静止立位中の重心動揺の随意的および自動的制御の効果

PRESS RELEASE 2015.1.6

立位時のバランスの安定(姿勢動揺の減少)は,日常生活の大部分を立位で過ごすヒトのリハビリテーションにおいて重要です.近年,立位中の姿勢動揺に意識を向け,随意的に動揺を制御する時(随意的制御)に立位中の動揺が減少することが報告されています.一方,立位中に計算などの認知課題を行い,姿勢動揺から意識を逸らした時(自動的制御)も動揺が減少することが報告されています.
今回は,随意的制御と自動的制御のどちらの方が動揺の幅を減少させるのか,また姿勢制御戦略に違いがあるのかについて調査しました.

 

本研究では,随意的制御条件,自動的制御条件,コントロール条件の3条件の静止立位課題を実施してもらい,重心動揺計で測定した足圧中心(center of pressure; COP)動揺を3条件間で比較しました.

立位条件は両足を閉じ,目は開けた状態で実施しました.

随意的制御条件は,「自分の体の動揺に集中して,可能な限り動揺しないようにして下さい」と指示しました.

自動的制御条件は,数字7個を覚えながら立位保持をしてもらいました.

コントロール条件は,「リラックスして立っておいて下さい」と指示しました.

 

この3条件中のCOP動揺の前後左右の動揺の振幅,速度,平均パワー周波数,各周波数帯のパワー密度を比較しました.

図1は,1名の方の3課題中のCOP動揺です.随意的制御条件と自動的制御条件で動揺の幅が小さくなっていることが分かると思います.

図1.3条件中のCOP動揺

 

実際に,被験者23名の結果を平均したものが図2〜4です.

図2は,前後,左右方向のCOPの動揺の振幅(root mean square; RMS)の結果です.随意的制御条件,自動的制御条件ともにコントロール条件より前後,左右の動揺の振幅が減少する結果となりました.このことは,過去の報告通り,随意的制御も自動的制御も姿勢動揺を減少させることを示しています.また,本研究結果は,前後方向のみですが,随意的制御より自動的制御の方が動揺の振幅を減少させる効果が大きいことを示しました.

 

 図2.前後,左右方向のRMSの結果

 

動揺の振幅の減少は随意的,自動的制御ともに似通っていましたが,図3で示している動揺速度や平均パワー周波数は異なっていました.

動揺速度の結果からは,自動的制御条件はコントロール条件と差がありませんが,随意的制御条件は他の2条件と比べてかなり速く動揺していることが分かりました.また,平均パワー周波数の結果からは,随意的制御は頻回な姿勢調節を行っていることが分かりました.

 図3.前後,左右方向の動揺速度と平均パワー周波数

 

姿勢制御に関与する視覚,体性感覚,前庭感覚の関与の程度を表すとされている各周波数帯域のパワー密度の結果(図4)は,低,中,高周波帯域ともに随意的制御と自動的制御に差がありました.これはこの2つの制御では各感覚の関与が異なる可能性を示しています.

図4.前後,左右方向の各周波数帯域のパワー密度

本研究の臨床的意義

立位バランスを安定させることは,バランスが不安定な脳疾患患者さんのリハビリテーションにおいて重要な課題です.動揺が大きい患者さんは,意識的に動揺を減少させようとしてしまうことが多いですが,本研究結果からは,自動的制御条件のような条件設定で立位練習を行うことにより,特に意識的に動揺を制御しようとしなくても姿勢動揺の減少を促せることを示唆しています.また,自動的制御は姿勢調節の頻度や感覚入力への依存を高めなくても姿勢動揺を減少させることが可能であることを示しており,より自動的な姿勢制御戦略へ近づけることが可能であると考えられます.

 

論文情報

Ueta K, Okada Y, Nakano H, Osumi M, Morioka S. Effects of Voluntary and Automatic Control of Center of Pressure Sway During Quiet Standing. J Mot Behav. 2014 Nov 25:1-9.

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科

博士後期課程 植田耕造(ウエタ コウゾウ)

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: p0511105@univ.kio.ac.jp

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

 

大学院生が日本高次脳機能障害学会学術総会に参加しました。

今回,平成26年11月28・29日に仙台国際センターで行われた日本高次脳機能障害学会学術総会に参加させて頂きました.

本研究室からは,客員教授の河島則天さん,D1大松聡子さん,M2保屋野健吾さん,M1高村が演題発表しました.本学会は,医師や言語聴覚士を中心に,臨床の現場で活躍されている方が多く発表されおり,一人の症例に対する評価や行動観察の緻密さ,そして,そこから得られた結果の解釈および臨床推論の深さには只々驚くばかりでした.

会長講演では,東北大学大学院医学系研究科高次脳機能障害学分野の森悦朗先生が「行動神経学への誘い」という題目で発表されていました.行動神経学とは,脳血管障害や,神経変性疾患などを対象とし,神経心理学に加えて画像やリハビリテーション,薬理,病理などの多岐にわたる要素を包含した領域であると述べられていました.また,今までされてきた研究や自身の考えについても話されていました.その中で,常に臨床研究をするように患者を観ているとおっしゃっており,日々の臨床の中でも現象を観察し仮説を立て,的確なアウトカムを設定し検証していくことの重要性を再度認識させられました.そして研究も,その積み重ねであるように感じました.

ポスター発表では,「半側空間無視の回復プロセスにおける左視線偏向について」という内容で発表しました.この内容は客員教授の河島則天さんと共同で研究させて頂いている内容です.半側空間無視は,脳卒中などによる右半球病変後に発生する症候群であり,大脳半球病変と反対側(左側)の刺激に対して,注意を向け反応すること,その方向を向くことが障害される病態と定義されます.半側空間無視を持つ患者さんの回復過程において,患者さん自身が日常生活上での問題(道を間違える,左側のものにぶつかるなど)や家族や医療スタッフからの指摘によって無視空間の存在に気づくと,意図的に左空間に注意を向けてその問題に対応する場面が散見されます.今回は,上述したような代償戦略としての左視線偏向と無視症状の回復の関係性に焦点をあて,反応特性及び,脳波の結果から検討した内容を発表させて頂きました.多くの方にご意見,ご指摘を頂くことができ,また発表時間外にも関わらず質問をして下さる方もおられ,大変参考になりました.

本学会を通じて,普段と異なる社会の中で発表することによって,違う視点から自身の研究を見ることができ非常に参考になりました.また,他の発表者の研究からも,自分にない考え方や発想を知ることができました.

最後になりますが,このような機会を与えてくださった畿央大学と森岡周教授をはじめとする研究室の皆様に深謝致します.今回得た経験を,研究や臨床に活かしていきたいと思います.

 

畿央大学大学院修士課程

高村優作

博士後期課程の佐藤さんが神経理学療法学会学術集会で発表しました.

平成26年12月6・7日と茨城県つくば市で開催された第11回神経理学療法学会学術集会に参加してきました.第11回の学会テーマは,学会長の茨城県立医療大学の水上昌文教授の計らいで脊髄損傷に焦点をあてたものが大半を占めていました.医師を中心とした学会では,脊髄障害(脊髄損傷)に特化したものはありますが,理学療法士の学会では私が知る限りでは初めてでした.普段,脊髄損傷の方のリハビリテーションに関わっている自分にとっては非常に興味の惹かれる内容となっていました.

まず,12月6日の特別講演は「脊髄再生に関する取り組みの現状と理学療法(リハビリテーション)の役割」というテーマで国立障害者リハビリテーションセンター障害者健康増進・スポーツ科学支援センター長の緒方徹先生がご講演されていました.緒方先生は長年,脊髄の再生医療に関わってこられた実績があり,再生医療の歴史から原理・現状(臨床試験)についてわかりやすく解説していただきました.理学療法士が直接的に再生医療に関わることは少ないように思いますが,将来的にはそういった治療をされた方が身近になることも遠くない印象を受けました.現時点では,治療の対象になる方の基準は厳しいものがありますが,今後は段階を追って可能性が広がっていくように感じました.特に理学療法士にとっては,単に筋力を強化するといった身体を鍛えるという視点だけではなく,歩行のCentral pattern generatorに代表されるような神経回路を再構築していく視点の重要性を再確認することができました.私は神経リハビリテーション学研究室に在籍しているので,研究室メンバーが取り組んでいる研究などをもとに色々なアイデアを持ち治療へ応用していく必要性を感じました.

