身体の大きさの錯覚による不快感が痛みに影響を与える
PRESS RELEASE 2014.10.22
近年,視覚的な身体像の大きさを操作して痛みの軽減を図ろうとするリハビリテーションが少しずつ報告されてきています.しかしながら,そのようなリハビリテーション手法は痛みを増悪させることもあります.今回は,身体の大きさを視覚的に拡大視させた時の「不快感」が,痛みの増悪と関連があるのかどうかを調べました.また,拡大視された手を不快に感じやすい者はどのような特性があるのかを調べました.
上記の目的を達成するためには,まず「自分の手が大きくなった」という体験(錯覚)をする必要があります.そのための実験道具として,日常でも拡大鏡として使用される凹鏡を利用しました.写真(図1)のように左手を鏡の後ろに隠して,右手を鏡の前に置くことで,被験者にはあたかも「左手が大きくなった」ような錯覚が生じます.
図1.拡大視ミラーによる錯覚
この錯覚体験をしている時に,隠れている左手で疼痛閾値(痛みの感受性)を測定しました.さらに,拡大された自分の身体についての不快感をアンケート形式で回答してもらいました.
実験では様々な被験者の反応がありました.拡大した手に対して「浮腫んでいる気がする」,「腫れている気がする」,「強くなった気がする」,「左右非対称で気持ち悪い」,「別に何も感じない」などの声がありました.
また,拡大視ミラー条件で痛みが増悪する者とそうでない者がいました.つまり,拡大視ミラーによる痛みの変化には個人によってバラつきがありました.そこで,それらを2つグループに分け,拡大視ミラーによって痛みが増悪したグループを分析することとしました.その結果,拡大視ミラー条件で痛みが増悪したグループ(緑色)は拡大視された手に対して不快に感じていることが明らかになりました.
図2.拡大視ミラ-で痛みの増悪したグループの不快感
さらに,本研究では拡大視した手を不快に感じやすい者の特徴を調べました.その結果,「身体の形態に対する意識(Body Shape Questionnaire)」「身体に対する態度(Body Attitude Questionnaire)」がネガティブな者は,拡大視した手を不快に感じやすい特性があることが明らかになりました.「自分の体型を恥ずかしいと感じる」,「私の体はダメになってしまった気がする」,「写真をとられると太っていると感じる」という質問項目でネガティブな者は,拡大視した手を不快に感じやすいという傾向がありました.
図3.拡大視ミラー条件での不快感と個人特性
本研究の臨床的意義
近年では,ヴァーチャルリアリティシステムなどを利用して,身体像を視覚的に操作する痛みのリハビリテーションが報告されてきています.この研究では,そのようなリハビリテーションに対して,視覚的に身体像を操作する際には対象者の情動反応や性格特性を見定めながら介入をしていく必要性を示唆したものです.
論文情報
Osumi M, Imai R, Ueta K, Nakano H, Nobusako S, Morioka S. Factors associated with the modulation of pain by visual distortion of body size. Front Hum Neurosci. 2014 Mar 20;8:137. doi: 10.3389/fnhum.2014.00137.
問い合わせ先
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
特任助教 大住 倫弘(オオスミ ミチヒロ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp