パーキンソン病の起立動作能力低下に関連する臨床症状および生体力学的特性の解明

PRESS RELEASE 2025.6.9

パーキンソン病(PD)患者の起立動作(Sit-to-Stand: STS)障害は,上肢補助なしで評価することにより,時間延長,起立失敗,離臀(りでん)失敗へと段階的に進行しますが,それぞれの段階に特異的な臨床症状および生体力学的要因は明らかにされていませんでした.畿央大学大学院博士後期課程の岩井將修氏と岡田洋平教授らは,PD患者と健常者を対象に,上肢補助なしでのSTS動作を床反力計により評価しました.その結果,STS動作の段階的な進行には,体重移動能力の段階的な低下が関連することを示しました.また,STS動作の遅延は,臀部加速などの生体力学的異常と関連し,起立失敗は下肢寡動や足部の早期減速と,また離臀失敗は,姿勢制御機能の低下が強く関連することも示しました.本研究により,PD患者のSTSの障害の早期の進行に伴い,主たる関連要因が変化することが初めて明らかになりました.これらの知見は,動作障害の段階に応じた評価と予防的介入の基盤となるため,臨床的意義が極めて高いものです.本研究成果はMovement Disorders Clinical Practice誌Clinical and Biomechanical Factors in the Sit-to-Stand Decline in Parkinson’s Disease(IF: 4.0)に掲載されました.

本研究のポイント

パーキンソン病患者の上肢補助なしの起立動作(Sit-to-Stand: STS)を,成功群・起立失敗群・離臀失敗群に分類し,床反力計による生体力学的要因の評価と臨床評価により各段階の特徴を検討した.

STS能力の段階的な低下に伴い,体重移動能力も段階的に低下することが示された.

■各段階には特異的な生体力学的要因や臨床症状が関与しており,時間延長には臀部加速の低下,起立失敗には下肢寡動と足部早期減速,離臀失敗ではバランス機能の低下が特に関与することが示された.

研究概要

パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者の起立(Sit-to-Stand: STS)動作の障害は,早期から段階的に進行することが知られていますが,各段階における臨床症状や生体力学的特性の違いは十分に解明されていませんでした.PD患者のSTS動作の障害の進行を予防するためには,早期の異常を的確に捉え,その関連要因について理解することは極めて重要です.

畿央大学大学院博士後期課程の岩井將修氏と岡田洋平教授らは,PD患者と健常高齢者を対象に,上肢補助なしのSTS動作を床反力計で解析しました.その結果,PD患者ではSTS動作能力が段階的に低下し,時間延長,起立失敗,離臀失敗へと進行すること,および各段階で異なる主因子が関与することを初めて明らかにしました.具体的には,STS動作の遅延には体重移動能力の低下や臀部加速の異常が,起立失敗には下肢寡動と足部早期減速が,離臀失敗にはバランス機能の低下が関連していました.本研究は,PD患者のSTS障害の進行様式とそれに関与する要因を体系的に明示した初の研究であり,段階別の個別介入設計に資する重要な知見です.

研究内容

本研究では,パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者における起立動作(Sit-to-Stand: STS)の障害が,上肢補助なしの動作では,時間延長・起立失敗・離臀失敗と段階的に進行することに着目し,それぞれの段階に関連する臨床症状および生体力学的因子を明らかにすることを目的としました.本研究では,健常高齢者とPD患者を対象に上肢補助なしSTS動作の評価を床反力計上で実施し,健常高齢者群,STS動作成功群,起立失敗群,離臀失敗群の4群に分けました(図1).

生体力学的指標としては,体重移動能力や加速,減速力やその発揮のタイミング,反復動作の頻度などを計測しました(図2).また,臨床評価として,各運動症状(Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale part 3:MDS-UPDRS part3),バランス能力(Mini-Balance Evaluation Systems Test: Mini-BESTest),下肢筋力の評価を実施しました.

その結果,STS動作の段階的な進行には,体重移動能力の段階的な低下が関連することを示しました.また,STS動作の遅延は,臀部加速などの生体力学的異常とも関連し,起立失敗は下肢寡動や足部の早期減速と,また離臀失敗は,姿勢制御機能の低下が強く関連することも示しました(図3).

これらの結果から,STS動作の早期の障害の段階的な進行には,臀部から足部への体重移動能力の低下が一貫して関与することが示されたが,各段階において,特異的に関連する運動力学的要因や臨床症状が存在する可能性が示唆されました.本研究結果は,PDのSTS障害の早期の異常を捉え,有効な予防介入戦略を検討する上で基盤となる重要な知見となると考えられます.

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究結果は,PD患者のSTSの早期の障害とその変化,そして関連する臨床症状や生体力学的特性に関する理解を促す基礎的な知見となり,障害の進行を予防するための介入戦略を検討する上で極めて重要な知見である.今後は,本研究結果を踏まえたPDSTS障害に対する介入の効果検証や着座動作の障害に対する検討も進めていく予定である.

論文情報

Masanobu Iwai, Shigeo Tanabe, Soichiro Koyama, Kazuya Takeda, Yuichi Hirakawa, Ikuo Motoya, Yuta Okuda, Yutaka Kikuchi, Hiroaki Sakurai, Yoshikiyo Kanada, Mami Kawamura, Nobutoshi Kawamura, Yohei Okada.

Clinical and Biomechanical Factors in the Sit-to-Stand Decline in Parkinson’s Disease

Movement Disorders Clinical Practice, 2025

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科

博士後期課程 岩井 將修

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

教授 岡田 洋平

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: y.okada@kio.ac.jp