次にシンポジウムでは「神経理学療法の挑戦」ということで,水上教授・総合せき損センターの出田良輔先生・中部労災病院の長谷川隆史先生・茨城県立医療大学付属病院の吉川憲一先生がファシリテータとして情報提供をされていました.テーマは「神経理学療法の挑戦」ということですが,ファシリテータの皆さんは脊髄損傷者のリハビリテーションに携わっている方々でしたので身になる情報を得ることができました.水上教授からは,日本の脊髄損傷者のリハビリテーションの歴史と国内におけるトピックスについてわかりやすい解説を聴くことができました.出田先生からは,以前に私も共同研究として参加させていただいた脊損データベースの構築についての意義と現状について紹介がありました.長谷川先生からは吊り下げ式トレッドミル歩行トレーニング(Body Weight-Supported Treadmill Training:BWSTT)を用いた臨床介入によるデータの提示と現状・今後の展望について話を聴くことができました.私が勤務する病院でも同様の設備があるので,興味深い内容であるとともに自分達もデータを蓄積し分析していく必要性を感じました.吉川先生からは,ロボットスーツHAL®を使用した臨床介入データの提示と現状・今後の展望について話題提供がありました.BWSTTと同様にロボットスーツHAL®も勤務病院にあるので,興味深く聴くことができました.現状での臨床的効果としては,少しずつ公表され始めているようですが,ロボット技術が先行したような感じで具体的な臨床適用の方法についてはまだまだこれからのようでした.すでにBWSTTは導入されている施設も多いと思いますが,ロボット技術とも上手に付き合い,神経回路・神経ネットワークの再構築の視点に立ってアイデアを出していく必要性を感じました.ただし,理論を構築していく上では大学や研究機関の研究者の方と共同していかなければ実現は難しいと思いました.

12月7日は午前中が第22回脊髄損傷理学療法研究会との共催企画でのワークショップでした.「脊髄障害の理学療法・課題と展望」をテーマに「臨床」・「教育」・「研究」の3グループにわかれディスカッションを行いました.私は「研究」のグループに加えていただき,脊髄損傷者のリハビリテーションに関連した研究の問題点と展望についてディスカッションを行いました.ワークショップでは,冒頭に「臨床」について神奈川リハビリテーション病院の藤縄光留先生,「教育」を金城大学の丸尾朝之先生,「研究」を岡山労災病院の武田正則先生から現状と問題点について話題提供がありました.武田先生からは,過去5年間の国内外の脊髄損傷者のリハビリテーションに関する研究の動向について解説を聴き,国内と国外との大きなギャップがあることを教えていただきました.国内では,移動機能やADLの調査,ロボットや再生医療に関連したものが多いのに対して,国外では運動療法全般や痛み等の実際にリハビリテーションを行う上で難渋することをテーマにしているものが多いとのことでした.私は「脊髄損傷後の痛み」をテーマとしているので,国内外での取り組みにギャップのある分野にあたりますので,今後さらに研究をすすめて国内外で公表していく必要性を感じました.

午後からは,脊髄損傷後の痛みに関する研究について口述発表させていただきました.座長の星ヶ丘医療センターの羽田晋也先生には,セッション外でもディスカッションをしていただき,非常に有意義な時間を過ごすことができました.その他にも色々な方から研究に対するアドバイスをいただくとともに,痛み研究の必要性については肯定的な意見をいただき今後の励みとなりました.本当にご意見をいただいた皆様・研究のお手伝いをいただいた被検者の皆様に感謝したいと思います.また,研究内容についてディスカッションに参加してくれた研究室メンバーにも同様に感謝したいと思います.

余談になりますが,12月6日には脊髄損傷理学療法研究会の総勢50名余りが参加した懇親会にも参加させていただきました.毎年,研究会には参加していますが今回は研究テーマを話題として脊髄損傷者のリハビリテーションに関わる全国の理学療法士の皆さんと情報交換や仲を深めることができました.

