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健康科学専攻(博士後期課程)の新着情報一覧

健康科学専攻(博士後期課程)の新着情報一覧

2021.07.21

東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#2~唄さん編

2020東京オリンピック・パラリンピックの理学療法サービス部門で「TOKYO2020MEDスタッフ」として奈良県から参加する4名はすべて本学理学療法学科の教員・卒業生・修了生で、選手村や競技場の救護室に配置されてアスリート支援を行う予定です。そのうちの一人、唄さんに東京五輪への想いや意気込みを語っていただきました! 唄大輔さん 理学療法学科2008年卒業/健康科学研究科2015年修了 理学療法士(運動器専門理学療法士) 社会医療法人平成記念会 平成記念病院 リハビリテーション課 主任 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員 オリンピック・パラリンピック:選手村総合診療所(東京:晴海) パラリンピック:選手村総合診療所(静岡:河口湖)     ▶なぜ東京五輪に? 理学療法士として自分の人生のレガシーのため!   ▶準備してきたこと まず英語力の向上です。理学療法士協会が主催の研修会でも英語研修はありましたが、その復習はもちろん、中学、高校での単語帳や教科書を用いて勉強していました。さらにリスニングをきたえるためにYoutubeのスポーツ理学療法に関する動画を何度も繰り返し視聴しました。   ▶東京五輪では具体的に何を? 東京の選手村(本村)のポリクリニックにてケアが必要なアスリートの治療を実施予定です。もちろん、英語で(笑)   ▼畿桜会(同窓会)会長として卒業式に出席した唄さん   ▼同窓会役員会での一枚(2020年2月撮影)   ▶意気込みや目標は? オリンピック・パラリンピックというアスリートにとっての人生をかけた大舞台に、メディカル部門として関われることは人生で何度もあることではないと思います。今までの臨床経験を活かして適切な理学療法サービスができるか正直不安ですが、精一杯楽しんできたいと思います。失敗を恐れず、トップレベルのアスリートとしっかり「会話」をしてきます!   ▶伝えたいことは? アスリートはもちろん、組織委員会をはじめとしたすべてのスタッフは、この東京2020大会に向けて人生をかけるほど大変な準備をしてきました。私たちも簡単にメディカルスタッフになったわけではありません。書類審査や英語面接などのテストも受けました。私たちのようなメディアで公表されない、東京2020大会に関わるすべての人の思いも知ってほしいし、伝えていきたいと考えています。 最後になりましたが、東京2020大会で活動するにあたって、多くの方に感謝を申し上げます。まずは、約1か月の休みをいただくにも関わらず、快く送り出してくれる職場に感謝申し上げます。また、奈良県理学療法士協会においては奈良県の代表と認めてくださり感謝申し上げます。そして、畿央大学の福本先生は学生時代からはもちろんですが、今大会にあたっても多大なるご配慮をいただき感謝申し上げます。畿央大学のムース先生もお忙しい中、お休みのところ、我々の英語力向上のためにご指導いただき、感謝申し上げます。そしてそして、自分の家族にも感謝しています。自分だけではなく、家族や周りの皆様の支えがあって参加、活動できることを再認識し、最後まで精一杯がんばってきます!     【関連記事】 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#3~楠元さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#1~加納さん編 東京五輪に理学療法士として本学教員・卒業生4名が参加します。

2021.07.20

すくみ足があるパーキンソン病患者における歩行中の前方不安定性~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

