理学療法学科の新着情報一覧
2017.11.16
書評:理学療法学科教員陣が執筆「理学療法概論:課題・動画を使ってエッセンスを学びとる」
畿央大学健康科学部理学療法学科の庄本教授が編集された書籍「理学療法概論:課題・動画を使ってエッセンスを学びとる」をご紹介させていただきます。本書籍は庄本先生をはじめ、養成校の立場である畿央大学の教員の方々(松尾教授、冷水准教授、松本助教)や、臨床において実習生や理学療法士を育成する立場でもある西大和リハビリテーション病院の徳久技師長によって共同執筆されています。書籍の内容も概論ながら教育現場と臨床現場が密にリンクしたものとなっており、優れた理学療法士を養成するためには教育現場と臨床との協働が重要であるとの思いが窺えます。 本書は他の書籍とは、一線を画す内容になっています。それはタイトルにもあるように、WEB動画や課題が多く使用されている点です。「理学療法概論」の講義は多くの養成校で入学直後の学生に対して行われますが、1回生は医学的知識が乏しく理学療法のイメージが持ちにくい状態にあるため、受動的に講義を受けることになってしまいやすいと思います。恥ずかしながら私自身も「テストに通ればいいだろう」という思いで講義を受けていた記憶があります。そのような学生にとって、動画を通じて実際の症例の姿や、理学療法場面を見ることができるのは非常に有意義であり、理学療法や臨床についての具体的なイメージを持ちやすくなることが期待できます。また課題も多数示されていることで、学生自身が考え、主体的に学ぶことができるのではないかと思います。1回生のときにそのような経験をすることが、その後の講義の必要性を理解し、理学療法士をめざして研鑽していく基盤となるのではないでしょうか。本書を拝読した際には、「自分が学生のときにもこのような書籍があれば良かったな」と羨ましく思いました。 ▼左から冷水准教授、松尾教授、庄本学科長、松本助教 また他の書籍との大きな違いとして挙げられるのが、理学療法士に求められる要素を学ぶにあたって、古事記・神話や儒教、仏教、神道、武士道などについても触れられている点です。これらの思想は日本人の考えや生活にも入り込んでおり、対象者のことを理解し、生活に密に関わっていく必要のある理学療法士にとっては、単に理学療法を学ぶだけでなく、このような思想を含め、広く教養をもち、人間としても成長することが非常に重要であると感じます。本書は学生向けの書籍であるとのことですが、理学療法士となった者にとっても学ぶことや改めて考えさせられる内容が多く、卒後の新人教育のためにも非常に価値のある書籍になっています。 最後になりましたが、理学療法士を志すものにとって有益な情報を示して頂いている本書に敬意を表します。 西大和リハビリテーション病院 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員 理学療法士 中村 潤二 【関連記事】 書評~庄本康治教授執筆「エビデンスから身につける物理療法」
2017.11.06
平成29年度の科研費採択件数、私立大学で全国8位に(学生数5,000人未満)
学生数5,000人未満の私立大学で採択件数が全国8位(関西1位)にランクイン 文部科学省から科学研究費助成事業(通称「科研費」)の配分結果が公表されました。本学における平成29年度科研費は、新規応募件数49件に対し、新規採択件数20件(新規採択率40.8%)という結果でした。現在継続中の研究課題とあわせて、平成29年度は本学から49件の研究課題が採択されています。在籍者数1)5,000人未満の私立大学2)では全国8位(5,000人以上の大学を含めると全国56位)、関西私立大学で1位(平成28年度に引き続き2年連続)に位置しています。 1) 大学の在籍者数は私立大学協会「大学ポートレート」各大学 学生情報>在籍者数2017年より抜粋 2) 医歯薬学部附属病院をもつ大学を除く 【科研費について】科学研究費助成事業は、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、あらゆる「学術研究」を格段に発展させる独創的・先駆的な研究に対する助成を行うものです。科研費は国の最大の研究支援であり、大学の研究力を表す指標の一つと言えます。 また、新規応募件数40件以上の大学で、新規採択率40.8%は全国6位、私立大学では全国1位でした。科研費採択結果は本学の研究力の高さを客観的に示しており、高い研究力に裏付けられた質の高い教育が提供されている証明の一つと言えます。 全国私立大学 科研費採択件数ランキング ※医歯薬学部附属病院のある大学を除く 全国56位/在籍者数5,000人未満の私立大学で全国8位 ※黄色マーカーは在籍者数5,000人未満の大学 応募件数40件以上での科研費新規採択率 ※新規採択件数÷新規応募件数 全国6位/私立大学では全国1位 科研費関連の過去記事およびランキング記事 平成29年度科研費交付内定、採択率は50%に 科研費採択件数、学生数5,000人以下の私立大学で関西1位に(平成28年度) 就職率関西4位~AERAムック「就職力で選ぶ大学2018」
2017.11.06
神経リハビリテーション学研究室の研究交流会が開催されました~健康科学研究科
平成29年11月1日(水)、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターにて畿央大学大学院神経リハビリテーション学研究室(大学院 森岡研究室)研究交流会が開催されました。今回は、首都大学東京大学院の樋口貴広先生、井村祥子先生、そして樋口研究室に所属する大学院生に来学頂き、現在取り組まれている研究の紹介を行って頂きました。 また、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの植田客員研究員、同大学院生の石垣、藤井、水田(私)からも研究紹介を行い、双方の研究に関して意見交換を行いました。本会では在学中の大学院生以外に、大学院修了生も参加し、久しぶりの再会を懐かしみつつ和やかな雰囲気で進行することができました。 樋口先生からは「研究室紹介」という題で先生方が基盤としている考え方や着目されている視点についてレクチャーして頂き、実際の実験状況の動画を提示して頂くなど、具体的な情報をもとに話題提供を行って頂きました。 また、首都大学東京大学院の院生がどのような研究に取り組み、意義や成果を見出そうとされているのか、分かりやすく説明して頂きました。院生の多くの方は隙間通過行動を詳細に分析され、物体に接触してしまう患者の特徴や有効な回避方法等について検討されていました。 私自身も、脳卒中患者が社会復帰され公共機関などで大勢の人をかき分けて歩く必要がある場面では、うまく障壁を回避することが難しく転倒の危険性が高いことを強く感じており、今後の研究成果が楽しみです。樋口先生は、ヒトの隙間通過行動に関する研究を15年以上も継続して取り組まれており、現在の地位に就いてもなお現象を探求し続けておられる姿勢に私も襟を正しました。 その後、畿央大学大学院ならびにニューロリハビリテーション研究センターで取り組んでいる実験で使用している機器の紹介、およびデモンストレーションが行われ、NIRS(近赤外線分光法)や脳波計、アイトラッカー(視線計測装置)、映像遅延装置、SPV(身体的垂直認知)等を体験して頂きました。 続いて、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターから「Lateropulsionに対する直流前庭電気刺激の効果」について植田が、畿央大学大学院から「二者間の姿勢協調と社会心理学的要因の関係性」について石垣が、「パーキンソン病患者の姿勢障害の特徴抽出」について藤井が、「脳卒中後症例における運動麻痺と歩行速度および下肢伸展角度の関連性」について水田(私)が紹介させて頂きました。それぞれの研究紹介に対して、樋口先生との意見交換だけでなく、樋口研究室の大学院生からの意見も活発に発せられ、発表者が交代している間にも意見交換が活発に行われる程の充実した会となりました。 また、私は普段の発表から博士課程の先輩方から数多くのアドバイスを頂戴しておりましたが、異なる研究室の方からのご指摘やご意見は非常に新鮮であり、改めて自身の研究をさらに進めていく必要があると感じました。 最後に樋口研究室の大学院生から、「脳卒中片麻痺者の隙間通過行動」について室井氏が、「身体刺激を用いたメンタルローテーションの熟練化に関する検討」について日吉氏が、「異なる身体部位によるダイナミックタッチと歩行の調整」について渡邊氏より紹介して頂きました。それぞれ、非常に臨床的示唆に富む内容であり、かつ現在進行形で取り組まれている研究内容も多く、研究動機や実験の手続きなど、大変興味深く聴講することができました。 森岡教授からもそれぞれの発表に対して意見やアドバイスをされ、10年後のリハビリテーションをリードしていくことを期待されていました。 半日という短い時間の中で開催された会でしたので、もっとディスカッションしたい気持ちを残しつつも、建設的な意見交換が活発に行われたことに喜びを感じ、それぞれがリハビリテーションという文脈に置き換えて研究成果を発信していければと思います。 最後になりましたが、ご多忙のなか御来学して頂いた樋口先生、井村先生ならびに樋口研究室の皆様、企画及び運営を実施してくださった博士後期課程の方々、そして、このような機会を与えてくださった森岡教授に深く感謝を申し上げます。 畿央大学大学院 健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室 修士課程2年 水田 直道 【関連記事】 軽く身体に触れることでもたらされる無意識的な二者間姿勢協調と社会的関係性の関係を解明 腱振動刺激による運動錯覚の鎮痛メカニズムに新たな発見 運動‐知覚の不協和が主観的知覚と筋活動に及ぼす影響 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターWebサイト、facebook