最後につくば市は寒かったですが,私にとって非常に有意義な時間を過ごせた学会でした.これも研究活動を支援していただいた畿央大学ならびに森岡 周教授,そして研究室メンバーの協力があってのことだと思っております.このような充実した時間を過ごす機会を与えていただき心から感謝申し上げます.

 

 

 

畿央大学大学院博士後期課程

佐藤剛介

ニューロリハビリテーションセミナー臨床編が開催されました.

2014年12月6日(土)、7日(日)にニューロリハビリテーションセミナー臨床編が開催されました.寒さが厳しい日での開催となりましたが,300名以上の方々にお越しいただきました.ありがとうございました.当日の模様を,私(大住倫弘)の方から報告させてもらいます.今回は7講座+症例提示をさせて頂きました.

松尾先生による「損傷脳の再組織化と機能回復の神経機構」では,脳損傷後のシナプスレベルでの変化から脳機能の変化まで網羅された情報提供でした.脳卒中後の機能的コネクティビティについてのfMRI研究も多く紹介してくれ,回復プロセスでそのようなリハビリテーションが必要なのかを考える材料となったと思います。

前岡先生による「痛みの神経機構」では,痛みに関する神経科学的知見の情報提供でした.慢性疼痛における機能的コネクティビティの変化や,慢性疼痛患者に対する教育学的アプローチに関するものは非常に興味深いと感じました.

冷水先生による「運動失調症の神経機構」では,いわゆる失調症についての臨床的知見を多く紹介されました.運動障害におけるサブタイプ分類の方法や,失調症患者さんの運動学習の可能性についての知見を多く紹介してくれました.まだまだ失調症に対するニューロリハビリテーションのエビデンスが低いことも今後の課題としてお話頂けました.

岡田先生による「Parkinson病の神経機構」では,実際の症例の動画も提示しながら,パーキンソン病に出現する感覚運動障害や訴えを紐解くための科学的知見を大量に紹介してくれました.基底核のみならず,parietalの機能低下やSMAとの機能的コネクティビティの異常なども取り上げてくれました.

森岡先生による「半側空間無視の神経機構」では,半側空間無視の様々な病態を分類していく必要性が分かる講義になっておりました.また,情動や文脈が注意に及ぼす影響なども網羅された情報提供になっており,注意という機能の深さを感じました.

信迫先生による「失行の神経機構」では,オンライン情報処理,オフライン情報処理,その相互作用,模倣,・・・と広範で膨大な情報提供でした.膨大な情報と対照的な優しい語りがとても印象的でした.本年度は統合運動障害に関しても,実際の動画を交えて解説されました.

松尾先生による「神経科学に基づく脳卒中リハビリテーション」では, Dose-dependentに基づくリハや、脳半球間抑制モデル・運動イメージ・運動観察などのエビデンスが次々と紹介されました.報酬フィードバックやチームワークの重要性も紹介され,社会的要因がリハビリテーション効果に影響を与えるという意味でとても興味深かったです.

本年度のセミナーでは,神経科学を用いたクリニカルリーズニングとして,実際の症例報告を紹介されました.今年度は,私(大住倫弘)が複合性局所疼痛症候群の症例を,博士課程の大松さんが半側空間無視の症例を提示しました.不十分な部分が多くあると思いますが,基礎的知見と目の前の患者さんの症状とを行ったり来たりしながら,病態を紐解き,介入手段の選択を吟味していくプロセスは紹介できたかなと思います.

 

今回は,このような症例を提示する機会は一方向性のものでしたが,次年度は「ニューロリハビリテーションフォーラム」という場で,1症例を2時間ほど参加者の皆様とディスカッションする機会を設けたいと思っています.アナウンスは,このホームページや公式facebookからしていこうと思っていますので宜しくお願い致します.

また,次年度からは内容をリニューアルしていこうと考えております!これまでニーズが高かった「応用編」「臨床編」をさらに分厚くするために,「機能編A」「機能編B」「病態・臨床編」というように講座数を増やしていく予定です.既に参加された方々にも新たな情報を提供できるかと思いますので,是非とも一緒に意見交換できれば幸いであります.