歩行時に足が地面にくっついたようになって前に進めなくなる症状を「すくみ足」といいます。すくみ足があるパーキンソン病患者は前方に転倒しやすいことが知られていますが、歩行中に前方へ不安定となっているかについては客観的に明らかにされていませんでした。畿央大学大学院修士課程の浦上英之氏と岡田洋平准教授らは、三次元動作解析装置を用いて、すくみ足があるパーキンソン病患者は、すくみ足がないパーキンソン病患者よりも歩行中に前方へ不安定となっていることし、また、その前方不安定性はすくみ足に関連する歩幅の低下や歩行リズムの上昇と関連することを実験的検証により初めて明らかにしました。この研究成果は、Neuroscience Research誌(Forward gait instability in patients with Parkinson's disease with freezing of gait)に掲載されています。   研究概要 パーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性は、すくみ足によるものと、前屈姿勢によるものの2つの表現型があるとされてきました。すくみ足は、パーキンソン病患者でみられる特徴的な歩行障害であり、すくみ足が出現する直前には歩幅の低下や歩行率の上昇がみられることが知られています。近年、すくみ足があるパーキンソン病患者は前方への転倒頻度が高いことが報告されていましたが、歩行中の前方不安定性については、客観的な検証が行われていませんでした。 歩行中の前方不安定性の客観的指標には、踵接地時における身体質量中心(COM)と支持基底面(BOS)までの距離(COM-BOS距離)や、Margin of Stability(MOS)が用いられています。COM-BOS距離は前方へ転倒するリスクの程度を示し、MOSはCOMの位置と速度の両方を考慮した動的安定性を示します。 畿央大学大学院修士課程の浦上英之氏と岡田洋平准教授らは、すくみ足があるパーキンソン病患者11名、すくみ足がないパーキンソン病患者9名および高齢者13名を対象に三次元動作解析装置を用いて歩行解析を行い、前方不安定性について検討しました。その結果、①すくみ足があるパーキンソン病患者は、すくみ足がないパーキンソン病患者と比較して、歩行中に前方へ平衡を失うリスクが高く、動的に不安定となっていることと、②その前方不安定性はすくみ足に関連する歩行指標(歩幅減少と歩行率上昇)と関連することが示されました。   本研究のポイント ■ すくみ足があるパーキンソン病患者の歩行時の前方不安定性について三次元動作解析装置を用いてを客観的に検証した。 ■ すくみ足があるパーキンソン病患者はすくみ足がないパーキンソン病患者と比較して、歩行時に前方に平衡を失うリスクが高く、前方への動的不安定性が高いことが明らかになった。 ■ すくみ足があるパーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性は、歩幅の低下や歩行リズムの上昇と関連があることが明らかにされた。   研究内容 本研究では、すくみ足があるパーキンソン病患者11名、すくみ足がないパーキンソン病患者9名および高齢者13名を対象に三次元動作解析を用いて歩行解析を行い、前方不安定性について検証しました。対象者は、40点の赤外線反射マーカーを貼付した状態で、快適歩行速度で5mの歩行路を歩行し、赤外線カメラにて取得したマーカーの三次元座標情報から時空間歩行指標(歩幅、歩行率)と運動学的指標(体幹前傾角度、後続肢の股関節伸展角度)、さらに前方不安定性指標(COM-BOS距離、MOS)を算出しました(図1)。   図1:歩行の前方不安定性指標 右踵接地時におけるCOM-BOS距離、MOSの算出方法を示す。いずれの指標も、低値であれば前方へ不安定であると解釈される。   その結果、すくみ足があるパーキンソン病患者のCOM-BOS距離は低い値を示しました。また、疾患重症度を調整した群間比較において、すくみ足があるパーキンソン病患者はすくみ足がないパーキンソン病患者よりもMOSが低い値を示しました(図2)。   図2:歩行の前方不安定性指標の群間比較 (*p<0.05) PD+FOG:すくみ足があるパーキンソン病患者群、PD-FOG:すくみ足がないパーキンソン病患者群、Control:健常高齢者  *有意な群間差あり(ANOVA, p<0.05) †有意な群間差あり(ANCOVA 疾患重症度で調整, p<0.05)   また、すくみ足があるパーキンソン病患者群において、COM-BOS距離は歩幅と正の相関を示し、MOSは歩行率と負の相関を示しました(図3)。   図3:各群における歩行中の前方不安定性指標とすくみ足関連指標の散布図 ●すくみ足のあるパーキンソン病患者 〇すくみ足のないパーキンソン病患者 △健常高齢者   この結果は、すくみ足があるパーキンソン病患者において、歩幅の減少はCOM-BOS距離の減少と関連し、前方への転倒リスクが高まること、また歩行率の上昇は、MOSの減少と関連し、動的安定性が低下することを示しています。これは、すくみ足のあるパーキンソン病患者における歩行時の前方不安定性があること、すくみ足に関連する歩幅の低下や歩行率の上昇は前方不安定性と関連することを実験的検証により初めて示したことになります。これらの結果から、すくみ足と関連する歩幅の減少や歩行率の上昇を、投薬治療やリハビリテーションにより改善することが、すくみ足があるパーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性の軽減につながることが期待されます。   本研究の臨床的意義および今後の展開 パーキンソン病患者の歩行中の前方不安定性は、すくみ足によるものと、前屈姿勢によるものの2つの表現型があるとされてきましたが、本研究では、すくみ足があるパーキンソン病患者の前方不安定性を実験的検証により初めて明らかにしました。今後は、もう1つの表現型である前屈姿勢のあるパーキンソン病患者の前方不安定性について検証する予定です。   論文情報 Hideyuki Urakami, Yasutaka Nikaido, Kenji Kuroda, Hiroshi Ohno, Ryuichi Saura, Yohei Okada Forward gait instability in patients with Parkinson’s disease with freezing of gait. Neuroscience Research, 2021   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 岡田洋平(オカダヨウヘイ) E-mail: y.okada@kio.ac.jp   Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600  

2021.07.20

東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#1~加納さん編

2020東京オリンピック・パラリンピックの理学療法サービス部門で「TOKYO2020MEDスタッフ」として奈良県から参加する4名はすべて本学理学療法学科の教員・卒業生・修了生で、選手村や競技場の救護室に配置されてアスリート支援を行う予定です。そのうちの一人、加納さんに東京五輪への想いや意気込みを語っていただきました!   加納希和子さん 理学療法学科2012年卒業/大学院健康科学研究科2019年修了 理学療法士(スポーツ認定理学療法士、中級障がい者スポーツ指導員) 医療法人 勝井整形外科 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員     ▶なぜ東京五輪に? 2013年に東京五輪の招致が決まった瞬間(有名な「TOKYO」のカードが掲げられたシーン)、「世界最大のスポーツの祭典であるオリンピック・パラリンピックで理学療法士として貢献したい!」と決意しました。そして畿央大学大学院の恩師である福本先生にできることがないか相談したところから、私の東京五輪への道がはじまりました。     ▶決心してから まもなく、奈良県理学療法士協会から東京五輪に派遣されるスタッフ募集の連絡がありました。最低条件である臨床経験5年以上はクリアしているものの、留学経験もなく英語を喋ることができなかった私は、すぐに英会話学校に通うことに。選考には日本語と英語の面接が課せられたのですが、早くから準備を進めてきたことが選考通過につながったと考えています。 また整形外科で理学療法士として勤務しながら卒業した高校バスケ部のメディカルサポートに入ったり、福本先生と一緒に高校野球や奈良マラソンのサポートをするなどスポーツリハにできるだけ関わってきました。     ▶東京五輪では具体的に何を? 私が配属になったのは「パラサイクリング」の競技会場です。選手村と違って競技会場は急性期(まさにケガや事故が起こった時)の対応が求められ、時には理学療法士として持つ知識・スキル以上のことが求められます。自転車競技での転倒事故は、後続や周囲の選手を巻き込む大きな事故が発展してしまう可能性もあり、一瞬も気を抜くことができません。万一の事故にもしっかり対応できるように準備をしていきたいと思います!   ▼TOKYO2020MEDスタッフの公式ユニフォーム全身フル装備した1枚     ▶本番に向けて コロナ禍に突入して対面形式での研修がオンラインになったり、その研修も延期になったり、東京五輪自体も延期になったり…とスケジュール調整も大変でしたが、開会式直前にしてようやく東京五輪に行けると実感がわいてきたところです。 英語については教育学部のムース先生に無理をお願いしていろいろと教えてもらったり、福本先生にもわからないことを指導していただいたり…と学部をこえた畿央大学のサポートに感謝しています。奈良県から参加する4名の派遣先はバラバラですが、何かあれば相談できる仲間がいることも心強く感じています。 もともと中高とバスケットボール部でマネージャーをしていたことがきっかけで理学療法士に興味を持った私にとって、トップアスリートのサポートができることは原点回帰であり、一つの集大成かもしれません。ドキドキワクワクしながら、理学療法士として貢献したいと思います!   ▼恩師の福本先生とともに   【関連リンク】 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#2~唄さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#3~楠元さん編  東京五輪に理学療法士として本学教員・卒業生4名が参加します。

2021.07.20

東京五輪に理学療法士として本学教員・卒業生4名が参加します。

「TOKYO2020MEDスタッフ」として東京五輪へ!   2020東京オリンピック・パラリンピックの理学療法サービス部門で「TOKYO2020MEDスタッフ」として奈良県から参加する4名はすべて本学理学療法学科の教員・卒業生・修了生で、選手村や競技場の救護室に配置されてアスリート支援を行う予定です。各国のオリンピアンがベストパフォーマンスを発揮できるよう、チームKIOで頑張っていただきたいと思います!   【左から】唄大輔さん、楠元史さん、加納希和子さん、福本貴彦准教授     オリンピック・パラリンピックを目前に控えた今の率直な気持ちを寄稿していただきました。 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#1~加納さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#2~唄さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#3~楠元さん編 東京五輪に参加する理学療法士4人に聞きました!#4~福本先生編 参加後のレポートはこちらから。 福本先生による東京五輪参加レポート 番外編 畿央生が見た東京五輪#1~安浦さん編 プロフィール 福本 貴彦 准教授 畿央大学理学療法学科/健康科学研究科 准教授 理学療法士(運動器専門理学療法士) ■東京2020大会 活動内容 オリンピック・パラリンピック:選手村総合診療所(伊豆分村、河口湖分村) ■社会活動 奈良県理学療法士協会 スポーツメディカルサポート委員会 委員長 奈良県理学療法士協会 学校保健・特別支援担当委員会 委員長 奈良県教育委員会学校保健課題解決ワーキング会議構成員 講師 ・学校における運動器検診について実施要領などを選定 奈良県教育委員会運動部活動指導の工夫・改善支援事業 コンディショニング担当 ・依頼のあった学校の運動部でコンディショニング指導 ・自治体教育委員会からの依頼でスポーツテスト 斑鳩町教育委員会(中学生) 田原本町教育委員会(小学生・幼稚園児) 宇陀市教育委員会(幼稚園児) 三宅町教育委員会(幼稚園児) NPO奈良スポーツ育成選手を守る会 理事 ・奈良県下のスポーツ検診を実施 ■メディカルサポート 全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園大会) センバツ高等学校野球大会(春の甲子園大会) 奈良県高等学校野球連盟主催大会(春季・秋季近畿大会予選、夏大会予選) 奈良マラソン 鳥人間コンテスト(京都大学ShootingStars)パイロット指導 セレッソ大阪、ギラヴァンツ北九州、奈良クラブ、ポルベニル飛鳥、バンビシャス奈良などのサポート     唄 大輔さん 理学療法学科2008年卒業/健康科学研究科2015年修了 理学療法士(運動器専門理学療法士) 社会医療法人 平成記念会 平成記念病院 リハビリテーション課 主任 畿央大学大学院 健康科学研究科 客員研究員   ■東京2020大会 活動内容 オリンピック・パラリンピック:選手村総合診療所(東京:晴海) パラリンピック:選手村総合診療所(静岡:河口湖)     楠元 史さん 理学療法学科2011年卒業/健康科学研究科修士課程2017年修了 理学療法士(運動器認定理学療法士)社会福祉法人 恩賜財団 済生会奈良病院 リハビリテーション部NPO法人ポルベニルカシハラスポーツクラブ/ポルベニル飛鳥 ■東京2020大会 活動内容 パラリンピック:選手村総合診療所(東京:晴海本村)パラリンピック:選手村総合診療所(静岡:河口湖分村) ■メディカルサポートポルベニル飛鳥チームトレーナー奈良マラソン     加納 希和子さん 理学療法学科2012年卒業/健康科学研究科修士課程2019年修了 理学療法士(スポーツ認定理学療法士、中級障がい者スポーツ指導員) 医療法人 勝井整形外科 畿央大学大学院 健康科学研究科 客員研究員 ■東京2020大会 活動内容 オリンピック・パラリンピック:自転車競技(トラック、ロード)の競技会場@静岡:伊豆ベロドローム、富士スピードウェイ   在学生・卒業生の皆さんにお知らせ 在学生・卒業生限定で福本先生をはじめとするTOKYO2020MEDスタッフによるオンラインセミナーを開催します。 10/13(水)第14回理学療法特別講演会「2020東京五輪の活動報告」 学科は不問ですので、アスリート支援に興味がある方は気軽にご参加ください。

