,負の関係を示す要因であることを示しています.
この研究結果に対して研究グループは,良好な親密度は,姿勢制御のために用いられる感覚情報として,パートナーの揺らぎを反映した触覚情報を自身の揺らぎの情報よりも優先的に取り入れるように作用するため,二者間姿勢協調と親密度に関係が示されたと考察しています(図5).また,揺らぎの方向で関係が異なったことについては,側方に二者が近接して位置された立位条件で実験が行われており,左右方向において強くパーソナルスペースに侵入する設定になっていたことが要因ではないかと考察しています.
図5:本研究結果のモデル図
ペアの親密度がお互いのパートナーからの情報を取り込む程度を調整することを示しており,ペアの親密度が良好であれば合成された情報の多くに,パートナーの姿勢の揺らぎを反映した情報(自身の情報は相対的に減少)が含まれることを意味しています.
本研究の意義および今後の展開
本研究成果は,触覚情報を用いたヒトとヒトの姿勢運動制御の相互作用を理解する基礎的知見のひとつになるものと期待されます.また,この基礎的知見は,介護者やリハビリテーション専門家がバランス能力の低下した対象者の身体に触れ,姿勢や動作を介助することの社会心理学的意義の解釈を示唆しているものとも言えます.本研究により,二者間姿勢協調における社会心理学的側面の一部が明らかとなりましたが,運動学的側面や神経科学的側面の理解は未だ明らかになっていない点が多く,この点に対する更なる基礎研究が望まれます.さらに,今後はこのような二者間協調の視点をもって,療法士と患者などを対象とした臨床場面における研究展開も望まれます.
論文情報
Ishigaki T, Imai R, Morioka S.
Frontiers in Psychology. 2017
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 石垣 智也(イシガキ トモヤ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: p0611006@gmail.com
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2017年畿央祭ウエルカムキャンパス
2017年畿央祭ウエルカムキャンパスにおいて,畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター企画として,2つのイベントを開催いたしました.
同研究センター特任助教の大住倫弘先生と大学院生は,『腰痛が気になる方へ「腰痛チェックをしてみよう!」』と題したイベントを開催いたしました.この企画は,①自分の腰の柔軟性・運動のスムーズさを無線センサで記録,②腰痛ストレスを脳波で計測,③痛みに対しての認識をアンケートで記録して,それらの結果を口頭でフィードバックするイベントです.2日間で70名以上の方々に参加して頂き,一緒に腰痛について話し合うことができて非常に勉強になりました.「へぇ~ 今はこんなことも簡単に測れるんやなぁ!」と言って頂くことも多く,この日のために計測システムの簡略化に時間を割いた甲斐がありました^^ また,理学療法士である大学院生の方々の丁寧な対応は素晴らしく,参加された方々の腰痛を多面的にチェックして頂き,大変頼もしく思いました!予想をはるかに超えるニーズがありましたので,今後はさらにバージョンアップしたシステムで臨もうと考えております!
同研究センター特任助教の信迫悟志先生と教育学部准教授の古川恵美先生のゼミ生17名は,昨年に引き続き『子どもたちへ「運動の器用さにチャレンジしてみよう!!」』と題したイベントを開催いたしました.この企画は,3-16歳までの子どもたちに,運動の器用さと運動学習力を測定する機会を提供するものです.2日間で72枚の整理券を準備しておりましたが,約100名の子ども達(保護者を合わせると約200名)が足を運んでくれました!!台風で足場が悪く,また開催時間が短縮されたにも関わらず,多くの子ども達や保護者の方に参加して下さいまして,誠にありがとうございました.子どもたちが熱心に取り組んでいる姿が印象的でした!!将来,教職に就くことを目標としている教育学部の学生たちにとっても,子どもたちに接する良い経験になったと思われます.
来年度も引き続き畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターでは,痛みや運動発達をテーマにしたイベントを開催する予定です!!今回参加して喜んで頂いた方はもちろん,この記事でご興味を持たれた方は,是非とも来年度の畿央祭ウエルカムキャンパスにご参加ください!!
文責
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
特任助教 大住倫弘
特任助教 信迫悟志
腱振動刺激による運動錯覚の鎮痛メカニズム
PRESS RELEASE 2017.10.17
畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程の今井亮太らは,橈骨遠位端骨折術後患者に腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで痛みの軽減と運動機能の改善が認められたことを確認してきました(Imai, 2016; 2017).本研究は,この振動刺激による運動錯覚の鎮痛効果に関与する神経活動(脳波研究)を調査したものであり,感覚運動関連領域の興奮と鎮痛との間の関係性を確認したものです.この研究成果は,NeuroReport誌(Effects of illusory kinesthesia by tendon vibratory stimulation on the post-operative neural activities of distal radius fracture patients)に掲載されています.
研究概要
2016,2017年に今井らは,橈骨遠位端骨折術後患者に対して腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで,痛みの感覚的側面や情動的側面の改善だけではなく,運動機能にも改善が認められたことを報告してます.運動錯覚時には実際に運動するときと同様の脳活動が得られることと,鎮痛には運動関連領域の活動が関与していることが明らかにされていました.しかしながら,この運動錯覚時に認められる感覚運動関連領域の活動が鎮痛効果に関与するかどうかは不明瞭なままでした.そこで本研究では,橈骨遠位端骨折術後患者に対して腱振動刺激による運動錯覚を惹起させ,脳波を用いて運動錯覚中の感覚運動関連領域と痛みとの関連性を調査しました.その結果,すべての患者が運動錯覚を惹起したわけではありませんでしたが,運動錯覚を惹起した群(9名中6名)は,運動時や運動錯覚時に認められる脳活動が感覚運動関連領域に認められました.つまり,痛みが強く運動が困難な術後患者でも,運動錯覚を惹起していることが脳活動の側面から示されました.そして,感覚運動関連領域の活動の程度と痛みの変化量(術後7日目 – 術後1日目)に有意な負の相関関係(脳活動が高いほど痛みの減少量が大きい)が認められました.これらのことから,術後早期から運動錯覚が惹起可能であり,かつ振動刺激によって感覚運動関連領域が強く興奮する患者においては,痛みに対する介入効果が大きいことを示しました.
本研究のポイント
■ 術後翌日から腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで,感覚運動関連領域の神経活動が認められた .
■ 感覚運動関連領域の活動の程度が鎮痛の効果量に関係している.
研究内容
橈骨遠位端骨折術後から腱に振動刺激を与えながら(図1),その時の脳活動を脳波計で測定しました.
そして,運動錯覚が惹起した群と惹起しなかった群の脳活動と痛みを比較しました.
図1:腱振動刺激による運動錯覚の課題状況
脳波解析の結果,運動錯覚を惹起した群では感覚運動関連領域の活動が認められましたが,運動錯覚を惹起しなかった群では認められませんでした(図2).
図2:腱振動刺激時に認められた脳活動(*青色の方が活動の強いことを意味する)
a:運動錯覚を惹起した群.b:運動錯覚を惹起しなかった群
安静時痛の変化量と感覚運動関連領域の活動に有意な負の相関関係が認められました(図3).
つまり,感覚運動関連領域の活動が大きいほど,鎮痛の効果量も大きいことが示されました.
図3:左感覚運動領域と右感覚運動領域の活動と安静時痛の変化量
今後の展開
痛みが抑制されたメカニズムが明確になっていないため,今後は神経生理学メカニズムの詳細を明らかにしていきます.
関連する先行研究
Imai R, Osumi M, Morioka S. Influence of illusory kinesthesia by vibratory tendon stimulation on acute pain after surgery for distal radius fractures: A quasi-randomized controlled study. Clin Rehabil. 2016; 30: 594-603.
Imai R, Osumi M, Ishigaki T, Morioka S. Effect of illusory kinesthesia on hand function in patients with distal radius fractures: a quasi-randomized controlled study. Clin Rehabil. 2017.31:696-701
論文情報
Imai R, Osumi M, Ishigaki T, Kodama T, Shimada S, Morioka S.
Neuroreport. 2017 Oct 11.
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 今井亮太(イマイ リョウタ)
E-mail: ryo7891@gmail.com
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
大学院生が第41回日本神経心理学会学術集会で発表しました.
