「学びを結ぶワークショップⅫ」を開催しました。
畿央大学現代教育研究所では、学校現場における教育力向上の一助になる活動の一環として、2013年から大学研究者による解説と実践を交えた現職教員対象のワークショップを実施しています。今年度は小学校学習指導要領の平成20年改訂の外国語活動の新設により、小中高等学校の多くの学校で学ばれている英語の学習を取り上げ、「小・中・高等学校の系統的な外国語教育をめざす指導の在り方」をテーマとし、2024年8月7日(水)に開催いたしました。
午前は、中学校とのつながりを意識した児童にわかる簡単な英語で授業をするため外国語指導について、午後は中学校とのつながりを意識した高等学校の、生徒が話したい、相手に伝えたいと意欲をもてる英語の指導についてのプログラムを行いました。午前では8名、午後には6名の参加を頂きました。
午前のプログラム:「校種連携の重要性を踏まえた、小学校外国語指導」
講師:中垣 州代(現代教育学科 准教授)
模擬授業指導者役:梅田 実佑(香芝市立旭ケ丘小学校 教諭)
初めに講師の中垣先生より、校種連携における現状と課題が伝えられました。外国語教育において、小中連携が課題であり、その課題の1つとして、指導者の英語運用があります。中学校、高等学校では英語を用いて指導することが基本となっています。しかし、小学校外国語を担当する担任の課題として英語力不足があることから、日本語による指導が多い可能性があります。そこで、日本語での指導を続けると、児童にどのような問題が生じるかについて話し合いました。英語のインプットが減ることで、児童が英語を聞く時間は少なくなり、それに伴って児童がアウトプットできる量も減り、聞いた英語を推測する力も身に付かなくなります。それが英語嫌いにつながっていくと考えられることを確認することができました。
そこで、児童にわかる簡単な英語で授業をするための指導方法として、指示はClassroom Englishを用いること、児童が既習の語彙や表現と新しい単元の言語材料を用いて発問すること、言い直す(言い換える)ことを通して理解を促すこと、画像やピクチャーカード・実物で理解を促すこと、本当の(authenticな)情報のやり取りを加えることなどが効果的であることを、入手可能な資料や事例を踏まえて紹介されました。
次に、学習指導要領の「外国語の目標」として「言語活動を通して」、「コミュニケーションを図る資質・能力」を育成することが小・中・高で共通していることから、「言語活動」「コミュニケーション」について定義を押さえ、具体の活動やその指導で大切なことをクイズ形式で考える時間を取りました。言語活動とは「実際に英語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合う活動」であること、小学校におけるコミュニケーションとは「心を通わせたやり取り」であること、小学校ではコミュニケーションの基盤をつくることが重要であることが確認されました。そして、それを実践するためには、バックワードデザインにより、授業を構成する必要があることも示されました。
「簡単な英語で進める小学校外国語模擬授業づくり」にあたっては、「どの指導について特に知りたいですか」と参加者にその場でのデジタルアンケートを行いました。「読むこと、書くこと」「話すこと[やり取り]」の言語活動の指導との回答であったため、その要望に応えて模擬授業が展開されました。
まず、「読みたい」「書きたい」という児童の主体的な態度を重視した設定として、児童が知っている学校の先生にインタビューしたことを基にワークシートを作成すると効果的であることが紹介されました。そして、参加者が児童役となり、香芝市立旭ケ丘小学校教諭の梅田先生が模擬授業を行いました。児童が自分の力で読もうとする手立てや書くときの留意点を児童から引き出した上で児童が一人で書き写すことのできる活動を体験していただいた後、質疑応答の時間が設けられました。
「話すこと[やり取り]」としては、Small Talkの指導内容とポイントの解説と模擬授業、次に、児童が文構造に気付きながらやり取りする指導についての解説と模擬授業が行われ、その後に質疑応答の時間が設けられました。
小学校教員5名、中・高教員1名、高等学校教員2名の参加者が、ほぼ全員質問しており、内容を深め合うことができていました。活動過程の形成的評価を行い、そのフィードバックにより児童が学習改善できる手立てが重要であるとの確認がなされ、午前のプログラムが終了しました。
午後のプログラム「中学校・高校の英語授業デザイン:生徒が英語で伝える力を育むために」
講師:福島 玲枝(現代教育学科 准教授)
講師の福島先生より初めに「話す」能力に関する理論的な捉え方が紹介されました。
そうした考えのもと、学習指導要領における小学校、中学校、高校の指導事項の系統性とともに、各段階で育成を目指す言語運用能力が示され、その実現のためには、段階に応じた活動構成と指導上の工夫が必要と伝えられました。
ここで、ある映画の一場面が紹介されました。それは、英語を学ぶ者にとって「もっと話したい」「もっと分かりやすく伝えたい」という気持ちが、正確さや文法を意識することにつながるとの内容です。そのため、実際の授業では、生徒が自分の言語資源を活用して、可能な限り分かりあう努力できるように支援し、その目標を実現するために必要な指導を絞り込むことが教師の役割であるとされました。
ある単元の一部を取り上げ、高校英語の検定教科書で使われるリテリング活動を実施するための授業構成が提案されました。
始めはInputです。新しい教材への橋渡しとなる段階です。学習がどのように進むのか、学んだ成果となるOutputのモデルを提示することで、生徒が学ぶ見通しを持てるようにします。ここで大事なことは生徒が関心をもてるよう新しい教材を見せ過ぎないことです。具体的には数枚の写真を提示し、それにまつわる質問を、生徒に投げかけ、対話を行う事例が紹介されました。
次のIntakeでは、Outputの活動のために何を練習するかを生徒に提示します。
音読では、先生について読む、友達と読む、全員で読む、個別で読む等、色々な形から、講師が教材を用い、リードして全員で行う音読が紹介されました。その際「読み終わったら立ちましょう」との指示で立つのに時間がかかる生徒、指で追って読むことを指示すると指の動きが遅めの生徒が音読に抵抗を感じていることが分かり、支援が必要であると判断できることも紹介されました。
読み取った成果を確かめる、空欄がある文章を用いてあらすじを作成する方法を提示するとともに、他にもどんな指導方法があるか全員で協議する時間も取りました。ここで福島先生から、質問と応答の練習の事例として、音読、そして教師の質問に、生徒が即答することを競わせる方法も紹介されました。これは授業のはじめに学習の体制をつくることにも役立つとのことでした。
最後のOutput 活動です。何をもって話せるとするかを「複数のイラストを見て、指し示しながら内容を説明し、自分の感想や意見を述べる」活動で判断するとのことです。音読、質問と応答を繰り返しながら、話せない生徒には教師が補助質問をしたり、区切りには批評によって学習成果を生徒に返したりすることが紹介されました。更に生徒の話すことへの意欲を向上できるよう、話す内容に感想を加える(1文, 2文, and more)、自問自答を挟む、クラスメイトに質問して回答を得る、テレビショーのように2人で掛け合う、イラストの提示順序を変えるなど「やり取り」の展開に加える変化も紹介されました。
最後にパフォーマンス評価については、友達を前にして、外国語で発表するだけでも高く評価できることを基本に、活動を通して、内容、構成、話すスキル、実現した難易度など、向上したこと、面白かったことなどを教師と生徒間で褒め合いながら評価することが提案されました。
まとめとして示された「やり取りを教えるのでなく、やり取りで言葉を教える。」は、やり取りを通して言葉を使う、人と話すことを楽しむことを伝えたいこであることを伝えられ、午後の部を終えましました。
ワークショップにご参加いただたいた皆様の声(アンケート)※一部抜粋
◯満足度について
- 午前、午後ともプログラムに概ね満足いただけたようです。
◯今後に期待する内容
- 教科教育に関してを希望された方が多かったです。
※理科 様々な実験をより簡素に安くできる教材教具について。
絶対数が少ないですが、ここ数年は「特別支援教育の充実」、「教育の情報化」、「教科教育の教材や授業」を順に実施しております。
今後の計画の参考にいたします。
◯その他、自由記述
- 素晴らしい講座でした。中垣先生の素晴らしいお話と梅田先生の素晴らしい授業実演で今日寄せてもらえてよかったです。良い時間をありがとうございました。
- 実際にワークシート・ロイロ等も用意してくださり、分かりやすかったです。午後からも参加したかったです。また研修会があれば是非とも参加したいです。ありがとうございました。
- 貴重な実践を教えていただけて、とても勉強になりました。もっと英語を使って授業をしないといけないな、と反省しました。評価の基準なども教えてもらえたらいいな、と思いました。
- ありがとうございました。楽しくなるための工夫をもっと頑張っていきたいと強く感じました。
- 教科の指導方法(活動内容など)たくさん教えていただき、ためになりました。2学期以降の授業で実践していきたいと思います。何より、計画の大切さを感じました。ありがとうございました。
- 音読がワンパターンになっているのが気になっていたので、いろんなやり方を教えていただいたので、早速2学期からやってみようと思いました。高校英語は科目が何種類にも分かれているのに似たようなオーラル系活動をしていることが多く、科目ごとの特色をどのように出していくか、今悩んでいます。
おわりに
ご参加の先生方の自由記述からは、皆様が今後の授業改善に意欲を持って帰られたことが伺えます。本ワークショップの大きなの成果かと思います。
畿央大学現代教育研究所では、今後もワークショップを継続していきます。現職教員の皆様の充実した研修の場を提供できるよう努力いたしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
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