2021.07.09

トルコからの留学生Burcu Dilekさんの研究成果が国際雑誌「Clinical EEG and Neuroscience」に掲載!~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

2019年5月~8月に畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター(以下、ニューロリハ研究センター)へ短期留学していたBurcu Dilekさんとの共同研究が国際雑誌Clinical EEG and Neuroscienceに掲載されました。 この研究は、ヒトが痛みを怖がっている時の脳波活動を記録・解析したもので、痛みを怖がると運動プログラムが破綻することが明らかになりました。この研究は、留学中に計画・実施したものであり、その成果がこのように公表されることを嬉しく思います。 ちなみにBurcu Dilekさんは畿央大学へ留学する前にトルコで「運動をイメージするリハビリテーション」の研究をしており、痛みを有する患者さんに運動をイメージさせると痛みが低減することを明らかにしていました。 【参考】Dilek B, Ayhan C, Yagci G, Yakut Y. Effectiveness of the graded motor imagery to improve hand function in patients with distal radius fracture: A randomized controlled trial. J Hand Ther. 2018 Jan-Mar;31(1):2-9.e1.) 2019年の留学では、そんな彼女自身の研究経緯と、畿央大学のアイディア・研究設備が見事に相互作用して、良い研究成果が生まれたのだと思います。とはいえ、Burcu Dilekさん自身は脳活動の計測は初めてのことだったようで、非常に苦労しました。実際には、畿央大学で計測したデータをトルコで解析して、解析して、そして解析して....の繰り返しでしたが、持ち前の好奇心、行動力でそれらを乗り越えてくれました。留学から2年間が経ちますが、ここまで継続した努力に敬意を表したいです。彼女の今後の活躍を楽しみにしています。 【留学時の様子】 畿央大学に短期留学中のトルコ人研究者にインタビュー!後編~ニューロリハビリテーション研究センター 畿央大学に短期留学中のトルコ人研究者にインタビュー!~ニューロリハビリテーション研究センター トルコ人研究者に日本や理学療法のあれこれを聞いてみた!~Burcu Dilekさんロングインタビュー  ちなみに、現在は、トルコのトラキア大学(Trakya University)のHealth Science Faculty Occupational Therapy Departmentに助教として勤務しているようです。そんな彼女のコメントと現在の写真が届いていますので、紹介させていただきます。  【Burcu Dilekさん コメント】 When I first visited the laboratory, which was established under Prof. Morioka's leadership, I was very excited and also motivated that I should work with the team. His team's research areas were very unique to me. All of them were talented and well-equipped scientists in their fields. Dr. Osumi helped to design the study in line with his experiences. Dr. Nobusako supported me in other technical and hardware aspects. Other employees of Kio University always had a smiling face and always found a solution when I had any problems. I quite adopted the study subject proposed to me and in the following periods, I want to continue working in this research area with Prof. Morioka's team. I am very happy that all our efforts have paid off. I want to thank all the staff of Kio University, especially Prof Morioka, Dr. Osumi and Dr. Nobusako. 森岡教授のリーダーシップのもと設立されたニューロリハ研究センターを初めて訪問した時、とても興奮して「このチームと一緒に働くべきだ」と意欲を掻き立てられました。研究分野は私にとって非常にユニークで、全員が各分野で才能にあふれ、かつ専門的な知識をそなえた研究者した。大住准教授はご自身の経験に沿って研究のデザインを手伝ってくださいました。信迫准教授はその他の技術的・ハード的な面で私をサポートしてくださいました。畿央大学の他の教職員もいつも笑顔で、問題に直面した時には必ず解決策を見つけてくれました。提案された研究テーマをかなり採用しましたし、今後も森岡教授のチームと研究を続けていきたいと思っています。私たちの努力が報われてとても嬉しく思っています。畿央大学のすべてのスタッフ、特に森岡教授、大住准教授、信迫准教授に感謝いたします。 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター 健康科学研究科 准教授 大住 倫弘 【論文情報】 Dilek B, Osumi M, Nobusako S, Erdoğan SB, Morioka S. Effect of Painful Electrical Stimuli on Readiness Potential in the Human Brain. Clin EEG Neurosci. 2021 Jul 2:15500594211030137.

2021.07.09

慢性疼痛患者における疼痛律動性のタイプ分類~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

近年、日内で疼痛強度が変動する「疼痛律動性」の存在が注目されています。こうした疼痛律動性を把握することは慢性疼痛への治療戦略を考えるうえで有用であり、様々な疾患で律動性の調査が行われています。しかし、これまでの研究では疾患横断的に調査されたものはなく、律動性が疾患由来で生じるのか?神経障害性や心理状態といった個人の要因で生じるのか?といった点が明らかになっていませんでした。畿央大学大学院博士後期課程 田中 陽一 氏と森岡 周 教授 らは、慢性疼痛患者56名を対象にクラスター分析を用い、疼痛律動性の類似性から群分けを行い、リズムタイプの異なる3タイプの存在を明らかにしました。また、神経障害性疼痛の重症度がこれらの群間で異なっていることを報告しました。 この研究成果は、Medicine誌 (Classification of circadian pain rhythms and pain characteristics in chronic pain patients:An observational study)に掲載されています。   研究概要 これまで疾患別に疼痛律動性の存在が多数報告されてきました。しかし、疼痛律動性が生じる原因について論じられたものはなく、律動性が疾患由来で生じているのか、個人因子の影響が強いのかといった点が明らかになっておりませんでした。そこで、畿央大学大学院博士後期課程 田中 陽一 氏 と 森岡 周 教授 らは、慢性疼痛患者56名の疼痛律動性を疾患横断的に調査しました。 その結果、リズムタイプの異なる3タイプの律動性の存在を明らかにし、更に神経障害性疼痛の重症度に群間差があることがわかりました。こうした疼痛律動性の把握は、時間帯を考慮した生活活動の導入や身体活動の管理などの介入に有用であると考えられます。また、3群間で疾患に有意差を認めなかったことから、疾患では疼痛律動性を把握することは困難であり、本研究で群間差が見られた神経障害性の要素などの個別的な評価が必要であることが示唆されました。   本研究のポイント ■ 慢性疼痛患者を対象に疼痛律動性を調査した。 ■ 律動性の異なる3タイプの存在が明らかになった。 ■ 群間で神経障害性疼痛の重症度に有意差があったことから、こうした疼痛のリズムには疼痛の性質が影響していることが示唆された。   研究内容 慢性疼痛患者56名を対象に、疼痛律動性は1日6時点(起床時・9時・12時・15時・18時・21時)を7日間評価しました。6時点の7日間平均に標準化処理(Zスコア)を行った6変数でクラスター分析を行い、律動性の類似性から分類を行いました。   クラスター分析の結果、起床時に最も疼痛強度が高く、時間経過とともに疼痛が減少していくタイプ、起床時に疼痛強度が高いが日中に低下し、夕方から夜間にかけて疼痛が再度増悪していくタイプ、これらのタイプとは逆に起床時に最も疼痛強度が低く、時間経過とともに疼痛が増強していくタイプの3タイプの律動性を明らかにしました(図1)。   図1.疼痛律動性のリズム分類   クラスター分析により、異なる特徴を持つ3つのクラスターが抽出された。CL1では、起床時の痛みスコアが最も高かったが、時間の経過とともに痛みスコアは低下する傾向にあった。CL2では、起床時に痛みスコアが高く、日中は減少したが、15時以降は徐々に増加した。CL3では、時間の経過とともに痛みスコアが徐々に上昇する傾向が見られた。     また、3群間の比較において疾患や疼痛罹患期間、服薬の有無には有意差は見られませんでしたが、神経障害性疼痛の重症度に群間差を認めました(図2)。CL1・2とCL3の間で有意差が見られたことから神経障害疼痛の重症度が起床時の高い疼痛強度に関与していることが考えられます。本研究の結果から、疼痛律動性は疾患由来ではなく、神経障害性などの疼痛性質に強く影響を受けていることが示唆されました。   図2.3群間の比較 CL1とCL2は、CL3よりも神経障害性の重症度の総得点が高かった。また、誘発痛については、CL1がCL3よりも高いスコアを示した。   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究は、疼痛律動性が疾患由来ではなく疼痛性質によって生じていることを示唆し、個別的な評価によって律動性を評価する必要性が示されました。今後は、疼痛律動性を踏まえた、治療介入の効果と限界について研究される予定です。   論文情報 Yoichi Tanaka, Hayato Shigetoh, Gosuke Sato, Ren Fujii, Ryota Imai, Michihiro Osumi, Shu Morioka Classification of circadian pain rhythms and pain characteristics in chronic pain patients: An observational study. Medicine, 2021   関連する論文 ■ Tanaka Y, Sato G, Imai R, Osumi M, Shigetoh H, Fujii R, Morioka S. Effectiveness of patient education focusing on circadian pain rhythms: A case report and review of literature. World J Clin Cases 2021; 9(17): 4441-4452   ■ 田中 陽一, 大住 倫弘, 佐藤 剛介, 森岡 周. 日中の活動が慢性疼痛の日内変動に及ぼす影響─右腕神経叢損傷後疼痛を有する1症例での検討─. 作業療法 2019; 38: 117-122, 2019   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 田中 陽一(タナカ ヨウイチ)   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター  森岡 周(モリオカ シュウ) E-mail: s.morioka@kio.ac.jp   Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600  

2021.07.05

パーキンソン病患者、高齢者の方向転換時の移動軌跡、足接地位置の特性~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

方向転換を円滑に行うには、移動軌跡や足の接地位置を適切に制御することが重要であると考えられます。畿央大学の岡田洋平 准教授、福本貴彦 准教授、慶應義塾大学の高橋正樹 教授、同大学院 萬礼応(現筑波大学 助教)、京都大学の青山朋樹 教授らの研究グループは、レーザーレンジセンサー(慶応義塾大学 高橋正樹 教授、萬礼応ら 開発)を用いた高精度歩行計測システムにより、パーキンソン病患者と高齢者がTimed up and go test(TUG)で方向転換を行う際の移動軌跡と足接地位置の特性について調査しました。その結果、パーキンソン病患者は、TUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強い人ほど方向転換時の歩幅が低下することを明らかにしました。一方、高齢者はTUGにおいて歩隔(足の横幅)を広くして、マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示されました。 この研究結果はGait & Posture誌(Footsteps and walking trajectories during the Timed Up and Go test in young, older, and Parkinson’s disease subjects)に掲載されています。   研究概要 方向転換は、加齢やパーキンソン病により障害されます。高齢者は方向転換時の歩数が増加し、速度が低下し、転倒リスクの増加につながります。パーキンソン病患者は、方向転換の速度がより低下し、歩幅も低下することなどが示されています。円滑な方向転換には、移動軌跡や足の接地位置を適切に制御することが重要であると考えられますが、これまで高齢者やパーキンソン病患者が、方向転換時にどのように移動軌跡や足接地位置をとる傾向にあるのか、またその傾向は方向転換時の歩幅などにどのように関連するかについては明らかにされていませんでした。畿央大学の岡田洋平准教授、福本貴彦准教授、慶應義塾大学の高橋正樹教授、同大学院 萬礼応(現筑波大学助教)、京都大学の青山朋樹教授らの研究グループは、レーザーレンジセンサー(慶応義塾大学 高橋正樹 教授、萬礼応ら 開発)を用いた高精度歩行計測システムにより、高齢者やパーキンソン病患者がTimed up and go test(TUG)で方向転換を行う際の移動軌跡と足接地位置の特性について検討しました。 その結果、パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強い人ほど方向転換時の歩幅が低下することを明らかにしました。また、高齢者はTUGにおいて歩隔(足の横幅)を広くして、マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示されました。   本研究のポイント ■ パーキンソン病患者と高齢者の方向転換時の移動軌跡と足接地位置を、レーザーレンジセンサーを用いた高精度歩行計測システムにより評価した。 ■ パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強いほど方向転換時の歩幅が低下することが明らかになった。 ■ 高齢者は、方向転換において歩隔(足の横幅)を広くして、マーカーのより奥の空間に足を接地して方向転換することが示された。   研究内容 パーキンソン病患者、健常高齢者、健常若年者を対象に、レーザーレンジセンサー(LRS)を用いた高精度歩行計測システム(図1)により、TUGを行う際の脚移動軌跡と足接地位置について比較検証しました。従来のTUGは、椅子から立ち上がり、3m歩いて、180度方向転換し、戻ってきて、椅子に座るまでの所要時間を計測するのみでした。しかし、今回我々はLRSを用いた計測システムを利用することにより、肢移動軌跡や足接地位置に関する指標(マーカーと足接地位置の最短距離、スタート地点と足接地位置の最大前方距離、足接地位置の最大横幅など)や歩行の時空間指標(歩幅、歩隔、歩行率)もマーカーレスで計測可能でした。   図1 レーザーレンジセンサー(LRS)を用いた計測システム   その結果、パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地して方向転換し、その傾向が強いほど、方向転換時の歩幅が低下することが明らかになりました。この結果は、パーキンソン病患者はTUGにおいてマーカーの近くに足を接地してより鋭い角度で方向転換しようとすることにより、方向転換時の歩幅の低下の程度が大きくなる可能性を示唆しています。一方、高齢者はTUGにおいて歩隔が広く、方向転換時のスタート地点と足接地位置の最大前方距離が大きいことが示されました。この結果は、高齢者が方向転換時に歩隔を広くして、側方への動的不安定性を減少させるための代償戦略をとっていることを表している可能性があります。   図2 結果 a. 3群のTUGにおける移動軌跡および足接地位置の代表例 b. マーカーと足接地位置の最短距離の群間比較 *<0.05 c. マーカーと足接地位置の最短距離と方向転換時の歩幅の関連(パーキンソン病患者)   本研究の臨床的意義および今後の展開 本研究の結果、パーキンソン病患者と高齢者の方向転換時の足接地位置や移動軌跡の特性が初めて示されました。今回得られた知見は、パーキンソン病患者の方向転換時の歩幅の低下の助長を防ぐため、あるいは高齢者の動的不安定性を軽減するための運動療法や動作指導を行う上で有用であると考えられます。今後は、パーキンソン病患者や高齢者の方向転換時の足接地位置や移動軌跡に関連する要因や他疾患における傾向についても検証していきたいと考えています。   論文情報 Okada Y, Yorozu A, Fukumoto T, Morioka S, Shomoto K, Aoyama T, Takahashi M. Footsteps and walking trajectories during the Timed Up and Go test in young, older, and Parkinson’s disease subjects.  Gait & Posture, 2021.   問い合わせ先 畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター 岡田 洋平(オカダ ヨウヘイ)   Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: y.okada@kio.ac.jp  

2021.06.28

第63回日本老年医学会学術集会で大学院生と教員が発表!~理学療法学科・健康科学研究科

2021年6月11日(金)~27日(日)にかけて第63回日本老年医学会学術集会がweb開催されました。昨年に引き続き、コロナウイルス感染症の影響により、シンポジウム、特別講演などは現地からのライブ配信、一般演題は事前に録画した発表資料を登録するという形で行われました。 畿央大学からは一般演題で、高取研究室の武田広道さん(博士後期課程3年)と私(松本)が発表を行いました。     <健康科学研究科 武田広道> 「要支援・要介護高齢者の身体活動量と身体機能・精神心理機能の関係」     本研究は、通所介護事業所を利用している要支援・要介護高齢者を対象に、身体活動量と身体機能、精神心理機能の関連について検討したものです。その結果、歩行速度とアパシー(意欲や、やる気の著しい低下)が身体活動量と関連していることが明らかになりました。良好な身体活動量を得るためには、身体機能、精神心理機能の両面に着目して関わる必要があると考えられます。     <理学療法学科 松本大輔> 「地域在住高齢者におけるWalkabilityと身体活動・社会参加との関連性:KAGUYAプロジェクト」     広陵町と共同で行われたKAGUYAプロジェクトの一環で行われた地域在住高齢者を対象とした調査結果から、社会参加・身体活動とWalkability(歩きやすさ)の関連を分析しました。その結果、Walkabilityの違いによる健康格差が存在し、特に、Walkabilityが低い地域(徒歩圏内に出かけるところが少ない)に住んでいる女性は社会参加や身体活動が少ないということが明らかになりました。Walkabilityが低い地域に特化した社会参加・身体活動への支援を含むまちづくりが必要であると考えられます。   本学会は「高齢化最先進国の医療の在り方―老年医学からの超高齢社会への提言―」というテーマで開催されました。例年の対面型では興味のある講演や演題が同じ時間帯で視聴できず、残念な思いをしていましたが、今回はオンデマンド配信があり、今までよりも多く視聴することができました。内容は昨年同様、フレイル、サルコペニアに関連するものが中心でしたが、今年はやはりコロナ禍での高齢者対策などの企画セッションも複数見られました。   このコロナ禍で、高齢者の方への体力測定を伴う対面式の調査がほとんどできておりませんが、他のグループでは電話やオンラインなどでフォローされているのが印象的でした。   老年医学会は理学療法の関連学会よりも歴史があり、多職種の方々が参加されています。学会に引き続き参加し、偏った知識、考えにならないように情報をアップデートしていきたいと思います。   理学療法学科 准教授 松本大輔   【関連記事】 第62回日本老年医学会学術集会で大学院生と教員2名が発表!~健康科学研究科 第30回日本老年学会・第59回日本老年医学会の合同総会でプロジェクト研究の成果を発表!~健康科学研究所

2021.06.23

【快挙】大学院生の半側空間無視に関する原著論文が権威ある雑誌「Cortex」に掲載!~健康科学研究科

大学院健康科学研究科博士後期課程に在籍している高村優作さんと藤井慎太郎さんの筆頭著者(equal contribution)の原著論文「Interaction between spatial neglect and attention deficit in patients with right hemisphere damage」がCortexに2021年6月12日に掲載されました。   Cortexは神経科学系では権威ある雑誌で、理学療法士が行った臨床研究が掲載されるのは極めて稀なことであり、快挙です。       本研究は本学博士後期課程修了し、現在国立障害者リハビリテーションセンター病院で勤務している大松聡子さん、本学 森岡周教授、本学客員教授で国立障害者リハビリテーションセンター研究所神経筋機能障害研究室長の河島則天さんらとの共同研究です。   本研究は、脳卒中後に生じる高次脳機能障害『半側空間無視』の新しい臨床評価手法の確立のために極めて重要な成果となりました。なお詳細は、高村さんが現在研究員として所属している国立障害者リハビリテーションセンター研究所のプレスリリースをご覧ください。   【国立障害者リハビリテーションセンター研究所プレスリリース】 http://www.rehab.go.jp/hodo/japanese/news_2021/news2021-01.pdf

2021.06.23

慢性腰痛患者における歩行時の体幹運動制御は環境に依存する~畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター

慢性腰痛における物の持ち上げ動作時の体幹の運動学は既に明らかにされていますが、歩行時の体幹制御や、それが環境によって変化するのかは明らかにされていませんでした。畿央大学大学院神経リハビリテーション研究室 西 祐樹 氏(博士後期課程)、森岡 周 教授らは、慢性腰痛患者では歩行時の体幹の変動性や安定性が異常になり、それは日常生活環境でより顕著になることを明らかにしました。また、これらの制御異常は、痛みや恐怖、QOLと関連していることを示しました。この研究成果はJournal of Pain Research 誌(Changes in Trunk Variability and Stability of Gait in Patients with Chronic Low Back Pain: Impact of Laboratory versus Daily-Living Environments)に掲載されています。   研究概要 慢性腰痛患者では、立位や持ち上げ動作中に体幹の変動性や安定性が異常になることは既に明らかにされています。一方で、歩行中での体幹運動制御異常は明らかにされていませんでした。加えて、腰痛の運動制御の研究は、整えられた実験環境のみで調査されており、実際に腰痛が発生する日常生活環境では計測されてきませんでした。畿央大学大学院神経リハビリテーション学研究室 西 祐樹 氏(博士後期課程)、森岡 周 教授らの研究チームは、無線加速度計を用いて、慢性腰痛患者における『外来リハビリ環境』および『日常生活環境』に応じた歩行制御の変化を調査しました。その結果、慢性腰痛患者では歩行時における体幹の変動性や安定性が異常になっていることが明らかになり、それは日常生活環境でより顕著になることが分かりました。また、これらの日常生活環境での歩行制御の変化は、痛みや恐怖、QOLと関連していることも明らかになりました。   本研究のポイント ■ 慢性腰痛患者における外来リハビリ環境と日常生活環境での歩行時の体幹制御を評価した。 ■ 慢性腰痛患者では、歩行時の体幹の変動性や安定性が異常となっており、それは日常生活環境でより顕著になった。 ■ これらの制御異常は、痛みや恐怖、QOLと関連していることが明らかになった。   研究内容 健常者と慢性腰痛患者を対象に、腰部に加速度計を装着し、『外来リハビリ環境』と、3日間の『日常生活環境』にて計測しました。加速度データから前後軸、左右軸それぞれにおいて、変動性の変数としてストライド間のSDおよびマルチスケールエントロピー、安定性の変数として最大リヤプノフ指数を算出しました。その結果、慢性腰痛患者における左右軸のばらつき、前後軸の不安定性が増加しており、それは日常生活環境でより顕著になりました。これらの歩行制御の変容は、日常生活環境においてのみ、痛みや恐怖、QOLと正の相関関係が認められました。このことから、外来リハビリ環境だけでは慢性腰痛患者の運動制御に関する病態を把握しきれていない可能性が考えられます。また、左右軸は痛みや恐怖に基づいた代償的なばらつきの変化により、安定性を保持している一方で、前後軸は代償戦略が機能せずに不安定性が高くなっており、QOL の低下にまで波及していると考えられます。以上のことから、本研究は、腰痛の増悪予防や病態把握における日常生活環境での歩行の質的評価の重要性を示唆しました。   図1.歩行時の体幹制御の指標(© 2021 Yuki Nishi)   歩行時の加速度の前後軸、左右軸からストライド間のSD、安定性の指標として最大リヤプノフ指数、変動性の指標としてマルチスケールエントロピーを算出。   本研究の臨床的意義および今後の展開 腰痛の増悪予防や病態把握における日常生活環境での歩行の質的評価の重要性を示唆しました。今後はケースシリーズや縦断研究で運動制御と腰痛の因果関係を明らかにしていく予定です。   論文情報 Yuki Nishi, Hayato Shigetoh, Ren Fujii, Michihiro Osumi, Shu Morioka Changes in Trunk Variability and Stability of Gait in Patients with Chronic Low Back Pain: Impact of Laboratory versus Daily-Living Environments Journal of pain research, 2021   問い合わせ先 畿央大学大学院健康科学研究科 博士後期課程 西 祐樹(ニシ ユウキ) 教授 森岡 周(モリオカ シュウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

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