腰痛を持つ就労者における体幹運動障害は過去の痛み経験に由来する恐怖心が原因

PRESS RELEASE 2021.9.22

腰痛を有する就労者は,作業動作中に体幹の可動域が狭くなることや,体幹の運動スピードが緩慢となることが明らかとされています.しかしながら,このような体幹の運動異常が,痛みやそれに関連する心理的要因などによって引き起こされているのかは明らかとされていませんでした.畿央大学大学院 博士後期課程 藤井 廉 氏 と 森岡 周 教授らは,腰痛を有する就労者を対象に作業動作中の運動異常と痛み関連因子の評価を行い,重量物を持ち上げる際の体幹の運動速度の低下は,動作中に生じる腰部痛が原因ではなく,過去に生じた痛みの経験によって引き起こされる運動への恐怖心が影響していることを明らかにしました.この研究成果は,PLOS ONE誌(Kinematic analysis of movement impaired by generalization of fear of movement-related pain in workers with low back pain)に掲載されています.

研究概要

腰痛を有する就労者は,重量物を持ち上げる動作などの作業において,体幹の可動域が狭くなることや,体幹の運動速度が低下するなどの特徴を有することが報告されています.この運動範囲の狭小化や運動の緩慢さは,「痛みを回避するための過剰な保護行動」と捉えられており,痛みが慢性化するに至る要因と考えられています.このような腰痛による体幹の運動障害には痛みに対する恐怖心や破局的思考など,様々な痛み関連因子が関与していると考えられていますが,これらの要因がどのように影響しているのかは明らかとされていませんでした.畿央大学大学院 博士後期課程 藤井 廉 氏,森岡 周 教授らの研究チームは,三次元動作解析装置を用いて重量物を持ち上げる際の体幹運動の分析と痛み関連因子の評価を行い,媒介分析を用いて運動と痛み関連因子の詳細な関係性を分析しました.その結果,腰痛によって重量物を持ち上げる際に体幹運動速度が緩慢となり,その緩慢さには動作中に腰部に生じる痛みでなく,過去の痛み経験によって引き起こされる運動への恐怖心が影響していることを明らかにしました.

本研究のポイント

■ 腰痛を有する就労者を対象に,重量物を持ち上げる際の体幹の運動障害と痛み関連因子の関係を詳細に分析した.
■ 腰痛によって,重量物を把持して持ち上げる際の体幹伸展方向への運動速度が緩慢となっていた.
■ 体幹の運動速度の低下には,動作中に生じる痛みではなく,過去の痛み経験によって引き起こされる運動恐怖が関与していることを示した.

研究内容

本研究は,腰痛のない就労者と腰痛のある就労者を対象にしました.三次元動作解析装置を用いて,床に置かれた重量物を持ち上げる動作を遂行している際の体幹運動を定量的に計測しました.身体各部位に貼付したマーカーの位置情報から,体幹の最大屈曲角速度と伸展角速度を算出しました(図1).あわせて,「運動恐怖」,「破局的思考」,「不安」などの痛み関連因子の評価について質問紙を用いて行いました.

fig.1

図1.体幹の運動学的分析方法

「重量物を取りにいく場面」に最大となる体幹屈曲角速度と「重量物を把持して持ち上げる場面」に最大となる体幹伸展角速度を算出した.

 

分析の結果,「重量物を取りにいく場面」の体幹屈曲角速度は両群で有意な差はありませんでしたが,「重量物を把持して持ち上げる場面」の体幹伸展角速度が腰痛群で低値を示しました.つまり,動作課題中に痛みを訴えた者は1名も存在しなかったにも関わらず,体幹の伸展運動が緩慢となっていたということです.
また,この体幹の伸展方向への緩慢さに影響する痛み関連因子を明らかにするために,媒介分析を用いた変数同士の関係性を分析しました.その結果,過去の痛み経験と体幹伸展角速度を媒介する因子として,「運動恐怖」が抽出されました(図2).つまり,体幹の運動障害は,動作中に生じる痛みの強さによって影響されるのではなく,過去の痛み経験によって引き起こされる運動恐怖が原因であることが示唆されました.

 

fig.2

図2.媒介分析の結果

過去4週間のうちに経験した痛みの強度と体幹伸展角速度は,運動恐怖によって媒介されることを示す(完全媒介モデル)

本研究の臨床的意義および今後の展開

就労者に生じる腰痛は,労働障害や労働生産性に悪影響を及ぼすため,その予防は喫緊の課題と位置付けられています.作業動作中に痛みがないにも関わらず,運動恐怖によって体幹の運動障害が出現している場合,いずれ腰痛の再発や遷延化を予兆するサインかもしれません。今後は,運動恐怖を減ずる介入によって運動障害が改善するかどうかを検証する予定です.

論文情報

Ren Fujii, Ryota Imai, Shinichiro Tanaka, Shu Morioka

Kinematic analysis of movement impaired by generalization of fear of movement-related pain in workers with low back pain.

PLOS ONE 2021

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科
藤井 廉(フジイ レン)

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

 

森岡 周(モリオカ シュウ)

E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600

【WEB開催】第1回 発達科学と小児リハビリテーション研究会 ―THE FIRST TAKE―

近年,発達科学は研究手法の発展により新しく興味深い知見を次々と見い出し,その成果は従来の発達の概念を変えるほどのものとなっています.一方で,小児リハビリテーションの現場は大きく変化しておらず,発達神経科学を含め発達科学の知見を子どもたちのリハビリテーションに活かす取り組みは,不十分と言わざるを得ません.加えて,近年では発達障害に併存する運動障害の存在が注目され,それに対するリハビリテーションの需要が高まってきていますが,その理解と供給は追いついていないのが現状です.この現状から1つ前のステップへ進むためには,小児リハビリテーションに関わる全国の皆さんと知識と経験を共有し,忌憚なくディスカッションする「場」が必要と考えます.そこで今回の研究会を「発達科学を基に小児リハビリテーションを考える」最初の一歩にしたいという想いから,テーマを THE FIRST TAKE と設定させて頂き,脳性麻痺および発達障害に併存する運動障害についての知識・経験,そして考えを共有したいと思います.COVID-19の影響で定着したWEBを活用して,全国の皆さんと考える場を共有できれば幸いです.是非ともご参加下さい‼

畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター
信迫悟志

poster2021Develop

 

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 プログラム

【日時】2021年12月11日(土)13:00-17:00(WEBライブ配信のみ)

【開催方法】WEB開催*ご参加には,Zoomを利用できる環境が必要です.

13:00-13:10「会を始めるにあたり-小児リハビリテーションにおける問題点の共有-」

 畿央大学 信迫悟志

13:15-14:15 「自発運動とジェネラルムーブメント-発達との関連-」

東京都立大学 儀間裕貴

14:25-15:25 「脳性麻痺リハビリテーションの昔と今―なにを変えなければならないのか―」

日本バプテスト病院 浅野大喜

15:35-16:25 「発達障害に併存する運動障害について」

畿央大学 信迫悟志

16:30-17:00 「座談会(儀間+浅野+信迫)+質疑応答(Q&A)」

参加申し込み

Peatixを利用して参加して頂きます.以下のURLからPeatixチケットページをご確認下さい.

https://kionrcdevelopment2021.peatix.com

問い合わせ先

E-MAIL:s.nobusako@kio.ac.jp
信迫悟志(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

 

パーキンソン病患者における長期間の理学療法の有効性-システマティックレビュー&メタアナリシスー

PRESS RELEASE 2021.9.1

パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)の運動症状は疾患早期から認め,運動症状に対して抗PD薬や理学療法などのリハビリテーションを早期から継続して行うことが重要であることは広く認識されていますが,長期間の理学療法の効果に関するエビデンスは明らかにされていませんでした.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの岡田 洋平 准教授(健康科学部理学療法学科,大学院健康科学研究科併任)は,日本全国の研究者と共同でシステマティックレビュー,メタアナリシスを行うことにより,疾患早期から中期のPD患者に対する長期間(6か月以上)の理学療法は,運動症状を改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることのエビデンスを初めて示しました.この研究成果は,Journal of Parkinson’s Disease(Effectiveness of Long-Term Physiotherapy in Parkinson's Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis)に掲載されています.

研究概要

パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)は,様々な運動症状や非運動症状を認める緩徐進行性神経変性疾患です.疾患の経過とともに,それらは徐々に進行し日常生活動作の障害が認められるようになります.抗PD薬による治療はそれらの症状を軽減しますが,疾患の進行とともにその内服量は徐々に増加します.抗PD薬の内服量の増加は,症状の日内変動や不随意運動などの副作用のリスクの増加につながります.一方,薬物療法とともに理学療法などのリハビリテーションを継続して長期間行うことが重要であることは広く認識されています.長期間の理学療法を継続して実施することにより,抗PD薬の内服量を過度に増加させることなく,運動症状の増悪を軽減できることが望ましいと考えられます.
これまで,PD患者に対する理学療法の運動症状や日常生活動作を改善する短期効果に関するエビデンスは示されておりましたが,長期間の理学療法の運動症状や抗PD薬内服量に対する効果に関するエビデンスは検証されておりませんでした.そこで,畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの岡田 洋平 准教授(同 健康科学部理学療法学科,大学院健康科学研究科併任)は,日本全国の研究者と共同で, PD患者に対する長期間の理学療法の効果に関するシステマティックレビュー,メタアナリシスを行い,長期間の理学療法は抗PD薬の薬効状態が悪い状態(オフ期)の運動症状を改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることのエビデンスを初めて示しました.

本研究のポイント

■ パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者に対する長期間の理学療法の効果に関するシステマティックレビュー,メタアナリシスを実施した.

■ 疾患早期から中期のPD患者に対して,長期間(6か月以上)の理学療法を行うことにより,運動症状が改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることのエビデンスが初めて示された.

研究内容

2020年8月までに出版されたPD患者に対する理学療法の効果に関するランダム化比較対照試験(Randomized controlled trial: RCT)を複数のデータベース(Pubmed,Cochrane Central, PEDro, CINAHL)を用いて検索しました.特定された2940件の研究を対象にペアで厳密にスクリーニングした結果,疾患早期から中期(ヤール分類1-3)のPD患者を対象に,6か月以上の理学療法を行い,運動症状,日常生活動作,抗PD薬内服量に対する効果について検証しているRCTが10件同定されました(図1).今回のシスティックレビューでは,抗PD薬の薬効状態による運動症状に対する効果の差異について検証するため,評価時の薬効状態が明確なRCTのみを対象としました.

図1改2

 

図1.PRISMA声明に基づくシステマティックレビューの過程 © 2021 Yohei Okada

4つのデータベースの検索と,Narrative reviewなど他の情報源から抽出したものを合わせた2940件の研究を対象に,タイトル・抄録,全文にてスクリーニングした結果,10件のRCTが解析の対象となった.

 

薬効状態の良好なオン期,不良なオフ期の運動症状,日常生活動作,抗PD薬内服量に関する結果を抽出し,メタアナリシスを行いました.その結果,長期間の理学療法はオフ期の運動症状を改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることが明らかになりました(図2)

図2

図2.理学療法の効果(vs 介入なし/コントロール介入)に関するメタアナリシスの結果

長期間の理学療法が,介入なし/コントロール介入と比較して,オフ期の運動症状を改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることが示された.

 

研究グループは,PD患者は薬物療法を継続していると,薬の効果が持続せず薬を飲んでいてもオフ期に運動症状の増悪を認めることが多いため,長期間の理学療法によりオフ期の運動症状が改善することのエビデンスが明らかになったことは,PD患者にとって意義深いと考察しています.また,長期間の薬物療法に伴い,抗PD薬の内服量が増加すると,PD患者が症状の日内変動や不随意運動などの副作用が出現・増悪するリスクが高くなり,社会にとっても医療費増大につながる可能性が考えられます。したがって,長期間の理学療法により抗PD内服量が減少することは,抗PD薬内服量増加に伴う副作用の発生リスクや医療費増大の抑制に寄与する可能性があり,PD患者やその家族にとってだけでなく,社会にとっての意義が大きいとも言及しています.

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究により,PD患者に対する長期間の理学療法が運動症状を改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることのエビデンスが初めて示されました.本研究成果は,PD患者が疾患早期から理学療法を継続して行う動機づけにつながり,抗PD薬内服量増加に伴う副作用出現や増悪のリスクの低下,医療費増大の抑制にも寄与することが期待されます.本研究では,介入方法による長期理学療法の効果の差異についても検討したが,研究数が少なくエビデンスの質としては十分でなかったため,今後有効な介入方法についても再度検証する予定です.また,PD患者に対するより長期間の理学療法の効果や運動療法以外の理学療法介入の効果についても研究する予定です.

論文情報

Yohei Okada, Hiroyuki
Ohtsuka, Noriyuki Kamata, Satoshi Yamamoto, Makoto Sawada, Junji Nakamura, Masayuki Okamoto, Masaru Narita, Yasutaka Nikaido, Hideyuki Urakami, Tsubasa Kawasaki, Shu Morioka, Koji Shomoto , Nobutaka Hattori

Effectiveness of Long-Term Physiotherapy in Parkinson’s Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis.

Journal of Parkinson’s Disease, 2021

関連ページ

本研究のPROSPERO登録
https://www.crd.york.ac.uk/prospero/display_record.php?ID=CRD42020206939

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

岡田洋平(オカダヨウヘイ)

E-mail: y.okada@kio.ac.jp

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600

すくみ足があるパーキンソン病患者における歩行中の前方不安定性

PRESS RELEASE 2021.7.13

歩行時に足が地面にくっついたようになって前に進めなくなる症状を「すくみ足」といいます.すくみ足があるパーキンソン病患者は前方に転倒しやすいことが知られていますが,歩行中に前方へ不安定となっているかについては客観的に明らかにされていませんでした.畿央大学大学院修士課程の浦上英之氏と岡田洋平准教授らは,三次元動作解析装置を用いて,すくみ足があるパーキンソン病患者は,すくみ足がないパーキンソン病患者よりも歩行中に前方へ不安定となっていることし,また,その前方不安定性はすくみ足に関連する歩幅の低下や歩行リズムの上昇と関連することを実験的検証により初めて明らかにしました.この研究成果は,Neuroscience Research誌(Forward gait instability in patients with Parkinson's disease with freezing of gait)に掲載されています.

研究概要

パーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性は,すくみ足によるものと,前屈姿勢によるものの2つの表現型があるとされてきました.すくみ足は,パーキンソン病患者でみられる特徴的な歩行障害であり,すくみ足が出現する直前には歩幅の低下や歩行率の上昇がみられることが知られています.近年,すくみ足があるパーキンソン病患者は前方への転倒頻度が高いことが報告されていましたが,歩行中の前方不安定性については,客観的な検証が行われていませんでした.
歩行中の前方不安定性の客観的指標には,踵接地時における身体質量中心(COM)と支持基底面(BOS)までの距離(COM-BOS距離)や,Margin of Stability(MOS)が用いられています.COM-BOS距離は前方へ転倒するリスクの程度を示し,MOSはCOMの位置と速度の両方を考慮した動的安定性を示します.
畿央大学大学院修士課程の浦上英之氏と岡田洋平准教授らは,すくみ足があるパーキンソン病患者11名,すくみ足がないパーキンソン病患者9名および高齢者13名を対象に三次元動作解析装置を用いて歩行解析を行い,前方不安定性について検討しました.その結果,①すくみ足があるパーキンソン病患者は,すくみ足がないパーキンソン病患者と比較して,歩行中に前方へ平衡を失うリスクが高く,動的に不安定となっていることと,②その前方不安定性はすくみ足に関連する歩行指標(歩幅減少と歩行率上昇)と関連することが示されました.

本研究のポイント

■ すくみ足があるパーキンソン病患者の歩行時の前方不安定性について三次元動作解析装置を用いてを客観的に検証した.
■ すくみ足があるパーキンソン病患者はすくみ足がないパーキンソン病患者と比較して,歩行時に前方に平衡を失うリスクが高く,前方への動的不安定性が高いことが明らかになった.
■ すくみ足があるパーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性は,歩幅の低下や歩行リズムの上昇と関連があることが明らかにされた.

研究内容

本研究では,すくみ足があるパーキンソン病患者11名,すくみ足がないパーキンソン病患者9名および高齢者13名を対象に三次元動作解析を用いて歩行解析を行い,前方不安定性について検証しました.対象者は,40点の赤外線反射マーカーを貼付した状態で,快適歩行速度で5mの歩行路を歩行し,赤外線カメラにて取得したマーカーの三次元座標情報から時空間歩行指標(歩幅,歩行率)と運動学的指標(体幹前傾角度,後続肢の股関節伸展角度),さらに前方不安定性指標(COM-BOS距離,MOS)を算出しました.(図1).

fig.1

図1:歩行の前方不安定性指標
右踵接地時におけるCOM-BOS距離,MOSの算出方法を示す.いずれの指標も,低値であれば前方へ不安定であると解釈される.

 

その結果,すくみ足があるパーキンソン病患者のCOM-BOS距離は低い値を示しました.また,疾患重症度を調整した群間比較において,すくみ足があるパーキンソン病患者はすくみ足がないパーキンソン病患者よりもMOSが低い値を示しました図2).

fig.2

2:歩行の前方不安定性指標の群間比較 (*p<0.05)

PD+FOG:すくみ足があるパーキンソン病患者群,PD-FOG:すくみ足がないパーキンソン病患者群,Control:健常高齢者

*有意な群間差あり(ANOVA, p<0.05) †有意な群間差あり(ANCOVA 疾患重症度で調整, p<0.05

また,すくみ足があるパーキンソン病患者群において,COM-BOS距離は歩幅と正の相関を示し,MOSは歩行率と負の相関を示しました(図3).

fig.3

図3:各群における歩行中の前方不安定性指標とすくみ足関連指標の散布図

●すくみ足のあるパーキンソン病患者 〇すくみ足のないパーキンソン病患者 △健常高齢者

この結果は,すくみ足があるパーキンソン病患者において,歩幅の減少はCOM-BOS距離の減少と関連し,前方への転倒リスクが高まること,また歩行率の上昇は,MOSの減少と関連し,動的安定性が低下することを示しています.これは,すくみ足のあるパーキンソン病患者における歩行時の前方不安定性があること,すくみ足に関連する歩幅の低下や歩行率の上昇は前方不安定性と関連することを実験的検証により初めて示したことになります.これらの結果から,すくみ足と関連する歩幅の減少や歩行率の上昇を,投薬治療やリハビリテーションにより改善することが,すくみ足があるパーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性の軽減につながることが期待されます.

本研究の臨床的意義および今後の展開

パーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性は,すくみ足によるものと,前屈姿勢によるものの2つの表現型があるとされてきましたが,本研究では,すくみ足があるパーキンソン病患者の前方不安定性を実験的検証により初めて明らかにしました.今後は,もう1つの表現型である前屈姿勢のあるパーキンソン病患者の前方不安定性について検証する予定です.

論文情報

Hideyuki Urakami, Yasutaka Nikaido, Kenji Kuroda, Hiroshi Ohno, Ryuichi Saura, Yohei Okada

Forward gait instability in patients with Parkinson’s disease with freezing of gait.

Neuroscience Research, 2021

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

岡田洋平(オカダヨウヘイ)

E-mail: y.okada@kio.ac.jp

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慢性疼痛患者における疼痛律動性のタイプ分類

PRESS RELEASE 2021.7.8

近年,日内で疼痛強度が変動する疼痛律動性の存在が注目されております.こうした疼痛律動性を把握することは慢性疼痛への治療戦略を考えるうえで有用であり,様々な疾患で律動性の調査が行われています.しかし,これまでの研究では疾患横断的に調査されたものはなく,律動性が疾患由来で生じるのか?神経障害性や心理状態といった個人の要因で生じるのか?といった点が明らかになっておりませんでした.畿央大学大学院博士後期課程 田中 陽一 氏と森岡 周 教授 らは,慢性疼痛患者56名を対象にクラスター分析を用い,疼痛律動性の類似性から群分けを行い,リズムタイプの異なる3タイプの存在を明らかにしました.また,神経障害性疼痛の重症度がこれらの群間で異なっていることを報告しました.この研究成果は,Medicine誌 (Classification of circadian pain rhythms and pain characteristics in chronic pain patients:An observational study)に掲載されています.

研究概要

これまで疾患別に疼痛律動性の存在が多数報告されてきました.しかし,疼痛律動性が生じる原因について論じられたものはなく,律動性が疾患由来で生じているのか,個人因子の影響が強いのかといった点が明らかになっておりませんでした.そこで,畿央大学大学院博士後期課程 田中 陽一 氏 と 森岡 周 教授 らは,慢性疼痛患者56名の疼痛律動性を疾患横断的に調査しました.

その結果,リズムタイプの異なる3タイプの律動性の存在を明らかにし,更に神経障害性疼痛の重症度に群間差があることがわかりました.こうした疼痛律動性の把握は,時間帯を考慮した生活活動の導入や身体活動の管理などの介入に有用であると考えられます.また、3群間で疾患に有意差を認めなかったことから,疾患では疼痛律動性を把握することは困難であり,本研究で群間差が見られた神経障害性の要素などの個別的な評価が必要であることが示唆されました.

本研究のポイント

■ 慢性疼痛患者を対象に疼痛律動性を調査した.
■ 律動性の異なる3タイプの存在が明らかになった.
■ 群間で神経障害性疼痛の重症度に有意差があったことから,こうした疼痛のリズムには疼痛の性質が影響していることが示唆された.

研究内容

慢性疼痛患者56名を対象に,疼痛律動性は1日6時点(起床時・9時・12時・15時・18時・21時)を7日間評価しました.6時点の7日間平均に標準化処理(Zスコア)を行った6変数でクラスター分析を行い,律動性の類似性から分類を行いました.

クラスター分析の結果,起床時に最も疼痛強度が高く,時間経過とともに疼痛が減少していくタイプ,起床時に疼痛強度が高いが日中に低下し,夕方から夜間にかけて疼痛が再度増悪していくタイプ,これらのタイプとは逆に起床時に最も疼痛強度が低く,時間経過とともに疼痛が増強していくタイプの3タイプの律動性を明らかにしました(図1).

図1.疼痛律動性のリズム分類

クラスター分析により,異なる特徴を持つ3つのクラスターが抽出された.CL1では,起床時の痛みスコアが最も高かったが,時間の経過とともに痛みスコアは低下する傾向にあった.CL2では,起床時に痛みスコアが高く,日中は減少したが,15時以降は徐々に増加した.CL3では、時間の経過とともに痛みスコアが徐々に上昇する傾向が見られた.

