物品把持動作の映像観察時における運動主体感と脳活動
PRESS RELEASE 2015.3.16
ヒトの身体感覚には運動主体感というものがあります.例えば,私たちがコップに向けて手をのばすという動作をするとき,その運動は自分自身で行ったと感じるはずですが,このときの「行為を引き起こしたのは,または行為を発生させたのは私自身である」という感覚を運動主体感と呼びます.近年,手足の映像を観察することにより実際に手足を動かさずとも動かしているような感覚が得られるとの報告があります.今回は手の機能特性である物品把持動作の映像を観察した時に運動主体感が生じるかどうか,またその時の神経メカニズムについて調査しました.
スクリーンを自分自身の手に重ね合わせて提示する条件(映像一致条件)と,スクリーンを自分自身の手とずらした状態で映像を提示する条件(映像不一致条件)の2条件を設定し,運動主体感の鮮明度の違いと脳活動を比較しました.
どちらの条件も自分自身は手を動かさず,映像を観察するだけにとどめるよう指示しました.課題は,映像一致条件と映像不一致条件をランダムに4回ずつ連続して行いました.
課題を行った後,運動主体感の鮮明度の強さについて質問紙で答えてもらい,Numerical rating scale (NRS)で評価しました(図1).

図1.提示した課題と条件
脳活動はfunctional near-infrared spectroscopy (fNIRS)を使用して,前頭葉から頭頂葉の範囲を測定しました.プローブと呼ばれる検出器を頭部に装着し図の領域の脳血流量を測定しました(図2).

図2.fNIRSにより脳血流量を抽出した脳領域
図3は11人の健常者に対して行った運動主体感の鮮明度の強さをグラフ化したものです.赤い横線は被験者のスコアの中間値を示しています(図3).

図3.映像一致条件と映像不一致条件における運動主体感の鮮明度の強さ
映像一致条件では,すべての被験者が運動主体感を感じていました.また,映像一致条件のスコアは映像不一致条件と比較して有意に大きな値となりました.
図4は脳活動の大きさをグラフ化したものです.
映像一致条件では,右前頭前領域において有意に大きな活動が認められました.一方,映像不一致条件では左下前頭領域において有意に大きな活動が認められました.
また,右前頭前領域の映像一致条件と映像不一致条件の脳活動を比較したところ,映像一致条件において有意に大きな活動が求められました.さらに,この映像一致条件における右前頭前領域の脳活動は,運動主体感の鮮明度の強さと相関が認められました.つまり,運動主体感が惹起されない映像不一致条件では左前頭領域が活動するのに対して,運動主体感が生起される映像一致条件では右前頭領域が活動し,その活動量は運動主体感とは相関関係にあるということです.
これらのことをまとめると,このような映像を観察させることによって運動主体感を生起させることができ,その時には身体知覚に重要である右半球が特異的に活動するということです.

図4.映像一致条件と映像不一致条件における脳活動
本研究の臨床的意義
実際の運動を行わずに運動主体感を生じさせ,大脳皮質運動野を賦活させる介入方法は,脳損傷患者の運動障害後の運動機能回復への応用が期待できます.また,本研究のように,物品を把持する映像の観察することで,運動主体感を起こすことができれば,運動意図,身体知覚に障害を持つ高次脳機能障害患者に対しても治療へ応用することが期待できると考えられます.治療介入に向け,今後さらに検討を重ねていこうと考えています.
論文情報
Wakata S, Morioka S. Brain Activity and the Perception of Self-agency while Viewing a Video of Hand Grasping: a Functional Near-Infrared Spectroscopy Study. NeuroReport. (in press).
問い合わせ先
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
客員研究員 若田哲史(ワカタ サトシ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: satoshiwakata@gmail.com
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
高位頸髄損傷者の余剰幻肢痛に対するVirtual Visual Feedbackの効果
PRESS RELEASE 2015.3.2
脊髄損傷者にとって,疼痛はリハビリテーションの結果を悪くし,生活の質を低下させる因子であることが認識されています.脊髄損傷者の約65%は慢性的な疼痛があり,そのうちの約3分の1は激しい疼痛であったとの報告もされています.脊髄損傷後の疼痛に対しては,外科的療法,薬物療法,神経刺激療法,認知行動療法,運動イメージを用いた治療などが行われてきましたが,その治療効果は一時的であったり,科学的根拠に乏しいため治療に難渋しており長期予後も良くないとされています.また脊髄損傷後には,求心路遮断が起きた実際の四肢に加えて,幻想の四肢を知覚する余剰幻肢や余剰幻肢に疼痛を伴う余剰幻肢痛が出現することも報告されています.四肢切断後に出現する幻肢痛に対しての治療では,鏡療法や映像に合わせて患肢の運動をイメージさせるVirtual Visual Feedback(以下,VVF)の有効性が報告されています.しかし,脊髄損傷後の余剰幻肢痛に対する有効な治療方法は明らかにされていません.そこで本研究では,高位頸髄損傷者の余剰幻肢痛に対し映像に合わせて運動をイメージさせるVVFを行い,治療効果とその効果の持続期間についてシングルケースデザインにて検討しました.
本症例は,両上肢が左右ともに余分に1本ずつ存在する感覚を持った高位頸髄損傷者でした(図1).

図1.余剰幻肢と余剰幻肢痛の存在部位
そして,図2のように正面に設置した鏡に頸部から下が隠れるようにシーツを巻き付け,第三者が歩行および両上肢を動かしている映像に合わせて運動をイメージしてもらうVirtual Visual Feedbackを1日10分間行い,疼痛の強さの変化をVisual Analog Scale (以下,VAS)にて測定しました(図2).

図2.介入風景
A期を第一基礎水準期(3週間),A´期を第二基礎水準期(12週間),B期を第一操作導入期(12週間),B´期を第二操作導入期(6週間)としました.A´期は,B期の効果の持続期間を確認するためにB期が終了してから4週後,8週後,12週後に分けました.結果は,治療前(A期)では,疼痛の強さは右側71.0mm,左側70.5mmでしたが,VVFを行ったB期では右側39.0mm,左側47.5mmまで軽減しました.また,その効果は右側ではB期終了後から8週間,左側では12週間持続しました.B´期でVVFを再開することで疼痛の軽減を再度認めました(図3).

図3.結果(余剰幻肢痛の変化)
余剰幻肢痛が改善した要因として,高位頸髄損傷完全四肢麻痺による知覚-運動ループの破綻が視覚情報の代償により再統合された可能性が考えられます.知覚-運動ループとは,運動を実行する際に脳内で行われる一連の運動系と感覚系の情報伝達のことをいいます.つまり,我々は運動を実行する際に、予測された感覚情報と実際の感覚情報を常に比較照合しているということです.
しかしながら、この知覚-運動ループが破綻されると自分の腕が増えたように感じたり,疼痛などの異常感覚が出現してしまうことが明らかになっていることから,知覚-運動ループの破綻は病的疼痛の発症メカニズムと関わっていることが示唆されています.
反対に,知覚-運動ループが視覚情報の代償により再統合される結果,幻肢の随意運動感覚が出現し幻肢痛が消失することも報告されています.Mercierらは,外傷性上肢切断,腕神経叢損傷により幻肢痛や余剰幻肢痛を有した患者に対し,映像に映し出された10種類の動きに合わせて幻肢や余剰幻肢を動かすイメージをさせるVVFを行ったところ,疼痛のVASが平均38%減少したと報告しています.このように,知覚-運動ループの破綻を視覚情報の代償により再統合させて疼痛を軽減させる介入方法として,映像に合わせて患肢の運動をイメージさせるVVFの有効性が報告されています.
このことを踏まえながら本症例について考察します.本症例は頸髄損傷によりC3以下の運動麻痺や感覚遮断が起きたため,運動指令および予測は可能ですが実際の運動は起こりません.そのため,実際の運動による体性感覚情報が比較器へフィードバックされず,予測との間に不一致が生まれ,知覚-運動ループが破綻し,その結果として余剰幻肢や余剰幻肢痛が出現したと考えられます.今回行ったVVFは,映像からの視覚情報が頸髄損傷に起因する体性感覚の脱失を代償して運動感覚をFeedbackすることによって,感覚遮断された上肢の知覚-運動ループが再統合され余剰幻肢痛が緩和したと考えています.
本研究の臨床的意義
本研究結果は,高位頸髄損傷者の余剰幻肢痛に対して映像に合わせて運動をイメージさせるVVFの有効性を明らかにしたものと考えています.鏡療法で健側の運動を用いて患側の運動をイメージさせることができない四肢麻痺者や対麻痺者の余剰幻肢痛に対しては、映像を用いて運動をイメージさせるVVFが有効である可能性を示唆するものと考えられます.しかし,1症例での検討であるため今後は症例数を増やしさらに検討していく必要があると考えています.
論文情報
Katayama O, Iki H, Sawa S, Osumi M, Morioka S. The effect of virtual visual feedback on supernumerary phantom limb pain in a patient with high cervical cord injury: a single-case design study. Neurocase. 2015 Feb 13:1-7.
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
修士課程 片山脩(カタヤマ オサム)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: b4768600@kio.ac.jp
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
自己と他者の歩行観察における大脳皮質活動の違い
PRESS RELEASE 2015.2.25
脳卒中発症後,運動麻痺の影響で歩行ができなくなることがあるため,歩行再獲得は脳卒中後のリハビリテーションにおいて重要な目標となります.近年,脳卒中後の歩行再獲得のための新しい治療法として歩行観察を取り入れた介入の効果が紹介されています.しかしながらその効果の神経メカニズムや,どのような歩行を観察すれば良いのかは明らかになっていませんでした.そこで今回,「自分自身の歩行」と「他者の歩行」を観察したときの脳活動を比較しました.また,歩行を観察しているときに自分自身が歩行するイメージを想起することが重要であることから,観察時の歩行イメージの鮮明度も評価しました.
実際には,歩行観察中の脳活動を計測し,その直後に観察中に想起したイメージの鮮明度を評価しました.
下の図は実験の流れになります.
自分自身の歩行を観察しながらイメージを想起する条件(自己条件)と,会ったことがない他人の歩行を観察しながらイメージを想起する条件(他者条件)の2条件を設定し比較しました.
どちらの条件もイメージは自分自身が歩行するイメージを想起するように指示しました.

図1.実験の流れ(各条件の順番はランダムで実施)
脳活動はfunctional near-infrared spectroscopy (fNIRS)を使用して,前頭葉から頭頂葉の範囲を測定しました.
下の図のようにプローブと呼ばれる検出器を頭部に装着し(図2),
ターゲットとなる脳領域からデータを抽出しました(図3).
イメージの鮮明度はvisual analog scale (VAS)で評価しました.

図2.fNIRS装着時の様子

図3.本研究で抽出した脳領域
下の図は13人の健常者で測定した脳活動の大きさをグラフ化したものです.
自己条件ではRt dPMC(右背側運動前野)とRt SPL(右上頭頂小葉)が歩行観察時に活動し,他者条件と比較してその活動が大きい結果となりました.
一方,他者条件ではLt IPL(左下頭頂小葉)が歩行観察時に活動し,自己条件と比較してその活動が大きい結果となりました.条件間で有意差はありませんでしたが,Lt vPMC(左腹側運動前野)が安静時よりも活動していました.
なお,歩行観察時に作ったイメージは,自己条件が他者条件に比べ有意に鮮明でした.

図4.歩行観察時の脳活動
SMA;補足運動野,dPMC;背側運動前野,vPMC; 腹側運動前野,SPL;上頭頂小葉,IPL;下頭頂小葉.*p < 0.05, **p < 0.01;自己条件 vs 他者条件.†p < 0.05, ††p < 0.01;安静時 vs 観察時.
本研究の臨床的意義
歩行観察において自分自身の歩行観察の方がより鮮明なイメージを想起できることが明らかになりました.このことは,自分の歩行を観察させることでより効果的な介入が可能になることを示唆しています.また,自分自身の歩行観察では右半球が,他者の歩行観察では左半球が有意に活動することが明らかとなったことから,脳卒中患者に対する歩行観察を取り入れた介入を行う時は,損傷半球側を考慮することが必要と考えられます.
論文情報
Fuchigami T, Morioka S. Differences in cortical activation between observing one’s own gait and the gait of others: a functional near-infrared spectroscopy study. NeuroReport. 2015 Mar 4;26(4):192-196.
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 渕上健(フチガミ タケシ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: fuchigaminet@yahoo.co.jp
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
ニューロリハビリテーションセミナー研究編が開催されました.
2015年2月21日(土),22日(日)にニューロリハビリテーションセミナー研究編が開催されました.積極的に参加して頂いた方々に感謝致します.研究編では,受講して頂いた方に,実際の脳機能実験,得られた結果の考察,その内容のプレゼンまでをして頂きました!発表に向けて準備していくプロセスでは皆さんの充実した表情を見ることができて嬉しかったです.当日の様子を私(大住倫弘)の方から報告させてもらいます.

まずは,森岡先生・松尾先生・冷水先生・前岡先生による脳機能イメージング研究の概説からスタートしました.セラピストが脳機能イメージング研究を実施することの意味などの話からスタートし,近赤外線脳機能イメージング装置(fNIRS),脳波(EEG),経頭蓋磁気刺激(TMS),経頭蓋直流刺激(tDCS)についての説明がありました.

そして,実際の脳機能イメージング実験です.研究編では,実験を単に体験してもらうのではなく,各班で「どのような実験デザインを組むのか」を話し合った上でデータ計測・解析を行います.時間的な問題から,完璧な実験デザインを組むことは難しいですが,そのような手続きを行うことは臨床現場での評価にも十分に役立つものだと思います.
機器の操作も皆さんにして頂きました.最初はぎこちなさがありますが,2日目には計測・解析まで出来るようになった班があったりと,非常に熱心に取り組んで頂けました.

そして,ディスカッションの時間です!仮説通りの結果が得られないことがあるため,難しい表情でディスカッションをする班もあったとは思いますが,そういった時間は非常に意味のあるものであったと感じます.これまでの基礎編・応用編・臨床編で培った知識を総動員して,「それはちょっと言い過ぎじゃない?」,「こうゆうことも考えられるよね」というような活発な意見交換をしている姿は本当に素晴らしいと思いました.

ちょっと番外編ですが,今回も島津製作所の方々に様々なアドバイスをして頂きました.せっかくなので,LIGHTNIRSというポータブル光脳機能イメージング装置のデモンストレーションもして頂きました(http://www.an.shimadzu.co.jp/bio/nirs/light_top.htm).写真を見ると分かると思いますが,無線であるためこれまで以上に拘束性が少ないものでした.実際に受講して頂いた方にも装着してもらいました.島津製作所の皆様,有難うございました.

さて,ディスカッション後のプレゼンテーションです.短い時間にも関わらず,実験課題と脳活動が認められた部位との関係をしっかりと考察出来ており,率直に凄いと思いました.基礎編・応用編・臨床編を受講している方々がほとんどということで,ある程度の共通認識のようなものがあり,ディスカッションからプレゼンがスムースでした.プレゼンの最後に,限界点やもう少し工夫が必要だった点なども考察されており,こちらも勉強になる時間でした.島津製作所の方からも,「大事なのは実験機器ではなく,どのようなデザインを組んでいくかです」という話にもあったように,機器を使用する側の知恵や知識が非常に重要であることを再認識しました.有難うございます.

最後になりましたが,受講して頂いた方々,島津製作所の方々,実験スタッフの方々に改めて感謝致します.有難うございました.来年度からは,このような形式ではなく,オープンラボという形式で実験体験などを随時して頂こうと考えております.また皆さんと近い距離感でディスカッションする場を設けることが出来ればと思いますので宜しくお願い致します.
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
大住倫弘
静止立位中の重心動揺の随意的および自動的制御の効果
PRESS RELEASE 2015.1.6
立位時のバランスの安定(姿勢動揺の減少)は,日常生活の大部分を立位で過ごすヒトのリハビリテーションにおいて重要です.近年,立位中の姿勢動揺に意識を向け,随意的に動揺を制御する時(随意的制御)に立位中の動揺が減少することが報告されています.一方,立位中に計算などの認知課題を行い,姿勢動揺から意識を逸らした時(自動的制御)も動揺が減少することが報告されています. 今回は,随意的制御と自動的制御のどちらの方が動揺の幅を減少させるのか,また姿勢制御戦略に違いがあるのかについて調査しました.
本研究では,随意的制御条件,自動的制御条件,コントロール条件の3条件の静止立位課題を実施してもらい,重心動揺計で測定した足圧中心(center of pressure; COP)動揺を3条件間で比較しました.
立位条件は両足を閉じ,目は開けた状態で実施しました.
随意的制御条件は,「自分の体の動揺に集中して,可能な限り動揺しないようにして下さい」と指示しました.
自動的制御条件は,数字7個を覚えながら立位保持をしてもらいました.
コントロール条件は,「リラックスして立っておいて下さい」と指示しました.
この3条件中のCOP動揺の前後左右の動揺の振幅,速度,平均パワー周波数,各周波数帯のパワー密度を比較しました.
図1は,1名の方の3課題中のCOP動揺です.随意的制御条件と自動的制御条件で動揺の幅が小さくなっていることが分かると思います.

図1.3条件中のCOP動揺
実際に,被験者23名の結果を平均したものが図2〜4です.
図2は,前後,左右方向のCOPの動揺の振幅(root mean square; RMS)の結果です.随意的制御条件,自動的制御条件ともにコントロール条件より前後,左右の動揺の振幅が減少する結果となりました.このことは,過去の報告通り,随意的制御も自動的制御も姿勢動揺を減少させることを示しています.また,本研究結果は,前後方向のみですが,随意的制御より自動的制御の方が動揺の振幅を減少させる効果が大きいことを示しました.

図2.前後,左右方向のRMSの結果
動揺の振幅の減少は随意的,自動的制御ともに似通っていましたが,図3で示している動揺速度や平均パワー周波数は異なっていました.
動揺速度の結果からは,自動的制御条件はコントロール条件と差がありませんが,随意的制御条件は他の2条件と比べてかなり速く動揺していることが分かりました.また,平均パワー周波数の結果からは,随意的制御は頻回な姿勢調節を行っていることが分かりました.
図3.前後,左右方向の動揺速度と平均パワー周波数
姿勢制御に関与する視覚,体性感覚,前庭感覚の関与の程度を表すとされている各周波数帯域のパワー密度の結果(図4)は,低,中,高周波帯域ともに随意的制御と自動的制御に差がありました.これはこの2つの制御では各感覚の関与が異なる可能性を示しています.
図4.前後,左右方向の各周波数帯域のパワー密度
本研究の臨床的意義
立位バランスを安定させることは,バランスが不安定な脳疾患患者さんのリハビリテーションにおいて重要な課題です.動揺が大きい患者さんは,意識的に動揺を減少させようとしてしまうことが多いですが,本研究結果からは,自動的制御条件のような条件設定で立位練習を行うことにより,特に意識的に動揺を制御しようとしなくても姿勢動揺の減少を促せることを示唆しています.また,自動的制御は姿勢調節の頻度や感覚入力への依存を高めなくても姿勢動揺を減少させることが可能であることを示しており,より自動的な姿勢制御戦略へ近づけることが可能であると考えられます.
論文情報
Ueta K, Okada Y, Nakano H, Osumi M, Morioka S. Effects of Voluntary and Automatic Control of Center of Pressure Sway During Quiet Standing. J Mot Behav. 2014 Nov 25:1-9.
問い合わせ先
畿央大学大学院健康科学研究科
博士後期課程 植田耕造(ウエタ コウゾウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: p0511105@univ.kio.ac.jp
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
センター長 森岡周(モリオカ シュウ)
Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600
E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
大学院生が日本高次脳機能障害学会学術総会に参加しました。
今回,平成26年11月28・29日に仙台国際センターで行われた日本高次脳機能障害学会学術総会に参加させて頂きました.
本研究室からは,客員教授の河島則天さん,D1大松聡子さん,M2保屋野健吾さん,M1高村が演題発表しました.本学会は,医師や言語聴覚士を中心に,臨床の現場で活躍されている方が多く発表されおり,一人の症例に対する評価や行動観察の緻密さ,そして,そこから得られた結果の解釈および臨床推論の深さには只々驚くばかりでした.

会長講演では,東北大学大学院医学系研究科高次脳機能障害学分野の森悦朗先生が「行動神経学への誘い」という題目で発表されていました.行動神経学とは,脳血管障害や,神経変性疾患などを対象とし,神経心理学に加えて画像やリハビリテーション,薬理,病理などの多岐にわたる要素を包含した領域であると述べられていました.また,今までされてきた研究や自身の考えについても話されていました.その中で,常に臨床研究をするように患者を観ているとおっしゃっており,日々の臨床の中でも現象を観察し仮説を立て,的確なアウトカムを設定し検証していくことの重要性を再度認識させられました.そして研究も,その積み重ねであるように感じました.
ポスター発表では,「半側空間無視の回復プロセスにおける左視線偏向について」という内容で発表しました.この内容は客員教授の河島則天さんと共同で研究させて頂いている内容です.半側空間無視は,脳卒中などによる右半球病変後に発生する症候群であり,大脳半球病変と反対側(左側)の刺激に対して,注意を向け反応すること,その方向を向くことが障害される病態と定義されます.半側空間無視を持つ患者さんの回復過程において,患者さん自身が日常生活上での問題(道を間違える,左側のものにぶつかるなど)や家族や医療スタッフからの指摘によって無視空間の存在に気づくと,意図的に左空間に注意を向けてその問題に対応する場面が散見されます.今回は,上述したような代償戦略としての左視線偏向と無視症状の回復の関係性に焦点をあて,反応特性及び,脳波の結果から検討した内容を発表させて頂きました.多くの方にご意見,ご指摘を頂くことができ,また発表時間外にも関わらず質問をして下さる方もおられ,大変参考になりました.

本学会を通じて,普段と異なる社会の中で発表することによって,違う視点から自身の研究を見ることができ非常に参考になりました.また,他の発表者の研究からも,自分にない考え方や発想を知ることができました.
最後になりますが,このような機会を与えてくださった畿央大学と森岡周教授をはじめとする研究室の皆様に深謝致します.今回得た経験を,研究や臨床に活かしていきたいと思います.
畿央大学大学院修士課程
高村優作
博士後期課程の佐藤さんが神経理学療法学会学術集会で発表しました.
平成26年12月6・7日と茨城県つくば市で開催された第11回神経理学療法学会学術集会に参加してきました.第11回の学会テーマは,学会長の茨城県立医療大学の水上昌文教授の計らいで脊髄損傷に焦点をあてたものが大半を占めていました.医師を中心とした学会では,脊髄障害(脊髄損傷)に特化したものはありますが,理学療法士の学会では私が知る限りでは初めてでした.普段,脊髄損傷の方のリハビリテーションに関わっている自分にとっては非常に興味の惹かれる内容となっていました.

まず,12月6日の特別講演は「脊髄再生に関する取り組みの現状と理学療法(リハビリテーション)の役割」というテーマで国立障害者リハビリテーションセンター障害者健康増進・スポーツ科学支援センター長の緒方徹先生がご講演されていました.緒方先生は長年,脊髄の再生医療に関わってこられた実績があり,再生医療の歴史から原理・現状(臨床試験)についてわかりやすく解説していただきました.理学療法士が直接的に再生医療に関わることは少ないように思いますが,将来的にはそういった治療をされた方が身近になることも遠くない印象を受けました.現時点では,治療の対象になる方の基準は厳しいものがありますが,今後は段階を追って可能性が広がっていくように感じました.特に理学療法士にとっては,単に筋力を強化するといった身体を鍛えるという視点だけではなく,歩行のCentral pattern generatorに代表されるような神経回路を再構築していく視点の重要性を再確認することができました.私は神経リハビリテーション学研究室に在籍しているので,研究室メンバーが取り組んでいる研究などをもとに色々なアイデアを持ち治療へ応用していく必要性を感じました.
次にシンポジウムでは「神経理学療法の挑戦」ということで,水上教授・総合せき損センターの出田良輔先生・中部労災病院の長谷川隆史先生・茨城県立医療大学付属病院の吉川憲一先生がファシリテータとして情報提供をされていました.テーマは「神経理学療法の挑戦」ということですが,ファシリテータの皆さんは脊髄損傷者のリハビリテーションに携わっている方々でしたので身になる情報を得ることができました.水上教授からは,日本の脊髄損傷者のリハビリテーションの歴史と国内におけるトピックスについてわかりやすい解説を聴くことができました.出田先生からは,以前に私も共同研究として参加させていただいた脊損データベースの構築についての意義と現状について紹介がありました.長谷川先生からは吊り下げ式トレッドミル歩行トレーニング(Body Weight-Supported Treadmill Training:BWSTT)を用いた臨床介入によるデータの提示と現状・今後の展望について話を聴くことができました.私が勤務する病院でも同様の設備があるので,興味深い内容であるとともに自分達もデータを蓄積し分析していく必要性を感じました.吉川先生からは,ロボットスーツHAL®を使用した臨床介入データの提示と現状・今後の展望について話題提供がありました.BWSTTと同様にロボットスーツHAL®も勤務病院にあるので,興味深く聴くことができました.現状での臨床的効果としては,少しずつ公表され始めているようですが,ロボット技術が先行したような感じで具体的な臨床適用の方法についてはまだまだこれからのようでした.すでにBWSTTは導入されている施設も多いと思いますが,ロボット技術とも上手に付き合い,神経回路・神経ネットワークの再構築の視点に立ってアイデアを出していく必要性を感じました.ただし,理論を構築していく上では大学や研究機関の研究者の方と共同していかなければ実現は難しいと思いました.

12月7日は午前中が第22回脊髄損傷理学療法研究会との共催企画でのワークショップでした.「脊髄障害の理学療法・課題と展望」をテーマに「臨床」・「教育」・「研究」の3グループにわかれディスカッションを行いました.私は「研究」のグループに加えていただき,脊髄損傷者のリハビリテーションに関連した研究の問題点と展望についてディスカッションを行いました.ワークショップでは,冒頭に「臨床」について神奈川リハビリテーション病院の藤縄光留先生,「教育」を金城大学の丸尾朝之先生,「研究」を岡山労災病院の武田正則先生から現状と問題点について話題提供がありました.武田先生からは,過去5年間の国内外の脊髄損傷者のリハビリテーションに関する研究の動向について解説を聴き,国内と国外との大きなギャップがあることを教えていただきました.国内では,移動機能やADLの調査,ロボットや再生医療に関連したものが多いのに対して,国外では運動療法全般や痛み等の実際にリハビリテーションを行う上で難渋することをテーマにしているものが多いとのことでした.私は「脊髄損傷後の痛み」をテーマとしているので,国内外での取り組みにギャップのある分野にあたりますので,今後さらに研究をすすめて国内外で公表していく必要性を感じました.
午後からは,脊髄損傷後の痛みに関する研究について口述発表させていただきました.座長の星ヶ丘医療センターの羽田晋也先生には,セッション外でもディスカッションをしていただき,非常に有意義な時間を過ごすことができました.その他にも色々な方から研究に対するアドバイスをいただくとともに,痛み研究の必要性については肯定的な意見をいただき今後の励みとなりました.本当にご意見をいただいた皆様・研究のお手伝いをいただいた被検者の皆様に感謝したいと思います.また,研究内容についてディスカッションに参加してくれた研究室メンバーにも同様に感謝したいと思います.
余談になりますが,12月6日には脊髄損傷理学療法研究会の総勢50名余りが参加した懇親会にも参加させていただきました.毎年,研究会には参加していますが今回は研究テーマを話題として脊髄損傷者のリハビリテーションに関わる全国の理学療法士の皆さんと情報交換や仲を深めることができました.
最後につくば市は寒かったですが,私にとって非常に有意義な時間を過ごせた学会でした.これも研究活動を支援していただいた畿央大学ならびに森岡 周教授,そして研究室メンバーの協力があってのことだと思っております.このような充実した時間を過ごす機会を与えていただき心から感謝申し上げます.
畿央大学大学院博士後期課程
佐藤剛介
ニューロリハビリテーションセミナー臨床編が開催されました.
2014年12月6日(土)、7日(日)にニューロリハビリテーションセミナー臨床編が開催されました.寒さが厳しい日での開催となりましたが,300名以上の方々にお越しいただきました.ありがとうございました.当日の模様を,私(大住倫弘)の方から報告させてもらいます.今回は7講座+症例提示をさせて頂きました.

松尾先生による「損傷脳の再組織化と機能回復の神経機構」では,脳損傷後のシナプスレベルでの変化から脳機能の変化まで網羅された情報提供でした.脳卒中後の機能的コネクティビティについてのfMRI研究も多く紹介してくれ,回復プロセスでそのようなリハビリテーションが必要なのかを考える材料となったと思います。
前岡先生による「痛みの神経機構」では,痛みに関する神経科学的知見の情報提供でした.慢性疼痛における機能的コネクティビティの変化や,慢性疼痛患者に対する教育学的アプローチに関するものは非常に興味深いと感じました.
冷水先生による「運動失調症の神経機構」では,いわゆる失調症についての臨床的知見を多く紹介されました.運動障害におけるサブタイプ分類の方法や,失調症患者さんの運動学習の可能性についての知見を多く紹介してくれました.まだまだ失調症に対するニューロリハビリテーションのエビデンスが低いことも今後の課題としてお話頂けました.
岡田先生による「Parkinson病の神経機構」では,実際の症例の動画も提示しながら,パーキンソン病に出現する感覚運動障害や訴えを紐解くための科学的知見を大量に紹介してくれました.基底核のみならず,parietalの機能低下やSMAとの機能的コネクティビティの異常なども取り上げてくれました.

森岡先生による「半側空間無視の神経機構」では,半側空間無視の様々な病態を分類していく必要性が分かる講義になっておりました.また,情動や文脈が注意に及ぼす影響なども網羅された情報提供になっており,注意という機能の深さを感じました.
信迫先生による「失行の神経機構」では,オンライン情報処理,オフライン情報処理,その相互作用,模倣,・・・と広範で膨大な情報提供でした.膨大な情報と対照的な優しい語りがとても印象的でした.本年度は統合運動障害に関しても,実際の動画を交えて解説されました.
松尾先生による「神経科学に基づく脳卒中リハビリテーション」では, Dose-dependentに基づくリハや、脳半球間抑制モデル・運動イメージ・運動観察などのエビデンスが次々と紹介されました.報酬フィードバックやチームワークの重要性も紹介され,社会的要因がリハビリテーション効果に影響を与えるという意味でとても興味深かったです.
本年度のセミナーでは,神経科学を用いたクリニカルリーズニングとして,実際の症例報告を紹介されました.今年度は,私(大住倫弘)が複合性局所疼痛症候群の症例を,博士課程の大松さんが半側空間無視の症例を提示しました.不十分な部分が多くあると思いますが,基礎的知見と目の前の患者さんの症状とを行ったり来たりしながら,病態を紐解き,介入手段の選択を吟味していくプロセスは紹介できたかなと思います.

今回は,このような症例を提示する機会は一方向性のものでしたが,次年度は「ニューロリハビリテーションフォーラム」という場で,1症例を2時間ほど参加者の皆様とディスカッションする機会を設けたいと思っています.アナウンスは,このホームページや公式facebookからしていこうと思っていますので宜しくお願い致します.
また,次年度からは内容をリニューアルしていこうと考えております!これまでニーズが高かった「応用編」「臨床編」をさらに分厚くするために,「機能編A」「機能編B」「病態・臨床編」というように講座数を増やしていく予定です.既に参加された方々にも新たな情報を提供できるかと思いますので,是非とも一緒に意見交換できれば幸いであります.
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
大住倫弘
ニューロリハビリテーションセミナー臨床編の事前テキスト配布について
12月6日(土)・7日(日)に開催される『ニューロリハビリテーションセミナー2014臨床編』の事前テキストをweb配信いたします。
受講される方には申込時にご登録いただいたアドレスに、PDFファイル開封に必要なパスワードを記載したメールを配信いたします。
事前学習のうえ、当日セミナーに参加してください。
【問い合わせ先】
ニューロリハビリテーション研究センター事務局
TEL:0745-54-1602(畿央大学 総務部)
Society for Neuroscienceに参加してきました!
2014年11月15日(土)~19日(水)に,アメリカのWashington DCで開催されたSociety for Neuroscienceに参加させて頂きました.
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターからは森岡周教授,冷水誠准教授をはじめ,森岡研究室の大学院性5名(修士課程4名,博士課程1名)が演題発表しました.
本学会は,毎年多くの演題が募集されており,今回は世界各国から神経科学の研究者が31000人以上参加し,15000以上の演題発表が行われました.このような大きな規模の学会は国内では見当たらず,私自身初めて国際学会に参加させて頂くこともあり,様々な職種の方々が会場内で所構わず議論されている環境に大変感銘を受けました.

本学会は英語での発表であり,私は意見交換など大変苦労しましたが,森岡周教授や冷水誠准教授,博士後期課程3年の大住倫弘さんといった先生方が英語で円滑に意見交換をしている姿を見て,次に国際学会に参加する際には,「自身の考えをもっと正確に伝え,有益な意見交換を行う」といった目標をたてることができました.

また,今回共に参加した同期入学の修士課程2年保屋野健悟さん,脇聡子さん,後輩である修士課程1年の高村優作さんが発表している姿から,多くの刺激を頂き,今後いっそう切磋琢磨し自身の研究・臨床を磨いていきたいと感じました.森岡研究室では,日頃の授業においても,研究内容に対して議論しあうことが多く,大変恵まれた環境です.研究室内でお互いを鼓舞しあえる環境にあることは本当にありがたく,何よりも自身を成長させてもらえるものだと改めて感じました.

本学会に参加し,研究発表,意見交換を行えたことは,私自身にとって貴重な経験となりました.本学会を通して「自分の安心できる範囲で留まらないで,新しい環境に飛び込むことで,多くのことが学べること」,多くの演題発表を聴講する中で,「自己の研究能力の向上には想像力,知識の幅が必要であること」,今後社会的に貢献ができるような研究をしていくためには「自己の考えに対して,賛同や批判的な意見をして下さる人脈」などが重要であることを学ぶことができました.
7
最後になりましたが,このような貴重な経験ができたのは,畿央大学の研究活動に対する手厚い支援と,森岡周教授をはじめとする多くの方々のご指導やご協力があってのものです.このような環境で学ばせて頂いていることに深く感謝し,この経験を今後の研究や臨床に結びつけるように励んでいきたいと思います.
畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室
修士課程2年 湯田智久