 

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

大住倫弘

ニューロリハビリテーションセミナー臨床編の事前テキスト配布について

12月6日(土)・7日(日)に開催される『ニューロリハビリテーションセミナー2014臨床編』の事前テキストをweb配信いたします。

受講される方には申込時にご登録いただいたアドレスに、PDFファイル開封に必要なパスワードを記載したメールを配信いたします。

事前学習のうえ、当日セミナーに参加してください。

 

2014事前テキスト 臨床編

 

【問い合わせ先】

ニューロリハビリテーション研究センター事務局

TEL:0745-54-1602(畿央大学 総務部)

Society for Neuroscienceに参加してきました!

2014年11月15日(土)~19日(水)に,アメリカのWashington DCで開催されたSociety for Neuroscienceに参加させて頂きました.

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターからは森岡周教授,冷水誠准教授をはじめ,森岡研究室の大学院性5名(修士課程4名,博士課程1名)が演題発表しました.

本学会は,毎年多くの演題が募集されており,今回は世界各国から神経科学の研究者が31000人以上参加し,15000以上の演題発表が行われました.このような大きな規模の学会は国内では見当たらず,私自身初めて国際学会に参加させて頂くこともあり,様々な職種の方々が会場内で所構わず議論されている環境に大変感銘を受けました.

本学会は英語での発表であり,私は意見交換など大変苦労しましたが,森岡周教授や冷水誠准教授,博士後期課程3年の大住倫弘さんといった先生方が英語で円滑に意見交換をしている姿を見て,次に国際学会に参加する際には,「自身の考えをもっと正確に伝え,有益な意見交換を行う」といった目標をたてることができました.

また,今回共に参加した同期入学の修士課程2年保屋野健悟さん,脇聡子さん,後輩である修士課程1年の高村優作さんが発表している姿から,多くの刺激を頂き,今後いっそう切磋琢磨し自身の研究・臨床を磨いていきたいと感じました.森岡研究室では,日頃の授業においても,研究内容に対して議論しあうことが多く,大変恵まれた環境です.研究室内でお互いを鼓舞しあえる環境にあることは本当にありがたく,何よりも自身を成長させてもらえるものだと改めて感じました.

 

本学会に参加し,研究発表,意見交換を行えたことは,私自身にとって貴重な経験となりました.本学会を通して「自分の安心できる範囲で留まらないで,新しい環境に飛び込むことで,多くのことが学べること」,多くの演題発表を聴講する中で,「自己の研究能力の向上には想像力,知識の幅が必要であること」,今後社会的に貢献ができるような研究をしていくためには「自己の考えに対して,賛同や批判的な意見をして下さる人脈」などが重要であることを学ぶことができました.

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最後になりましたが,このような貴重な経験ができたのは,畿央大学の研究活動に対する手厚い支援と,森岡周教授をはじめとする多くの方々のご指導やご協力があってのものです.このような環境で学ばせて頂いていることに深く感謝し,この経験を今後の研究や臨床に結びつけるように励んでいきたいと思います.

 

畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室

修士課程2年 湯田智久

第7回運動器疼痛学会学術大会に参加しました!

平成26年10月25・26日に山口県ANAクラウンプラザホテル宇部で第7回運動器疼痛学会学術大会が行われました.

本研究室からは,D3大住倫弘さん,D2佐藤剛介さん,M2今井亮太,M1片山修さんが演題発表しました.そのなか,D2佐藤剛介さん,M2今井亮太は優秀賞候補にノミネートさました.結果は次回第8回運動器疼痛学会で発表されます.

 

シンポジウムでは「運動器疼痛に対する臨床的アプローチとその根拠」について,4名のシンポジストが様々な視点から講演されました.村上孝徳先生(札幌医科大学リハビリテーション医学講座),「上肢CRPS症例に対する運動療法の効果-fMRIによる皮質認知領域検討-」,池本竜則先生(愛知医科大学運動療育センター・痛みセンター)「運動療法の実際とその効果」,信迫悟志先生(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員)「運動器疼痛に対する神経科学に基づいたアプローチの試み」,石田和宏先生(我汝会えにわ病院リハビリテーション科)「腰部疾患における運動療法の効果とその根拠」.座長は矢吹省司先生(福島県立医科大学整形外科学講座),森岡周先生(畿央大学大学院健康科学研究科主任・教授)でした.

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 シンポジウムの中では,末梢や全身に対する運動療法や急性疼痛,慢性疼痛への運動療法など,痛みの評価を細分化し適切な運動療法を実施していくための議論がなされていました.また,今までに評価や治療を行う上で考えられていた「痛みの多面性」についても再考していく必要性があると感じました.これからはMotivation,報酬,学習などを応用したリハビリテーションを実施していくことが大切であり,今までの運動療法を見直す必要性を感じました.加えて,痛み治療においてはMotivation,報酬,学習をはじめとした様々な視点や知識が重要であることを感じました.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターでは,「高次脳機能学部門」,「社会神経科学部門」,「身体運動制御学部門」,「発達神経科学部門」の4つの領域で研究を行っています.大学院での授業では包括的にすべての講義を聞き,ゼミでは様々な分野から指摘・助言を頂ける環境です.このような研究領域を超えたコミュニケーションを図れることは,すぐに共同研究が行えるニューロリハビリテーション研究センターの強みであると思えます。これからは疼痛をテーマとした研究であっても,他の領域の人達と協力していくことでさらなる知見を発信していけるように思います.よりいっそう疼痛分野での研究を発展させ、より質の高い研究を提供できればと考えています.

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次回の第8回運動器疼痛学会は,2015年の12月に名古屋で行われます.次期大会長は,理学療法士である日本福祉大学の松原貴子教授です. 10月25日に行われた懇親会での松原教授の挨拶では,コメディカルといった表現ではなく,全員をメディカルスタッフとして扱われることを伝えていました.こうした職種をこえた連携は,疼痛分野における本当の意味でチーム医療による治療の発展の一つになると考えられます.我々もこういった世の中の流れには乗り遅れないように精進していきたいと思います。

 

畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室

修士課程2年 今井亮太

 

大住特任助教が日本発達神経科学学会学術集会に参加しました!

日本発達神経科学学会学術集会に参加しました!

今回,10月18,19日に東京で開催された日本発達神経科学学会学術集会に参加し,腕神経叢引き抜き損傷後痛についての演題発表をしてきました.今回のテーマが,「脳幹・辺縁系から考える初期脳発達と障害」というテーマでかなり細かいところまでディスカッションがなされました.またシンポジウムでは,「ヒトの認知発達における辺縁系機能の役割を考える」というテーマでのディスカッションがあり,大変興味深いものでした.悲しいから泣くのではなく,泣くから悲しいのであるという議論から始まり,社会性発達まで拡張していきました.社会的行動も自己の自律神経反応などの身体反応がベースとなって営まれているという議論は,僕自身の興味のある身体性や痛みの研究にもかなり通ずるところがあり,大変参考になりました.

 

ポスター発表では,理学療法・作業療法士の先生方以外にも,心理実験やロボット研究をされている方まで幅広い方から意見を頂くことができ,大変貴重な体験になりました.このような幅広い研究分野の方々が集まる場で発表するのも悪くないかなと思いました.僕自身も痛みを研究する者として,幅広い視点から物事を捉えることができればと思います.

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

大住倫弘

 

 

松尾教授がThe Social Brain Conferenceに参加しました!

The Social Brain Conferenceに参加しました!

今回,私は10月5日から8日までCopenhagen(Denmark)で開催されたFederation of European Neuroscience Societies主催のBrain Conferenceに参加し,演題発表(「Imitation of a facial expression accelerates an emotional understanding of the others in men」)をしてきました.今回のテーマは,いま話題のSocial Brain(社会脳)であり,社会神経科学研究に関連する約150名の研究者が世界中から集いました.150名という人数制限のある小さな会議の場では,ほぼ全員が発表者としての役割があり,朝から晩までずっと一緒に過ごす合宿のような会議でした.会場となったMoltkes Palæは,1702年に建築された由緒ある歴史的な建物であり,建物内の静寂と歴史を感じさせる情緒溢れる香りに包まれた会議でした.

 

さて,会議は朝9時半から夜10時半まで続き,夜のポスター発表ではワインを片手に熱い議論が繰り広げられました.今回の会議では,女性研究者の参加が多く,彼女たちのパワーは凄まじく,まさに「肉食女子,草食男子(笑)」のような構図もありました.また,今回の議長はBlakemore,Waal,Rizzolattiの3名であり,彼らのスピーチを直接聞けたことも非常に参考になりました.

 

帰国後,翌日には畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター主催の「第1回社会神経科学とニューロリハビリテーション研究会」が開催されました.「社会」は「脳」の産物であります.その「社会」はヒトの「脳」が作った「人工物」なのだと思いました.その「人工物」と「脳」の関係を突き詰めて研究した先には,いったい何があるのでしょうか?「何か足りない?」ことに気づくかもしれません.社会脳,社会神経科学研究は,世界的にもスタートしたばかりで,まだまだ未踏の地が満載な研究領域です.今後,ますます発展する可能性があると同時に,この学際的研究を通じて「わからないこと」が「わかる」という発見に,興味津々な毎日をこれからも過ごしていきたいと思うのです.

 

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

松尾 篤

 

 

身体の大きさの錯覚による不快感が痛みに影響を与える

PRESS RELEASE 2014.10.22

近年,視覚的な身体像の大きさを操作して痛みの軽減を図ろうとするリハビリテーションが少しずつ報告されてきています.しかしながら,そのようなリハビリテーション手法は痛みを増悪させることもあります.今回は,身体の大きさを視覚的に拡大視させた時の「不快感」が,痛みの増悪と関連があるのかどうかを調べました.また,拡大視された手を不快に感じやすい者はどのような特性があるのかを調べました.

 

上記の目的を達成するためには,まず「自分の手が大きくなった」という体験(錯覚)をする必要があります.そのための実験道具として,日常でも拡大鏡として使用される凹鏡を利用しました.写真(図1)のように左手を鏡の後ろに隠して,右手を鏡の前に置くことで,被験者にはあたかも「左手が大きくなった」ような錯覚が生じます.

 

図1.拡大視ミラーによる錯覚

この錯覚体験をしている時に,隠れている左手で疼痛閾値(痛みの感受性)を測定しました.さらに,拡大された自分の身体についての不快感をアンケート形式で回答してもらいました.

 

実験では様々な被験者の反応がありました.拡大した手に対して「浮腫んでいる気がする」,「腫れている気がする」,「強くなった気がする」,「左右非対称で気持ち悪い」,「別に何も感じない」などの声がありました.

また,拡大視ミラー条件で痛みが増悪する者とそうでない者がいました.つまり,拡大視ミラーによる痛みの変化には個人によってバラつきがありました.そこで,それらを2つグループに分け,拡大視ミラーによって痛みが増悪したグループを分析することとしました.その結果,拡大視ミラー条件で痛みが増悪したグループ(緑色)は拡大視された手に対して不快に感じていることが明らかになりました.

 

2.拡大視ミラ-で痛みの増悪したグループの不快感

 

 

さらに,本研究では拡大視した手を不快に感じやすい者の特徴を調べました.その結果,「身体の形態に対する意識(Body Shape Questionnaire)」「身体に対する態度(Body Attitude Questionnaire)」がネガティブな者は,拡大視した手を不快に感じやすい特性があることが明らかになりました.「自分の体型を恥ずかしいと感じる」,「私の体はダメになってしまった気がする」,「写真をとられると太っていると感じる」という質問項目でネガティブな者は,拡大視した手を不快に感じやすいという傾向がありました.

 

図3.拡大視ミラー条件での不快感と個人特性

 

本研究の臨床的意義

近年では,ヴァーチャルリアリティシステムなどを利用して,身体像を視覚的に操作する痛みのリハビリテーションが報告されてきています.この研究では,そのようなリハビリテーションに対して,視覚的に身体像を操作する際には対象者の情動反応や性格特性を見定めながら介入をしていく必要性を示唆したものです.

 

論文情報

Osumi M, Imai R, Ueta K, Nakano H, Nobusako S, Morioka S. Factors associated with the modulation of pain by visual distortion of body size. Front Hum Neurosci. 2014 Mar 20;8:137. doi: 10.3389/fnhum.2014.00137.

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
特任助教 大住 倫弘(オオスミ ミチヒロ)

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)

Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp