ワーキングメモリにおける中央実行系から見たバランスへの影響

PRESS RELEASE 2015.12.18

畿央大学大学院健康科学研究科 研究生の藤田浩之らは,ワーキングメモリにおける中央実行系の機能が姿勢バランスに影響を与えることを明らかにしました.特に,中央実行系の影響はマルチタスクの際に大きく見られ,姿勢制御における高次脳機能領域の関わりに貢献することが期待されます。本研究成果は,Journal of Motor Behavior誌(Effects of the Central Executive on Postural Control)に掲載されています.

研究概要

日常生活において注意資源をそれぞれの刺激に対して適切に切り替えたり,注意資源の配分を行うことでバランスの維持や運動を実行しています.この注意資源の切り替えや注意資源の配分にはワーキングメモリ( Working memory; WM )のもつ中央実行系が重要な役割を担っています.例えば,認知機能に問題のある被験者と比べ認知機能に問題のない被験者では同時に2つの課題(dual-task)を付加することで運動機能の低下が報告され,適切に2つの課題に注意を向けたり,分配することが難しいとされています.つまり,dual task下での運動を苦手とする方は中央実行系が低下し,課題に対する適切な注意資源の配分が困難であることが考えられます.この中央実行系を評価する方法としてReading Span Test(RST)があり,RSTの良群はひとたび注意を向けた対象を適切に抑制し,注意のフォーカスを移行することができ,不良群ではひとたび注意を向けた対象の抑制ができず,注意資源のフォーカスを切り替えることができないことが明らかになっています.しかし,これらの現象は流動性知能に関するものや高次認知機能の因子に関するもので考えられています.RSTにより測定されたWM容量が, 高次認知機能領域に限らず運動領域においても注意の制御に関わっている可能性があります.そこでRSTを用いて中央実行系を評価し,様々な状況での姿勢制御への影響を検討しました.その結果,RSTの成績が不良な参加者では良好群と比べ,通常の状態では何ら違いはありませんが,困難なバランスの維持を求められた際に,身体動揺が強くなることを認め,中央実行系の能力の違いがバランスの維持に影響を及ぼすことが明らかとなりました.

本研究のポイント

□ ワーキングメモリにおける中央実行系の機能をReading Span Testを用いて評価を実施した.
□ RSTの成績は流動性知能や高次認知機能領域のみならず運動領域の注意の制御にも関与することが明らかとなった.

研究内容

WMの評価については,容量を測定するテストとして RSTが広く知られており,中央実行系を検討する有効な指標とされています.このテストは文章の音読とその文章内にある単語の保持を同時に行う課題で,1文から5文の音読を行いながら単語の保持がどの程度できるかを口頭で再生させることで,WMの容量測定を行います.この成績を基に,良好群と不良群に分け比較しました.
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図Aでは座位,立位,片足立ちでの認知課題の正当数をカウントしました.RSTの成績で分けた2群(良好群と不良群)の比較ではそれぞれの姿勢で認知機能に差は見られませんでした.
図Bでは運動機能を2群で比較しました.それぞれの姿勢条件の足圧中心を計測しました.両群とも運動の難易度が困難になるにつれ,姿勢の悪化を認めましたがより複雑な条件(片足立位+認知課題)において交互作用を認められ,RST不良群で著しいバランスの悪化が見られました.

本研究の臨床的意義

本研究の結果からdual taskを用いた実験や臨床応用を行う際は,個人の要する中央実行系に依存することが明らかとなり,中央実行系の成績に応じた課題設定や難易度の設定の際のタスクとして有効に用いることが期待できます.同時に,リハビリテーションにおいても個人の持ちうる中央実行系の能力を考慮することが重要であることが示唆されます.

論文情報

Fujita H, Kasubuchi K, Osumi M, Morioka S. Effects of the Central Executive on Postural Control. J Mot Behav. 2015 Dec 16:1-7. [Epub ahead of print]

  • 問い合わせ先

    畿央大学大学院健康科学研究科
    研究生 藤田 浩之(フジタ ヒロユキ)
    Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
    E-mail: hiyoyuki0010@yahoo.co.jp
    畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
    センター長 森岡周(モリオカ シュウ)
    Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
    E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

第8回日本運動器疼痛学会で発表してきました.

第8回 日本運動器疼痛学会(名古屋)で佐藤さん(博士後期課程),今井さん(博士後期課程),片山さん(修士課程),平川さん(客員研究員),信迫先生,私(大住)が発表して参りました.この学会は医師,臨床心理士,看護師,理学療法士,作業療法士などと幅広い職種が参加する学会であり,学際的な痛みの治療を議論する学会でもあります.また,第8回 日本運動器疼痛学会の会長は松原貴子 教授(日本福祉大学健康科学部)であったこともあり,コメディカルの参加が多く,非常に盛り上がっていた印象です.なお,本学会でコメディカルである理学療法士が会長を務めるというのは初のことであり,痛みの治療に対する学際的な取り組みの必要性を物語っています.

 

我々の演題名は以下であり,いずれも多くの議論ができたと感じております.

 

佐藤剛介「周期運動が脊髄損傷後の神経障害性疼痛と安静時脳波活動に与える影響」

今井亮太「腱振動刺激による運動錯覚時の運動主体感が疼痛抑制に与える影響」

片山 脩「感覚-運動の不一致における異常感覚の検討」

信迫悟志「頚部痛患者における視線方向認知課題時の脳活動」

大住倫弘「到達運動計測による複合性局所疼痛症候群のフィードフォワード制御の特性抽出」

大住倫弘「Virtual Reality Systemを用いたリハビリテーションによって幻肢の随意運動が再構築され幻肢痛が緩和する」

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夜は懇親会に3研究室合同懇親会(長崎大学 沖田研究室・日本福祉大学 松原研究室・畿央大学 森岡研究室)で,親睦を深め,会長である松原教授を労いました.

飲み会

そして、今回は大学院生の今井亮太氏(博士後期課程)の授賞式がありました!第7回 日本運動器疼痛学会でのポスター発表の成果が認められたのです!彼の専門である「腱振動刺激を利用したニューロリハビリテーション」は非常に注目を集めており,これで4回目の受賞(他学会含む)ということになります.これは,まさに「快挙」に値する成果であると思っております.おめでとうございます!

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最後になりましたが,本学会を通して,痛みのニューロサイエンスおよびニューロリハビリテーションが少しずつ浸透しつつあると感じました.これからもキッチリとコツコツ継続してればと思います.今後とも宜しくお願い致します.

集合写真

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘

第2回社会神経科学とニューロリハビリテーション研究会

2015年12月6日(日)に,第2回社会神経科学とニューロリハビリテーション研究会を開催致しました.

今回は,村井俊哉先生(京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)教授)と平田聡先生(京都大学野生動物研究センター 教授)をお招きし,ご講演して頂きました.

村井俊哉先生からは,「「社会性」という視点から心の病気について考える」 というテーマで,社会的認知,利他的行動,共感,報酬などを取り上げてお話しして頂きました.精神科医である村井俊哉先生の視点だからこその講演は,リハビリテーションセラピストにとって重要なことを考えさせられる機会となりました.

平田聡先生には,「チンパンジーの社会的知性」というテーマで,チンパンジーの社会性などを講演して頂きました.チンパンジーの行動を根気強く観察し,それをきっかけに社会性というものを解明している姿は尊敬しました.またチンパンジー飼育での苦労エピソードを随所にお話し頂き,その試行錯誤はまさに臨床現場で苦労しているセラピストと重なる部分があると感じました.

指定演題では,松尾篤先生(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)から「自己評価と社会性」,西勇樹先生(畿央大学大学院健康科学研究科 修士課程)から「疼痛閾値と内受容感覚の感受性および不安との関係性」を話題提供して頂きました.松尾篤先生の発表では,自分の過度な自己評価と社会的評価との関係や,内受容感覚と共感能力との関係について,西勇樹先生の発表では,内受容感覚と疼痛刺激時の自律神経活動との関係がディスカッションされました.平田聡先生にも参加して頂き,良いディスカッションも場になったかと思います.

ポスターセッションでは,15演題のポスターがあり,報酬学習・不安・抑うつ・疼痛などの社会神経科学とリハビリテーションをリンクさせるような内容が多く,時間の許す限りの活発なディスカッションだったように思います.

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リハビリテーションの現場において,社会神経科学を熟知していくことは非常に重要であることは直感的に理解されてはいますが,まだまだ体系的なものではありません.そのため,まずは今回のような研究会のようなディスカッションをきっかけに継続していけたらと考えております.今後とも宜しくお願い致します.

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最後になりましたが,ご講演頂いた村井俊哉先生、平田聡先生に改めて感謝申し上げます.そして,ポスター発表で話題提供・ディスカッションして頂いた皆様に感謝致します.

今後とも宜しくお願い致します.

第1回身体運動制御学とニューロリハビリテーション研究会

2015年12月5日(土)に,第1回身体運動制御学とニューロリハビリテーション研究会を開催いたしました.

記念すべき第1回には,招待講演として,野村泰伸先生(大阪大学)と花川隆先生(国立精神・神経医療研究センター)にご登壇いただきました.

野村先生からは,「ヒト静止立位と歩行運動の安定性と揺らぎの定量化と数理モデルシミュレーション」と題したご講演をいただきました. 直感的には,ヒトは綱引きをするように,直立姿勢から変位すると,直立姿勢に引き戻すための制御を常に持続的に行っていると考えがちですが,実際には重力に身を任せて,常に揺らいでおり,卓球をするかのような間欠的制御を行っていることを,例を示して頂きながら,詳細な解析に基づいて,解説して頂きました. またパーキンソン病患者さんの立位姿勢制御についても,分かりやすく説明して頂き,参加者にとっては,日ごろ臨床で目にしている現象の中身について理解する素晴らしい機会になったと思います.

花川先生からは,「歩行の神経制御機構」と題したご講演をいただきました. 先生ご自身の研究バイオグラフィーにおけるデビュー作が「歩行の神経制御機構」とのことで,少々気恥ずかしいと仰られながらも,膨大な研究成果について解説頂きました. リハビリテーションにおける大きな関心事の一つが,歩行ですが,大脳皮質-基底核ループ,基底核-脳幹系による制御機構,パーキンソン病における歩行制御機構の病態,代償的メカニズムについて,非常に分かりやすく解説して頂きました.

両先生とも,基礎の立場におられながらも,実際の患者さんを対象にした研究を行われておられ,リハビリテーションにとって非常に有益な情報を発信し続けてくださっています. 今後は,リハビリテーション側からも,臨床研究・症例研究を発信し,双方向性に繋がり,コラボレーションしていくことが望まれています.

 

今回,指定演題では,日頃臨床に従事しておられ,臨床で得た疑問や問題について,研究を通じて検証する作業を実践しておられるお二人の先生にご登壇いただきました.

奥埜博之先生(摂南総合病院)からは,PSP患者さんにおける狭い間口通過時に生じるすくみ足は,前頭葉の過活動に起因するのではないかという仮説を,脳波を使用したケーススタディで検証した内容を発表して頂きました.

石垣智也先生(畿央大学大学院健康科学研究科)からは,臨床で散見されるライトタッチ効果について,その神経メカニズムに関する脳波とtDCSを使用した研究成果を発表して頂きました.

どちらのご発表も臨床に関わりが深く,有意義なディスカッションであったと思います.

ポスターセッションには,17演題の発表がありました. 自覚的身体垂直位から立位姿勢制御,歩行制御といった身体運動制御に関連の深いものから,疼痛,半側空間無視,身体性まで非常に幅広い内容となりました. 発表して頂いた皆さん,ありがとうございました.

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来年も7月に第2回の身体運動制御学とニューロリハビリテーション研究会を開催する予定です. 今回と同様に,第1線の先生方からのご講演に加え,臨床現場からの症例報告・臨床研究報告を行い,リハビリテーションにおいて最も関心のあるヒトの身体運動制御について,それがどのように成り立っており,どのようにして回復させることが可能かについて,おおいに議論できる場にしたいと考えております. 皆さま,どうぞ奮ってご参加頂きますよう宜しくお願い申し上げます.

 身体集合写真

末筆になりますが,今回ご講演・ご発表頂いた先生方に深く感謝申し上げます. そして,参加して頂いた皆様に厚く感謝いたします. ありがとうございました.

博士後期課程の今井亮太さんがJPTA 第2回日本基礎理学療法学会学術大会でシンポジストを務めました!

平成27年11月14・15日と神奈川県立保健福祉大学でJPTA 第2回日本基礎理学療法学会学術大会・JPTF 日本基礎理学療法学会 第20回学術大会 合同学会が行われました.本研究室から,領域別ミニシンポジウムに私,今井亮太がシンポジストとして招待され,また石垣智也(博士後期課程)も演題発表として参加しました.シンポジウムでは,神経生理学領域「運動錯覚を用いた理学療法の可能性」というテーマの下,オーガナイザーは,門馬博先生(杏林大学保健学部)でした.柴田恵理子先生(札幌医科大学保健医療学部)は「感覚入力を用いた脳卒中麻痺患者に対する新しい治療アプローチ」,今井は「振動刺激を用いた整形外科患者への介入の可能性」について発表しました.  発表した内容は,修士課程から継続して行っている橈骨遠位端骨折術後患者への運動錯覚の効果について提示しました.

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術後翌日より,腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで,痛みの感覚的側面や情動的側面,関節可動域の改善,さらに2ヵ月後まで効果が持続しているため,痛みの慢性化を防ぐことができる可能性について述べました.これらは今までに報告した内容であり,現在評価している新たなデータである日常生活動作にも改善効果があることも示しました.さらに,患者を対象に,脳波を用いて効果メカニズムの検討を行っている事例データを提示しました. 参加されている臨床家の方をはじめ,他大学や他領域の研究者の方から発表の場だけではなく,懇親会でも貴重な質問,アドバイス,ご指摘を頂きました.本当にありがとうございました.今までは痛み領域の学会を中心に演題発表をしていましたが,様々な領域の場で発表することが研究をしていくうえで重要になると感じました.

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この合同学会のテーマは『研究から臨床へ〜基礎理学療法学の挑戦〜』となっています.基礎研究から臨床へ応用し,そして臨床研究からの問題点をまた基礎研究で示す.この繰り返しがリハビリテーションの質を向上させている,と改めて感じました.
理学療法士として働いている限り,基礎研究や臨床研究を通じて情報を得て,目の前の患者様により良いリハビリテーション提供することが求められます.基礎と臨床,その両研究がなければリハビリテーションは発展しないと考えると,一つでも世の中に貢献できるよう臨床・研究に精進していきたいと思います.

最後に,このような機会を与えてくださいました,大会長の菅原憲一先生(神奈川県立福祉大学),学術集会長の中山恭秀先生(東京慈恵会医科大学附属第三病院)に感謝申し上げます.
また、日頃よりご指導を頂いております森岡周先生(畿央大学)にも感謝申し上げます。

畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室
博士後期課程 今井亮太

札幌医科大学 金子文成研究室と合同研究会を開催しました.

本日は,札幌医科大学 金子文成先生の研究室 Sensory Motor Science Sports NeuroScience Laboratoryの方々にお越しいただき,合同研究会を開催いたしました.
畿央大学ニューロリハビリテーションセンターからは,森岡周教授,大住倫弘特任助教,信迫悟志特任助教,大学院生の今井亮太先生,片山脩先生から,それぞれ話題提供が行われました.
金子文成先生の研究室からは,主に視覚誘導性自己運動錯覚に関する研究成果を報告して頂きました.

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両研究室は,臨床介入手段としての運動イメージ,運動錯覚,バーチャルリアリティ,ニューロモデュレーションなど共通した研究領域を持っており,非常に活発な意見交換が行われました.
今後もこのような交流を通じて,お互いの研究精度を高めていき,何よりもリハビリテーションの対象者に貢献できる研究を推し進めていきたいと思います.
金子研究室の皆さま,ありがとうございました.

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大学院生がSociety for Neuroscience 45th annual meetingに参加しました.

平成27年10月17日から21日にわたりアメリカのシカゴで開催されたSociety for Neuroscience 45th annual meetingに修士課程2年の佐藤洋平,塩崎智之,赤口諒,高村優作,中田佳佑の5名が参加し,発表をして参りました.

本学会はニューロサイエンスの国際学会であり,世界各国の医師やリハビリテーションセラピストなどの医療従事者や基礎の研究者など様々な職種が一堂に会しました.幅広いフィールドの研究成果が数多く発表されており,会場は大盛況でした.

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我々はこれまで大学院修士課程で進めてきた研究成果を発表し,それぞれ「半側空間無視の臨床研究(高村)」や「姿勢の垂直認知に関する研究(塩崎)」,「音声言語と身体言語の神経基盤に関する研究(佐藤)」,「社会的痛みにおける脳活動に関する研究(赤口)」,「身体表象と視空間知覚の関係性に関する研究(中田)」についてポスター発表をしてきました.国際学会への参加に際して,言葉の不十分さが十分に想定されるなか,それぞれがニューロリハビリテーション研究室メンバーでゼミの時間を利用し予演会を行うなど準備を進めてきました.当日はポスター掲示時間が4時間であり,そのうち1時間がプレゼンテーションの時間として設けられていましたが,我々はそれぞれが自らの研究をブラッシュアップさせるべくフルタイムで興味・関心を示して下さった大勢の参加者から質問を受け,ディスカッションを行うことができました.慣れない言語でのコミュニケーションに制約もありましたが,現時点での課題の明確化やそれらを解決するための手段の検討,今後の方向性が開かれるなど新たな発見も多々ありました.また,発表以外の時間も積極的に他演題を見て回ることで,今後の自身の研究の参考となる内容やリハビリテーション現場において臨床的示唆に富む知見にも出会うことができ,よい刺激を受けたと同時に勉強になりました.私たちリハビリテーションセラピストには,常に対象者にとって有益かつ最善な支援が求められます.その有益性や最善の追及のために臨床問題をしっかりと見つめ,解決に向けて地に足をつけ一つひとつ地道に臨床と研究の双方に取り組んでいくことが重要であると思います.今後もそれらの認識に基づき臨床的に有意義かつインパクトのある知見を世に公表していくという意識のもとで臨床と研究の双方を押し進め,それらが結果的に対象者に還元されていくことで,リハビリテーション全体の進展に貢献できるよう研究室全体で力を合わせて精進して参る所存です.

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最後となりましたが,このような素晴らしい機会を与えて下さった森岡先生をはじめ,研究に関して指導・助言を下さったニューロリハビリテーション研究室の皆様には深謝いたします.

畿央大学大学院健康科学研究科

修士課程 中田佳佑

脊髄損傷に対するリハビリテーション時の足底接地の重要性

PRESS RELEASE 2015.10.27

畿央大学大学院健康科学研究科の林部美紀は、藍野大学再生医療研究所の井出千束教授らとともに、脊髄損傷ラットに対して免荷式トレッドミルトレーニングをした際の足底接地の重要性を歩行動作と脊髄組織で明らかにしました。この研究成果は、Spinal Cord誌(Locomotor improvement of spinal cord-injured rats through treadmill training by forced plantar placement of hind paws オンライン先行)に掲載されています。

研究概要

脊髄損傷は交通事故や転落により,脊柱(背骨)の中の脊髄神経が損傷した状態をいいます.損傷部位より下の神経が支配している筋肉の麻痺や感覚障害が残るといわれています.現在のリハビリテーションでは,損傷を受けていない神経が支配している筋肉を利用して日常生活を送れるようにする訓練が中心で,車椅子生活をしている脊髄損傷者が多い状況です.脊髄損傷の歩行におけるリハビリテーションの研究では,ハーネスで体をつり上げ体重を免荷してトレッドミルの上を歩くBody Weight Support Treadmill Trainingというトレーニングがあります.これは脊髄固有のステッピング運動を誘発させる機能を利用した訓練方法といわれています.私達の研究では,ラットでこの訓練方法を行い,普段セラピスト達が重要としている足底接地の重要性を示しました.

本研究のポイント

□ 脊髄損傷ラットに対し,Body Weight Support Treadmill Trainingを用いて,足底接地の重要性を示した. □ 足底接地と足背接地群とでは,足底接地群の方が歩行評価において高い数値を示し,正常なラットに似た値になった.また,脊髄組織の評価において,足底接地群の方が損傷部位に神経が修復された痕跡が示された.

研究内容

BBWSTTの方法を用いて,図1Aのように体幹を吊り上げる設定をします.ラット用のトレッドミルを動かし,足底接地群はセラピストが足底接地を確認しながら,歩行の介助を行いました.足背接地群は,セラピストが足背を接地するポジションを取りながら,後肢を前に移動する介助を行いました.

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図1.訓練方法(Bは足底接地群の方法,Cは足背接地の群の方法)      

 

本研究では歩行評価において,図2のように足底接地群は高い点数となり,歩行時に歩き方がスムーズになってきていることを示します.また,脊髄組織を採取した評価においても,足底接地群に損傷した神経が訓練によって修復された痕跡が認められました.また,脊髄組織を採取した評価においても,図3のように,訓練によって,損傷を受けた空洞に神経が増えたり,支持細胞であるアストロサイトの面積が足底接地群の方が広くなってました。これは,足底接地の訓練によって,脊髄が修復された痕跡があることを示しています。

 

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図2.歩行評価の結果(足底接地群の点数が高く,歩行能力が向上したことを示す)

 

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図3.A.mm2あたりの神経の数(足底接地群が多いことを示す) B.脊髄中のアストロサイトの面積(足底接地群の面積が広いことを示す)

今後の展開

この研究は,BWSTTを用いたときに足底接地を丁寧に行うことで,歩行の質のみならず,脊髄の組織に影響を与えた可能性があることを示しています.今後は,脊髄組織のみならず,脳からの神経経路がどのように脊髄に影響を与えているのかや訓練によっての感覚障害の程度の評価も進めて行き,より詳細な原因を探求して,人間のリハビリテーションに役立てたいと考えます.  

論文情報

Hayashibe M, Homma T, Fujimoto K, Oi T, Yagi N, Kashihara M, Nishikawa N, Ishizumi Y, Abe S, Hashimoto H, Kanekiyo K, Imagita H, Ide C, Morioka S. Locomotor improvement of spinal cord-injured rats through treadmill training by forced plantar placement of hind paws. Spinal Cord. 2015 Oct 20. doi: 10.1038/sc.2015.186. [Epub ahead of print]

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 博士課程 林部美紀(ハヤシベ ミキ) E-mail:hayashibeot@gmail.com 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp  

ニューロリハビリテーションセミナー機能編Bが開催されました.

2015年10月24/25日にニューロリハビリテーションセミナー機能編Bが開催されました.

全国各地から300名以上の方々にお越しして頂き有難く思います.せっかくですので、以下にセミナー内容を簡潔にまとめさせて頂きました.

1日目は「共感の神経機構」・「ボディイメージの神経機構」・「道具使用の神経機構」・「歩行の神経機構」でした.
松尾先生による「共感の神経機構」では,あくびの伝搬や日常の「あるある」について話題提供され,ミラーニューロンシステム,痛みの共感の神経機構,共感と心の理論との関係をネットワークの視点から解説されました.
大住先生による「ボディイメージの神経機構」では,従来からの身体図式や身体表象のみならず,身体所有感や運動主体感といった身体性に関わる神経科学的知見を非常に平易に紹介して頂きました.また,ボディイメージを客観的かつ定量的に測定する新たな評価手法も紹介して頂きました.
信迫先生による「道具使用の神経機構」では,操作に関する知識・機能に関する知識などの神経機構ついて,道具のさまざまな制約(機械的・時間的・空間的・労力的制約)を解決しながら道具を使用しているヒトの高次な神経機構についても解説してくれました.
岡田先生による「歩行の神経機構」では、歩き始めから歩行停止するまでの神経機構、脊髄CPGが機能するために必要な要素などを解説してくれ,歩行に関する皮質下から大脳皮質までの機能が十分に網羅された内容になっていました.

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そして,1日目の夕方はナイトセミナーとして,客員教授の樋口貴広先生に「注意と歩行」について講義して頂きました.

大変ご多忙な先生ですが,受講していただいている皆さんと共感しながら,情報の選択と処理資源の観点から様々な日常生活における注意と歩行の関連する事象について,多彩な実験動画や面白動画などを交えて解説して頂きました.リハビリテーションにおける「指導的関わり」においても大変重要な視点であることを伝えて頂きました.

スマートな樋口貴広先生がときに自虐的なネタも交えながら,楽しい講義を展開して頂き,受講者を飽きさせない講義でした.本当に有難うございました.

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2日目は「ワーキングメモリの神経機構」・「運動イメージ」・「痛みの神経機構」・「社会性の神経機構」でした.

冷水先生による「ワーキングメモリの神経機構」では,ヒトの円滑な生活に不可欠なワーキングメモリの各要素とその神経機構について,日常生活の中での事象を通して解説して頂きました.
森岡先生による「運動イメージ」の神経機構では,オフラインで運動をイメージする際に運動実行時と等価の脳活動が生じることがよく知られていますが,運動実行時より運動準備時に特に等価な活動が得られること,現在の自己の身体表象によって運動イメージが干渉されることが解説されました.
前岡先生による「痛みの神経機構」では,痛みの神経生理学的機序,疼痛抑制機構,3つの側面(感覚的側面,認知的側面,情動的側面)とその神経機構,痛みの共感,異常疼痛,慢性疼痛患者の脳の構造的,機能的変化と広範な範囲について,丁寧に解説して頂きました.
松尾先生による「社会性の神経機構」では,そのヒトがそのヒトらしくいるためには,他者とのコミュニケーション(言語,非言語)を通して社会的に調和することの重要性について解説して頂きました.

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今回の機能編Bも多くの情報を提供できたと思います.参加された方々の臨床現場が少しでも良いものとなるようにさらに工夫を凝らしていきますので今後とも宜しくお願い致します.

 

北海道大学大学院の武田さんの国内留学 最終日

8月末から来られていた北海道大学大学院博士課程の武田さんの国内留学が最終日を迎えました.

国内留学の目的であった歩行開始時の脳波計測・解析のプレ実験まで行うことができていました.また,実験の結果の解釈や解析方法を試行錯誤している姿勢は刺激的であり,研究室にとって貴重な存在となりました.

武田さんには,再度,畿央大学に来学していただき,研究を進めていく予定となっております.これからもよろしくお願いします!

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畿央大学大学院健康科学研究科 修士課程 西勇樹