荷重が困難な足部CRPS患者へ『影絵』を用いた介入は有効である
PRESS RELEASE 2020.10.23
複合性局所疼痛症候群(Complex Regional pain Syndrome: CRPS)は,捻挫や打撲,骨折など四肢の障害後に痛みが遷延化する疾患です.足部など下肢のCRPS患者では,痛みへの恐怖心から,足に体重をのせて歩くことができなくなります.畿央大学大学院博士後期課程の修了生 平川善之 氏(現:福岡リハビリテーション病院・リハビリテーション部長)は,畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター長 森岡 周 教授,大阪河崎リハビリテーション大学 今井亮太 助教らと共同で,こうした痛みへの恐怖心を持つ患者に対し,「影絵」による新たな治療方法を考案し,有効性が認められた症例を報告しました.この報告は,国際雑誌「Brain Science」に「Intervention Using Body Shadow to Evoke Loading Imagery in a Patient with Complex Regional Pain Syndrome in the Foot: A Case Report」として掲載されています.
研究概要
今回報告した症例は,痛みのために足部を接地して荷重することに恐怖心を抱き,「足に体重をかけることを考えただけで痛い」と荷重を想起するだけで,予測的に足部に強い痛みを感じていました.そこで「影絵」を用いることで,痛みを予期させずに足部で荷重するイメージを形成させる新たな介入方法を実践しました.これにより,荷重への予測的な痛みは消失し,歩行能力の向上が認められました.
本研究のポイント
足部のCRPS患者に対し「影絵」を利用した新たな介入により,痛みを誘発せずに荷重するイメージを形成させる可能性があることを示した.
研究内容
症例は,足部の外傷後にCRPSとなり,足部の強い痛みと共に膝関節から足部まで強いアロディニアがあり,身体所有感や身体イメージの欠如が認められました.そこで影絵を用いた介入を行いました.その方法は,実際の症例には触れない状況で(図1A)影絵上のみで触れている錯覚を生じさせました(図1B).これにより身体所有感と身体イメージが再形成され,アロディニアの軽減が認められました.
図1:影絵を用いたリハビリテーション
しかし,患部で荷重することへの予測的な痛みから歩行能力の改善に至りませんでした.そこで下図のように,症例とシーツで隔てた環境(図2a)で第3者の足部の影絵を作成し(図2b),その第3者の影絵が自身の影絵であると錯覚を生じさせ(図2c),その影絵をセラピストが触れる事で自身の足部を触れられているような錯覚を生じさせました(図2d).これにより足部のアロディニアが軽減し,自身の足部で第3者の影絵に触れる事が出来るようになりました(図2e).
図2:影絵を用いたリハビリテーション
その結果,影絵を用いた介入以降に身体イメージの改善にともなって歩行能力の向上が認められました(図3,4).
図3:影絵を用いたリハビリテーションによって改善する身体イメージ
図4:影絵を用いたリハビリテーションによって改善する歩行時の足圧
本研究の意義および今後の展開
CRPS患者の痛みには,身体認知能力や心理要因などが影響します.特に足部など下肢のCRPS患者では,痛みが予測されることで荷重困難となります.今回報告した『影絵』を用いた新たな臨床介入を用いることで,身体認知能力を向上させるともに,荷重に対する予測的な痛みを生じさせることなく,荷重のイメージを想起させることが可能となりました.
今後は,影絵を用いた介入の適応患者の特徴を整理し,その適応範囲を検討するなど,より詳細な検証作業が必要になると考えられます.
論文情報
Hirakawa Y, Imai R, Shigetoh H, Morioka S.
Intervention Using Body Shadow to Evoke Loading Imagery in a Patient with Complex Regional Pain Syndrome in the Foot: A Case Report.
Brain Sci. 2020 Oct 9;10(10):E718.
問い合わせ先
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
畿央大学大学院健康科学研究科
教授 森岡 周
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp