[Journal Club]行為主体感形成における意図の強さの役割
行為主体感形成における意図の強さの役割
The Role of Intentional Strength in Shaping the Sense of Agency
Front Psychol. 2019; 10: 1124.
Samantha Antusch, Henk Aarts, and Ruud Custers
意図は,行為の準備,開始,認識の重要な構成要素となります.さらに,意図は行為主体感の経験を促進する上で重要な役割を果たします.行為主体感における意図の重要性を示した先行研究において,(意図がある)能動的な行為とそれによって引き起こされた結果の主観的時間間隔は,(意図が無い)受動的な行為と比較して,短く知覚されることがわかっています(意図による結合効果).これまでの研究は意図の「有無」によって行為主体感のメカニズムが議論されてきましたが,意図の「質」にはあまり着目されていませんでした.行為の動機付けにおける意図の強弱は行為主体感に影響する可能性があります.行為の動機付けには予測される結果の価値(報酬)が関与することは明らかです.いくつかの先行研究で,意図的な行為が経済的損失をもたらす場合と比較して,利益がある場合に行為主体感が増幅することが示唆されています.この研究では,行為を結果の報酬と関連づけることにより,意図の強さが行為主体感に与える影響について調査されました.
実験参加者は80%の確率で報酬が与えられるキー(高報酬条件)と20%の確率で報酬が与えられるキー(低報酬条件)を事前に学習しました.実験課題では,事前に学習したキーを押した時の意図による結合効果が調べられました.その結果,高報酬を学習したキー条件の方が低報酬条件よりも結合効果が高くなることが示されました.著者らは,ドーパミン作動系によって結合効果が駆動されたのではないかと考察しています.
意図の有無ではなく,強さという質に着目し,それを意図による結合効果によって定量的に示したことが本研究のポイントだと思います.意図の質がなぜ行為主体感に影響したのか,そのメカニズムについてはまだ推論の域を出ず,今後の研究が期待されます.