ヒトの過剰な疼痛回避行動を捉える実験~ニューロリハビリテーション研究センター

2019/10/29更新

ヒトは痛みをともなう運動に対して、「全く動かない(=過剰な回避)」、「痛みを避けながらも行動する(=疼痛抑制行動)」、あるいは「避けずに動き続ける」などの行動をとりますが、各行動特性の詳細やどのような性格がそれぞれの行動をとらせるのかは明らかになっていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程の西 祐樹 氏と森岡 周 教授らは、痛みをともなう運動を過剰に避ける人(=全く動かなくなる人)は、痛みがなくなっても恐怖が残存しやすいことと、その行動には性格特性が関わっていることを明らかにしました。この研究成果はFrontier Behavioral Neuroscience誌(The avoidance behavioral difference in acquisition and extinction of pain-related fear)に掲載されています。

研究概要

痛みに対する回避行動は、身体を損傷から保護する短期的な利益がありますが、傷が癒えた後でもそれを続けてしまうと、痛みを長引かせる要因になることが知られています。博士後期課程の西 祐樹 氏は、「運動をすると痛みが与えられる」実験タスクをオリジナルに作成して、「自らの意志で痛みに対する行動を選択できる」実験環境で行動計測をしました。その結果、過剰な回避行動をとりやすい人は、運動開始に時間がかかりやすい(=躊躇しやすい)行動特性が明らかになりました。また、この過剰な回避行動をとるグループは、痛み刺激を止めても運動の躊躇や恐怖反応が消えないことも明らかになりました。加えて、このグループは、「特性不安」や「リスクに対して過剰に反応する損害回避気質」が高いという性格を有していました。

本研究のポイント

■ 過剰な回避行動をとる人は、運動の開始時に「運動の躊躇」が認められました。

■ そして、過剰な回避行動をとる人は、痛み刺激がなくなっても「運動の躊躇」と「恐怖反応」が残存していました。 それとは対照的に、痛みを避けながらでも行動し、痛みを避けることなく行動する人たちは、痛み刺激がなくなると同時に恐怖反応も消失しました。

■ 過剰な回避行動を示す人は、「特性不安」や「リスクに対して過剰に反応する損害回避気質」を有していました。

研究内容

健常者を対象に、タッチパネルを用いた運動課題を行いました図1

この運動課題では、被験者がタッチパネルを塗りつぶしている間は痛み刺激が与えられます。痛みを恐がらない被験者は塗りつぶす行動を続けられますが(=疼痛行動)、痛みを過度に恐がってしまう被験者は塗りつぶし行動を止めます(=過剰な回避行動)。加えて、この実験では、特定の運動方向(下図 水色部分)に特定の速度で塗りつぶすと、痛み刺激が弱くなる仕掛けにしていました(=疼痛抑制行動)。この仕掛けをすることで、被験者を「過剰な回避行動をとる人」、「疼痛抑制行動をとる人」、「疼痛行動をとる人」に分けることができます。

 

図1

 

図1:疼痛回避行動パターンを捉える実験手続き

 

この運動課題は、以下の4つの段階で行われました。

1. 練習段階:単なる塗りつぶし行動をしてもらう。

2. 獲得段階:塗りつぶし行動をしている間は痛みが与えられる。

3. テスト段階:被験者に「特定の運動方向に特定の速度で塗りつぶすと痛み刺激が弱くなる仕掛けになっている」ことを説明した後に、獲得段階と同じように運動に痛みがともなう状況で塗りつぶしをしてもらう。

4. 消去段階:塗りつぶし行動をしても痛みが与えられない。

 

実験の結果、行動パターンから被験者を3つのグループ「過剰な回避行動をとるグループ」、「疼痛抑制行動をとるグループ」、「疼痛行動をとるグループ」に分けることができました。

 

過剰な回避行動をとる人は、運動の開始に時間がかかる、すなわち「運動の躊躇」がみられました。また、興味深いことに、痛み刺激を止めても、運動の躊躇と恐怖反応が、痛みがなくなった消去段階にも残存しており、生理学的データで定量化された恐怖反応も同様に消去段階で残存していました(図2)。これは、過剰な回避行動をとる人は、“動くことが恐い(=運動恐怖)” を学習しやすいことを意味します。

 

 図24

 

図2:それぞれの行動パターンをとるグループの運動躊躇と恐怖反応

 

痛みをともなう行動についての価値観は、それぞれのグループ間に差はありませんでしたが、過剰な回避行動をとるグループは、損害回避気質や特性不安が高いことが明らかになりました(図3)。この結果から、過剰な回避行動はその人の性格特性によって決定づけられる可能性が示唆されました。つまり、不安になりやすい慎重タイプの性格が、過剰な回避行動をとりやすい要因であることが分かりました。

 

図37

 

図3:それぞれの行動パターンをとるグループの性格特性

本研究の意義および今後の展開

この研究結果は、回避行動を詳細に評価することの重要性を示唆しました。また、臨床場面で個人の痛みを評価するときには、個人の気質や過去の経験、思考の側面を配慮することも重要であることが分かりました。今後は、痛み患者における回避行動を定量的に評価し、痛みの慢性化に寄与するのか調査する予定です。

論文情報

Nishi Y, Osumi M, Nobusako S, Takeda K, Morioka S. Avoidance Behavioral Difference in Acquisition and Extinction of Pain-Related fear.  Frontiers in Behavioral Neuroscience 2019.

 

問い合わせ先

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) 

博士後期課程 西祐樹(ニシ ユウキ)

 

Tel: 0745-54-1601  Fax: 0745-54-1600

E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

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