保護中: ニューロリハビリテーションセミナー病態・臨床編 事前テキスト配布について
平成27年度神経リハビリテーション研究大会が開催されました.
平成28年1月23-24日に信貴山観光ホテルと畿央大学にて,神経リハビリテーション研究大会(大学院生合宿)が開催されました.ニューロリハビリテーション研究センターの教員と大学院博士課程・修士課程のメンバーが参加し,修士論文の最終審査会に向けた研究発表が中心に行われました.
今年で10年目となる毎年恒例の院生合宿ですが,本年度は大学院生総勢30人と例年にも増して多くの院生が集まり,多くの視点から活発な意見交換が繰り広げられました.
1日目は信貴山観光ホテルにて,修士課程2年の研究発表が中心に行われました.最終審査を2週間後に控えたこの時期でも,更なる研究の質や精度の向上にこだわる意気込みを感じ,改めて研究に対する素晴らしい姿勢を感じました.
また,夕方には3グループに分かれて,修士課程1年の研究計画に対するディスカッションが行われました.自分の研究だけでなく,メンバーの研究内容に対しても自分の研究と同じように考え,研究室全体として向上していくような意見やアドバイスを多く頂き,研究内容が洗練されただけでなく,参加者全員にとって大変貴重な時間を過ごすことができたように感じました.
1日目終了後もディスカッションは続き,降り積もる雪の露天風呂でも白熱した議論は続きました.
2日目は畿央大学に戻り,修士課程2年の研究発表に加えて,博士課程の研究経過発表も行われました.
この院生合宿も今年度で10年という節目を迎えました.継続する力が研究をより有意義なものとし,リハビリテーションの対象者,さらには社会に貢献することができるように,今後ともますます精進していきたいと考えております.
最後になりましたが、このような機会を与えてくださった森岡教授をはじめとする研究センターの皆様に深く感謝を申し上げます.
畿央大学大学院 健康科学研究科 修士課程1年 首藤隆志
軽く触れることで得られる立位姿勢の安定化に関係する脳活動
PRESS RELEASE 2016.1.22
安定している外部対象物(例:壁など)に軽く触れると,立位姿勢が安定化する「ライトタッチ効果」と呼ばれる現象があります.畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程の石垣智也らは,このライトタッチ効果には,左感覚運動皮質領域と左後部頭頂皮質領域の脳活動が関係することを明らかにしました.これは,接触による感覚入力から得られる立位姿勢や動作の安定化を,脳活動の側面から説明する基礎的知見になるものと期待されます.この研究成果は,Experimental Brain Research誌(EEG frequency analysis of cortical brain activities induced by effect of light touch)に掲載されています.
研究概要
不安定な環境下(暗所,狭い床面,高所など)において,軽く壁や手すりに軽く触れるだけで立位姿勢が安定化することは,日常生活でも経験されます.このように,力学的作用に依らない程度の力の接触によって,立位姿勢の安定化が得られることをライトタッチ効果といいます.ライトタッチ効果は,リハビリテーションの場面においても,杖の使用や手すりへの軽い接触,または,理学療法士が軽い身体的接触により患者の動作介助を行う際などにも用いられます.ライトタッチ効果には①接触から得られる感覚情報が必要であること,②接触点に対する注意の分配がなされていること,そして③自己身体と外部空間との位置関係を参照するための対象物が必要であることが,これまでの研究によって明らかにされてきました.そして,ライトタッチ効果の作動には,脳活動の関与があるものと考えられていましたが,実際にどの部位の脳活動が関係しているのかは明らかにされていませんでした.
そこで,研究グループはライトタッチ効果に関係する要因を調整した様々な立位条件を設定し,各立位条件の姿勢動揺と脳活動を測定しました.脳活動には脳波を用いており,その周波数解析から得られる脳活動と,ライトタッチ効果の得られた条件の立位姿勢の安定化の程度との関係を検討しました.その結果,固定された台に接触を行う条件においてのみ,立位姿勢の安定化,つまりライトタッチ効果が得られ,かつ,左感覚運動皮質領域と左後部頭頂皮質領域において高い脳活動を認めました.また,ライトタッチ効果によって得られる姿勢動揺の安定化の程度と,左感覚運動皮質領域の脳活動には負の関係が認められ,一方,左後部頭頂皮質領域の脳活動では正の関係にあることが認められました.
本研究のポイント
・異なる要因を含む立位条件を設定し,ライトタッチ効果に特異的な脳活動を明らかにした.
・脳波周波数解析により,ライトタッチ効果により得られる立位姿勢の安定化の程度と関係する脳活動を明らかにした.
研究内容
ライトタッチ効果には①接触から得られる感覚情報が必要であること,②接触点に対する注意の分配がなされていること,そして③自己身体と外部空間との位置関係を参照するための対象物が必要であるといわれています.本研究では,これら要因を組み合わせた4種類の立位条件(図1)を設定しました.
図1 設定した4種の立位条件
全て閉眼閉脚立位にて異なる4種類の立位条件が設定された
(a):コントロール条件(自己の姿勢定位に注意する条件)
(b):ライトタッチ条件(接触を行う固定点への姿勢定位に注意する条件)
(c):感覚入力条件(自己の姿勢動揺を反映する接触点への姿勢定位に注意する条件)
(d):指先への注意条件(右示指先端に注意する条件)
実験では,各立位条件の姿勢動揺と脳波の測定を行いました.姿勢動揺については,安定している外部対象物(固定点)に右示指で接触を行う「ライトタッチ条件」のみで,低い姿勢動揺範囲を認めました(図2).
図2 姿勢動揺範囲の結果
他の条件に比べライトタッチ条件でのみ低い姿勢動揺範囲を認めたこと示しています.
脳波は周波数解析という解析方法を用いて,その脳活動を検討しました.その結果,姿勢動揺の結果と同様に,ライトタッチ条件の左感覚運動皮質領域と左後部頭頂皮質領域において,高い脳活動を認めました(図3).また,ライトタッチ条件でみられる立位姿勢の安定化の程度は,左感覚運動皮質領域の脳活動と負の関係にあり,左後部頭頂皮質領域の脳活動とは,正の関係が認められました(図4).つまり,大きなライトタッチ効果が得られた者は,左感覚運動皮質領域の脳活動が低く,また左後部頭頂必要領域の脳活動が高いということです.
研究グループは,この結果について,ライトタッチ効果時の感覚-運動入出力様式の程度を左感覚運動皮質領域の脳活動に反映されており,左後部頭頂皮質の脳活動は,立位姿勢の安定化に作用する感覚情報の統合を反映していると考察しています.
図3 脳活動の結果
ライトタッチ条件の左感覚運動皮質領域と左後部頭頂皮質領域において他条件に比べて高い脳活動を認めたことを示しています.
図4 ライトタッチ効果と脳活動の関係
ライトタッチ条件でみられる立位姿勢の安定化の程度は,左感覚運動皮質領域の脳活動と負の関係にあり,左後部頭頂皮質領域の脳活動とは,正の関係が認められたことを示しています.つまり,高いライトタッチ効果が得られたものは,左感覚運動皮質領域の脳活動が低く,また左後部頭頂必要領域の脳活動が高いということを示しています.
今後の展開
この研究成果は,ライトタッチ効果の神経メカニズムを説明する基礎的知見のひとつになるものと期待されます.本研究により,ライトタッチ効果に関係する脳活動の一端が明らかとなりましたが,その神経メカニズムのさらなる理解には,大元となる神経基盤を明らかにすることが望まれます.
論文情報
Ishigaki T, Ueta K, Imai R, Morioka S. EEG frequency analysis of cortical brain activities induced by effect of light touch. Exp Brain Res. 2016 Jan 12. [Epub ahead of print]
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 石垣 智也(イシガキ トモヤ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: p0611006@gmail.com
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
ワーキングメモリにおける中央実行系から見たバランスへの影響
PRESS RELEASE 2015.12.18
畿央大学大学院健康科学研究科 研究生の藤田浩之らは,ワーキングメモリにおける中央実行系の機能が姿勢バランスに影響を与えることを明らかにしました.特に,中央実行系の影響はマルチタスクの際に大きく見られ,姿勢制御における高次脳機能領域の関わりに貢献することが期待されます。本研究成果は,Journal of Motor Behavior誌(Effects of the Central Executive on Postural Control)に掲載されています.
研究概要
日常生活において注意資源をそれぞれの刺激に対して適切に切り替えたり,注意資源の配分を行うことでバランスの維持や運動を実行しています.この注意資源の切り替えや注意資源の配分にはワーキングメモリ( Working memory; WM )のもつ中央実行系が重要な役割を担っています.例えば,認知機能に問題のある被験者と比べ認知機能に問題のない被験者では同時に2つの課題(dual-task)を付加することで運動機能の低下が報告され,適切に2つの課題に注意を向けたり,分配することが難しいとされています.つまり,dual task下での運動を苦手とする方は中央実行系が低下し,課題に対する適切な注意資源の配分が困難であることが考えられます.この中央実行系を評価する方法としてReading Span Test(RST)があり,RSTの良群はひとたび注意を向けた対象を適切に抑制し,注意のフォーカスを移行することができ,不良群ではひとたび注意を向けた対象の抑制ができず,注意資源のフォーカスを切り替えることができないことが明らかになっています.しかし,これらの現象は流動性知能に関するものや高次認知機能の因子に関するもので考えられています.RSTにより測定されたWM容量が, 高次認知機能領域に限らず運動領域においても注意の制御に関わっている可能性があります.そこでRSTを用いて中央実行系を評価し,様々な状況での姿勢制御への影響を検討しました.その結果,RSTの成績が不良な参加者では良好群と比べ,通常の状態では何ら違いはありませんが,困難なバランスの維持を求められた際に,身体動揺が強くなることを認め,中央実行系の能力の違いがバランスの維持に影響を及ぼすことが明らかとなりました.
本研究のポイント
□ ワーキングメモリにおける中央実行系の機能をReading Span Testを用いて評価を実施した.
□ RSTの成績は流動性知能や高次認知機能領域のみならず運動領域の注意の制御にも関与することが明らかとなった.
研究内容
WMの評価については,容量を測定するテストとして RSTが広く知られており,中央実行系を検討する有効な指標とされています.このテストは文章の音読とその文章内にある単語の保持を同時に行う課題で,1文から5文の音読を行いながら単語の保持がどの程度できるかを口頭で再生させることで,WMの容量測定を行います.この成績を基に,良好群と不良群に分け比較しました.
図Aでは座位,立位,片足立ちでの認知課題の正当数をカウントしました.RSTの成績で分けた2群(良好群と不良群)の比較ではそれぞれの姿勢で認知機能に差は見られませんでした.
図Bでは運動機能を2群で比較しました.それぞれの姿勢条件の足圧中心を計測しました.両群とも運動の難易度が困難になるにつれ,姿勢の悪化を認めましたがより複雑な条件(片足立位+認知課題)において交互作用を認められ,RST不良群で著しいバランスの悪化が見られました.
本研究の臨床的意義
本研究の結果からdual taskを用いた実験や臨床応用を行う際は,個人の要する中央実行系に依存することが明らかとなり,中央実行系の成績に応じた課題設定や難易度の設定の際のタスクとして有効に用いることが期待できます.同時に,リハビリテーションにおいても個人の持ちうる中央実行系の能力を考慮することが重要であることが示唆されます.
論文情報
Fujita H, Kasubuchi K, Osumi M, Morioka S. Effects of the Central Executive on Postural Control. J Mot Behav. 2015 Dec 16:1-7. [Epub ahead of print]
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問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
研究生 藤田 浩之(フジタ ヒロユキ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: hiyoyuki0010@yahoo.co.jp
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
第8回日本運動器疼痛学会で発表してきました.
第8回 日本運動器疼痛学会(名古屋)で佐藤さん(博士後期課程),今井さん(博士後期課程),片山さん(修士課程),平川さん(客員研究員),信迫先生,私(大住)が発表して参りました.この学会は医師,臨床心理士,看護師,理学療法士,作業療法士などと幅広い職種が参加する学会であり,学際的な痛みの治療を議論する学会でもあります.また,第8回 日本運動器疼痛学会の会長は松原貴子 教授(日本福祉大学健康科学部)であったこともあり,コメディカルの参加が多く,非常に盛り上がっていた印象です.なお,本学会でコメディカルである理学療法士が会長を務めるというのは初のことであり,痛みの治療に対する学際的な取り組みの必要性を物語っています.
我々の演題名は以下であり,いずれも多くの議論ができたと感じております.
佐藤剛介「周期運動が脊髄損傷後の神経障害性疼痛と安静時脳波活動に与える影響」
今井亮太「腱振動刺激による運動錯覚時の運動主体感が疼痛抑制に与える影響」
片山 脩「感覚-運動の不一致における異常感覚の検討」
信迫悟志「頚部痛患者における視線方向認知課題時の脳活動」
大住倫弘「到達運動計測による複合性局所疼痛症候群のフィードフォワード制御の特性抽出」
大住倫弘「Virtual Reality Systemを用いたリハビリテーションによって幻肢の随意運動が再構築され幻肢痛が緩和する」
夜は懇親会に3研究室合同懇親会(長崎大学 沖田研究室・日本福祉大学 松原研究室・畿央大学 森岡研究室)で,親睦を深め,会長である松原教授を労いました.
そして、今回は大学院生の今井亮太氏(博士後期課程)の授賞式がありました!第7回 日本運動器疼痛学会でのポスター発表の成果が認められたのです!彼の専門である「腱振動刺激を利用したニューロリハビリテーション」は非常に注目を集めており,これで4回目の受賞(他学会含む)ということになります.これは,まさに「快挙」に値する成果であると思っております.おめでとうございます!
最後になりましたが,本学会を通して,痛みのニューロサイエンスおよびニューロリハビリテーションが少しずつ浸透しつつあると感じました.これからもキッチリとコツコツ継続してればと思います.今後とも宜しくお願い致します.
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘
第2回社会神経科学とニューロリハビリテーション研究会
2015年12月6日(日)に,第2回社会神経科学とニューロリハビリテーション研究会を開催致しました.
今回は,村井俊哉先生(京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)教授)と平田聡先生(京都大学野生動物研究センター 教授)をお招きし,ご講演して頂きました.
村井俊哉先生からは,「「社会性」という視点から心の病気について考える」 というテーマで,社会的認知,利他的行動,共感,報酬などを取り上げてお話しして頂きました.精神科医である村井俊哉先生の視点だからこその講演は,リハビリテーションセラピストにとって重要なことを考えさせられる機会となりました.
平田聡先生には,「チンパンジーの社会的知性」というテーマで,チンパンジーの社会性などを講演して頂きました.チンパンジーの行動を根気強く観察し,それをきっかけに社会性というものを解明している姿は尊敬しました.またチンパンジー飼育での苦労エピソードを随所にお話し頂き,その試行錯誤はまさに臨床現場で苦労しているセラピストと重なる部分があると感じました.
指定演題では,松尾篤先生(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)から「自己評価と社会性」,西勇樹先生(畿央大学大学院健康科学研究科 修士課程)から「疼痛閾値と内受容感覚の感受性および不安との関係性」を話題提供して頂きました.松尾篤先生の発表では,自分の過度な自己評価と社会的評価との関係や,内受容感覚と共感能力との関係について,西勇樹先生の発表では,内受容感覚と疼痛刺激時の自律神経活動との関係がディスカッションされました.平田聡先生にも参加して頂き,良いディスカッションも場になったかと思います.
ポスターセッションでは,15演題のポスターがあり,報酬学習・不安・抑うつ・疼痛などの社会神経科学とリハビリテーションをリンクさせるような内容が多く,時間の許す限りの活発なディスカッションだったように思います.
リハビリテーションの現場において,社会神経科学を熟知していくことは非常に重要であることは直感的に理解されてはいますが,まだまだ体系的なものではありません.そのため,まずは今回のような研究会のようなディスカッションをきっかけに継続していけたらと考えております.今後とも宜しくお願い致します.
最後になりましたが,ご講演頂いた村井俊哉先生、平田聡先生に改めて感謝申し上げます.そして,ポスター発表で話題提供・ディスカッションして頂いた皆様に感謝致します.
今後とも宜しくお願い致します.
第1回身体運動制御学とニューロリハビリテーション研究会
2015年12月5日(土)に,第1回身体運動制御学とニューロリハビリテーション研究会を開催いたしました.
記念すべき第1回には,招待講演として,野村泰伸先生(大阪大学)と花川隆先生(国立精神・神経医療研究センター)にご登壇いただきました.
野村先生からは,「ヒト静止立位と歩行運動の安定性と揺らぎの定量化と数理モデルシミュレーション」と題したご講演をいただきました. 直感的には,ヒトは綱引きをするように,直立姿勢から変位すると,直立姿勢に引き戻すための制御を常に持続的に行っていると考えがちですが,実際には重力に身を任せて,常に揺らいでおり,卓球をするかのような間欠的制御を行っていることを,例を示して頂きながら,詳細な解析に基づいて,解説して頂きました. またパーキンソン病患者さんの立位姿勢制御についても,分かりやすく説明して頂き,参加者にとっては,日ごろ臨床で目にしている現象の中身について理解する素晴らしい機会になったと思います.
花川先生からは,「歩行の神経制御機構」と題したご講演をいただきました. 先生ご自身の研究バイオグラフィーにおけるデビュー作が「歩行の神経制御機構」とのことで,少々気恥ずかしいと仰られながらも,膨大な研究成果について解説頂きました. リハビリテーションにおける大きな関心事の一つが,歩行ですが,大脳皮質-基底核ループ,基底核-脳幹系による制御機構,パーキンソン病における歩行制御機構の病態,代償的メカニズムについて,非常に分かりやすく解説して頂きました.
両先生とも,基礎の立場におられながらも,実際の患者さんを対象にした研究を行われておられ,リハビリテーションにとって非常に有益な情報を発信し続けてくださっています. 今後は,リハビリテーション側からも,臨床研究・症例研究を発信し,双方向性に繋がり,コラボレーションしていくことが望まれています.
今回,指定演題では,日頃臨床に従事しておられ,臨床で得た疑問や問題について,研究を通じて検証する作業を実践しておられるお二人の先生にご登壇いただきました.
奥埜博之先生(摂南総合病院)からは,PSP患者さんにおける狭い間口通過時に生じるすくみ足は,前頭葉の過活動に起因するのではないかという仮説を,脳波を使用したケーススタディで検証した内容を発表して頂きました.
石垣智也先生(畿央大学大学院健康科学研究科)からは,臨床で散見されるライトタッチ効果について,その神経メカニズムに関する脳波とtDCSを使用した研究成果を発表して頂きました.
どちらのご発表も臨床に関わりが深く,有意義なディスカッションであったと思います.
ポスターセッションには,17演題の発表がありました. 自覚的身体垂直位から立位姿勢制御,歩行制御といった身体運動制御に関連の深いものから,疼痛,半側空間無視,身体性まで非常に幅広い内容となりました. 発表して頂いた皆さん,ありがとうございました.
来年も7月に第2回の身体運動制御学とニューロリハビリテーション研究会を開催する予定です. 今回と同様に,第1線の先生方からのご講演に加え,臨床現場からの症例報告・臨床研究報告を行い,リハビリテーションにおいて最も関心のあるヒトの身体運動制御について,それがどのように成り立っており,どのようにして回復させることが可能かについて,おおいに議論できる場にしたいと考えております. 皆さま,どうぞ奮ってご参加頂きますよう宜しくお願い申し上げます.
末筆になりますが,今回ご講演・ご発表頂いた先生方に深く感謝申し上げます. そして,参加して頂いた皆様に厚く感謝いたします. ありがとうございました.
博士後期課程の今井亮太さんがJPTA 第2回日本基礎理学療法学会学術大会でシンポジストを務めました!
平成27年11月14・15日と神奈川県立保健福祉大学でJPTA 第2回日本基礎理学療法学会学術大会・JPTF 日本基礎理学療法学会 第20回学術大会 合同学会が行われました.本研究室から,領域別ミニシンポジウムに私,今井亮太がシンポジストとして招待され,また石垣智也(博士後期課程)も演題発表として参加しました.シンポジウムでは,神経生理学領域「運動錯覚を用いた理学療法の可能性」というテーマの下,オーガナイザーは,門馬博先生(杏林大学保健学部)でした.柴田恵理子先生(札幌医科大学保健医療学部)は「感覚入力を用いた脳卒中麻痺患者に対する新しい治療アプローチ」,今井は「振動刺激を用いた整形外科患者への介入の可能性」について発表しました. 発表した内容は,修士課程から継続して行っている橈骨遠位端骨折術後患者への運動錯覚の効果について提示しました.
術後翌日より,腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで,痛みの感覚的側面や情動的側面,関節可動域の改善,さらに2ヵ月後まで効果が持続しているため,痛みの慢性化を防ぐことができる可能性について述べました.これらは今までに報告した内容であり,現在評価している新たなデータである日常生活動作にも改善効果があることも示しました.さらに,患者を対象に,脳波を用いて効果メカニズムの検討を行っている事例データを提示しました. 参加されている臨床家の方をはじめ,他大学や他領域の研究者の方から発表の場だけではなく,懇親会でも貴重な質問,アドバイス,ご指摘を頂きました.本当にありがとうございました.今までは痛み領域の学会を中心に演題発表をしていましたが,様々な領域の場で発表することが研究をしていくうえで重要になると感じました.
この合同学会のテーマは『研究から臨床へ〜基礎理学療法学の挑戦〜』となっています.基礎研究から臨床へ応用し,そして臨床研究からの問題点をまた基礎研究で示す.この繰り返しがリハビリテーションの質を向上させている,と改めて感じました.
理学療法士として働いている限り,基礎研究や臨床研究を通じて情報を得て,目の前の患者様により良いリハビリテーション提供することが求められます.基礎と臨床,その両研究がなければリハビリテーションは発展しないと考えると,一つでも世の中に貢献できるよう臨床・研究に精進していきたいと思います.
最後に,このような機会を与えてくださいました,大会長の菅原憲一先生(神奈川県立福祉大学),学術集会長の中山恭秀先生(東京慈恵会医科大学附属第三病院)に感謝申し上げます.
また、日頃よりご指導を頂いております森岡周先生(畿央大学)にも感謝申し上げます。
畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室
博士後期課程 今井亮太
札幌医科大学 金子文成研究室と合同研究会を開催しました.
本日は,札幌医科大学 金子文成先生の研究室 Sensory Motor Science Sports NeuroScience Laboratoryの方々にお越しいただき,合同研究会を開催いたしました.
畿央大学ニューロリハビリテーションセンターからは,森岡周教授,大住倫弘特任助教,信迫悟志特任助教,大学院生の今井亮太先生,片山脩先生から,それぞれ話題提供が行われました.
金子文成先生の研究室からは,主に視覚誘導性自己運動錯覚に関する研究成果を報告して頂きました.
両研究室は,臨床介入手段としての運動イメージ,運動錯覚,バーチャルリアリティ,ニューロモデュレーションなど共通した研究領域を持っており,非常に活発な意見交換が行われました.
今後もこのような交流を通じて,お互いの研究精度を高めていき,何よりもリハビリテーションの対象者に貢献できる研究を推し進めていきたいと思います.
金子研究室の皆さま,ありがとうございました.
大学院生がSociety for Neuroscience 45th annual meetingに参加しました.
平成27年10月17日から21日にわたりアメリカのシカゴで開催されたSociety for Neuroscience 45th annual meetingに修士課程2年の佐藤洋平,塩崎智之,赤口諒,高村優作,中田佳佑の5名が参加し,発表をして参りました.
本学会はニューロサイエンスの国際学会であり,世界各国の医師やリハビリテーションセラピストなどの医療従事者や基礎の研究者など様々な職種が一堂に会しました.幅広いフィールドの研究成果が数多く発表されており,会場は大盛況でした.
我々はこれまで大学院修士課程で進めてきた研究成果を発表し,それぞれ「半側空間無視の臨床研究(高村)」や「姿勢の垂直認知に関する研究(塩崎)」,「音声言語と身体言語の神経基盤に関する研究(佐藤)」,「社会的痛みにおける脳活動に関する研究(赤口)」,「身体表象と視空間知覚の関係性に関する研究(中田)」についてポスター発表をしてきました.国際学会への参加に際して,言葉の不十分さが十分に想定されるなか,それぞれがニューロリハビリテーション研究室メンバーでゼミの時間を利用し予演会を行うなど準備を進めてきました.当日はポスター掲示時間が4時間であり,そのうち1時間がプレゼンテーションの時間として設けられていましたが,我々はそれぞれが自らの研究をブラッシュアップさせるべくフルタイムで興味・関心を示して下さった大勢の参加者から質問を受け,ディスカッションを行うことができました.慣れない言語でのコミュニケーションに制約もありましたが,現時点での課題の明確化やそれらを解決するための手段の検討,今後の方向性が開かれるなど新たな発見も多々ありました.また,発表以外の時間も積極的に他演題を見て回ることで,今後の自身の研究の参考となる内容やリハビリテーション現場において臨床的示唆に富む知見にも出会うことができ,よい刺激を受けたと同時に勉強になりました.私たちリハビリテーションセラピストには,常に対象者にとって有益かつ最善な支援が求められます.その有益性や最善の追及のために臨床問題をしっかりと見つめ,解決に向けて地に足をつけ一つひとつ地道に臨床と研究の双方に取り組んでいくことが重要であると思います.今後もそれらの認識に基づき臨床的に有意義かつインパクトのある知見を世に公表していくという意識のもとで臨床と研究の双方を押し進め,それらが結果的に対象者に還元されていくことで,リハビリテーション全体の進展に貢献できるよう研究室全体で力を合わせて精進して参る所存です.
最後となりましたが,このような素晴らしい機会を与えて下さった森岡先生をはじめ,研究に関して指導・助言を下さったニューロリハビリテーション研究室の皆様には深謝いたします.
畿央大学大学院健康科学研究科
修士課程 中田佳佑