2017年10月12日,13日に東京で開催された第41回日本神経心理学会学術集会に参加・発表してきましたので,私(林田一輝 修士課程)から報告させていただきます.本大会は医師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,心理学者など多岐にわたる分野の臨床家,研究者が参加しており,非常に活発な議論がなされていました.症例報告では,どの先生方も臨床症状について深く考察されており,熱心な臨床に対する態度が伺え,私自身襟を正されました.シンポジウムでは「高次脳機能障害の治療戦略」や「認知モデルと方法論」といったテーマが取り上げられ,神経心理学の方向性が治療,リハビリテーションの実践にあることが示されていました.また,河村満先生から「神経心理学を学ぶ人のために」という題で特別講演が行われました.ブロードマンの脳地図が死後100年経っても残っているように,臨床・研究をわかりやすく表現していく努力が必要であるというメッセージを頂きました.
私は「他者との目的共有が運動主体感と運動学習に及ぼす影響」という演題で発表致しました.本研究は,運動主体感を増幅させる手立てを他者関係の視点から探るとともに,運動主体感が運動学習効果に与える影響を調査したものです.フロアから運動主体感・運動学習に関する的確な質問,意見をいただき自身の研究を見直す良いきっかけとなりました.また,自己意識に関する発表に質問,ディスカッションすることで,考えや問題点を共有することができ,私にとって今回の学会参加は成功体験となりました.今回頂戴した意見を参考にさらに精度を上げた研究に取り組んでいきたいと思います.
このような貴重な経験ができたのは森岡教授をはじめとする多くの方のご指導と畿央大学の支援があってのものです.この場を借りて深く感謝申し上げます.今後は研究成果を国際雑誌に投稿し,少しでも還元できるよう努力致します.
畿央大学大学院 健康科学研究科
神経リハビリテーション学研究室
修士課程 2年 林田一輝
博士後期課程のメンバーが学会発表で優秀賞を受賞しました!
平成29年9月30日-10月1日に神戸商工会議所にて第22回日本ペインリハビリテーション学会学術大会が開催され,「Clinical Pain Rehabilitation 〜概念から臨床実践へ〜」というテーマで,過去最多65演題の一般演題と300名を超える参加者が集いました.
今大会でのシンポジウムでは本大学院からも今井亮太さん(博士後期課程)が「骨・関節痛に対する理学療法」,大住倫弘特任助教が「中枢機能障害性痛に対する先駆的ペインリハビリテーション」というテーマで講演されました.痛みを有する方の運動恐怖をはじめとした心理的側面を行動学的に評価・介入し,慢性痛の発生を予防する試みは,まさに本大会のテーマであります「概念から臨床実践へ」応用する一つの手段であると思います.
また,本大学院の片山脩さん(博士後期課程)が「延髄梗塞後にしびれが出現した症例に対する脳波を用いた新たな運動イメージ介入の効果」で,私(西 祐樹)は「痛み関連回避戦略の心理学的特性-恐怖条件付けに基づく行動選択パラダイムを用いて-」という演題で優秀賞を受賞致しました.この場をお借りして森岡周教授をはじめ,大住倫弘特任助教,信迫悟志特任助教,本学本大学院の神経リハビリテーション学研究室の皆様に心より感謝申し上げます.今後も日々邁進し,痛みで苦しむ方に少しでも貢献できるよう取り組んでまいります.
畿央大学大学院健康科学研究科
博士課程1年 西 祐樹
[Journal Club]最大前方リーチにおける触覚誘導のための対人相互作用
Steinl SM, Johannsen L.
Interpersonal interactions for haptic guidance during maximum forward reaching.
Gait Posture. 2017 Mar;53:17-24.
リハビリテーション場面において,療法士が対象者の動作介助(例:立位・歩行動作など)を行うために,身体接触を伴う徒手的方法を用いることは多くみられます.この際,療法士の介助が対象者の姿勢運動制御に影響を与える要因には,徒手的に加えられる力学的要因だけでなく,接触に起因する感覚的要因(触覚情報)があります.しかし,この触覚情報により双方または二者間の姿勢運動制御にどのような影響を及ぼすのかについての知見は散見される程度となっています.特に,ある目的のある運動課題において「影響を与える側(例:介助者)」と「影響を受ける側(例:被介助者)」のような役割設定を行い,触覚情報の相互作用が「影響を受ける側」の姿勢運動制御にどのような影響を与えるのかは明らかにされていません.
今回紹介する論文は,立位姿勢において一側上肢を可能な限り前方へとリーチさせる「最大前方リーチ課題(ファンクショナルリーチテストと同様な運動)」を行う者に対して,他者がリーチ側上肢への軽い身体接触(対人接触)により触覚情報を付加することで示される姿勢運動制御への影響を調べたものです.
健常若年者で構成されたペア(対象者AとB)を対象としており,対象者Aは閉眼安静立位にて右上肢で最大前方リーチ課題を実施することが求められます.この際,対象者Aの左側方に位置している対象者Bは,リーチを行っている対象者Aの右手首に右示指を用いて軽い対人接触を行い,対象者Aのリーチ運動に追従することが求められます.すなわち,対象者Aは対象者Bから対人接触を受けつつ主導的にリーチを行う役割(被接触者)にあり,対象者Bは対象者Aを対人接触によってフォローするといった役割(接触者)にあります.
また,実験では
①対象者Aのリーチ先に接触対象物(僅かな外力で滑動する軽量物)がある条件とない条件
②対象者Bが閉眼または開眼して対象者Aへ接触を行う,または,開眼で接触を伴わずに視覚誘導で対象者Aのリーチに追従する条件
の2要因からなる6条件が実験条件として設定されました.
計測は床反力計とモーションキャプチャーを用いて行われ,足圧中心動揺速度の変動性(姿勢動揺),リーチ上肢の運動距離と動揺速度変動性(リーチ距離とリーチ運動の動揺),そして床反力モーメントの相互相関係数(姿勢運動制御の相互作用)とその時間差(相互作用において対象者AとBのどちらが主導しているかの指標)が解析されました.
結果として,接触対象物がある場合は対象者A(被接触者)のリーチ距離がない場合に比べ増加し,姿勢動揺とリーチ運動の動揺を減少させることが示されました.さらに,この姿勢動揺とリーチ運動の動揺の減少は,対象者B(接触者)が閉眼で接触を行っている条件において最も顕著に示されました.また,接触を行う場合には,行わない場合に比べて対象者AとBの姿勢運動制御の相互作用が高く示されるが,これに接触対象物を加えた場合には,相互作用の程度が減少することが示されました.一方,相互作用の時間差については,主として対象者B(接触者)は対象者A(被接触者)の運動に遅れて反応することが示されましたが,接触対象物がなく対象者Bが閉眼で接触を行う場合には,この時間的関係性が逆転する(対象者BがAに先行する)ことが示されました.
これらの結果から,目的のある運動課題の姿勢運動制御において,対人接触を介した触覚情報に基づく相互作用は,被接触者と接触者の各々の状態に応じて変調することが明らかとなりました.具体的には,姿勢動揺の減少や運動の安定化のためには,加えられる触覚情報の参照点が多い(接触対象物と対人接触)と効果的であること.また,目的とする運動課題から明確なフィードバック情報を得ることができる場合(接触対象物があり対人接触を伴う条件)では,双方の情報が競合することで,接触者から加えられるフィードバック情報に対する感覚情報の重みづけが相対的に低下し,二者間の相互作用が減弱すること.一方,接触対象物がなく被接触者が得るフィードバック情報が接触者からの触覚情報に限局されており,さらに接触者が閉眼しており視覚的に被接触者の反応を得ることの出来ない場合には,相互作用を主導する役割が被接触者から接触者側へと切り替わるということです.
Steinlら(本論文著者ら)は「本研究の結果は,臨床の介助場面においても,相互作用する両者のおかれている感覚や運動の状態を考慮する必要があること示唆している」,「対人接触による触覚誘導を介助者主導とするには,被介助者が利用できる他の競合する触覚情報がないこと,そして,介助者側は視覚に基づいた反応的な対応を意図的に控える方略が必要かもしれない」と述べています.
運動‐知覚の不協和が主観的知覚と筋活動に及ぼす影響
PRESS RELEASE 2017.9.26
脳卒中後に運動麻痺が生じると“自分の手が思い通りに動かない”,いわゆる運動の意図と実際の感覚フィードバックが解離した状態になります.このことは「運動‐知覚の不協和 (Sensorimotor incongruence)」と呼ばれており,さまざまな問題を引き起こす要因として考えられてきました.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周教授と大住倫弘特任助教らは,明治大学理工学部の嶋田総太郎教授らと共同で,仮想的に“自分の手が思い通りに動かない”という実験環境を用いて,運動‐知覚の不協和が身体の違和感だけでなく,実際の運動をも変容させてしまうことを実験的に明らかにしました.この研究成果はHuman Movement Science誌(Sensorimotor incongruence alters limb perception and movement)に掲載されています.