2017.11.02
畿央祭で「腰痛チェックをしてみよう!」「運動の器用さにチャレンジしてみよう!!」を開催!~ニューロリハビリテーション研究センター
2017年10月21日(土)22日(日)の2日間にわたり、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターでは地域住民の皆様向けウェルカムキャンパス企画として2つのイベントを開催しました。担当教員からのレポートです! 1.腰痛チェックをしてみよう! 同研究センター大住倫弘特任助教と大学院生は、腰痛が気になる方へ「腰痛チェックをしてみよう!」を開催いたしました。 ① 自分の腰の柔軟性・運動のスムーズさを無線センサで記録 ② 腰痛ストレスを脳波で計測 ③ 痛みに対しての認識をアンケートで記録して,それらの結果を口頭でフィードバックする 2日間で70名以上の方々に参加して頂き、一緒に腰痛について話し合うことができて非常に勉強になりました。「へぇ~ 今はこんなことも簡単に測れるんやなぁ!」と言って頂くことも多く、この日のために計測システムの簡略化に時間を割いた甲斐がありました^^ また、理学療法士である大学院生の方々の丁寧な対応は素晴らしく、参加された方々の腰痛を多面的にチェックして頂き、大変頼もしく思いました!予想をはるかに超えるニーズがありましたので、今後はさらにバージョンアップしたシステムで臨もうと考えております! 2.運動の器用さにチャレンジしてみよう!! 同研究センター信迫悟志特任助教と教育学部准教授の古川恵美先生のゼミ生17名が、昨年に引き続き、子どもたちへ「運動の器用さにチャレンジしてみよう!!」を開催いたしました。 この企画は、3歳から16歳までの子どもたちに、運動の器用さと運動学習力を測定する機会を提供するものです。2日間で72枚の整理券を準備しておりましたが、約100名の子ども達(保護者を合わせると約200名)が足を運んでくれました!!台風で足場が悪く、また開催時間が短縮されたにも関わらず、多くの子ども達や保護者の方に参加して下さいまして、誠にありがとうございました。 子どもたちが熱心に取り組んでいる姿が印象的でした!!将来、教職に就くことを目標としている教育学部の学生たちにとっても、子どもたちに接する良い経験になったと思われます。 来年度も引き続き畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターでは、痛みや運動発達をテーマにしたイベントを開催する予定です!!今回参加して喜んで頂いた方はもちろん,この記事でご興味を持たれた方は,是非とも来年度の畿央祭ウエルカムキャンパスにご参加ください!! 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 特任助教 大住倫弘、信迫悟志 【関連リンク】 第15回畿央祭・ウェルカムキャンパスレポート 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターWebサイト facebook
2017.11.02
軽く身体に触れることでもたらされる無意識的な二者間姿勢協調と社会的関係性の関係を解明~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
介護者やリハビリテーション専門家がバランス能力の低下した対象者の身体に触れ、 姿勢や動作を介助することの社会心理学的意義を明らかに ヒトが静かに立っている時は、一見動いていないように見えて、実は狭い範囲で揺れながら安定しています。この揺らぎは、相手の身体に軽く触れるだけで互いに同調するという現象が報告されており、”二者間姿勢協調”と呼ばれています。畿央大学大学院健康科学研究科の石垣智也らは、この二者間姿勢協調が「仲の良さ」に影響されているのではないかという仮説を立てて検証しました。参加者は知人や友人、親友など、既に顔見知りにある同性ペアであり、それぞれパートナーへの仲の良さを心理アンケートにて評価しました。立っている時の身体の揺らぎは、重心動揺計を用いて「相手に軽く触れた状態(ライトタッチ)」で計測しました。その結果、ペアになっている2人の仲が良ければ良いほどお互いの身体の揺らぎが似てくるという結果が得られました。 つまり、“二者間姿勢協調”は二者間の良好な親密性と関係していることが明らかになりました。本研究結果は、ヒトとヒトの姿勢協調のメカニズムにおける社会心理学的側面を明らかにしたもので、介護者やリハビリテーション専門家がバランス機能の悪い患者さんの身体に触れることの社会心理学的意義を明らかにしたものとなります。 この研究成果は、Frontiers in Psychology誌(Association between Unintentional Interpersonal Postural Coordination Produced by Interpersonal Light Touch and the Intensity of Social Relationship)に掲載されています。 