冬木学園 名誉理事長 冬木智子
戦後間もない頃、三人の教え子を相手にあり合わせの衣服の更生から始めた私の洋裁教室も、十数年経過する間には華やかなファッション界の隆盛の波にのって生徒数も増加し、校舎の増築を余儀なくされるまでになりました。ちょうどその時、桜井校地(現:関西中央高校)との出会いがあり、もはや一刻の猶予もなく、ここに高校および大学の実現をめざすことを心に決めたのでした。
無から有を産む困難な出発でしたが、開校をめざして日毎に進捗していく校舎建築の工事現場に立つ私の脳裡に去来していたものは、創立の理念をいかに表現するかということでありました。一人の女性として、母として、さらに教育者としての生き様のすべてをかけた夢と理想を高く掲げたいと思ったのです。そして「建学の精神」として「徳をのばす・知をみがく・美をつくる」とまとめたのであります。
我が国は戦後、大きな経済発展を遂げ、物質的には豊かな社会を実現してきました。しかし現実はまことに憂慮に堪えぬ情況が内外ともに露呈しております。今こそ、私たちは目に見えぬものに対する畏敬の念と真摯な態度で、原点に立ち返ってすべてのものを見直すべき時ではないかと思います。このような時にあって「徳をのばす・知をみがく・美をつくる」ことの重要性がさらに増しているといえるのではないでしょうか。
改めて創立の心に立ち返り、その具現化に努め、よき世代を創造する教育に邁進したいと思っております。(冬木智子著「生きる」より)