研究概要
脳卒中によって生じる運動麻痺によって“自分の手が思い通りに動かない”という訴えは臨床現場で非常に多く聴かれます.これは「動かそう」という意図に反して,「実際には動かない」という感覚フィードバックに直面した結果としての訴えであり,「運動‐知覚の不協和」と呼ばれたりします.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周教授と大住倫弘特任助教らは,明治大学理工学部の嶋田総太郎教授らと共同で,映像遅延システムを用いて仮想的な運動‐知覚の不協和を起こすことによって “手が自分のもののように感じない” “手が重だるくなってきた”という主観的な異常感覚を惹起させるだけでなく,実際の筋活動量も減少させてしまうことを明らかにしました.この研究成果は,運動‐知覚の不協和そのものが運動単位の動員を妨げることを明らかにしたとともに,運動‐知覚の不協和が起こることによって,運動麻痺の回復を遅延させてしまう重要な要因を示したものです.
本研究のポイント
映像遅延システムを用いた実験によって,運動‐知覚の不協和が主観的な異常感覚だけでなく,運動実行までも変容させてしまうことを明らかにした.
研究内容
健常大学生を対象に,映像遅延システム(図1)の中で手首の曲げ伸ばしを反復させます.映像遅延システムでは,被験者の手の鏡像をビデオカメラで捉えて,そのカメラ映像を「映像遅延装置」経由でモニターへ出力させます.出力されたモニター映像を鏡越しに見ることによって自分の手を見ることができるものの,映像遅延装置によって作為的に映像出力が時間的に遅らされるため,被験者は“あれ?自分の手が遅れて見えるんだけど” “うぅ…自分の手が思い通りに動いてくれない”という状況に陥ることになります.
図1:映像遅延システムを用いた実験
自分で動かした手が時間的に遅れて映し出される細工がされている.こうすることによって,ヒトの運動‐知覚ループを実験的に錯乱させることができ,“思い通りに動かない”という状況を仮想的に設定することができる.
(技術提供:明治大学 理工学部 嶋田総太郎 教授)
実際の実験では,① 0ミリ秒遅延,② 150ミリ秒遅延,③ 250ミリ秒遅延,④ 350ミリ秒遅延,⑤ 600ミリ秒遅延の5条件で手首の反復運動を被験者に実施してもらいました.運動中の筋活動は無線筋電計で計測し,「身体所有感」と「手の重だるさ」はアンケートで定性的に評価しました.
実験の結果,動かした手の映像を250ミリ秒以上遅らせて視覚的にフィードバックさせると,“自分の手のように感じない”や“手が重だるくなってきた”という変化が生まれました.遅延時間をさらに長くするとそれらの異常知覚が増大することも確認されました(図2).
図2:運動-知覚の不協和による主観的異常知覚の惹起
一方で,反復運動中の筋活動量と運動リズムは,動いている手の映像を150 ミリ秒遅らせただけで変容することが確認されました(図3).
以上のことから,“手が思ったように動かない” 状況は異常知覚だけでなく,運動実行までをも変容させてしまうということが明らかにされました.
図3:筋活動量と反復運動のペースは,動いている手の映像を150 ミリ秒遅らせただけで変化が生じる.
本研究の意義および今後の展開
本研究成果は,運動‐知覚の不協和が運動麻痺の回復を遅らせてしまう重要な要因の1つであることを示唆するものです.そのため,理学療法士や作業療法士による運動アシストによって運動‐知覚の不協和を最小限にしながらリハビリテーションを進める,あるいは錯覚技術を駆使して“思い通りに動かすことができる”経験を積むことの重要性を提唱する基礎研究となります.今後は,運動‐知覚の不協和を最小限にするリハビリテーションを開発する予定です.
関連する先行研究
Shimada S et al. Rubber hand illusion under delayed visual feedback. PLoS One. 2009 Jul 9;4(7):e6185.
論文情報
Osumi M, Nobusako S, Zama T, Taniguchi M, Shimada S, Morioka S. Sensorimotor incongruence alters limb perception and movement. Human Movement Science 2017.
なお、本研究は明治大学理工学部 嶋田総太郎教授らと共同で行われたものです.また、本研究は文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「脳内身体表現の変容機構の理解と制御」の支援(研究課題番号15H01671)を受けて実施されました.
問い合わせ先
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp