[Journal Club]静的立位時における足関節筋の同時収縮は高齢者の姿勢安定性の低下と関連する
Vette AH, Sayenko DG, Jones M, Abe MO, Nakazawa K, Masani K
Ankle muscle co-contractions during quiet standing are associated with decreased postural steadiness in the elderly.
Gait Posture. 2017 Jun; 55: 31-36
一般的に,高齢者では若年者と比較し静止立位における姿勢安定性は低下しており,具体的には足圧中心(COP)の動揺面積は広く,移動速度は速くなると報告されています.これには加齢に伴う筋力や感覚機能,反射機能の低下など様々な要因が複合的に関与すると考えられています.筋活動では,足関節トルクが大きく寄与するとされており,特にヒラメ筋の活動が大きいとされている一方で,拮抗筋である足関節背屈筋(前脛骨筋)の活動はほとんどみられないとされています.しかし,姿勢安定性が低下している高齢者の場合には足関節背屈筋の活動が増加しており,両筋の同時収縮により足関節の硬直性を増加させることが報告されています.今回紹介する論文では,静的立位時における重心動揺と足関節筋活動を計測し,加齢に伴う足関節筋の同時収縮と姿勢安定性の関係性を調べることを目的としています.
対象は健常成人27名(27.2±4.5歳)および健常高齢者23名(66.2±5.0歳)であり,90秒間開眼した状態での静的立位を保持した際の重心動揺を計測し,同時に右前脛骨筋,ヒラメ筋,および腓腹筋内側頭より表面筋電図を記録しました.また本来静止立位中に活動が少ない前脛骨筋の活動期間を同定するために,安静座位での筋活動における3SD以上の活動が生じた期間を活動期(TAon期),以下の期間を非活動期(TAoff期)に分類しています.
結果として,高齢者は若年者と比較しTAon期が有意に長く,特に7人の高齢者は立位期間中全体にわたって常に活性を示していました.またTAon期とTAoff期の重心動揺の違いをみると,高齢者ではCOPの変動性・移動速度ともにTAon期に有意に高く,同様に,COPより仮想的に算出した身体重心(COM)においても変動性,移動速度および加速度においてTAon期に有意に高値を示しました.
このことより,TAon期における姿勢安定性の低下が足関節の同時収縮に伴う足関節の硬直性と関連することが示唆されました.先行研究において,立位時に随意収縮を増加させた際にCOM速度およびCOP速度が増加することが示されていますが(Warnica et al., 2014),今回の研究では静止立位時のTAon期間における姿勢の安定性の低下が高齢者にのみ生じたことが重要であると著者らは述べています.臨床場面においても,高齢者の姿勢安定性の向上には,筋活動の強化だけでなく過剰な筋出力の制御に向けた介入が必要であることを考えされられる研究です.
[Journal Club]半側空間無視の病態:注意の解放困難vs空間性ワーキングメモリー障害
Toba MN, Rabuffetti M, Duret C, Pradat-Diehl P, Gainotti G, Bartolomeo P.
Component deficits of visual neglect: “Magnetic” attraction of attention vs. impaired spatial working memory.
Neuropsychologia. 2017 109:52-62.
半側空間無視(USN)は右半球損傷の結果す生じる神経学的症候であり、対象者は左側の対象物を発見することや、反応することが困難となることが知られています。そのため、USNを有する症例は机上での探索課題でも右側のターゲットのみ探索し左側を探索しないなどの場面が典型的に見られます(Albert, 1973)。
USNの発現機序に関する議論は長年行われてきていますが、近年では注意配向(注意を向けること)や空間性ワーキングメモリー(空間的位置の記憶)、注意の持続、注意の解放(再定位、外発的な刺激による)などといった空間的・非空間的注意機能に関する複数の構成要素の障害が寄与することが知られています((Bartolomeo, 2007; Coulthard et al., 2007; Gainotti et al., 1991;Karnath, 1988). これらの構成要素の障害が症例によって異なりまた、複数の構成要素が相互に影響し合い、異なる複雑な症状特性を示すことが知られています。
臨床的にUSN症例は右側の対象物に注意を集中しやすく、そこから注意を解放することが難しいという症状がよく観察されます(Magnetic attraction; MA)。一方で、USN症例が空間性ワーキングメモリー(Spatial working memory: SWM)の低下を合併する場合も多く、そのような場合にも空間位置の記憶が難しく右空間の同じ場所を何度も探索してしまう場合があります。
本研究では、右半球損傷患者47名に対してタッチパネルPCを用いたターゲット探索課題を以下の3条件で実施しています。1)選択したターゲットがハイライトされる条件(右側へ注意が引き寄せられやすい条件:MAを評価)、2)選択したターゲットが削除される条件(右側から注意を解放しやすい条件:コントロール)、3)選択したターゲットが変化しない条件(どこを探索したか記憶が必要となる条件:SWMを評価)。上記三条件の成績を比較することで各症例におけるUSNを生じさせる構成要素として、右空間からの注意の解放困難さ(MA)と空間性ワーキングメモリー障害(SWM障害)にどのような特性を示すのかを分析しています。
結果として、MAが優位な症例とSWM障害が優位な症例がそれぞれ存在していることが明らかとなりました。これらの結果は無視症状の特性が症例によって異なり、多数の構成要素の組み合わせによって生じているという仮説を支持する結果であると著者は述べています。
[Journal Club]短期間のミラーセラピーにより幻肢の運動主体感が高まる
Imaizumi S, Asai T, Koyama S
Agency over Phantom Limb Enhanced by Short-Term Mirror Therapy
Front Hum Neurosci. 2017 Oct;11:483
切断された四肢が実際には存在しないにも関わらず,あたかも存在するかのように知覚する体験を幻肢と呼び,これに痛みを伴う症状は幻肢痛と呼ばれます.四肢切断後には約90%以上が幻肢を体験し,40-80%が幻肢痛を慢性的に感じていると報告されています.
この幻肢痛に対して,Ramachandranらは鏡を用いた治療を考案しました.その治療では,幻肢痛患者の患側肢と健側肢との間に鏡を設置します.そして,鏡に映った健側肢を覗かせた状態で健側肢の運動を行わせます.患者は鏡に映る健側肢の運動を見ることで,あたかも失われた患側肢が動いているかのような錯覚を惹起します.この鏡を用いた治療はミラーセラピーと呼ばれ,10-15分のミラーセラピーを続けることで幻肢痛が軽減したとする報告が多数あります.このミラーセラピーは,切断された四肢への運動指令に対して,鏡からあたかも四肢が存在し動いているかのような視覚入力が得られます.運動指令に伴う感覚情報の予測と実際に運動した際に入力される感覚情報とが一致することで幻肢痛が軽減すると考えられています.
このミラーセラピーが有効であった方々は,幻肢を患者自身の意図で動かすことができたと言われています.「この四肢を動かしたのは自分自身である」といった意識は運動主体感と呼ばれ,運動指令に伴う感覚情報の予測と入力される感覚情報とが一致することで生起されると言われています.さらに「この四肢は自分自身のものである」といった意識である身体所有感も幻肢痛の軽減に関係している可能性が示唆されています.
そこで,今回紹介する研究では「ミラーセラピーにより幻肢への運動主体感および身体所有感に改善がみられるか」,「ミラーセラピーにより幻肢痛が軽減するか」そして「運動主体感,身体所有感と幻肢痛との関係を明らかにする」ことの3つを研究目的に実施されました.
対象は,上肢切断者9名(平均年齢64.78±12.21歳)で全員が幻肢を随意的に動かすことが可能で,5名が幻肢痛を有していました.8項目で構成され,それぞれ5段階での価する質問紙を用いて幻肢への運動主体感(3項目),身体所有感(3項目),幻肢痛(2項目)についてミラーセラピーの前後で評価を行いました.
ミラーセラピーは15分間の手指の屈伸運動でした.
結果は,15分間のミラーセラピー後に幻肢に対する運動主体感の有意な向上を認めました.しかし,身体所有感と幻肢痛には有意な変化を認めませんでした.
今回の研究結果から,短期間でのミラーセラピーでは幻肢の運動主体感に改善を認めるが,身体所有感や幻肢痛の改善には長い期間のミラーセラピーが必要であることが示唆されました.
著者らはこの研究結果をミラーセラピーにより幻肢痛の軽減や複合性局所疼痛症候群,脳卒中片麻痺の運動機能が改善するメカニズムとして,患側肢に対する主観的な知覚経験が関与することを示唆するものであると述べています.
[Journal Club]痛みへの恐怖は身体的動作に影響を与える
Thomas JS, France CR.
Pain-related fear is associated with avoidance of spinal motion during recovery from low back pain.
Spine (Phila Pa 1976). 2007 Jul 15;32(16):E460-6.
痛みの慢性化の重要なリスクファクターの一つとして,痛みに関連した恐怖が挙げられており,痛みの慢性化モデルとして恐怖回避モデルが提唱されています.実際に,痛みに関連した恐怖が高い人は,回避行動を引き起こし,日常生活にも支障が生じると言われています.
今回紹介する研究は,慢性腰痛患者が有する痛み関連の恐怖が,どのような運動行動に影響を与えているか不明であったため調査したものです.
36名の慢性腰痛患者に対して,高さの異なる3つのターゲットを用いてreach課題を実施しました.高さは,股関節0°,股関節30°,股関節60°屈曲するとreach可能な高さとしています.リーチする高さが低くなるほど,腰椎の可動性が求められます.
実験の結果,痛みへの恐怖心が強い群は,ターゲットが低くなればなるほどreach課題時の,著明な運動速度の低下と腰椎可動性の低下が認められました.
つまり,痛みへの恐怖が高い人は,reach課題時に腰椎の可動を避けるように,股関節や膝関節を用いた代償戦略となっていたということです.また,運動速度の低下も認められたことから,円滑に動作が行えていなかったことも明らかになりました.
この研究では慢性腰痛を対象にしていますが,痛みの慢性化防ぐためにも,急性期から痛みへの恐怖に関連した動作を評価することが重要になるかもしれません.
[Journal Club]最大前方リーチにおける触覚誘導のための対人相互作用
Steinl SM, Johannsen L.
Interpersonal interactions for haptic guidance during maximum forward reaching.
Gait Posture. 2017 Mar;53:17-24.
リハビリテーション場面において,療法士が対象者の動作介助(例:立位・歩行動作など)を行うために,身体接触を伴う徒手的方法を用いることは多くみられます.この際,療法士の介助が対象者の姿勢運動制御に影響を与える要因には,徒手的に加えられる力学的要因だけでなく,接触に起因する感覚的要因(触覚情報)があります.しかし,この触覚情報により双方または二者間の姿勢運動制御にどのような影響を及ぼすのかについての知見は散見される程度となっています.特に,ある目的のある運動課題において「影響を与える側(例:介助者)」と「影響を受ける側(例:被介助者)」のような役割設定を行い,触覚情報の相互作用が「影響を受ける側」の姿勢運動制御にどのような影響を与えるのかは明らかにされていません.
今回紹介する論文は,立位姿勢において一側上肢を可能な限り前方へとリーチさせる「最大前方リーチ課題(ファンクショナルリーチテストと同様な運動)」を行う者に対して,他者がリーチ側上肢への軽い身体接触(対人接触)により触覚情報を付加することで示される姿勢運動制御への影響を調べたものです.
健常若年者で構成されたペア(対象者AとB)を対象としており,対象者Aは閉眼安静立位にて右上肢で最大前方リーチ課題を実施することが求められます.この際,対象者Aの左側方に位置している対象者Bは,リーチを行っている対象者Aの右手首に右示指を用いて軽い対人接触を行い,対象者Aのリーチ運動に追従することが求められます.すなわち,対象者Aは対象者Bから対人接触を受けつつ主導的にリーチを行う役割(被接触者)にあり,対象者Bは対象者Aを対人接触によってフォローするといった役割(接触者)にあります.
また,実験では
①対象者Aのリーチ先に接触対象物(僅かな外力で滑動する軽量物)がある条件とない条件
②対象者Bが閉眼または開眼して対象者Aへ接触を行う,または,開眼で接触を伴わずに視覚誘導で対象者Aのリーチに追従する条件
の2要因からなる6条件が実験条件として設定されました.
計測は床反力計とモーションキャプチャーを用いて行われ,足圧中心動揺速度の変動性(姿勢動揺),リーチ上肢の運動距離と動揺速度変動性(リーチ距離とリーチ運動の動揺),そして床反力モーメントの相互相関係数(姿勢運動制御の相互作用)とその時間差(相互作用において対象者AとBのどちらが主導しているかの指標)が解析されました.
結果として,接触対象物がある場合は対象者A(被接触者)のリーチ距離がない場合に比べ増加し,姿勢動揺とリーチ運動の動揺を減少させることが示されました.さらに,この姿勢動揺とリーチ運動の動揺の減少は,対象者B(接触者)が閉眼で接触を行っている条件において最も顕著に示されました.また,接触を行う場合には,行わない場合に比べて対象者AとBの姿勢運動制御の相互作用が高く示されるが,これに接触対象物を加えた場合には,相互作用の程度が減少することが示されました.一方,相互作用の時間差については,主として対象者B(接触者)は対象者A(被接触者)の運動に遅れて反応することが示されましたが,接触対象物がなく対象者Bが閉眼で接触を行う場合には,この時間的関係性が逆転する(対象者BがAに先行する)ことが示されました.
これらの結果から,目的のある運動課題の姿勢運動制御において,対人接触を介した触覚情報に基づく相互作用は,被接触者と接触者の各々の状態に応じて変調することが明らかとなりました.具体的には,姿勢動揺の減少や運動の安定化のためには,加えられる触覚情報の参照点が多い(接触対象物と対人接触)と効果的であること.また,目的とする運動課題から明確なフィードバック情報を得ることができる場合(接触対象物があり対人接触を伴う条件)では,双方の情報が競合することで,接触者から加えられるフィードバック情報に対する感覚情報の重みづけが相対的に低下し,二者間の相互作用が減弱すること.一方,接触対象物がなく被接触者が得るフィードバック情報が接触者からの触覚情報に限局されており,さらに接触者が閉眼しており視覚的に被接触者の反応を得ることの出来ない場合には,相互作用を主導する役割が被接触者から接触者側へと切り替わるということです.
Steinlら(本論文著者ら)は「本研究の結果は,臨床の介助場面においても,相互作用する両者のおかれている感覚や運動の状態を考慮する必要があること示唆している」,「対人接触による触覚誘導を介助者主導とするには,被介助者が利用できる他の競合する触覚情報がないこと,そして,介助者側は視覚に基づいた反応的な対応を意図的に控える方略が必要かもしれない」と述べています.
[Journal Club]大脳白質損傷が半側空間無視の慢性化の予測因子になる
Lunven M, Thiebaut De Schotten M, Bourlon C, Duret C, Migliaccio R, Rode G, Bartolomeo P.
White matter lesional predictors of chronic visual neglect: a longitudinal study.
Brain. 2015 Mar;138(Pt 3):746-60.
半側空間無視は右半球損傷後に生じる神経学的症状の1つで,病巣の反対側の空間にある物体・事象を見落とすといった行動的特徴を呈します.無視症状が慢性化すると,自立した日常生活を送ることが困難となるため,発症後の早い段階で無視症状が慢性化するか否かを予測することは,リハビリテーションを行う上でも重要です.無視症状の病態は局所的な頭頂症候群として理解されてきましたが,近年はさまざまな研究により広範な脳領域を含む注意ネットワークの障害として考え直されてきています.
今回紹介する研究は,脳卒中後に起こる病巣(軸索変性)と無視症状の関連を縦断的に調査したものです.45名の右半球損傷患者に対して,発症3か月以内の亜急性期と,1年以上経過した慢性期で机上検査(総合得点ではなく,左空間の見落とし率で算出)を行い,病巣・軸索損傷との関連をみました.1回目の検査では45名中27名において無視症状を認めましたが,2回目の検査では10名のみ症状が残存していました.亜急性期で無視症状を示した患者は,無視のない患者と比較して上縦束という前頭-頭頂を結ぶ神経線維のⅡ・Ⅲ枝に加え,脳梁膨大部の損傷(拡散異方性値の減少)があったことが確認されました.また,慢性期にも無視症状を認めた患者は,改善した無視患者と比較して両半球の後頭-頭頂-側頭間の連絡を行う脳梁膨大部の大鉗子に損傷を認めました.
これまで,前頭-頭頂を結ぶ上縦束の損傷と無視症状発現の関与は,多くの先行研究によって知られていましたが,この研究ではそれに加えて脳梁膨大部の機能停滞が示されています.脳梁膨大部は左右半球の情報連絡を行っていますが,無視症状の回復にどういった役割を担っているのでしょうか?左半球との連絡が無視症状の回復と何かしらの関連があるということは非常に興味深いです.
運動機能の回復のように非麻痺側の左半球が無視症状の回復の手助けになっている可能性があるかもしれない…などなど,まだまだ改善を促す仮説があるのかもしれません.今後の検討に注目したいです.
[Journal Club]前庭脊髄反射や前庭動眼反射は姿勢脅威が増加した立位中に変調される
Naranjo EN, Cleworth TW, Allum JH, Inglis JT, Lea J, Westerberg BD, Carpenter MG.
J Neurophysiol. 2016 Feb 1;115(2):833-42.
「立っているのが怖い」と訴える方はリハビリテーション現場において数多く見受けられます.健常者を対象とした数多くの研究により,この「恐怖心」が姿勢制御を変調させるということがわかってきています.
今回紹介する論文は,恐怖心が起こる条件(高い場所での立位保持)において前庭脊髄反射や前庭動眼反射の活動がどのように変調するのかを調べたものです.
健常若年者を対象とし,低い床面(地上から0.8m)と高い床面(地上から3.2m)の2条件での立位保持を行います.高い床面は恐怖心を惹起するために実施しています.
第一実験では,先の低い床面と高い床面の各条件で前庭器官を刺激し,下斜筋,胸鎖乳突筋,僧帽筋,ヒラメ筋の表面筋電図から反応を測定しました.これはvestibular evoked myogenic potentials (VEMPs)という方法で,前庭動眼反応とともに内側前庭脊髄路や外側前庭脊髄路を経由する前庭脊髄反射を評価しています.
第二実験では,低い床面と高い床面の各条件で,機能的な前庭動眼反射のgainsを計算するためにvideo head impulse test (vHIT)を使用しました.実験者が被験者の頭部を上下,または左右に30~200°/sの速さで動かし,その際の眼球と頭部の速度を計測しました.
結果として,下斜筋,僧帽筋,ヒラメ筋で測定したVEMPの振幅やvHIT gainsは,低い床面と比べ高い床面での立位保持中に増加しました.
下斜筋や胸鎖乳突筋のVEMPの振幅や頭部を左右に動かした際のvHIT gainsの変化は皮膚電位活動(恐怖心などを感じると増加すると報告されています.)の変化と正の相関を示しました.
下斜筋のVEMPの振幅は恐怖心と正の相関を示しました.
これらの結果から,姿勢脅威に誘発された恐怖心や覚醒は前庭脊髄反射や前庭動眼反射に影響することが示されました.背景の神経メカニズムとしては恐怖心や覚醒などを処理する神経中枢から前庭核に興奮性の入力が存在し,前庭核からの反射経路への出力を変調させると考えられます.
[Journal Club]神経障害性疼痛を有する脊髄損傷者に対する経頭蓋直流電気刺激の効果
Ngernyam N, Jensen MP, Arayawichanon P, Auvichayapat N, Tiamkao S,
Janjarasjitt S, Punjaruk W, Amatachaya A, Aree-uea B, Auvichayapat P.
Clin Neurophysiol. 2015 Feb;126(2):382-90
脊髄損傷後の神経障害性疼痛は約半数で出現すると言われており,Quality of lifeを低下させる大きな問題の一つとされています.神経障害性疼痛に対する治療は投薬や外科的治療など様々なものが考案されていますが,投薬では期待する治療効果が得られないことや外科的治療では手術を必要とするため事故の可能性があり実際には行えないのが現状となっています.
今回,紹介する論文は経頭蓋直流電気刺激(Transcranial direct current stimulation: tDCS)という機器を用いて非侵襲的に脳を刺激することで脊髄損傷後の神経障害性疼痛に対する鎮痛効果と安静時脳波活動への影響を検証したものです.
tDCSとは?
tDCSは非侵襲的脳刺激法になります.頭皮上に刺激したい部位または基準部位に電極を置き微弱な電流(1~2mA)で刺激を行います.刺激の種類には,脳を興奮性に修飾する陽極刺激(anodal)と抑制性に修飾する陰極刺激(cathodal)があります.
この論文では,20名の神経障害性疼痛を有する脊髄損傷者に対して1回の陽極刺激(2mA)を左側の一次運動野に20分間行いました.加えて,tDCSが脳に及ぼす影響を調べるために安静時の脳波を測定しています.神経障害性疼痛を有する脊髄損傷者では安静時脳波活動が低周波域へ偏位する(低周波域の活動が増大する)と言われていますので,この低周波域への偏位が変化するかを調べています.
結果は,神経障害性疼痛の強度が減少し,tDCSで刺激していた部位の安静時脳波活動が高周波域へ偏位しました(高周波域の活動が増大した).
この研究は,脊髄損傷後の神経障害性疼痛に対するtDCSの鎮痛効果を示すとともに左側の一次運動野の興奮性を増加させることは下行性に疼痛を変調させるシステムに影響していた可能性を示しています.
[Journal Club]対人同期性は乳児の社会的行動を増加させる
Cirelli LK, Einarson KM, Trainor LJ.
Interpersonal synchrony increases prosocial behavior in infants.
Developmental Science. 2014.
たとえ乳幼児期であっても,その頃に経験した社会的相互作用が,後の社会性の発達に重要であることは周知の事実です.
今回紹介する論文は,対人同期的運動経験が,乳児の社会的行動を促進するかを検証したものです.
相互同期性とは・・・??
生まれたばかりの新生児であっても,人の発話に同調して身体を動かす現象のことであり,子どもがもともと人の働きかけに応じやすい,コミュニケーションを成立させるのに適した仕組みを生得的に持っていることを示す.
この論文では,生後14ヶ月の乳児48名に対して,音楽に合わせて,乳児を抱きかかえた大人と向かい合った大人が,①同期してバウンス(膝の屈伸)した場合と②非同期してバウンスした場合とで,その後の乳児の社会的行動が異なるかを調べています.
その後の社会的行動には,instrumental helping taskといって,大人が落とした物を,乳児が拾って助けてあげるかという利他的行動を観察しています.
その結果,同期条件を経験した乳児は,非同期条件を経験した乳児より,有意に大人を助ける行動を示しました.
この研究は,幼い頃の社会的相互作用の重要性を改めて認識させると共に,生後14ヶ月の乳児がすでに対人援助のために社会的手がかりを使用しており,同期性はそのような社会的手がかりの1つとなることを示しています.
[Journal Club]ニューロフィードバックトレーニングは化学療法誘発性の痛みを改善させる
Prinsloo S, Novy D, Driver L, Lyle R, Ramondetta L, Eng C, McQuade J, Lopez G, Cohen L.
Randomized controlled trial of neurofeedback on chemotherapy-induced peripheral neuropathy: A pilot study.
Cancer. 2017
がん化学療法を受けた後には,四肢末端に痺れや痛みが誘発されることが多いです.この痛みに対する薬物療法はいくつかトライされてきていますが,エビデンスレベルは発展途上に留まっています.
今回紹介する論文は,近年注目されている「ニューロフィードバックトレーニング」によって,化学療法によって誘発される痛みが改善するのかを検証したものです.
ニューロフィードバックトレーニングとは・・・??
自分の脳波活動をリアルタイムにフィードバックさせながら,ある特定の周波数の活動を選択的に高めるように自らの脳を調整するトレーニングです.
この論文では,化学療法によって痛みが誘発された者30名に対して,脳波電極19chを頭皮に装着してα波(8~13Hz)の周波数領域の活動を高めるようにニューロフィードバックトレーニングを実施しています.
今回の研究で実施されたニューロフィードバックでは,α波の活動が高くなると音が鳴るように設定されています.もちろん,対象者は「できるだけα波を高めて下さい」としか指示されていません.
このニューロフィードバックトレーニングを45分×20セッション(10週間)繰り返すことにより,安静時α波が有意に増大して,痛みも有意に改善したようです.ちなみに,痛み改善の効果量は他の先行研究(薬物療法)よりも明らかに大きいものでした.
化学療法誘発性疼痛は末梢神経障害に随伴するものと考えられていましたが,中枢機能を自らトレーニングすることによって改善するという知見は非常に興味深いものです.さらなる臨床応用が期待されます.