研究概要 手をつないで歩く、ペアでのダンス、そして介護やリハビリテーション場面における動作介助など、身体接触を介して二者の姿勢や運動が影響し合うことがあります。この際、身体接触から加えられる情報は、接触による力学的要因と感覚的要因に分けられます。加えられる力による姿勢や運動への影響は明らかなことですが、本研究では、後者の感覚的要因、つまり身体接触により生じる触覚情報の影響に着目しています。ヒトの安静立位は一見すると安定しており、運動は生じていないようにみえますが、実際には狭い範囲で常に姿勢は揺ぎながら安定しています。この際、二者が互いに軽い身体接触を行うと、両者の姿勢の揺らぎが無意識的に類似すること(二者間姿勢協調)が知られています。これは、姿勢を制御するために用いている感覚情報に、パートナーの姿勢の揺らぎを反映した触覚情報が取り入れられるために生じると考えられています。一方、社会心理学的な知見によると、運動の二者間協調(模倣や身体同調などとも呼ばれています)は両者の社会心理学的な関係の良さを反映するとともに、良好な関係を形成する“社会的接着剤”として機能していることが知られています。しかし、これまでの研究では、立位姿勢の揺らぎという複雑で無意識的な運動の二者間協調に対して、社会的な関係の良さが影響しているかは明らかになっていませんでした。そこで研究グループは、身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調と、相互作用する二者の社会的関係性との関係を検討しました。 実験では、既存の社会的関係(知人、友人または親友)にある同性ペアを対象に、それぞれパートナーへの関係性(親密度)を評価しました。その後、閉眼安静立位姿勢にて身体接触を行わない条件(非接触条件)と、接触による力学的影響を最小化するライトタッチという方法(約102g未満の接触力)で軽い身体接触を行う条件(接触条件)の姿勢の揺らぎを二者同時測定し、姿勢の揺らぎの類似性とペアの親密度との関係を分析しました。結果、対象者の自覚なしで接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認め、接触条件で無意識的な二者間姿勢協調を生じていることが確認されました。さらに、この姿勢協調の程度とペアの親密度との関係を分析したところ、左右方向(パートナーが立っている側)における姿勢協調の程度と親密度においては正の関係(親密度が高いほど姿勢の揺らぎが類似する)を示したのに対し、前後方向では負の関係(親密度が低いほど姿勢の揺らぎが類似する)を示しました。 つまり、身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調は、相互作用する二者の社会的な関係性(親密度)と関係していることが明らかとなりました。 本研究のポイント 軽く身体に触れることで示される無意識的な姿勢の揺らぎの類似性は、相互作用する二者の親密度と関係することを明らかにしました。 研究内容 本研究では、身体接触による触覚情報から生じる無意識的な二者間姿勢協調と、相互作用する二者の社会的な関係性との関係を検討しました。実験は、既存の社会的関係(知人、友人または親友)にある同性ペアを対象に行い、はじめに、それぞれ別室でパートナーとの関係性を問う複数の心理アンケート行い、その結果をもとにパートナーへの親密度を評価しました。その後、安静立位姿勢にて軽い身体接触を行う条件(非接触条件)と、接触による力学的影響を最小化するライトタッチという方法(約102g未満の接触力)で軽い身体接触を行う条件(接触条件)(図1)の姿勢の揺らぎを二者同時測定し、測定後に「相手と自分の姿勢の揺らぎが似ていると感じたか」という問いに対する内省を得ました。 【図1 実験条件】安静閉眼立位でパートナーの側方に位置し、示指でパートナーの示指に軽く接触を行います。※軽く接触する程度はライトタッチ(約102g未満の接触力)の設定で行われています。 結果、対象者の自覚なしに接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認め(図2)、接触条件で無意識的な二者間姿勢協調を生じていることが確認されました。 【図2 姿勢の揺らぎの類似性】左右方向・前後方向の揺らぎともに、接触条件では非接触条件に比べて高い揺らぎの類似性を認めています さらに、この二者間姿勢協調の程度とペアの親密度との関係を、階層線形モデリングという個人とペアのデータ構造を扱う統計手法で分析したところ、左右方向(パートナーが立っている側)における姿勢協調の程度とペアの親密度は正の関係(両者が親密と感じているほど強く協調する)を示し、前後方向では負の関係(両者が親密と感じているほど協調は弱い)を示しました(図3)(図4)。 