 

また,3群間の比較において疾患や疼痛罹患期間,服薬の有無には有意差は見られませんでしたが,神経障害性疼痛の重症度に群間差を認めました(図2).CL1・2とCL3の間で有意差が見られたことから神経障害疼痛の重症度が起床時の高い疼痛強度に関与していることが考えられます.本研究の結果から,疼痛律動性は疾患由来ではなく,神経障害性などの疼痛性質に強く影響を受けていることが示唆されました.

図2.3群間の比較

CL1とCL2は,CL3よりも神経障害性の重症度の総得点が高かった.また,誘発痛については,CL1がCL3よりも高いスコアを示した.

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究は,疼痛律動性が疾患由来ではなく疼痛性質によって生じていることを示唆し,個別的な評価によって律動性を評価する必要性が示されました.今後は,疼痛律動性を踏まえた,治療介入の効果と限界について研究される予定です. 

論文情報

Yoichi Tanaka, Hayato Shigetoh, Gosuke Sato, Ren Fujii, Ryota Imai, Michihiro Osumi, Shu Morioka

Classification of circadian pain rhythms and pain characteristics in chronic pain patients: An observational study.

Medicine, 2021

 

関連する論文

■ Tanaka Y, Sato G, Imai R, Osumi M, Shigetoh H, Fujii R, Morioka S. Effectiveness of patient education focusing on circadian pain rhythms: A case report and review of literature. World J Clin Cases 2021; 9(17): 4441-4452

■ 田中 陽一, 大住 倫弘, 佐藤 剛介, 森岡 周. 日中の活動が慢性疼痛の日内変動に及ぼす影響─右腕神経叢損傷後疼痛を有する1症例での検討─. 作業療法 2019; 38: 117-122, 2019

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科
田中 陽一(タナカ ヨウイチ)

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

森岡 周(モリオカ シュウ)

E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600

パーキンソン病患者,高齢者の方向転換時の移動軌跡,足接地位置の特性

PRESS RELEASE 2021.7.5

方向転換を円滑に行うには,移動軌跡や足の接地位置を適切に制御することが重要であると考えられます.畿央大学の岡田洋平 准教授,福本貴彦 准教授,慶應義塾大学の高橋正樹 教授,同大学院 萬礼応(現筑波大学 助教),京都大学の青山朋樹 教授らの研究グループは,レーザーレンジセンサー(慶応義塾大学 高橋正樹 教授,萬礼応ら 開発)を用いた高精度歩行計測システムにより,パーキンソン病患者と高齢者がTimed up and go test(TUG)で方向転換を行う際の移動軌跡と足接地位置の特性について調査しました.その結果,パーキンソン病患者は,TUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し,その傾向が強い人ほど方向転換時の歩幅が低下することを明らかにしました.一方,高齢者はTUGにおいて歩隔(足の横幅)を広くして,マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示されました.この研究結果はGait & Posture誌(Footsteps and walking trajectories during the Timed Up and Go test in young, older, and Parkinson’s disease subjects)に掲載されています.

研究概要

方向転換は,加齢やパーキンソン病により障害されます.高齢者は方向転換時の歩数が増加し,速度が低下し,転倒リスクの増加につながります.パーキンソン病患者は,方向転換の速度がより低下し,歩幅も低下することなどが示されています.円滑な方向転換には,移動軌跡や足の接地位置を適切に制御することが重要であると考えられますが,これまで高齢者やパーキンソン病患者が,方向転換時にどのように移動軌跡や足接地位置をとる傾向にあるのか,またその傾向は方向転換時の歩幅などにどのように関連するかについては明らかにされていませんでした.畿央大学の岡田洋平准教授,福本貴彦准教授,慶應義塾大学の高橋正樹教授,同大学院 萬礼応(現筑波大学助教),京都大学の青山朋樹教授らの研究グループは,レーザーレンジセンサー(慶応義塾大学 高橋正樹 教授,萬礼応ら 開発)を用いた高精度歩行計測システムにより,高齢者やパーキンソン病患者がTimed up and go test(TUG)で方向転換を行う際の移動軌跡と足接地位置の特性について検討しました.その結果,パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し,その傾向が強い人ほど方向転換時の歩幅が低下することを明らかにしました.また,高齢者はTUGにおいて歩隔(足の横幅)を広くして,マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示されました

本研究のポイント

■ パーキンソン病患者と高齢者の方向転換時の移動軌跡と足接地位置を,レーザーレンジセンサーを用いた高精度歩行計測システムにより評価した.
■ パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し,その傾向が強いほど方向転換時の歩幅が低下することが明らかになった.
■ 高齢者は,方向転換において歩隔(足の横幅)を広くして,マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示された.

研究内容

パーキンソン病患者,健常高齢者,健常若年者を対象に,レーザーレンジセンサー(LRS)を用いた高精度歩行計測システム(図1)により,TUGを行う際の脚移動軌跡と足接地位置について比較検証しました.従来のTUGは,椅子から立ち上がり,3m歩いて,180度方向転換し,戻ってきて,椅子に座るまでの所要時間を計測するのみでした.しかし,今回我々はLRSを用いた計測システムを利用することにより,肢移動軌跡や足接地位置に関する指標(マーカーと足接地位置の最短距離,スタート地点と足接地位置の最大前方距離,足接地位置の最大横幅など)や歩行の時空間指標(歩幅,歩隔,歩行率)もマーカーレスで計測可能でした.

fig.1

図1 レーザーレンジセンサー(LRS)を用いた計測システム

 

その結果,パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し,その傾向が強いほど,方向転換時の歩幅が低下することが明らかになりました.この結果は,パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地してより鋭い角度で方向転換しようとすることにより,方向転換時の歩幅の低下の程度が大きくなる可能性を示唆しています.一方,高齢者はTUGにおいて歩隔が広く,方向転換時のスタート地点と足接地位置の最大前方距離が大きいことが示されました.この結果は,高齢者が方向転換時に歩隔を広くして,側方への動的不安定性を減少させるための代償戦略をとっていることを表している可能性があります.

fig.2

図2 結果
a. 3群のTUGにおける移動軌跡および足接地位置の代表例
b. マーカーと足接地位置の最短距離の群間比較 *<0.05
c. マーカーと足接地位置の最短距離と方向転換時の歩幅の関連(パーキンソン病患者)

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究の結果,パーキンソン病患者と高齢者の方向転換時の足接地位置や移動軌跡の特性が初めて示されました.今回得られた知見は,パーキンソン病患者の方向転換時の歩幅の低下の助長を防ぐため,あるいは高齢者の動的不安定性を軽減するための運動療法や動作指導を行う上で有用であると考えられます.今後は,パーキンソン病患者や高齢者の方向転換時の足接地位置や移動軌跡に関連する要因や他疾患における傾向についても検証していきたいと考えています.

論文情報

Okada Y, Yorozu A, Fukumoto T, Morioka S, Shomoto K, Aoyama T, Takahashi M.

Footsteps and walking trajectories during the Timed Up and Go test in young, older, and Parkinson’s disease subjects.

Gait & Posture, 2021.

 

問い合わせ先

畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター

岡田 洋平(オカダ ヨウヘイ)

Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: y.okada@kio.ac.jp

御礼:痛みのニューロリハビリテーション研究会

2021.7.3 に WEB上で「痛みのニューロリハビリテーション研究会」を開催しました.
今回のテーマは「脳卒中後疼痛」であり,大鶴直史 先生(新潟医療福祉大学),長坂和明 先生(新潟医療福祉大学),壹岐伸弥 先生(川口脳神経外科リハビリクリニック),古賀優之 先生(協和会病院)にそれぞれトークをしてもらいました.

20210705

大鶴先生からは痛みの脳科学についての基本的なことから最新知見までを紹介して頂き,長坂先生からはご自身の研究を中心にトークしてもらいました.特に,長坂先生のトークでは,視床が損傷した後に脳がどのように再組織化していくのかについて詳細に解説して頂き,これが参加者の興味の中心だったようで,多くの質問が集まり,ディスカッションが非常に盛り上がったように思います.その後に,壹岐先生から中枢性脳卒中後疼痛の事例を紹介して頂き,その評価・分析を皆でディスカッションして,今後に力を入れて取り組まなければならないことが,ぼんやりながらも見えたように思います.最後に,古賀先生から,脳卒中後に生じる肩痛についての疫学・病態メカニズム・リハビリテーションの実際についてトークしてもらいました.肩装具によって肩痛が改善しなかった症例を深めていく作業については,非常に有意義なディスカッションができたと感じています.

今回の研究会では,基礎研究を進めている立場と,リハビリテーションを実践している立場からトークしてもらったということで,新しいリハビリテーションが生まれそうな良い雰囲気がありました.今後も,このような企画をしていきたいと考えていますので,今後とも宜しくお願い致しますm(__)m

参加された皆様,トークして頂いた先生方,この度は有難うございました!

 

畿央大学 大住倫弘

慢性腰痛患者における歩行時の体幹運動制御は環境に依存する

PRESS RELEASE 2021.6.22

慢性腰痛における物の持ち上げ動作時の体幹の運動学は既に明らかにされていますが,歩行時の体幹制御や,それが環境によって変化するのかは明らかにされていませんでした.畿央大学大学院神経リハビリテーション研究室 西 祐樹 氏(博士後期課程),森岡 周 教授らは,慢性腰痛患者では歩行時の体幹の変動性や安定性が異常になり,それは日常生活環境でより顕著になることを明らかにしました.また,これらの制御異常は,痛みや恐怖,QOLと関連していることを示しました.この研究成果はJournal of Pain Research 誌(Changes in Trunk Variability and Stability of Gait in Patients with Chronic Low Back Pain: Impact of Laboratory versus Daily-Living Environments)に掲載されています.

研究概要

慢性腰痛患者では,立位や持ち上げ動作中に体幹の変動性や安定性が異常になることは既に明らかにされています.一方で,歩行中での体幹運動制御異常は明らかにされていませんでした.加えて,腰痛の運動制御の研究は,整えられた実験環境のみで調査されており,実際に腰痛が発生する日常生活環境では計測されてきませんでした.畿央大学大学院神経リハビリテーション学研究室 西 祐樹 氏(博士後期課程),森岡 周 教授らの研究チームは,無線加速度計を用いて,慢性腰痛患者における『外来リハビリ環境』および『日常生活環境』に応じた歩行制御の変化を調査しました.その結果,慢性腰痛患者では歩行時における体幹の変動性や安定性が異常になっていることが明らかになり,それは日常生活環境でより顕著になることが分かりました.また,これらの日常生活環境での歩行制御の変化は,痛みや恐怖,QOLと関連していることも明らかになりました.

本研究のポイント

■ 慢性腰痛患者における外来リハビリ環境と日常生活環境での歩行時の体幹制御を評価した.
■ 慢性腰痛患者では,歩行時の体幹の変動性や安定性が異常となっており,それは日常生活環境でより顕著になった.
■ これらの制御異常は,痛みや恐怖,QOLと関連していることが明らかになった.

研究内容

健常者と慢性腰痛患者を対象に,腰部に加速度計を装着し,『外来リハビリ環境』と,3日間の『日常生活環境』にて計測しました.加速度データから前後軸,左右軸それぞれにおいて,変動性の変数としてストライド間のSDおよびマルチスケールエントロピー,安定性の変数として最大リヤプノフ指数を算出しました.その結果,慢性腰痛患者における左右軸のばらつき,前後軸の不安定性が増加しており,それは日常生活環境でより顕著になりました.これらの歩行制御の変容は,日常生活環境においてのみ,痛みや恐怖,QOLと正の相関関係が認められました.このことから,外来リハビリ環境だけでは慢性腰痛患者の運動制御に関する病態を把握しきれていない可能性が考えられます.また,左右軸は痛みや恐怖に基づいた代償的なばらつきの変化により,安定性を保持している一方で,前後軸は代償戦略が機能せずに不安定性が高くなっており,QOL の低下にまで波及していると考えられます.以上のことから,本研究は,腰痛の増悪予防や病態把握における日常生活環境での歩行の質的評価の重要性を示唆しました.

fig.1

図1.歩行時の体幹制御の指標(© 2021 Yuki Nishi)

歩行時の加速度の前後軸,左右軸からストライド間のSD,安定性の指標として最大リヤプノフ指数,変動性の指標としてマルチスケールエントロピーを算出.

本研究の臨床的意義および今後の展開

腰痛の増悪予防や病態把握における日常生活環境での歩行の質的評価の重要性を示唆しました.今後はケースシリーズや縦断研究で運動制御と腰痛の因果関係を明らかにしていく予定です.

論文情報

Yuki Nishi, Hayato Shigetoh, Ren Fujii, Michihiro Osumi, Shu Morioka

Changes in Trunk Variability and Stability of Gait in Patients with Chronic Low Back Pain: Impact of Laboratory versus Daily-Living Environments

Journal of pain research, 2021

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科

博士後期課程 西 祐樹(ニシ ユウキ)

教授 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

痛みへの恐怖は運動のプログラム中枢を変容させる

PRESS RELEASE 2021.6.14

ヒトは痛みを怖がるとうまく身体を動かせなくなりますが,その脳メカニズムは明らかになってはいませんでした.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授,森岡 周 教授らは,東京大学医学部付属病院緩和ケア診療部 住谷昌彦 准教授らと共同で,痛みを怖がりながら運動を継続していく時の脳活動を調べ,身体を動かそうと意識をすると運動プログラム中枢の活動に異常が生じることを明らかにしました.この研究成果は,Behavioural Brain Research誌(Fear of movement-related pain disturbs cortical preparatory activity after becoming aware of motor intention)に掲載されています.

研究概要

痛みを怖がると身体をうまく動かせなくなることは多くの研究で明らかにされてきており,これは運動をプログラムしている “脳” の活動異常によるものだと考えられてきました.しかしながら,具体的に脳にどのような活動異常が生じるのかは明らかにされていませんでした.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘 准教授らは,健常成人18名を対象に,ボタンを押したら痛みが与えられる実験状況を設定して,ボタンを押すことを怖がっている時(ボタンを押す直前)の脳波活動を計測しました(図1).その結果,痛みを怖がりながらボタンを押す条件では,ボタンを押す直前に出現する「運動準備電位」の波形に異常が認められました.さらに詳細に分析すると,この時には,行動抑制の機能がある前頭領域の過活動と,運動プログラム中枢である補足運動野・帯状皮質の過活動が同時に認められました.これは,いわば,『ブレーキを踏みながらアクセルと強く踏んでいるような状態』で,自らで行動を抑制しながらも,無理をして行動を起こしている状態だと考えられます.おそらく,この脳の活動異常が続くことで,運動の異常パターンが出現するのだと考えられます.加えて,興味深いことに,この実験では,被験者に「自分がボタンを押そうとおもった瞬間」をLibet paradigmで記録しており,上記のような脳の活動異常は「ボタンを押そうと思った」 という自らの意思が顕在化した後から生じていることが明らかになりました.つまり,運動を意識すればするほど,あるいは痛みを意識すればするほど,脳の活動が異常になりやすいことを示唆しています.

参考:Libet paradigm
https://www.youtube.com/watch?v=OjCt-L0Ph5o

本研究のポイント

■ 痛みを怖がりながら身体を動かすと運動のプログラム中枢に活動異常が生じる
■ そのような脳の活動異常は,運動の意思が顕在化された後から生じる

研究内容

以下の図1のような手順で実験を進めました.被験者は,目の前に用意された特殊な時計(2550ミリ秒で1周する時計)をみながら,好きなタイミングでボタンを押すように指示されました.ボタンを押すと痛みをともなう電気刺激が与えられ,これを続けると被験者はボタンを押すことを怖がるようになります.また,ボタンを押した後には,「時計の針がどこの時にボタンを押したいと思ったか?」に対して回答をします.多くの被験者は,実際にボタンを押した時間の0.2 – 0.5秒前の時間を回答しました.

fig.1

図1:実験手順

 

このような実験タスクをすると,ボタンを押す直前に「運動準備電位」という図2のような波形が観察されました.この運動準備電位は,運動のプログラムを反映しており,この振幅や潜時に異常が生じるということは,運動プログラム中枢に何らかの異常が生じていることを意味します.実験の結果では,痛い条件での運動準備電位は,痛くない条件での運動準備電位よりも振幅が大きかったです.また,この振幅の異常は,自分でボタンを押そうという意思が顕在化した後(=自分の運動意図に気づいた後)に生じていました

fig.2

図2:各条件における運動準備電位

 

この時間帯でSource解析を進めると,図3のような行動抑制の機能がある前頭領域の過活動と,運動プログラム中枢である補足運動野・帯状皮質の過活動が同時に認められました.

 

fig.3

図3:痛みへの恐怖によって運動プログラム中枢に認められた異常な脳活動

本研究の臨床的意義

痛みへの恐怖が運動を悪くする脳メカニズムの一端が明らかになりました.また,これは運動の意思が顕在化された後に生じる脳活動の異常であることから,運動/痛みを過度に顕在化させないようなリハビリテーションの重要性を示唆していると考えます.

論文情報

Osumi M, Sumitani M, Nishi Y, Nobusako S, Dilek B, Morioka S.
Fear of movement-related pain disturbs cortical preparatory activity after becoming aware of motor intention.
Behav Brain Res. 2021 May 26;411:113379.

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
准教授 大住倫弘(オオスミ ミチヒロ)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: m.ohsumi@kio.ac.jp

条件付けられた痛みの恐怖は運動制御を変調させる

PRESS RELEASE 2021.6.3

筋骨格系の障害を持つ患者さんの中には,目標に向かって手を伸ばす動作により繰り返し痛みを感じることで,運動に対する恐怖を感じる方が数多くいます.そのような痛みや運動恐怖は生活の質に大きな不利益をもたらします.畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 西 祐樹と森岡 周 教授らは,東京大学 住谷 昌彦 准教授を中心とする研究グループと共同で,痛みの恐怖条件付けモデルを用いて,痛みに対する予期や恐怖に関連した恐怖によって,到達把握運動の制御が変調することが明らかにしました.この研究成果はScientific Reports誌(Kinematic Changes in Goal-directed Movements in a Fear-conditioning Paradigm)に掲載されています.

研究概要

筋骨格系の障害を持つ患者さんの中には,何かの動作をするたびに繰り返し痛みを経験することで,運動に対して恐怖心を抱くようになります.運動恐怖が生じると,痛みを最小限に抑えるために身体の運動戦略を適応させていきます.例えば,ゆっくり動かすと痛みがマシになるなら,患者さんは肢をゆっくり動かすように適応させていきます.一方で,保護的な運動戦略は,身体の器質的な障害や痛みを助長し,より大きな障害につながることがあります.畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 西 祐樹らの研究チームは,痛みの恐怖条件付けモデルを用いて,目標指向性到達における運動軌跡や筋収縮の変化を調査しました.その結果,運動に伴う痛みに対する予期や恐怖によって,得られた感覚に基づいて運動を調整するフィードバック運動制御が先行して緩慢化し,その後,予測的に運動を遂行するフィードフォワード運動制御が緩慢化することを明らかにしました.また、運動に伴う痛みがなくなると、フィードバック制御が先行して元に戻り、その後、フィードフォワード制御が元に戻りました.加えて,そのフィードフォワードやフィードバック運動制御の変調の背景には主動作・拮抗筋の共収縮が関与していることを明らかにしました

本研究のポイント

■ 痛みの恐怖条件付けを用いて、到達把握運動の運動軌跡と筋収縮を計測した.
■ 運動に伴う痛みの予期や恐怖によって,運動が緩慢化し,主動作・拮抗筋の共収縮が増加した.
■ 運動に伴う痛みがなくなると,運動の緩慢化や共収縮が徐々に元に戻った.

研究内容

到達把握運動における痛みの恐怖条件付けとして,練習段階では痛み刺激は与えられませんが,次の獲得段階では運動に伴って痛みが与えられたり,与えられなかったりしました.その後の消去段階では練習段階と同様に,運動に伴う痛みが与えられませんでした(図1).

図1

図1.到達把握運動における痛みの恐怖条件付け(© 2021 Yuki Nishi)

被験者は到達把握運動を行い,運動を完了した直後に痛みが与えられる.

 

運動制御の指標として,到達把握運動をフィードフォワード制御とフィードバック制御に分類し,それぞれに要した時間を算出しました.また,上腕二頭筋と上腕三角筋の筋電図を計測し,時間周波数解析という解析方法を用いて,筋収縮の様相を評価しました.その結果,運動に伴う痛みに対する予期や恐怖によって,得られた感覚に基づいて運動を調整するフィードバック運動制御が先行して緩慢化し,その後,予測的に運動を遂行するフィードフォワード運動制御が緩慢化することを示しました.また、運動に伴う痛みがなくなると,フィードバック制御が先行して元に戻り、その後、フィードフォワード制御が元に戻りました.加えて,そのフィードフォワードやフィードバック運動制御の変調の背景には主動作・拮抗筋の共収縮が関与していることを明らかにしました.これらの結果は,筋骨格系の障害における保護的なフィードフォワードおよびフィードバック運動の異常を説明できる可能性を示唆します.加えて,痛みの慢性化に影響を及ぼす要因を特定するためには,運動制御障害が生じるプロセスを詳しく評価することが重要であるということを示唆しています.

本研究の臨床的意義および今後の展開

筋骨格系の障害における保護的な運動の異常を詳細に説明できる可能性を示唆し,痛みの慢性化に影響を及ぼす要因を特定するために、運動制御障害の獲得過程を評価することの重要性を示しました.今後は筋骨格系の障害による運動制御や筋出力の詳細な分析を行い,その結果に基づいた介入を研究される予定です.

論文情報

Yuki Nishi, Michihiro Osumi, Masahiko Sumitani, Arito Yozu, Shu Morioka

Kinematic Changes in Goal-directed Movements in a Fear-conditioning Paradigm

Scientific Reports, 2021

 

関連する論文・記事

Nishi Y, Osumi M, Nobusako S, Takeda K, Morioka S.

Avoidance Behavioral Difference in Acquisition and Extinction of Pain-Related Fear.

Front Behav Neurosci. 2019 Oct 11;13:236.

 

問い合わせ先

畿央大学大学院健康科学研究科

博士後期課程 西 祐樹(ニシ ユウキ)

教授 森岡 周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601
Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp