理学療法学科の新着情報一覧
2025.01.22
就職レポートNo.817(公的病院/理学療法士)理学療法学科
就職活動を終了したばかりの学生のリアルな声を紹介する「就職レポート」、第817弾! 理学療法学科4回生 今倉 かなえさん 公的病院(理学療法士) 内定 あなたがその職種を志したきっかけを教えてください。 高校三年生の夏、病院で理学療法士さんのリハビリを見た時に私も患者さんに寄り添った仕事をしたいと思い理学療法士を志しました。畿央大学の理学療法学科は、実習以前に元気塾やTASK等地域の方々と関わる機会が豊富に設けられており、この大学ならば貴重な経験を積み優秀な理学療法士になることが出来ると思い入学を決めました。 畿央大学での学生生活を振り返ってどうでしたか? 大学一回生の時は、初めて習う分野の勉強と一人暮らしの両立、そして部活動と毎日あわただしく過ごしていましたが、徐々に時間の使い方を学び、二回生以降は余裕をもって全てのことに一生懸命取り組むことが出来ました。部活動は軽音楽部に所属し、たくさんの人とバンドを組み憧れだったライブにも出ることが出来ました。テスト期間と部活動の両立は大変な時期もありましたが、仲間同士支えあい困難を乗り越えた経験は本当にいい思い出になりました。 ↑バンドメンバーの写真です!四回生の畿央祭で野外のステージでLiveしました! 就職活動について、その就職先に決めた理由を教えてください。 生まれ育った地元に、これまでお世話になった分、医療という形で恩返しをしたいと考えていました。その選択肢の中で、県内全域に病院を展開しており、高度な医療だけでなく地域医療連携室や訪問リハビリテーション等を通して地域医療向上に貢献しているところに魅力を感じたため志望しました。 就職活動を振り返っていかがでしたか? 希望していた病院の就職試験が四回生の実習中にありました。そのため、実習と並行して試験勉強や小論文の練習、面接練習を行うことが特に大変でした。また、実習場所が遠隔地だったため、平日は実習に取り組み、休日には大学へ移動し就職活動を行うという慌ただしいスケジュールでした。とても短く忙しい準備期間の中で、キャリアセンターの先生にたくさん相談やサポートをしていただきました。特に、面接練習は実習が遠隔地だったため大学に行くことが出来ない日でも、zoomを用いて行っていただきました。実習中でしたが、就職試験の準備をしっかりと行えたため自信を持って試験に挑むことが出来たと思います。 就職活動で役立ったツールを教えてください。 主に小論文と面接の練習をたくさん行いました。小論文も面接も、求人検索NAVIにある過去の先輩方の就職活動体験記を見て実際に出たテーマや質問をまとめました。そして、小論文は実際に出ていたテーマをいくつか実際に時間を測りながら書くことで、試験本番に近い環境で練習しました。面接は、過去に出ていた質問をルーレットのアプリ(Lucky Drawという携帯のアプリで数字や単語だけでなく文章を抽出可能な抽選ツール)を用いて、どんな質問に対してもすぐに答えられるように練習しました。これらの練習を毎日したことで、本番も緊張せずに最大限自分の力を発揮できたと思います! 後輩のみなさんへメッセージをお願いします! 四回生の実習は期間も長く忙しい時期ですが、病院側は就職試験を待ってくれません。特に、最近は就職試験が全体的に早くなってきています。自分の行きたい病院があれば実習前から定期的にホームページ等を見て募集を確認しておくのがいいと思います。四回生の実習が終わると同時に、就職活動がスタートしますが、同時期に卒業研究や国家試験の勉強が入ってきます。余裕を持てるという点でも、就職活動は早めに始めておく方がいいと思います!キャリアセンターの先生方も就職活動全盛期は忙しいですが、実習中であれば活動をしている学生が少ないため時間を確保してもらいやすいです。実習中は確かに忙しいですが、実習後の自分のために少し頑張って就職活動に取り組んでみてください!!応援しています!!
2025.01.20
就職レポートNo.815(民間病院/理学療法士)理学療法学科
就職活動を終了したばかりの学生のリアルな声を紹介する「就職レポート」、第815弾! 理学療法学科4回生 武田 英晃さん 民間病院(理学療法士) 内定 あなたがその職種を志したきっかけを教えてください。 理学療法士を志したきっかけは、高校入学後すぐに部活動でレギュラーに選ばれた矢先に試合中の接触で筋性腰痛を患ってしまい、レギュラーも外されてしまう悔しい経験をしました。その中で、リハビリを行ってもらい、献身的な治療と心理的サポートをしてくださり、早期回復に尽力していただきました。そのため、自分も他人の人生の不幸を改善し、元の生活に戻れる手助けができたらと思い、理学療法士になることを決めました。 畿央大学での学生生活を振り返ってどうでしたか? 1年生のころから勉強と遊びにメリハリを持って取り組んできたことで、充実した学生生活を送れたと思います。畿央大学の定期試験はとても難しく、テスト期間などは友人と協力しながら勉強していきました。しかし、勉強だけにはならず、畿央祭をはじめとしたイベントごとへの参加もしていたので努力したことと楽しかったことの両方の思い出があります。 3年生以下の人たちには定期テストを妥協せずに、一回一回のテストを全力で勉強しておくことをおすすめします。学年が上がった後も、つながる知識が増えたり、覚える量が減ったりと自分にいいことしかないので、何年後かの自分の負担を減らすために、目の前のテストを全力で勉強するといいと思います。 ↑所属していたバレー部で運動会をしたときの写真です! ↑畿央祭実行委員としても活動していました! 就職活動について、その就職先に決めた理由を教えてください。 総合臨床実習の2期から就職先を探し始め、キャリアセンターの方にも何度も相談しながら、自分に合う病院を探しました。 就職先は、多くの分野(整形や脳神経など)に進むことができるという自分の可能性を広げることができる環境であったこと、福利厚生が充実しており、働きやすい環境が整っていると感じたことから就職を決めました。 就職活動を振り返っていかがでしたか? 就職活動を始めた当初は、何がいい病院で自分が何をしたいのかがはっきりしておらず、なかなか進まない状況でした。そのため、自分が少しでもいいと感じた病院はチェックしておきつつ、自己分析を徹底的に行いました。その結果、就職したい病院が自ずと絞られてきて目指すべき病院を決めることができました。 また、私は面接の受け答えが苦手で、最初の練習ではほとんどうまく話すことができませんでした。そんな中でもキャリアセンターの方からのアドバイスや言葉の言い換えを意識したことで、3回目の面接練習ではしっかりとした受け答えができるようになりました。 キャリアセンターの方は履歴書の添削や小論文の添削、面接練習やアドバイスを的確に行ってくださるので、アドバイスされたことを意識しておくだけでも就職活動を有利に進められると思います。 就職活動で役立ったツールを教えてください。 私の就活グッズは、小さめのノートです。自己分析した自分の強みや弱み、日常生活で気づいた自分のことを思いついたままにメモを取るようにいつも持ち歩いていました。そうすることで、自分でも気づいていなかったことに気づくことができるため、おすすめです。 後輩のみなさんへメッセージをお願いします! 就職活動は以前よりも早まってきていると言われ、焦る気持ちも出てくるかもしれませんが全く焦ることはありません。畿央大学の総合臨床実習は他の大学よりも早く終わるので、実習が終わったタイミングから始めても全く問題ないです。総合臨床実習中に就職活動にシフトしすぎて貴重な実習時間を削ってしまうよりも、実習中は自分の経験をより多くすることを意識して、それらの経験を就職活動の面接などに活かす方が実習中に就職活動をするよりも何倍もメリットになってくると思います。焦らず、自分に合った良い病院を探して、就職できることを祈っています。
2025.01.16
就職レポートNo.812(公的病院/理学療法士)理学療法学科
就職活動を終了したばかりの学生のリアルな声を紹介する「就職レポート」、第812弾! 理学療法学科4回生 古謝 宏樹さん 公的病院(理学療法士) 内定 あなたがその職種を志したきっかけを教えてください。 理学療法士を志したきっかけは、高校1年生のときに祖母が骨折したことです。その時に入院先の理学療法士の方の尽力で、骨折以前とほぼ変わらない程度に歩くことができるようになり、とても感動しました。そのため、理学療法士を目指し、この感動を1人でも多くの方に届けたいと思い、志しました。 畿央大学を選んだ理由は担任制が魅力に感じたからです。大学生活の不安と、先生と学生との距離が高校とは違い、遠くなると考えていました。しかし、畿央大学では担任制があり、1年に2回も個人面談があるため、先生との距離も近くなりました。また、面談時に卒業後の進路について相談し、親身にその相談に乗っていただきました。そのため、そういった悩みがあるときに担任の先生がいることで思い悩まず解決することができました。 畿央大学での学生生活を振り返ってどうでしたか? 学生生活を振り返って良かったことは勉学を疎かにしなかったことです。大学入って初めての試験である前期試験がとても難しく、少し挫折しました。そこで挫折したまま、勉学を疎かにしていたら、今の僕はないと思います。それ以降、しっかりと「大学での学び」と向き合うようになりました。その結果、面接での自己PRや長所になったため、学生生活をなんとなく過ごすのではなく、目的や目標をもって過ごすことが大事と感じました。 就職活動について、その就職先に決めた理由を教えてください。 地域で唯一の三次救急病院であり、様々な疾患に対する理学療法を経験することができ、急性期病院であるため、ICUや術後翌日から介入し、患者さんの早期の社会復帰に貢献できるからです。また実習先でもあり、一人一人の先生方の質が高く、そういった環境でこれからも学びたいと思い、就職先に決めました。 就職活動を振り返っていかがでしたか? 受験した病院は二次試験まであり、最初の試験から合格発表までは約一か月かかるため、不合格の場合も考えるとリスクはありました。しかし、それよりも“この病院で働きたい!”という強い思いがあったので受験しました。 苦労したことは病院独自のエントリーシートを書くことでした。志望動機や長所・短所を含めた自己PR、目指す職員像など自己分析は思っている以上に時間がかかりました。友人などと話す中で過去を振り返ったり、キャリアセンターの方に何回も丁寧に添削していただいたり納得のいくまでキャリアセンターの方と突き詰めました。そのおかげで自分が気付かなかった長所や新たな自分を見つけ、面接試験にも活かすことが出来ました。 そして、就職活動を通してネガティブに考えてしまい、辛い思いをすることは何度もありました。しかし、それ以上に周りの人たちに支えられていることを再確認できた貴重な機会でした。 就職活動で役立ったツールを教えてください。 求人検索NAVIにある「就職体験記検索」というツールが就職活動の中で役に立ったと思います。このツールで過去に就職試験を受けた先輩方の体験(就職活動を始めた時期や決まった時期、やっておいた方が良いことなど)を見ることができます。就職先の情報や特徴、準備した方が良いことなどが分かるため、就職活動のどの場面でも役に立つと思います。私の受けた病院の理学療法士として情報はなかったのですが、看護医療学科の方に看護師採用試験を受験した記録があったため、その情報も活用することができました。 後輩のみなさんへメッセージをお願いします! 総合実習を終えるとすぐに就職活動が始まり、国家試験の勉強や卒業研究など様々なことが次々に始まるため、11月ぐらいまであっという間に過ぎます。つまり、それほど濃密な時間を過ごせるということにもなります!国家試験の勉強や卒業研究に向けて本格的に活動できるのは8月からになるため、その前から就職活動に関して出来ることはいっぱいあると思います。例えば、家の周り、駅から通える距離にある病院を調べたり、行きたいなと思う病院の情報を求人検索NAVIで調べたりなどなど。 国家試験の本番や卒業研究の発表日は決まっていますが、就職活動の日は決まっていないため、だらだらとしがちですが、メリハリをつけて第一志望に合格できるように頑張ってください!!
2025.01.06
就職レポートNo.806(民間病院/理学療法士)理学療法学科
就職活動を終了したばかりの学生のリアルな声を紹介する「就職レポート」、第806弾! 理学療法学科4回生 濵﨑 加奈子さん 民間病院(理学療法士) 内定 あなたがその職種を志したきっかけを教えてください。 私は元々おせっかいな性格で、人の世話を焼くことが好きでした。職業体験の時に、「どこに体験に行きたいか」という希望調査を出す際に、そんな自分の性格を生かせる仕事を考えました。その時、ふと中学2年生の時に、作業療法士の方に「病気を患っている人に寄り添い、能力を回復していく過程のお手伝いをする」という仕事の魅力を聞いたことを思い出しました。そこで、職業体験の際に病院で理学療法士の体験を行いました。実際に患者さんとお話をしたり、理学療法士の方にお話を聞いたりしたことでより憧れる気持ちが増したので、理学療法士になることを決めました。 畿央大学を選んだ理由としては、オープンキャンパスで学生スタッフの方が畿央大学の魅力を伝えてくださったことが一番の理由です。学生と先生方の距離が近く、すぐに質問や相談ができる関係性になれるところや、畿央大学の多くの学部が国家試験の習得を目指して学業に励んでいるため、「皆で頑張ろう」という空気感があるというところに惹かれました。また、オープンキャンパススタッフの方がとても優しくニコニコと対応してくださり、スタッフ同士も仲良く楽しそうにお仕事をされており、こんな素敵な大学生になりたいと思えたことも畿央大学を選んだ理由の一つです。 畿央大学での学生生活を振り返ってどうでしたか? 私は、自分がやりたいと思ったことには全てチャレンジするようにしていました。高校生の頃から憧れていた軽音部に入部しベースを始めたり、オープンキャンパススタッフをしたり、健康支援チームTASKという団体に所属して畿央祭や地域の健康教室で健康チェックを行ったり、畿央祭の実行委員を2年間行ったり、軽音部の活動の一環として運動会の企画・実行をしたり、他にもたくさんの活動にチャレンジしました。これらの経験はとても良い思い出になったと共に、計画力や実行力、コミュニケーション能力など私自身の大きな力になったと考えています。 理学療法学科での大学生活は勉強が忙しくて、自分のやりたいこととの両立が難しかったですが、めげずにチャレンジしてきたことで悔いなく楽しい大学生活を送れたなと考えています。 就職活動について、その就職先に決めた理由を教えてください。 実習で行った際に「この環境で働きたい」と思えたのが一番の理由です。私は総合臨床実習Ⅰ期でお世話になった病院に就職するのですが、働いている職員の皆さんが熱心に自己研磨に励み、その知識を生かして患者さんに真摯に向き合い、よりよい理学療法の提供に取り組む姿が印象的でした。また、教育体制がしっかりしており、理学療法士として着実に力をつけていくにはとても良い環境だと思いました。 このように、私が一番重要視したのは、「理学療法士として成長するのに適した環境であるか」です。 就職活動を振り返っていかがでしたか? 私は面接をとても不安に思っていました。元々、緊張する場面がとても苦手で顔が真っ赤になってしまうタイプでした。それに加えて、予想していない質問がきたときに結論から言えずにだらだらと話してしまうという欠点がありました。そのため、キャリアセンターの飯山さんや友達と面接練習を繰り返し行い面接に挑みました。そうすることで、本番の面接では、病院の先生方に話すのが上手だと褒めていただけたので、練習を頑張った成果が出たかなと思っています。 履歴書や面接対策での自己分析は、自分自身で実施すると難しく、とても大変でした。しかし、家族や仲のいい友人など親しい人に聞くことで自分でも気づいていなかった自身の長所や短所を知ることができたので良かったと思っています。 筆記試験に関しては実習終了後すぐに試験があったので、過去の先輩方が残してくださった試験対策を活用しつつ、国家試験の過去問で勉強しました。 就職活動で役立ったツールを教えてください。 就活ツールではないのですが、8月に大学で開催された合同説明会で直接病院の方とお話した事やパンフレットがとても役立ったと思っています。実習中は、実習に必死で就職活動にまで手を回すことができなかったのですが、実習が終わってすぐの合同説明会で、たくさんの病院の方と直接お話をすることで、病院の雰囲気や内情など詳しく聞くことができて、良かったです。私自身、説明会の頃には3病院ぐらいに絞っていましたが、自分が考えていなかった病院の方ともお話をしたことで、新たな観点から病院を見ることができ、最終的に1つの病院を選ぶことができました。そのため、とても良い機会になったと考えています。 リフレッシュ方法としては、平日は大学で就職試験の勉強や面接練習を頑張って、土日はアルバイトと好きなことを思いっきりして、しっかりと休息するという事を心がけていました。そうすることで、メリハリをつけて途中でだらけてしまわずに、面接当日まで頑張ることができました。 後輩のみなさんへメッセージをお願いします! 理学療法学科の4回生は、実習に就職活動に国家試験勉強にとても忙しい1年間になると思いますが、友達とご飯に行ったり、遊んだり、一日お家でゆっくりしたり、自分なりのリフレッシュ方法を活用して、無理せず頑張ってください!応援しています!
2025.01.06
脳卒中患者への定量的上肢活動量評価を用いた行動変容介入の効果~ニューロリハビリテーション研究センター
脳卒中患者は、中枢神経系の損傷により上肢機能障害を呈し、麻痺側上肢の使用頻度が低下することで社会参加が妨げられ、生活の質に不利益をもたらします。麻痺側上肢の使用頻度には、性格特性や脳卒中後に生じる心理的要因(自己効力感や結果期待)も影響することが分かっています。しかし、心理面や性格特性による麻痺側上肢活動の低下に着目した長期的な支援を実施した報告は散見されません。畿央大学大学院博士後期課程の南川勇二氏と森岡周教授らは、心理的要因によって麻痺側上肢の上肢活動量が低下している脳卒中患者1例に対し、上肢活動量の長期的なモニタリングに基づいた行動変容介入を行いました。その結果、上肢機能に加えて、日常生活の上肢活動量が改善しました。さらに、自己効力感が先行して改善し上肢活動量が改善することも明らかにしました。この研究成果は学術誌『作業療法』(心理的要因による脳卒中後麻痺側上肢使用に対する定量的上肢活動量評価を用いた行動変容介入の効果-症例報告-)に掲載されています。 研究概要 脳卒中患者は、中枢神経系の損傷により上肢機能障害を呈し、性格特性や心理的側面(手に対する自己効力感や結果期待)への影響から日常生活で麻痺側の上肢を使用することが困難になることがあります。これは、日常生活活動や社会参加を妨げ、生活の質の低下にもつながります。そのため、リハビリテーション専門家にとって、脳卒中患者の性格や心理的側面を考慮した上肢活動に対する包括的なアプローチが重要です。しかしながら、上肢機能に加え、心理面や性格特性による麻痺側上肢活動の低下に着目して長期的な支援した報告は散見されません。畿央大学大学院博士後期課程の南川勇二氏および森岡周教授らの研究チームは、脳卒中患者1症例に対し、入院中から退院後まで長期的にリストバンド型の加速度計を用いて日常生活にける上肢活動を分析、可視化することで麻痺側上肢の使用状況をモニタリングしました。加えて、上肢活動量の経過や症例の性格、心理面を考慮した行動変容介入を行いました。その結果、上肢機能や心理機能だけでなく、上肢活動量が改善し、日常生活活動や趣味活動の再獲得に繋がりました。また、脳卒中患者の長期的な心理的側面が先行して改善し、上肢活動量が改善することも明らかにしました。本症例報告は、入院中から退院後まで上肢活動を長期的にモニタリングして支援した報告であり、1症例ながら重要な知見といえます。 本研究のポイント ・心理的要因によって麻痺側上肢使用頻度が低下していた脳卒中患者に対し入院中から退院後まで長期的に支援した。 ・上肢使用のモニタリングにリストバンド型加速度計を用いた定量的上肢活動量評価を用いた行動変容介入を試みた結果、上肢活動量の長期的な改善を認めた。 ・1症例の介入効果を時系列分析することで、麻痺側上肢に対する主観的な認識の改善が後の上肢活動量改善に寄与した可能性が示唆された。 研究内容 本研究では、脳卒中患者1症例に対して入院中からリストバンド型の3軸加速度計を用い、日常生活にける上肢活動量を分析するとともに性格や心理面を考慮した行動変容介入を行いました。 上肢活動量は活動時間を表す各上肢の活動時間やその左右比からなる両側の使用率と、活動強度(加速度の大きさ)を表す両上肢活動強度の和、両側活動強度比を算出し、可視化することで(図1)麻痺側上肢の使用状況をモニタリングと症例へフィードバックを行いました。入院中から上肢機能と心理的側面に加えて、日常生活の上肢活動量をモニタリングしながら支援し、退院後には訪問リハビリテーションスタッフと連携することで、発症後約1年6ヶ月まで長期的な支援を行いました。その結果、Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目やAction Research Arm Test、Motor Activity Logといった上肢機能評価や自己効力感や結果期待などの心理評価に加え、上肢活動量が長期的に改善し(図2)、日常生活活動や趣味活動の再獲得に繋がりました。加えて、本症例の上肢活動量と各上肢関連評価の時系列的関係を検証するために相互相関分析を実施しました。その結果、両上肢活動強度の和は1時点前のMALと自己効力感、両側の使用率は1時点前のARAT、自己効力感、結果期待と相関関係を認めました。つまり、脳卒中患者の長期的な上肢活動量の改善には上肢活動に対する主観的な認識や心理的側面が先行して改善することを明らかにしました。 本症例報告は、麻痺側上肢活動の向上には、心理評価と加速度計による定量的な上肢活動量のモニタリング結果による適切なフィードバック介入が重要であったことを示唆しています。一方、本報告は1事例を対象とした後方視的な検討であり、心理機能と上肢活動量評価との因果関係を明確に示す結果ではなく、解釈には注意が必要です。 図1.症例へのフィードバックに用いた図示化された上肢活動量評価と各指標の算出方法 横軸が両手動作時の麻痺側および非麻痺側の活動強度比率を表した両側活動強度比、縦軸が麻痺側と非麻痺側の活動強度を合計した両上肢活動強度の和を示し、それぞれの指標の関係が1秒毎にプロットされた症例の1日の上肢活動量を図示化したものである。プロット数が多く重なると、寒色から暖色へとプロットの色が変化する。縦軸は両上肢の活動強度を合計した値の大きさを示す。横軸は正の値(右側)にプロットされると麻痺側上肢の活動が優位であることを示し、負の値(左側)にプロットされると非麻痺側上肢の活動が有意であることを示す。横軸上の「7」と「−7」のバーは片側の加速度のみが反応した単肢での活動量を示す。縦に記載された黒線は両側活動強度比がプロットされた中心の位置を示す。 図2.上肢活動量長期的な変化 両側活動強度比:0に近付くほど左右上肢の活動強度が均等であることを示す。 両上肢活動強度の和:数値が高くなるほどより大きな両側上肢活動を行っていることを示す。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究成果は、1症例ながら、上肢活動量の向上に時間前後関係として自己効力感が先行して改善していたことは1症例ながら重要な知見であると考えます。この報告は、リハビリテーション専門家が脳卒中患者の日常生活における麻痺側上肢使用の行動変容を考える際に着目すべき点として心理的側面が重要であることを示しています。今後は、その他の要素を含めた脳卒中患者内における上肢活動量の特徴を横断的に調査していくことや、心理的要因と上肢活動量の関係を縦断的に調査する必要があります。 論文情報 南川 勇二、西 祐樹、生野 公貴、森岡 周 心理的要因による脳卒中後麻痺側上肢使用の低下に対する定量的上肢活動量評価を用いた行動変容介入の効果-症例報告- 作業療法, 2024 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 教授 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2024.12.20
パーキンソン病患者の移動支援に新たな可能性—足こぎ車椅子の有効性を確認~ニューロリハビリテーション研究センター
畿央大学の岡田洋平准教授らの研究グループは、すくみ足のあるパーキンソン病患者に足こぎ車椅子を導入し、従来の手動車椅子に比べてスムーズかつ十分な速度で駆動できることを明らかにしました。この研究成果は、Movement Disorders Clinical Practice誌に掲載されました(The Cycling Wheelchair as a New Mobility Aid for Individuals with Parkinson's Disease)。 研究概要 パーキンソン病患者は、疾患の初期段階から歩行能力が低下し、進行に伴いその傾向が顕著になります。その結果、日常生活で車椅子が必要となることがあります。しかし、手動車椅子を使用する際にも駆動能力が制限される場合が多いことが課題です。一方で、パーキンソン病患者は自転車のペダル操作能力が比較的保たれていることが知られています。本研究では、ペダル操作で駆動する足こぎ車椅子に着目し、その有効性を手動車椅子と比較しました。その結果、手動車椅子の駆動能力が著しく低下している患者でも、足こぎ車椅子ではスムーズかつ十分な速度で移動可能であることを確認しました。 本研究のポイント ・パーキンソン病患者に足こぎ車椅子を導入し、駆動能力を比較検証した。 ・手動車椅子の駆動が困難な患者でも、足こぎ車椅子でスムーズかつ十分な速度での移動が可能であることを実証した。 研究内容 本研究では、すくみ足を有するパーキンソン病患者2名を対象に、足こぎ車椅子(図1)と手動車椅子による10m直進路の駆動能力を比較しました。 症例1では、手動車椅子の約6倍の速度で足こぎ車椅子を駆動できました。 図1 足こぎ車椅子(COGGY,TESS) 症例2は強い前屈姿勢があり手動車椅子では途中で停止しましたが、足こぎ車椅子では十分な速度で完走可能でした。 図2 主な結果:車いすの駆動速度の比較(手動車椅子 vs 足こぎ車椅子) これらの結果から、足こぎ車椅子は移動能力が低下したパーキンソン病患者にとって新しいモビリティエイドとしての可能性を示しています。 本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究の結果、パーキンソン病患者の足こぎ車椅子の駆動能力は、従来の手動車椅子と比較して非常に高いことが明らかにされました。パーキンソン病患者にとって、日常生活で自由に動けることの意義は大変大きく、生活の質の向上への寄与が期待されます。今後は、方向転換や狭いスペースでの操作性など、より実用的な検証を進め、施設環境などでの有効性も調査できればと考えています。 論文情報 Okada Y, Narita M, Okamoto M, Osumi M, Morioka S. The Cycling Wheelchair as a New Mobility Aid for Individuals with Parkinson’s Disease. Mov Disord Clin Pract. 2024 Dec 5. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 准教授 岡田 洋平(オカダ ヨウヘイ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp
2024.12.02
第11回日本地域理学療法学会学術集会で大学院生と修了生(客員研究員)が発表~健康科学研究科
2024年11月16日(土)~17日(日)の2日間にかけて第11回 日本地域理学療法学会学術大会が高槻城公園芸術文化劇場で開催されました。今年のテーマ「地域をつなぐ理学療法の役割と責任〜実践4領域の学際〜」でした。 地域理学療法学会では、実践領域を「個別-集団」という軸と、「直接-間接」という軸を直行させた4つの領域に整理しており、それぞれは独立したものではなく、包括的に考えられております。まだまだ「地域理学療法=生活期の理学療法」と理解をしている理学療法士が多い現状にありますが、医療機関も重要な地域資源の一部であり、全ての病期が地域リハビリテーションの対象となります。本学会ではこの観点から、様々なフィールドで働く理学療法士が互いの立場から意見交換を行い、地域を考える重要な機会となりました。 地域リハビリテーション研究室からは、私(高取)と博士後期課程の山本氏(宝塚リハビリテーション病院)、客員研究員の仲村渠氏(淀川キリスト教病院)が口述発表し、博士課程修了生の武田氏(北陸大学)はシンポジウムでの講師という形式でそれぞれ発表致しました。 研究内容のご紹介 <高取克彦>「地域リハビリテーション活動支援事業における理学療法士の役割とアウトカム指標に関する検討」 一般介護予防事業に含まれる「地域リハビリテーション活動支援事業」を通じたリハビリテーション専門職の活用は住民主体の「通いの場」支援へのニーズが高まっています。しかし,その支援内容は必ずしも理学療法士の専門性を発揮した取り組みになっていない場合も多いことから、本研究では地域の通いの場支援についての理学療法士の役割と、事業効果を明らかにするアウトカム指標を検討することとしました。住民主体にて「いきいき百歳体操」を毎週開催されている教室48ヶ所(参加者583名)を研究対象としました。体操指導や体力測定に留まらない理学療法士の役割として、直接評価によるフレイルや転倒ハイリスク者の抽出に重点を置くことの重要性を示しました。 また地域包括支援センターとの連携を通じて、これまで把握されていないハイリスク者数やフォローアップ結果を事業アウトカムとして取り入れることを提案する内容となっています。 <山本泰忠>「地域在住高齢者の社会参加数と中心性との関連」 地域リハビリテーション活動支援事業には、通いの場支援等が含まれており、地域在住高齢者の運動指導のみならず、新たな参加者を募ることで社会参加を促すという視点も求められています。社会参加に関わるソーシャルネットワークとの関連については、これまで主に量的観点や地域レベルで検討されてきたものの、通いの場グループ内の友人ネットワークなどの質的観点から十分には明らかにされておらず、本研究では中心性という指標を用いて社会参加数との関連を検討しました。結果、さまざまな中心性指標において社会参加数と正の関連があることが示されました。今回は通いの場参加者のみが対象でしたが、中心性という社会的文脈捉えた本研究の結果は、地域リハビリテーション活動支援事業を実践するリハ専門職や行政等の後方支援を行う実施主体に対して、通いの場の継続性や拡大への一助とすることができればと考えています。 <仲村渠 亮 > 「外来透析患者への運動指導加算算定期間内での運動効果及び終了後の自主練習継続率の調査 」 透析中患者への運動療法の重要性は多く報告されていることから、2022年診療報酬改定で透析中の運動指導に係る評価が新設されました。これに伴い更に多くの施設で透析中運動療法が実施され始めました。しかし、透析中運動療法の効果はトレーニング器具を用いた長期介入での報告や介入前後での効果のみの報告が多いことから、本研究は加算算定期間(90日)での自重トレーニング効果及び加算算定期間後の運動継続率と効果の持続性を調査しました。結果、90日間の自重トレーニングでも介入効果がみられましたが、約9割がそれ以降は中断し、効果が減少してしまう傾向が示されました。今回の結果を院内以外でも共有することで、継続したフォロー体制の確立と透析患者へのリハビリテーションの今後の発展に貢献できればと考えております。 <武田広道> シンポジウム「間接-集団」支援の視野拡大へ~人・環境との相互作用を意識した臨床疑問の生成~:通所施設での利用者同士の支援効果 通所施設では、多くの利用者様が同じ空間で時間を共有する特性を活かし、利用者様同士の関わりを支援に活用する「間接‐集団支援」の可能性が注目されています。本シンポジウムでは、この支援方法に関する実践例や研究成果を交え、その意義と課題について議論しました。講演では、通所施設における理学療法士の役割を再考し、利用者同士が互いに支え合う環境の構築に焦点を当てました。具体的には、高齢者同士の支援が身体活動量や運動継続に与える効果についての先行研究を紹介し、通所施設におけるピアサポートが行動変容を促進する可能性について話題を提供しました。さらに、博士課程在学時に実施したバディスタイル介入を例に挙げ、利用者間の支援関係を強化する意義やその成功要因についても触れました。また、本シンポジウムでは、障害者支援施設や地域住民を対象とした講演も行われ、それぞれの立場における「間接‐集団支援」に関する研究と実践例が示されました。最後に、聴講者からは多くの質問が寄せられ、「間接‐集団支援」に関する活発な議論が展開される場となりました。 本学会を通じて地域リハビリテーションの多くの領域において、理学療法士が他職種と連携する上で重要なHubとなり得ること、また通所・訪問・予防領域においても間接支援やピアサポートなどが重要であることを実感した学会でした。 期間中、多くの卒業生との再会もあり、卒業後に急性期病院へ就職した方々で、現在は地域で活躍されている人が意外に多いことや、本学術集会などアカデミックな領域にも関心が深いことに少し驚かされた二日間でした。来年度は北海道での開催となり遠方ですが、何か発表できる研究成果を準備していきたいと考えています。 健康科学部 理学療法学科 健康科学研究科 地域リハビリテーション研究室 高取克彦 関連記事 地域リハビリテーション研究室 第34回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 学術集会での医療の質特別賞を受賞 ~ 健康科学研究科 日本小児理学療法学会学術大会で大会長賞を受賞!~健康科学研究科 第22回日本神経理学療法学会学術大会へ参加しました! 森岡研究室の同門会に院生・修了生49名が参加!~健康科学研究科 本学にて第33回奈良県理学療法士学会が開催されました。~健康科学研究科・理学療法学科 第28回 日本ペインリハビリテーション学会 学術大会で大学院生が一般口述演題奨励賞を受賞しました!~健康科学研究科 【快挙】大学院生の研究において、脳卒中患者の物体把持の測定における新しいアプローチを開発しました。 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.2~岩佐さん×赤口さん 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.1~淡路さん×渕上さん 健康科学研究科の記事 理学療法学科の記事
2024.11.29
脳卒中後の運動主体感:定量化と上肢使用量への影響~ニューロリハビリテーション研究センター
脳卒中後の運動障害は、「自分が自分の運動を制御している」という感覚である運動主体感を奪う可能性があります。しかし、運動障害は麻痺肢の重たさやぎこちなさといった不快感も招くため、運動主体感それ自体が患者の行動変容にどのような影響を及ぼしているのかは明らかではありませんでした。国立研究開発法人産業技術総合研究所の宮脇裕氏と本学の森岡周教授らは、脳卒中後運動障害が招く様々な不快感から運動主体感を分離し評価した上で、運動主体感が上肢使用量に影響することを明らかにしました。この研究成果は、Cortex誌(Diminished sense of agency inhibits paretic upper-limb use in patients with post-stroke motor deficits)に掲載されています。 研究概要 脳卒中後運動障害は身体運動の制御を困難にし、「自分が自分の運動を制御している」という感覚、すなわち運動主体感(Sense of Agency)を奪う可能性があります。運動主体感は、運動制御だけでなく、行為の動機付けや注意分配に関与し、この感覚が伴わない行為は実行されにくくなることが示唆されています。これらの知見に基づけば、運動主体感の低下は行為頻度の減少を招き、身体活動量、特に上肢の使用量を減少させる可能性が考えられます。しかし、運動障害は麻痺肢の重たさやぎこちなさなどの不快感も招くため、運動主体感それ自体が上肢使用量に影響するのかは明らかではありません。この検証のためには、不快感から運動主体感を分離し、運動主体感それ自体を定量化する必要があります。 そこで、国立研究開発法人産業技術総合研究所の宮脇裕氏(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員)と森岡 周 教授らは、不快感と運動主体感の分離を実現する質問紙を独自に開発し、患者の運動主体感を縦断的に評価することで、運動障害が招く運動主体感の低下が上肢使用量に及ぼす影響を精査しました。その結果、不快感ではなく運動主体感の低下が上肢使用量の減少に関連することが示され、運動障害が運動主体感を阻害することで、上肢使用量が減少するという運動主体感の媒介効果が明らかになりました。さらに、運動主体感が低下していた場合、これが向上することで、上肢使用量の改善が大きくなることが示されました。 本研究のポイント ・脳卒中後の運動障害が招く様々な不快感から運動主体感を分離し評価する質問紙を開発した。 ・運動障害が重度なほど、運動主体感が低下することを示した。 ・不快感ではなく運動主体感の低下が、上肢使用量の減少に関連することを示した。 ・運動主体感の向上が、上肢使用量の改善と関連することを示した。 研究内容 独自に開発した質問紙と、Fugl-Meyer Assessmentなどの臨床評価尺度を用いて、脳卒中後患者156名の運動主体感と、感覚運動機能および認知機能を縦断的に評価しました。質問紙には、運動主体感の関連・非関連項目を含み、因子分析後の因子パターンに基づき項目が選定されました。その後、適合度指標に基づき、運動主体感と不快感を分離した2因子モデルと分離しない1因子モデルを比較しました。これらを経て抽出した因子を用いて、構造方程式モデリング(SEM)により臨床アウトカムとの関連を分析し、voxel-based lesion-symptom mapping(VLSM)により損傷部位との関連を分析しました。さらに、縦断的変化を反映する回帰直線の傾きを推定した上で、多母集団同時分析により運動主体感の向上が上肢使用量の改善に関連するかを精査しました。 その結果、適合度指標から2因子モデルが支持され、運動主体感と不快感が因子として分離・抽出されました。SEMおよびVLSMの結果、運動主体感は認知機能や損傷部位ではなく、上肢運動障害の重症度に応じて有意に低下することが示されました(図1)。 図1:運動障害が不快感および運動主体感に及ぼす影響 興味深いことに、上肢使用量は不快感ではなく、運動主体感に有意に関連することが明らかになりました(図2左)。そして、運動障害が運動主体感の低下を介して上肢使用量を減少させるという運動主体感の有意な媒介効果を認めました(図2右)。 図2:運動主体感が上肢使用量に及ぼす影響 さらに、多母集団同時分析の結果、中等度から重度の運動障害を有する患者では、低下していた運動主体感が向上した場合に、上肢使用量の改善が有意に大きくなることが示されました(図3)。 図3:運動主体感の向上が上肢使用量の改善に及ぼす影響 本研究の臨床的意義および今後の展開 これまでの臨床現場では、運動主体感は単一の質問項目によりスクリーニング的に評価されることが多く、不快感などのバイアス混入が懸念されてきました。これに対し本研究は、不快感から運動主体感を分離するための質問紙を開発し、運動主体感それ自体が上肢使用量に影響することを明らかにしました。本成果は、運動主体感という臨床において新たに評価すべき指標を提案するとともに、その評価ツールの臨床実装に向けた基礎的知見を提供します。今後、本質問紙の臨床実装に向けて、その妥当性の検証をさらに進めていく予定です。 論文情報 Yu Miyawaki, Takeshi Otani, Masaki Yamamoto, Shu Morioka, Akihiko Murai Diminished sense of agency inhibits paretic upper-limb use in patients with post-stroke motor deficits Cortex, 2024 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) 客員研究員 宮脇 裕(ミヤワキ ユウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2024.11.25
横断性脊髄炎1症例の異常感覚および上肢運動に対するしびれ同調経皮的電気神経刺激の効果~ニューロリハビリテーション研究センター
脊髄炎は3例/10万人の稀な炎症性神経障害であり、脊髄炎由来の疼痛や異常感覚は治療抵抗性があることが知られています。脊髄炎による神経障害性疼痛・異常感覚に対するリハビリテーションの効果は、希少疾患ゆえに十分に検証されず、症例報告の蓄積は臨床的意義があります。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターおよび長崎大学生命医科学域(保健学系)の西祐樹らは、横断性脊髄炎1症例に対してしびれ同調経皮的電気神経刺激を行うことで異常感覚および上肢活動量が改善したことを明らかにしました。この研究成果はFrontiers in Human Neuroscience誌(Case report: A novel transcutaneous electrical nerve stimulation improves dysesthesias and motor behaviors after transverse myelitis)に掲載されています。 研究概要 脊髄炎は3例/10万人の稀な炎症性神経障害であり、予後は一定せず、60%以上の患者に軽度から重度の後遺症がみられます。また、脊髄炎由来の疼痛や異常感覚は治療抵抗性があることが知られています。しびれ感に対して我々はしびれ感と一致したパラメーターの電気刺激を行うしびれ同調経皮的電気神経刺激(TENS)を開発し、その有効性を報告しています(Nishi et al., 2022)。脊髄炎による神経障害性疼痛・異常感覚に対するリハビリテーションの効果は、希少疾患ゆえに十分に検証されず、症例報告の蓄積は臨床的意義があります。そこで、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターおよび長崎大学生命医科学域(保健学系)の西祐樹らは、しびれ感およびアロディニアによりADLが阻害されている横断性脊髄炎1症例に対して、しびれ同調TENSを行いました。その結果、しびれ感、アロディニア、上肢活動量が即時的に改善しました。また、しびれ感での長期効果を示しましたが、アロディニアでは観察されませんでした。上肢活動量や上肢ADLにおいては持続効果を認め、しびれ同調TENSはしびれ感やアロディニアのみならず、ADLの改善に寄与する可能性を示しました。 本研究のポイント ・しびれ感やアロディニアを呈する横断性脊髄炎1症例に対するしびれ同調TENSの効果を検証した。 ・しびれ同調TENSによりしびれ感やアロディニアが改善したが、アロディニアに対する持ち越し効果がみられなかった。 ・主観的および客観的な上肢使用は持ち越し効果が確認された。 研究内容 本研究では、しびれ感およびアロディニアによりADLが阻害されている横断性脊髄炎1症例に対して、しびれ同調TENSを行い、その効果を検証しました。 症例はC4からTh2領域の横断性脊髄炎を診断され、左C8領域にしびれ感とアロディニアを呈していました。常に左手に手袋を着用し、左手の使用に恐怖心があり使用を避けていました。そのため、家事や仕事であるタイピングが左手で十分に行えないことに苦悩していました。介入は、A-B-A-B-Aデザインを使用し、各期は1週間としました。A期はTENS行わず、B期ではしびれ同調TENSを実施しました。しびれ同調TENSは1時間/回を2回/日行いました。症例は週2回の外来理学療法でストレッチや有酸素運動、疼痛教育を各期共通して行いました。評価項目として、しびれ感やアロディニアのNumerical rating scale(NRS)、主観的な上肢使用としてMotor Activity Log(MAL)、客観的な上肢使用として両手関節部に慣性センサを装着し、上肢活動量の左右比を算出しました。 その結果、Tau-Uおよびベイジアン未知変化点モデルにより、しびれ同調TENSのしびれ感やアロディニアへの即時効果およびしびれ感の持ち越し効果が明らかとなりました。一方、アロディニアの持ち越し効果はみられませんでしたが、主観的および客観的な左手の上肢使用は改善し、家事や仕事での左手の使用頻度が向上しました。難渋していたしびれ感やアロディニアがしびれ同調TENSによりコントロールできるようになったことが、ADLの向上に寄与したと考えられます。 図1.しびれ感やアロディニア、上肢活動量の経過 A期はTENSなし、B期はしびれ同調TENSを行った期間を示す。介入前、介入後、介入後1時間はB期のおける評価を示し、A期では同一時刻のNRSを評価した。 本研究の臨床的意義および今後の展開 しびれ同調TENSは服薬治療への抵抗性が高い異常感覚においても効果を示す可能性があり、新たな治療選択の一つとなる可能性があります。今後は、他の疾患におけるしびれ感やアロディニアに対する効果のみならず、ADL等への波及効果を検証していく予定です。 論文情報 Yuki Nishi, Koki Ikuno, Yuji Minamikawa, Michihiro Osumi, Shu Morioka Case report: A novel transcutaneous electrical nerve stimulation improves dysesthesias and motor behaviors after transverse myelitis. Frontiers in Human Neuroscience, 2024 関連論文 Nishi Y, Ikuno K, Minamikawa Y, Igawa Y, Osumi M, Morioka S. A novel form of transcutaneous electrical nerve stimulation for the reduction of dysesthesias caused by spinal nerve dysfunction: A case series. Front Hum Neurosci, 2022. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) 客員研究員 西 祐樹 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2024.11.13
地域在住フレイル高齢者の運動系社会参加を促進する地域要因の検討~健康科学研究科
フレイルは、健康から障害に至る前段階の状態と位置づけられ、転倒や骨折、要介護、死亡リスクを高めることが明らかになっています。近年のフレイル対策として、社会的側面からのアプローチが注目され、特に運動を主体とする社会参加(運動系社会参加)は、フレイルからの脱却や要介護・死亡リスクを軽減することが報告されてきています。一方で、フレイルであることは社会参加の阻害要因になります。実際に、運動系社会活動の参加者は移動能力が自立した人に限られてしまっているという報告もあり、フレイル高齢者は十分に運動系社会参加ができていない可能性があります。 また、地方自治体が効果的なフレイル対策を講じるためには、同一自治体内の地域内格差の実態を把握し、それぞれの課題に応じた対策が求められています。しかし、同一自治体内での運動系社会参加の地域内格差を調査した報告も少ないのが現状です。 そこで、本学大学院健康科学研究科 客員研究員の中北 智士氏、健康科学研究科の松本 大輔准教授、高取 克彦教授は、地域在住高齢者を対象にした調査を行い、同一自治体内であっても、地区によってフレイル高齢者の運動系社会参加には格差があり、フレイル高齢者の運動系社会参加の推進のためには、近所づきあいのような地域のつながりが重要であることを明らかにしました。 この研究成果は、総合リハビリテーションに掲載されています。フレイル高齢者の運動系社会参加を促進するための一助になることが期待されます。 研究概要 A市在住の要介護認定を受けていない65~80歳の高齢者を対象に、2022年に基本チェックリスト*および社会活動についての郵送調査を行い、6,532名のフレイル高齢者の運動系社会参加に関する地域要因を検討しました。 *基本チェックリスト:二次予防事業対象者の選定のために厚生労働省が作成した。全25項目のうち8項目以上該当するとフレイルと判定される。 本研究のポイント • 運動系社会参加の割合は同一自治体内でも最大1.5倍の地域内格差があることが明らかとなりました。さらに、運動系社会参加者に占めるフレイル高齢者の割合においても、最小地区の6.7%から最大地区の16.5%と地域内格差を認めました。 図1:運動系社会参加者に占めるフレイル高齢者の割合(*p<0.01) また、フレイル高齢者の運動系社会参加が最も多かったE地区では、共変量を調整しても他の地区とは異なり運動系社会参加の促進要因としてフレイルであること(オッズ比2.2, 95%信頼区間1.17~4.12)、近所づきあいが良好であること(オッズ比2.9, 95%信頼区間1.51~5.47)が採択され、フレイル高齢者が運動系社会参加に参加しやすい地域では、近所づきあいのような地域のつながりが重要である可能性が示唆されました。 図2:E地区における運動系社会参加に対するロジスティック回帰分析 本研究の意義および今後の展開 本研究はフレイル高齢者の運動系社会参加に関する要因を調査した数少ない研究です。一般的にフレイルは社会参加の阻害要因でありますが、E地区においては、フレイル高齢者の運動系社会参加が多い地域は、近所づきあいのような地域のつながりが高いことが明らかとなりました。フレイル高齢者の社会参加は、要介護リスクを軽減することが分かっており、積極的にフレイル高齢者の社会参加を推進することが必要です。通いの場による介護予防推進のためには、フレイル高齢者が地域とのつながりを保つことができるような地域密着型の取り組みが重要であると考えられます。今後は、フレイル高齢者が社会参加できるような地域づくりに加え、本研究の対象者を縦断的に追跡し介護予防効果を検証していきたいと考えています。 謝辞 研究にご協力いただきました住民の皆様、役場の方々に感謝申し上げます。 論文情報 中北智士、松本大輔、高取克彦. 地域在住フレイル高齢者の運動系社会参加を促進する地域要因の検討. 総合リハビリテーション.52巻 11号 1213-1222. 公開日2024/11/10. 問合せ先 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員 中北智士 准教授 松本大輔 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: d.matsumoto@kio.ac.jp