【図3 接触条件における二者間姿勢協調と親密度との関係】ダイヤが個々の値、丸がペアでの値を示します。いずれの値も左右方向における二者間姿勢協調の程度と親密度において正の関係を示しており、前後方向では負の関係が示されていることを確認できます 【図4 階層線形モデリングの結果】左右・前後ともに接触条件の揺らぎの類似性が、それぞれペアの親密度に対して正の関係、負の関係を示す要因であることを示しています。 この研究結果に対して研究グループは、良好な親密度は、姿勢制御のために用いられる感覚情報として、パートナーの揺らぎを反映した触覚情報を自身の揺らぎの情報よりも優先的に取り入れるように作用するため、二者間姿勢協調と親密度に関係が示されたと考察しています(図5)。また、揺らぎの方向で関係が異なったことについては、側方に二者が近接して位置された立位条件で実験が行われており、左右方向において強くパーソナルスペースに侵入する設定になっていたことが要因ではないかと考察しています。 【図5 本研究結果のモデル図】ペアの親密度がお互いのパートナーからの情報を取り込む程度を調整することを示しており、ペアの親密度が良好であれば合成された情報の多くに、パートナーの姿勢の揺らぎを反映した情報(自身の情報は相対的に減少)が含まれることを意味しています。 本研究の意義および今後の展開 本研究成果は、触覚情報を用いたヒトとヒトの姿勢運動制御の相互作用を理解する基礎的知見のひとつになるものと期待されます。また、この基礎的知見は、介護者やリハビリテーション専門家がバランス能力の低下した対象者の身体に触れ、姿勢や動作を介助することの社会心理学的意義の解釈を示唆しているものとも言えます。本研究により、二者間姿勢協調における社会心理学的側面の一部が明らかとなりましたが、運動学的側面や神経科学的側面の理解は未だ明らかになっていない点が多く、この点に対する更なる基礎研究が望まれます。さらに、今後はこのような二者間協調の視点をもって、療法士と患者などを対象とした臨床場面における研究展開も望まれます。 論文情報 Association between Unintentional Interpersonal Postural Coordination Produced by Interpersonal Light Touch and the Intensity of Social Relationship. Ishigaki T, Imai R, Morioka S. Frontiers in Psychology. 2017 (doi: 10.3389/fpsyg.2017.01993) 問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 石垣 智也(イシガキ トモヤ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: p0611006@gmai.com 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel:0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp
2017.10.31
平成29年度在外研究~メルボルンからの現地レポート
本学には教育研究水準の向上および国際交流の進展に資するため、学術の研究・調査等のため外国に在外研究員を派遣する制度があります。平成29年4月1日から平成30年3月31日までの期間、オーストラリアのThe University of Melbourne(メルボルン大学)で理学療法学科瓜谷准教授が研究活動にあたっています。メルボルンからレポートが届きましたので、ご紹介します。 平成29年4月中旬からオーストラリアのメルボルンにある、The University of Melbourneで客員研究員として活動しはじめて半年が過ぎ、早いもので後半戦に入りました。私が所属しているのはCenter for Health, Exercise and Sports Medicine (CHESM)という研究センターで、変形性膝関節症の理学療法に関する研究で世界を牽引しておられる、Kim Bennell教授の元で研究活動を行っています。 ▼この建物の最上階にCHESMのオフィスがあります。 ▼オフィスからの景色 ▼CHESMのメンバー(の一部)。中央の女性2人が2トップ。左がリーダーのKim Bennell教授、右がRana Hinman教授 世界中を飛び回っているBennell教授ですが、時間を作っていつも懇切丁寧に指導してくださいます。 基本的にはオフィスでの研究活動がメインとなりますが、動作解析装置等を用いたデータ収集のサポートやスカイプを用いたクイーンズランド大学・シドニー大学との月1回の勉強会に参加することもあります。 ▼勉強会 また研究チームの勉強会では、夏休みを利用してこちらを訪れたゼミ生と共に、私の取り組んでいる研究テーマについてのプレゼンもさせていただきました。 ●メルボルン大学で4回生が卒業研究発表+ラボ見学レポートPart1~理学療法学科 ●メルボルン大学で4回生が卒業研究発表+ラボ見学レポートPart2~理学療法学科 滞在中にオーストラリア国内やニュージーランドの学会にも参加しました。 また以前から交流のあったこちらのPhysio(理学療法士)やこちらで知り合ったPhysioとも、クリニックを見学させていただいたり、自宅に招いていただいたり、他大学での勉強会に誘っていただいたりして交流をしています。どなたも国際的に活躍されている方々ばかりで、とても勉強になります。 La Trobe大学の研究者であり、スポーツ理学療法の分野で世界的に活躍しているDr. Christian Burtonが勤務するクリニックを見学させていただきました。 オーストラリアを中心に痛みの臨床・研究・教育で活躍されているPhysiotherapistであるLester Jones。ひょんなことからご自宅でのホームパーティーに誘っていただき、仲良くなりました。写真はRoyal Melbourne Institute of TechnologyのChinese medicineの研究チームでの勉強会です。 あっという間に残り半分を切った感じがしますが、できるだけ多くのことを経験し吸収し、3月までさらに貪欲に過ごしたいと思います。 理学療法学科准教授 メルボルン大学客員研究員 瓜谷 大輔 【関連記事】 ・「足趾握力」に関する論文が国際誌に掲載!~理学療法学科教員 ・卒業生がWCPT-AWP&PTAT CONGRESS 2017で研究成果を発表!~理学療法学科 ・平成29年度 在外研究説明会を開催しました。
2017.10.30
就活レポート~就職活動の現場から~No.432(病院)
就職活動を終了したばかりの学生のリアルな声を紹介する「就活レポート」、第432弾! 理学療法学科12期生(18卒) Y.A さん 病院(理学療法士) 勤務 【その病院に決めた理由】 その病院は畿央大学で開かれた合同説明会で説明を受けた病院の1つでした。その説明会で、臨床研究に力を入れていること、積極的にキャリアアップを支援していることを聞きました。元々、理学療法士として臨床研究を頑張っていきたいと考えていた私にぴったりな病院だと思い、就職試験を受けることにしました。 【就職活動を振り返って】 実習で急性期、回復期、生活期のリハビリテーションを経験し、全ての病期を診れる病院で働きたいと考えるようになりました。さらに実習を通して臨床研究への志が強くなりました。病院を選ぶ際はこの条件に当てはまる病院をキャリアセンターやゼミの先生、先輩に相談して教えてもらい、最後は病院見学に行き、自分の目で確かめました。私は実習後には将来どんな理学療法士になりたいか明確に決まっていたので、病院選びに時間はかかりませんでした。 【就職活動でPRしたポイント】 学生時代に海外インターンシップに参加したり、他大学との交流をたくさんしてきたことを伝えました。海外や他大学で理学療法士を目指す学生と交流することで、視野が広がり、向上心を持って働くことができるとアピールしました。 【キャリアセンターと就職サポートについて】 キャリアセンターの岡田さんには病院の情報や履歴者の添削、面接練習などたくさんお世話になりました。中でも印象に残っているのは面接練習です。私はあがり症で面接に苦手意識が強く、1回目の面接練習では緊張して自分の考えを上手く話せませんでした。しかし1つ1つ丁寧にアドバイスをしていただいたので、苦手意識を克服し本番では自分の考えをしっかりと伝えることができました。お忙しい中2回も面接練習をしていただいて本当に感謝しています。 【後輩へのアドバイス・メッセージ】 実習が終わってからみんな一斉に就職活動が始まって、早い人なら8月に内定をもらう人もいると思います。周りの友達がどんどん就職が決まっていく中で、焦る時期もあるかもしれませんが、周りに流されることなく、しっかりと自分の将来のことを考えて、自分のやりたいことを実現できる病院を選んでほしいと思います。
2017.10.30
就活レポート~就職活動の現場から~No.433(病院)
就職活動を終了したばかりの学生のリアルな声を紹介する「就活レポート」、第433弾! 理学療法学科12期生(18卒) M.I さん 病院(理学療法士) 勤務 【その病院に決めた理由】 実習先の系列病院で私が卒業する平成30年4月にオープンする新設の病院でした。オープンスタッフ募集と書かれた募集を見て「何それ!自分たちで1から立ち上げるって楽しそう!!」と思ったのがきっかけです。話を聞きに行き(病院が建設中で見学はできませんでした)実習先の理学療法士の方がその病院に異動になると伺いそのことが病院を決める決定打になりました。 【就職活動を振り返って】 私は実習中からその実習先の病院に行きたいと考えており、病院見学などを全然していない学生でした。ですが、早い段階から病院のホームページを検索したり、大学の先生に話を聞きに行ったりなどのリサーチは他の人より多かったし早かったと思います。そのおかげで自分の行きたい病院の良さに気づくことができ早い段階から履歴書などの作成に取り組むことができたと思っています。 【就職活動でPRしたポイント】 SAPS(理学療法研究会)や理学療法学科の旅行などの様々な活動を企画、運営していたことを話しました。これらの企画で大変だったことや難しかったことに対し自分なりに考えアプローチしたことで成功した経験があり、希望した病院がオープンする時に活かすことができるのではないかとアピールしました。 【キャリアセンターと就職サポートについて】 私の受けた病院は書類審査と面接だけだったので岡田さんと履歴書の内容をずっと考えていました。最初はふんわりとしかわかっていなかった自分のことが履歴書をなおしていくうちにはっきりしてきて、面接練習の際は自分の考えがスラスラ話せるようになりました。これも妥協せずに履歴書を一緒に考えてくれた岡田さんのおかげだと思います。 【後輩へのアドバイス・メッセージ】 アドバイスできるほどだいそれた就職活動ではなかったのですが、私が就職活動で大事だなと感じたことは決断力です。私みたいにオープニングの病院に行くのは人によったら不安だから無理と言われたりもしました。ですが、自分が決めたことには責任をもって自分の人生だし楽しいと思えるところで働きたい!ってなるでしょう!人間だから!その気持ちを忘れずに自分の楽しめるところを一生懸命探して頑張ってください。
2017.10.25
「足趾握力」に関する論文が国際誌に掲載!~理学療法学科教員
平成29年4月1日から平成30年3月31日までの期間、オーストラリアのThe University of Melbourne(メルボルン大学)で在外研究中の理学療法学科瓜谷准教授から、国際誌への論文掲載の連絡が入りました! 瓜谷先生は、足趾や足部の機能と膝関節あるいは変形性膝関節症(筋力低下、加齢、肥満などのきっかけにより膝関節の機能が低下して、膝軟骨や半月板のかみ合わせが緩んだり変形や断裂を起こし、多くが炎症による関節液の過剰滞留があり、痛みを伴う病気)との関係を主なテーマとして研究をされています。 足趾握力は、変形性膝関節症と関係している? The association between toe grip strength and osteoarthritis of the knee in Japanese women: A multicenter cross-sectional study. PLoS ONE12(10): e0186454. この研究では120名の変形性膝関節症患者の方と108名の健康な方との比較で、変形性膝関節症の方は健康な方と比較して、足趾握力が弱くなっていることを明らかにしました。 この研究ではあくまで関係があるということだけで、その因果については明らかにできません。現在、足趾の機能が膝関節の動きや変形性膝関節症の病態にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすべく研究を進めています。 足趾握力と未就学児の運動能力は関係している? Association between Toe Grip Strength and Physical Performance Among Japanese Preschool Children. Clin Res Foot Ankle 5:243. doi: 10.4172/2329-910X.1000243 この研究では奈良県内の幼稚園・保育園に通う幼児338名を対象に、未就学児の足趾握力の平均値を調査するとともに、足趾握力と園で行われる体力テストの結果との関係を調査しました。その結果、足趾握力は年齢と共に強くなるものの同じ年齢では男女差がないことが分かりました。また足趾握力が強いほど25m走、5mシャトルラン、立ち幅跳びの結果がよいことが分かりました。 未就学児の体力、特に足趾握力に関する研究はまだまだ非常に少なく、今後の研究や運動指導の参考になれば幸いです。 理学療法学科准教授 メルボルン大学客員研究員 瓜谷 大輔 【関連記事】 ・平成29年度 在外研究説明会を開催しました。 ・卒業生がWCPT-AWP&PTAT CONGRESS 2017で研究成果を発表!~理学療法学科 ・卒業研究で広陵町住民の方のデータを測定!~理学療法学科瓜谷ゼミ
2017.10.17
腱振動刺激による運動錯覚の鎮痛メカニズムに新たな発見~ニューロリハビリテーション研究センター
腱振動刺激による運動錯覚の惹起で鎮痛効果と運動機能の改善を確認 畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程の今井亮太らは、橈骨遠位端骨折(ころんで手をついた際におこる骨折で、頻度の高い疾患)術後患者に腱振動刺激による運動錯覚を引き起こすことで痛みの軽減と運動機能の改善が認められたことを確認してきました。(2016 / 2017) 本研究は、この振動刺激による運動錯覚の鎮痛効果に関与する神経活動(脳波研究)を調査したものであり、感覚運動関連領域の興奮と鎮痛との間の関係性を確認したものです。この研究成果は、NeuroReport誌(Effects of illusory kinesthesia by tendon vibratory stimulation on the post-operative neural activities of distal radius fracture patients)に掲載されています。 研究概要 2016年、2017年に今井らは、橈骨遠位端骨折術後患者に対して腱振動刺激による運動錯覚(腱に振動刺激を加えると筋紡錘が興奮し、刺激された筋が伸張しているという情報が脳内へ伝えられることによって「あたかも関節運動が生じているような運動錯覚」が生じる現象)を惹起させることで、痛みの感覚的側面や情動的側面の改善だけではなく、運動機能にも改善が認められたことを報告してます。運動錯覚時には実際に運動するときと同様の脳活動が得られることと、鎮痛には運動関連領域の活動が関与していることが明らかにされていました。しかしながら、この運動錯覚時に認められる感覚運動関連領域の活動が鎮痛効果に関与するかどうかは不明瞭なままでした。 そこで本研究では、橈骨遠位端骨折術後患者に対して腱振動刺激による運動錯覚を惹起させ、脳波を用いて運動錯覚中の感覚運動関連領域と痛みとの関連性を調査しました。その結果、すべての患者が運動錯覚を惹起したわけではありませんでしたが、運動錯覚を惹起した群(9名中6名)は、運動時や運動錯覚時に認められる脳活動が感覚運動関連領域に認められました。 つまり、痛みが強く運動が困難な術後患者でも、運動錯覚を惹起していることが脳活動の側面から示されました。そして、感覚運動関連領域の活動の程度と痛みの変化量(術後7日目~術後1日目)に有意な負の相関関係(脳活動が高いほど痛みの減少量が大きい)が認められました。 これらのことから、術後早期から運動錯覚が惹起可能であり、かつ振動刺激によって感覚運動関連領域が強く興奮する患者においては、痛みに対する介入効果が大きいことを示しました。 本研究のポイント ●術後翌日から腱振動刺激による運動錯覚を惹起させることで、感覚運動関連領域の神経活動が認められた。 ●感覚運動関連領域の活動の程度が鎮痛の効果量に関係している。 研究内容 橈骨遠位端骨折術後から腱に振動刺激を与えながら(図1)、その時の脳活動を脳波計で測定しました。 そして、運動錯覚が惹起した群と惹起しなかった群の脳活動と痛みを比較しました。 図1:腱振動刺激による運動錯覚の課題状況 脳波解析の結果、運動錯覚を惹起した群では感覚運動関連領域の活動が認められましたが、運動錯覚を惹起しなかった群では認められませんでした。(図2) 図2:腱振動刺激時に認められた脳活動(*青色の方が活動の強いことを意味する) 左:動錯覚を惹起した群 右:運動錯覚を惹起しなかった群 安静時痛の変化量と感覚運動関連領域の活動に有意な負の相関関係が認められました。(図3) つまり、感覚運動関連領域の活動が大きいほど、鎮痛の効果量も大きいことが示されました。 図3:左感覚運動領域と右感覚運動領域の活動と安静時痛の変化量 今後の展開 痛みが抑制されたメカニズムが明確になっていないため,今後は神経生理学メカニズムの詳細を明らかにしていきます。 関連する先行研究 Imai R, Osumi M, Morioka S. Influence of illusory kinesthesia by vibratory tendon stimulation on acute pain after surgery for distal radius fractures: A quasi-randomized controlled study. Clin Rehabil. 2016; 30: 594-603. Imai R, Osumi M, Ishigaki T, Morioka S. Effect of illusory kinesthesia on hand function in patients with distal radius fractures: a quasi-randomized controlled study. Clin Rehabil. 2017.31:696-701 論文情報 Imai R, Osumi M, Ishigaki T, Kodama T, Shimada S, Morioka S. Effects of illusory kinesthesia by tendon vibratory stimulation on the postoperative neural activities of distal radius fracture patients. Neuroreport. 2017 Oct 11. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp