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健康科学専攻(博士後期課程)の新着情報一覧

健康科学専攻(博士後期課程)の新着情報一覧

2024.11.29

脳卒中後の運動主体感:定量化と上肢使用量への影響~ニューロリハビリテーション研究センター

脳卒中後の運動障害は、「自分が自分の運動を制御している」という感覚である運動主体感を奪う可能性があります。しかし、運動障害は麻痺肢の重たさやぎこちなさといった不快感も招くため、運動主体感それ自体が患者の行動変容にどのような影響を及ぼしているのかは明らかではありませんでした。国立研究開発法人産業技術総合研究所の宮脇裕氏と本学の森岡周教授らは、脳卒中後運動障害が招く様々な不快感から運動主体感を分離し評価した上で、運動主体感が上肢使用量に影響することを明らかにしました。この研究成果は、Cortex誌(Diminished sense of agency inhibits paretic upper-limb use in patients with post-stroke motor deficits)に掲載されています。   研究概要 脳卒中後運動障害は身体運動の制御を困難にし、「自分が自分の運動を制御している」という感覚、すなわち運動主体感(Sense of Agency)を奪う可能性があります。運動主体感は、運動制御だけでなく、行為の動機付けや注意分配に関与し、この感覚が伴わない行為は実行されにくくなることが示唆されています。これらの知見に基づけば、運動主体感の低下は行為頻度の減少を招き、身体活動量、特に上肢の使用量を減少させる可能性が考えられます。しかし、運動障害は麻痺肢の重たさやぎこちなさなどの不快感も招くため、運動主体感それ自体が上肢使用量に影響するのかは明らかではありません。この検証のためには、不快感から運動主体感を分離し、運動主体感それ自体を定量化する必要があります。 そこで、国立研究開発法人産業技術総合研究所の宮脇裕氏(畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員)と森岡 周 教授らは、不快感と運動主体感の分離を実現する質問紙を独自に開発し、患者の運動主体感を縦断的に評価することで、運動障害が招く運動主体感の低下が上肢使用量に及ぼす影響を精査しました。その結果、不快感ではなく運動主体感の低下が上肢使用量の減少に関連することが示され、運動障害が運動主体感を阻害することで、上肢使用量が減少するという運動主体感の媒介効果が明らかになりました。さらに、運動主体感が低下していた場合、これが向上することで、上肢使用量の改善が大きくなることが示されました。   本研究のポイント ・脳卒中後の運動障害が招く様々な不快感から運動主体感を分離し評価する質問紙を開発した。 ・運動障害が重度なほど、運動主体感が低下することを示した。 ・不快感ではなく運動主体感の低下が、上肢使用量の減少に関連することを示した。 ・運動主体感の向上が、上肢使用量の改善と関連することを示した。   研究内容 独自に開発した質問紙と、Fugl-Meyer Assessmentなどの臨床評価尺度を用いて、脳卒中後患者156名の運動主体感と、感覚運動機能および認知機能を縦断的に評価しました。質問紙には、運動主体感の関連・非関連項目を含み、因子分析後の因子パターンに基づき項目が選定されました。その後、適合度指標に基づき、運動主体感と不快感を分離した2因子モデルと分離しない1因子モデルを比較しました。これらを経て抽出した因子を用いて、構造方程式モデリング(SEM)により臨床アウトカムとの関連を分析し、voxel-based lesion-symptom mapping(VLSM)により損傷部位との関連を分析しました。さらに、縦断的変化を反映する回帰直線の傾きを推定した上で、多母集団同時分析により運動主体感の向上が上肢使用量の改善に関連するかを精査しました。 その結果、適合度指標から2因子モデルが支持され、運動主体感と不快感が因子として分離・抽出されました。SEMおよびVLSMの結果、運動主体感は認知機能や損傷部位ではなく、上肢運動障害の重症度に応じて有意に低下することが示されました(図1)。   図1:運動障害が不快感および運動主体感に及ぼす影響   興味深いことに、上肢使用量は不快感ではなく、運動主体感に有意に関連することが明らかになりました(図2左)。そして、運動障害が運動主体感の低下を介して上肢使用量を減少させるという運動主体感の有意な媒介効果を認めました(図2右)。   図2:運動主体感が上肢使用量に及ぼす影響   さらに、多母集団同時分析の結果、中等度から重度の運動障害を有する患者では、低下していた運動主体感が向上した場合に、上肢使用量の改善が有意に大きくなることが示されました(図3)。   図3:運動主体感の向上が上肢使用量の改善に及ぼす影響   本研究の臨床的意義および今後の展開 これまでの臨床現場では、運動主体感は単一の質問項目によりスクリーニング的に評価されることが多く、不快感などのバイアス混入が懸念されてきました。これに対し本研究は、不快感から運動主体感を分離するための質問紙を開発し、運動主体感それ自体が上肢使用量に影響することを明らかにしました。本成果は、運動主体感という臨床において新たに評価すべき指標を提案するとともに、その評価ツールの臨床実装に向けた基礎的知見を提供します。今後、本質問紙の臨床実装に向けて、その妥当性の検証をさらに進めていく予定です。   論文情報 Yu Miyawaki, Takeshi Otani, Masaki Yamamoto, Shu Morioka, Akihiko Murai Diminished sense of agency inhibits paretic upper-limb use in patients with post-stroke motor deficits Cortex, 2024   問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) 客員研究員 宮脇 裕(ミヤワキ ユウ) Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2024.11.25

横断性脊髄炎1症例の異常感覚および上肢運動に対するしびれ同調経皮的電気神経刺激の効果~ニューロリハビリテーション研究センター

脊髄炎は3例/10万人の稀な炎症性神経障害であり、脊髄炎由来の疼痛や異常感覚は治療抵抗性があることが知られています。脊髄炎による神経障害性疼痛・異常感覚に対するリハビリテーションの効果は、希少疾患ゆえに十分に検証されず、症例報告の蓄積は臨床的意義があります。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターおよび長崎大学生命医科学域(保健学系)の西祐樹らは、横断性脊髄炎1症例に対してしびれ同調経皮的電気神経刺激を行うことで異常感覚および上肢活動量が改善したことを明らかにしました。この研究成果はFrontiers in Human Neuroscience誌(Case report: A novel transcutaneous electrical nerve stimulation improves dysesthesias and motor behaviors after transverse myelitis)に掲載されています。   研究概要 脊髄炎は3例/10万人の稀な炎症性神経障害であり、予後は一定せず、60%以上の患者に軽度から重度の後遺症がみられます。また、脊髄炎由来の疼痛や異常感覚は治療抵抗性があることが知られています。しびれ感に対して我々はしびれ感と一致したパラメーターの電気刺激を行うしびれ同調経皮的電気神経刺激(TENS)を開発し、その有効性を報告しています(Nishi et al., 2022)。脊髄炎による神経障害性疼痛・異常感覚に対するリハビリテーションの効果は、希少疾患ゆえに十分に検証されず、症例報告の蓄積は臨床的意義があります。そこで、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターおよび長崎大学生命医科学域(保健学系)の西祐樹らは、しびれ感およびアロディニアによりADLが阻害されている横断性脊髄炎1症例に対して、しびれ同調TENSを行いました。その結果、しびれ感、アロディニア、上肢活動量が即時的に改善しました。また、しびれ感での長期効果を示しましたが、アロディニアでは観察されませんでした。上肢活動量や上肢ADLにおいては持続効果を認め、しびれ同調TENSはしびれ感やアロディニアのみならず、ADLの改善に寄与する可能性を示しました。   本研究のポイント ・しびれ感やアロディニアを呈する横断性脊髄炎1症例に対するしびれ同調TENSの効果を検証した。 ・しびれ同調TENSによりしびれ感やアロディニアが改善したが、アロディニアに対する持ち越し効果がみられなかった。 ・主観的および客観的な上肢使用は持ち越し効果が確認された。   研究内容 本研究では、しびれ感およびアロディニアによりADLが阻害されている横断性脊髄炎1症例に対して、しびれ同調TENSを行い、その効果を検証しました。 症例はC4からTh2領域の横断性脊髄炎を診断され、左C8領域にしびれ感とアロディニアを呈していました。常に左手に手袋を着用し、左手の使用に恐怖心があり使用を避けていました。そのため、家事や仕事であるタイピングが左手で十分に行えないことに苦悩していました。介入は、A-B-A-B-Aデザインを使用し、各期は1週間としました。A期はTENS行わず、B期ではしびれ同調TENSを実施しました。しびれ同調TENSは1時間/回を2回/日行いました。症例は週2回の外来理学療法でストレッチや有酸素運動、疼痛教育を各期共通して行いました。評価項目として、しびれ感やアロディニアのNumerical rating scale(NRS)、主観的な上肢使用としてMotor Activity Log(MAL)、客観的な上肢使用として両手関節部に慣性センサを装着し、上肢活動量の左右比を算出しました。 その結果、Tau-Uおよびベイジアン未知変化点モデルにより、しびれ同調TENSのしびれ感やアロディニアへの即時効果およびしびれ感の持ち越し効果が明らかとなりました。一方、アロディニアの持ち越し効果はみられませんでしたが、主観的および客観的な左手の上肢使用は改善し、家事や仕事での左手の使用頻度が向上しました。難渋していたしびれ感やアロディニアがしびれ同調TENSによりコントロールできるようになったことが、ADLの向上に寄与したと考えられます。   図1.しびれ感やアロディニア、上肢活動量の経過 A期はTENSなし、B期はしびれ同調TENSを行った期間を示す。介入前、介入後、介入後1時間はB期のおける評価を示し、A期では同一時刻のNRSを評価した。   本研究の臨床的意義および今後の展開 しびれ同調TENSは服薬治療への抵抗性が高い異常感覚においても効果を示す可能性があり、新たな治療選択の一つとなる可能性があります。今後は、他の疾患におけるしびれ感やアロディニアに対する効果のみならず、ADL等への波及効果を検証していく予定です。 論文情報 Yuki Nishi, Koki Ikuno, Yuji Minamikawa, Michihiro Osumi, Shu Morioka Case report: A novel transcutaneous electrical nerve stimulation improves dysesthesias and motor behaviors after transverse myelitis. Frontiers in Human Neuroscience, 2024   関連論文 Nishi Y, Ikuno K, Minamikawa Y, Igawa Y, Osumi M, Morioka S. A novel form of transcutaneous electrical nerve stimulation for the reduction of dysesthesias caused by spinal nerve dysfunction: A case series. Front Hum Neurosci, 2022. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周(モリオカ シュウ) 客員研究員 西 祐樹 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2024.11.09

日本小児理学療法学会学術大会で大会長賞を受賞!~健康科学研究科

大学院健康科学研究科修士課程の橋添健也です。2024年11月2-3日に福島県立医科大学(福島県)において、第11回日本小児理学療法学会学術大会が開催されました。 本学術大会において、私たちの発表演題が大会長賞を受賞いたしました!       演題名:発達性協調運動障害を有する児における運動イメージ能力-2種類の運動イメージ課題を用いた検証- 演者:橋添健也、中井昭夫、信迫悟志       本研究は、大学院健康科学研究科の信迫悟志准教授によるご指導の下で進められた研究であり、この場をお借りして心より感謝申し上げます。   本研究の内容 発達性協調運動障害(DCD)を有する児の運動イメージ能力は、定型発達児と比較して低下していることが知られております。現在までDCDを有する児における運動イメージ研究では、主にHand Laterality Recognition(HLR)課題が使用されてきましたが、本研究では、HLR課題に加え、より明示的な運動イメージが必要なBimanual Coupling(BC)課題の2つの運動イメージ課題を用いて、DCDを有する児の運動イメージ能力を調査しました。その結果、DCDを有する児では、両課題において運動イメージ能力が低下していることが示されました。また、HLR課題とBC課題で測定された運動イメージ能力の間には重要な関係性があることも示されました。   本学理学療法学科出身の峯耕太郎さん(2011年度卒、6期生)も優秀賞を受賞されました。また、信迫准教授が「神経発達障害の病態理解と重要な評価」というテーマで教育講演をおこなわれました。 今後も神経発達障害分野の研究に力を注ぎ、小児理学療法のさらなる発展の一助となれるよう、引き続き研鑽を重ねてまいりたいと思います。 関連記事 第22回日本神経理学療法学会学術大会へ参加しました! 森岡研究室の同門会に院生・修了生49名が参加!~健康科学研究科 本学にて第33回奈良県理学療法士学会が開催されました。~健康科学研究科・理学療法学科 第28回 日本ペインリハビリテーション学会 学術大会で大学院生が一般口述演題奨励賞を受賞しました!~健康科学研究科 【快挙】大学院生の研究において、脳卒中患者の物体把持の測定における新しいアプローチを開発しました。 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.2~岩佐さん×赤口さん 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.1~淡路さん×渕上さん 健康科学研究科の記事 理学療法学科の記事

2024.11.05

第17回理学療法特別講演会「キャリア開拓とマネージメント事始め」を開催しました。

2024年10月19日(土)、本学で畿桜会(同窓会)主催の理学療法特別講演会が開催されました。今回の講演会は、対面とZoomのハイブリッド形式で行われ、81名の方が参加されました。 講演では、「キャリア開拓とマネジメント事始め」というテーマで、畿央大学健康科学部 理学療法学科長の庄本康治先生にご講義いただきました。前半では、日本の将来展望や国の政策から、理学療法士が今後直面するであろう課題、また、キャリアを積んだ理学療法士に生じる可能性のある問題点や必要とされるスキルの向上についてお話をいただきました。後半では、成長できる組織の特徴や、マネジメントに求められる能力、さらには理学療法士が今後活躍できる分野について幅広い展望が示されました。     どの分野で働く理学療法士にとっても重要な内容が盛り込まれており、非常に現実的で、今後のキャリアを見つめ直す貴重な機会となりました。また、マネジメントの求められるスキルは時代とともに変化することを学び、今後キャリアを重ねる中で、組織運営の機会も増えていくため、時代の変化に敏感に対応し、マネジメントスキルを継続して学んでいく必要性を強く感じました。 庄本先生の講義の後には、畿央大学理学療法学科卒業生で、現在管理業務に携わっている平成記念病院リハビリテーション科の徳田光紀先生(理学療法学科1期生)と、える訪問看護ステーションの伊藤潤平先生(理学療法学科6期生)にも登壇していただき、事前に参加者から寄せられた質問を基にディスカッションが行われました。現場で管理業務を実践されているお二人の回答は、いずれも現場に直結した内容で、すぐに役立つ貴重なアドバイスばかりでした。     今回の講演を通じて、私自身、日々の課題に追われがちな自分の姿を振り返り、長いキャリアを見据えた行動や学びについて改めて考える機会となりました。学生時代に学んだ管理運営について、社会人となった今再び聴くことができたことも、非常に感慨深く感じました。   畿央大学 理学療法学科6期生 森川 菜津

2024.10.24

”Society for Neuroscience: Neuroscience 2024” においてポスター発表を行いました ~ 健康科学研究科

2024年10月5日(土)~9日(水)にアメリカのシカゴで開催された Society for Neuroscience - Neuroscience 2024 (以下、 SfN2024) にて、私、田中智哉 (博士後期課程2年) と寺澤雄太さん (博士後期課程3年)が以下の演題名にてポスター発表を行いました。 ■ T. Tanaka, S. Morioka: Temporal Relationship between Bodily Self-Consciousness and Acute Pain Following Knee Arthroplasty (10月6日発表)     ■ Y. Terasawa, S. Morioka: Gait factors related to walk ratio in Parkinson’s disease (10月9日発表)     SfNは神経科学の研究を広く扱い、 Journal of NeuroscienceやeNeuroを発刊する学会です。 今回のSfN2024においても、私の研究領域である身体性や痛み、 寺澤さんの研究領域であるパーキンソン病や歩行をはじめ様々な研究領域の発表が行われていました。 SfN2024の参加者は現地参加21,716人、 バーチャル参加632人 (開催最終日発表) であり、 かなりの活気に満ち溢れていました。私は日本において、理学療法関連や痛み関連の学術集会に参加することが多いのですが、SfN2024は明らかにそれらとは異なる学会であると感じました。   それは、日本では講演やシンポジウムに多くの参加者が聴講し、立ち見が出ることもよくあると思いますが、SfN2024はポスター発表が中心となっていたのです。SfN2024のポスター発表は開催期間の5日間を通じて毎日午前4時間と午後4時間で張り替えが行われ、主催者によって指定された1時間フリーディスカッションを行う形式が取られていました。ここまでは日本でも一般的だと思います。しかし、いざSfN2024に参加してみると、多くの発表者はポスターが貼り付けられている4時間常にポスター前でディスカッションが行われていたのです。   一方、講演やシンポジウムにも参加しましたが、かなり空席が目立っており、ほとんどの参加者はポスター発表に参加していることがよくわかりました。なお、以下の写真はポスター会場を撮ったものですが、実際にはこの2~3倍の広さでポスターが張り出されていました。このような風習が日本の学会でも広がれば、学会発表・参加がより有意義な時間となるのではないかと感じました。     私は、 TKAの術後痛と身体性の関係性について発表を行いました。 TKAの身体性に関する発表は他にはなく、 他疾患における身体性との違いなどを意見交換することができ、 有意義な時間となりました。 その意見を取り込みながら論文化を進めていこうと思います。 また、 森岡教授が進められているCREST研究において、 共同研究を行っている明治大学 嶋田教授の研究室に在籍する大学院生 鈴木さん、木室さん、石津さんとも情報交換をすることができました。リハビリテーション分野のみならず、 工学などの他分野と共同して研究を進めていかなければならないことを実感しました。     また、余談ですが会場の隣にはミシガン湖があり、私の地元にある琵琶湖とは比べ物にならないほど非常に大きく、圧巻でした。宿を取ったシカゴ市街地から会場までは少し離れており、MetraやCTAという電車で約20分、ミシガン湖の沿岸を30~40分かけて徒歩で移動したりしていました。 徒歩で移動すると様々な発見がありました。公園では日本では見かけないリスや巨大なカモに遭遇したり、フィールド自然史博物館やソルジャーフィールド (現在のNFLチームにおいて最も古いスタジアム) など歴史ある建物を見ることができました。何よりもミシガン湖と公園の緑、近代的な高層ビルを一望することができ、とても非現実的で、非常に感動しました。 それに加え、アメリカの人々は身長が高く、まるで自分が小さくなったかのような感覚を覚え、はじめの数日は自分自身がそこにいる感じが少し失われている感覚 (身体所有感が少し奪われたような感覚?) を体験することができました。環境との相互作用の中で、私たちの身体の感覚は形成されることを実感しました。   最後になりましたが、今回このような大変貴重な機会を設けていただいた森岡教授、大学関係者の皆様に感謝申し上げます。今回のSfN2024に参加した経験を十分活かしていけるよう精進して参ります。   畿央大学 大学院 健康科学研究科 神経リハビリテーション学研究室 博士後期課程2年 田中智哉 関連記事 第22回日本神経理学療法学会学術大会へ参加しました! 森岡研究室の同門会に院生・修了生49名が参加!~健康科学研究科 本学にて第33回奈良県理学療法士学会が開催されました。~健康科学研究科・理学療法学科 第28回 日本ペインリハビリテーション学会 学術大会で大学院生が一般口述演題奨励賞を受賞しました!~健康科学研究科 【快挙】大学院生の研究において、脳卒中患者の物体把持の測定における新しいアプローチを開発しました。 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.2~岩佐さん×赤口さん 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.1~淡路さん×渕上さん 健康科学研究科の記事 理学療法学科の記事

2024.10.16

第22回日本神経理学療法学会学術大会へ参加しました!

  2024年9月28,29日に福岡国際会議場にて第22回日本神経理学療法学会学術大会(以下、第22回学術大会)が開催されました。 日本神経理学療法学会は、森岡 周教授が副理事長、私、佐藤(ニューロリハビリテーション研究センター客員准教授/奈良県総合医療センター)が理事を務めており、毎年の学術大会参加者が2000人を超える大規模な学会になります。神経理学療法学会では、脳卒中や脊髄損傷、パーキンソン病をはじめとした神経筋疾患、脳性麻痺といった疾患に対する理学療法についての議論が様々な事業を通して行われています。 第22回学術大会の参加者は、2,000人を超えており、畿央大学大学院、ニューロリハビリテーション研究センターからも多くの大学院生や修了生、研究員、教員が参加しました。今回は、第22回学術大会での畿央大学大学院、ニューロリハビリテーション研究センター関係者の活躍をご紹介したいと思います。     第22回学術大会では、「創始 次代への超克」をテーマとして、特別講演やシンポジウム、特別企画等が企画されていました。特別講演では、「人機一体の時代に知性はどこへ向かうのか」というテーマに理化学研究所の入來 篤史先生を講師に迎え、森岡 周教授が司会として深い議論が行われました。最近では、PCやAI、スマートフォン、他の電子機器を使いこなすことが当たり前になっている背景をふまえ、人間の知性がどのように進化していくのか、非常に興味深い内容でした。特別企画1の「感覚障害に対する新たな理学療法研究」では、客員研究員の西 祐樹さん(長崎大学 生命医科学)が講師、信迫 悟志准教授が座長を務められ、異常感覚に対する介入について畿央大学大学院での研究成果を紹介されていました。特別企画2では森岡 周教授が登壇され、「間主観性と身体同調:患者と療法士の共同経験による自己の再構築」をテーマに講演されました。基幹シンポジウムでは、大住 倫弘准教授が司会を務め、ニューロリハビリテーション研究センターの高村 優作研究員がシンポジストとして「神経理学療法の高精度化に向けて」というテーマで情報提供が行われました。   また、複数の企画シンポジウムも準備されており、テーマは異なりますが修了生の脇田正徳さん(関西医科大学)、林田 一輝客員研究員(宝塚医療大学)、修了生の尾川 達也さん(西大和リハビリテーション病院)、大学院博士課程の乾 康浩さんがシンポジストとして情報提供を行い、宮脇 裕客員研究員(国立研究開発法人産業技術総合研究所)が司会をされていました。モーニングセミナーでは、平川 善之客員准教授(福岡リハビリテーション病院)が司会、私佐藤が「神経障害性疼痛に対するリハビリテーション」というテーマのもと、これまでの畿央大学が公表してきた多くの疼痛関連の研究成果を含めて講演し、立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。   また、公募型シンポジウムや一般演題発表でも畿央大学の活躍は目覚ましく、岡田 洋平准教授をはじめ、大学院生、修了生、客員研究員も研究成果を公表し、非常に活発な議論が行われていました。表彰対象となるセレクション演題では、大学院生の乾 康浩さん、三枝 信吾さん、修了生の藤井 慎太郎さん(西大和リハビリテーション病院)、赤口 諒さん(摂南総合病院)、宮脇 裕客員研究員の演題が選出されました。そして、宮脇 裕客員研究員が最優秀賞に選ばれる、大変喜ばしい結果になりました。さらに優秀賞や奨励賞も複数名が選ばれています(表彰についてはこちら)。     この他にもスキルアップレクチャーでは大松聡子研究員が海外よりリモートで講演され、植田 耕造客員准教授も司会をされていました。ランチョンセミナーでも企業と連携して培ってきた成果を修了生の藤井 慎太郎さん、赤口 諒さん、脇田 正徳さんが講師を務め公表されていました。どの会場も満席で本当に多くの方が参加していました。 教育講演では、岡田 洋平准教授がパーキンソン病、私が脊髄損傷に関して講演を行い、研究成果の報告だけではなく、現役理学療法士の方々への教育目的の企画にも携わっていました。   第22回学術大会では、森岡研究室、ニューロリハビリテーション研究センター関係者の多くの素晴らしい活躍を目にすることができました。これも学生の間だけでなく、修了してからも継続的に患者さんの回復、神経理学療法分野を発展させるために、日々努力しているからこそだと思いました。神経理学療法には幅広い分野がありますが、それぞれの分野で意義のある情報発信ができることは本当に貴重であり重要なことだと実感しました。今後も、畿央大学大学院とニューロリハビリテーション研究センターが神経理学療法、そして社会に貢献できるよう、臨床・研究・教育ともにさらに発展していくことを楽しみにしています。   畿央大学 大学院 客員准教授 佐藤 剛介 関連記事 森岡研究室の同門会に院生・修了生49名が参加!~健康科学研究科 本学にて第33回奈良県理学療法士学会が開催されました。~健康科学研究科・理学療法学科 第28回 日本ペインリハビリテーション学会 学術大会で大学院生が一般口述演題奨励賞を受賞しました!~健康科学研究科 【快挙】大学院生の研究において、脳卒中患者の物体把持の測定における新しいアプローチを開発しました。 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.2~岩佐さん×赤口さん 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.1~淡路さん×渕上さん 健康科学研究科の記事 理学療法学科の記事

2024.10.09

【森岡周研究室修了生インタビュー】大学教員をしている皆さんに色々聞いてみました!

7/27(土)に開催された森岡周研究室の同門会に先立って、現在は大学で教員をされている6名をお招きし、座談会形式でインタビューさせていただきました。中野さん、石垣さん、今井さん、林田さんは本学の理学療法学科を卒業後、大学院も修了。水田さんと菅沼さんは、大学院から本学の一員になられました。   中野 英樹さん (京都橘大学 健康科学部理学療法学科 准教授/理学療法学科1期生/健康科学研究科 博士後期課程修了) 石垣 智也さん (名古屋学院大学 リハビリテーション学部 理学療法学科 講師/理学療法学科4期生/健康科学研究科 博士後期課程修了) 今井 亮太さん (大阪河﨑リハビリテーション大学大学院 リハビリテーション研究科 運動機能科学領域 講師/理学療法学科5期生/健康科学研究科 博士後期課程修了) 林田 一輝さん (宝塚医療大学 和歌山保健医療学部 助教/理学療法学科8期生/健康科学研究科 博士後期課程修了) 水田 直道さん (日本福祉大学 健康科学部 リハビリテーション学科 助教/健康科学研究科 博士後期課程修了) 菅沼 惇一さん (中部学院大学 看護リハビリテーション学部 理学療法学科 講師/健康科学研究科 修士課程修了)   後列:(左から)今井さん、石垣さん、水田さん 前列:(左から)菅沼さん、中野さん、林田さん 卒業生または現在の立場から見て 畿央大学に対してどんな印象を持っていますか? 菅沼さん) 畿央大学はやはり国家試験の現役合格率(10年間で99.7%)はすごいですよね。どうやってあんなことでできるのだろうかと… 中野さん) 4回生がほぼ全員受験してそれで全員合格はすごいと思いますよね。成績が良い人はそのままでも自立できるとは思うのですが、成績が芳しくない学生を上に引き上げる仕組みがあると思います。 石垣さん) 森岡研究室では卒業研究も苦労した印象があるので、「国家試験はみんな受かって当たり前」という雰囲気はありましたね。スタンスというか、空気感を示してもらえたような印象はあります。 あと、理学療法学科は面倒見の良い先生が多かったですね。手取り足取り感はないんですが、自分でやらなければならない雰囲気をつくってくださっていた印象でした。勉強は大変でしたが、森岡先生以外の先生も皆さん熱心でしたし、臨床とのつながりを伝えていただいたと思います。知識だけではなく、熱意や態度を伝えてくれる。   他に印象に残っている先生は? 林田さん) 授業を受けている時は、松尾先生の印象は強く残っています。 中野さん) 学習している内容と臨床との接点をよく教えてくれましたよね。 石垣さん) 臨床現場で感動したことだけでなく、悔しかったエピソードも含め経験を熱く伝えてくださった印象です。勉強はもちろん、その先のことを考えて教えてもらっていた印象ですね。大学で教える立場になって、畿央にいたときは知識だけでなくやりがいというか情熱が溢れていたんだなと再認識しています。 林田さん) 大学時代は「学生を育てるだけではなく、患者さんのためになる理学療法士を育てる」というスタンスで教えてもらった、という印象が強かったです。試験前のプレッシャーもありましたね。ストイックというか、「60点くらいで受かる気持ちで患者さんに行くようになるなよ!」と言われていました。 今井さん) 「リハビリの時に歩行器の横でついて歩くだけで終わる理学療法士にはならないように」と言われていたのは覚えています。   その後、たくさん思い出話が膨らみましたが、ここは割愛させていただきます…     大学院からのお二人(水田さん・菅沼さん)にとって 畿央大学はどんな印象でしょうか? 菅沼さん) 大学院に入った時に思ったのは、畿央生で大学院に進んだ人の最初のプレゼンの質が高かったこと。最初から統計とかもしっかりしていて驚きました。 今井さん) 森岡研究室は修士、博士も学部生とつながりがあって、一緒にしていましたよね。組織として一緒にやって見ていくもの、という印象でしたね。 中野さん) みんなの時は5期生くらいだから、大学院も先輩の姿を見て「こうやっていかないと」と代々受け継がれている雰囲気があるんじゃないかな。最初は一番大変でしたよね。学部は20人、修士は10人くらいいたんじゃないかな… あと病院とかでもそうかもしれないけど、外部の学会発表よりも、大学院内の発表が厳しい方が学会の時に報われるという雰囲気もありますね。 水田さん) 畿央の卒業生は水準が高いなと思いましたよね。あとはゼミの雰囲気づくりがとても工夫されていると思いますね。 中野さん) 全体的なマネジメントが素晴らしいからだと思います。良いものが創出されていくような仕掛けは色々作られているなと思いますね。 石垣さん) ベクトルの方向というか、大きい方針を作るのが上手だと思います。研究室の中であらかじめ研究の方向性が決まっている部分もあるけど、基本的には自由ですね。 今井さん) 発表に対して「面白い、面白くない」という感覚を示していただくこともそうです。あと、いろんな研究する人がいるので、新しい知識を得られるだけでなく違った角度、視点から自分の研究を見つめ直せることも良いと思います。 中野さん) 今、私自身が大学院生を受け入れていて、自分の知識の範囲内で教えられないことだと責任が持てないし、違うテーマであればその専門の先生を紹介しようと思うんですが、森岡先生は研究領域の広さや受け入れ人数も含めて凄いなと思いますよね。真似できないです。 研究内容が自由だからこそ大学院生はその内容に責任を持つことが大事ですし、その中で磨かれたものは、外に行っても通用するし自己の成長につながるのは凄く大きいですよね。 石垣さん) 手取り足取りじゃないからこそ、自分で進んでなんとか形にしてきた人が、現在は各領域の学会などで役員を務めたり、研究会立ち上げたり、フロントランナーとして世に出ていますよね。 菅沼さん) ほんと、全員凄いですよね…   最後に森岡研究室で学んだことと、今後の抱負を教えてください! 中野さん) 私は神経科学に基づくリハビリ、特に脳を知り、脳を活かすリハビリを教育と研究を通じて今後も探索し、深化させていきたいと考えています。同門会や卒業生とのつながりを大切にしながら、共に新たなリハビリの可能性を追求し続けていきたいと思います。 石垣さん) 学部から大学院にかけて、畿央大学そして森岡研究室では「自ら問いを立て解決する姿勢と方法」を学んできました。今後は理学療法や神経科学に限らず、豊かな地域社会の実現を目的に、研究・教育・実践をつなぐ立場から、新たな価値を見出していきたいです。また、この道を拓いていく姿勢や過程を学生や後進と共にすることで、学びを伝えていきたいと考えています。 今井さん) 私は、森岡研究室で得た知見や考え方を活かし、多様な視点を取り入れながら、新しい評価法や理学療法のアプローチを生み出し、それを臨床現場に還元し続けていきたいと考えています。これまでの学びや発見を次世代の学生や若手研究者と共有し、彼らと共に成長する中で、リハビリテーションの新しい価値を築きたいと思います。そして、研究の「面白さ」を感じながら、それを臨床に還元できる喜びを伝承し、教育と研究の両面で幅広く貢献していきたいです。 林田さん) 大学院を修了した時に「森の分かれ道では誰もいない道を進もう。すべてが変わる」という言葉を森岡先生からいただきました。この言葉の意味を軸に、リハビリテーションに寄与できるよう幅広い分野で研究を続けたいと思っています。特に分野間の梯になれるような存在になっていきたいです。また現在私が持っているゼミでは、1人1つの研究課題を持つように指導しており、これは森岡先生やり方に倣っています。私自身が学部生の時に教わったマインド(好きこそものの上手なれ)を後輩に伝えていきたいです。 水田さん) 大学院生の頃、森岡先生から「結果を予想できるような研究はしないようにしよう」,「研究分野のフロンティアに立つことを意識しよう」という言葉をいただきました。今でも研究活動を進める際に肝に銘じている言葉です。学問を開拓していく楽しさや面白さを、次世代を担う多様な人材と共有し、ともに歩んでいけるよう教育と研究を進めていきたいと思います。 菅沼さん) 私は、大学院で森岡先生から「夢を持ち努力し続ける姿勢」を学びました。日本各地に多く大学院が設立されていますが、畿央大学は日本でトップクラスの研究・教育・指導力があるので、自らの夢の実現に最適な環境だと思います。特に森岡研究室では、全国から集まった仲間と切磋琢磨でき、意識が高い組織ができていると思います。このかけがえのない仲間・組織とともに、研究・教育に貢献できるように精進していきたいです。   編集後記 今回の記事には載せきれませんでしたが、他にも修了生のお名前がたくさん出てきたり、年齢関係なく縦のつながりを非常に感じることばかりで、今回お聞きした1時間という時間では足りないくらい大いに盛り上がりました。 また本学を巣立ってそれぞれの立場で活躍されている中でも、本学への思い入れを感じる瞬間が多くありました。なかなかこういう機会は実現できませんが、思い出話に花が咲くその姿が微笑ましくもある感覚を味わうことができました。 ご協力いただきました皆さま、ありがとうございました!ますますのご活躍をお祈りしています!!     広報センター   関連記事 森岡研究室の同門会に院生・修了生49名が参加!~健康科学研究科 本学にて第33回奈良県理学療法士学会が開催されました。~健康科学研究科・理学療法学科 第28回 日本ペインリハビリテーション学会 学術大会で大学院生が一般口述演題奨励賞を受賞しました!~健康科学研究科 【快挙】大学院生の研究において、脳卒中患者の物体把持の測定における新しいアプローチを開発しました。 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.2~岩佐さん×赤口さん 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.1~淡路さん×渕上さん 健康科学研究科の記事 理学療法学科の記事

2024.10.07

パーキンソン病患者の診療環境と日常生活環境における歩行速度の調節能~ニューロリハビリテーション研究センター

歩行速度は環境の多様な文脈に応じて歩幅やケイデンス等の歩行パラメーターが変化することで調節されます。パーキンソン病患者は環境適応への困難さが指摘されておりますが、診療環境と日常生活環境の歩行制御の差異は十分に明らかになっていませんでした。畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターおよび長崎大学生命医科学域(保健学系)の 西 祐樹氏らは、慣性センサーを用いて診療環境と日常生活環境の歩行を計測することで、診療環境と日常生活環境では歩行速度に応じた歩行パラメーターが異なることを明らかにしました。この研究成果はJournal of Movement Disorders誌(Adjustability of gait speed in clinics and free-living environments in people with Parkinson‘s disease)に掲載されています。 研究概要 パーキンソン病(PD)患者における歩行速度の低下や歩幅の短縮は、活動範囲、転倒リスク、生活の質、社会参加に影響を与える重大な歩行障害です。歩行速度は主にケイデンスと歩幅に影響を受けますが、PD患者においては、ケイデンスが歩行速度を主に決定付けます。これまでの先行研究では、参加者に快適あるいは最大歩行速度を求め、平均値や中央値による代表値によって歩行速度を解釈してきました。一方、日常生活環境における歩行速度の分布は二峰性ガウス分布を示しており、これは2つの好ましい速度が存在することが近年明らかになっています。比較的低い速度は、認知負荷が高い状況や狭い空間での歩行に該当し、比較的高い速度は、特定の目的地に到達する際やより広い空間での歩行に対応しており、環境や文脈に適応した歩行速度の調節能を反映していると考えられています。PD患者は環境適応性が低下していることが知られており、リハビリテーションが行われている診療環境と、日常生活環境では歩行が乖離している可能性があります。そのため、環境の違いによる歩行速度の調節能を明らかにすることは、PD患者の歩行適応性を理解するために臨床的に重要であるといえます。 そこで、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターおよび長崎大学生命医科学域(保健学系)の 西 祐樹 ら は、PD患者の診療環境および日常生活環境の歩行を計測し、比較しました。その結果、歩行速度に応じた歩行制御が診療環境と日常生活環境では異なるとともに、パーキンソン病の重症度、転倒回数、生活の質に関連していることを明らかにしました。   本研究のポイント ・パーキンソン病患者を対象に、診療環境と日常生活環境における速度に応じた歩行制御を比較した。 ・日常生活環境では、診療環境と比較して、歩行速度の調節能の低下、速度の低下、歩幅の狭小化、左右非対称性の増大がみられた。 ・日常生活環境における歩行の調節能はパーキンソン病の重症度、転倒回数、生活の質に関連した。 研究内容 本研究の目的は、PD患者の診療環境および日常生活環境における歩行速度に応じた歩行パラメーターを比較することです。また、歩行パラメーター、環境要因、PD特有の評価との関連性を調査しました。 PD患者を対象に、腰に装着した加速度計を用いて診療環境および日常生活環境で計測しました。抽出した歩行速度分布に二峰性ガウスモデルを適合させることで、歩行速度を低速と高速に分類するとともに、歩行速度の調節能(Ashman’D)を算出しました。歩幅やケイデンス、左右非対称性等の歩行の時空間パラメーターを、環境(診療環境/日常生活環境)×速度(低速/高速)の2×2反復測定分散分析を用いて比較しました。また、パーキンソン病の症状と歩行パラメーターとの関連性をベイジアン・ピアソン相関係数を用いて評価しました。   図1.診療環境と自由生活環境における歩行パラメーターの相関係数を示すヒートマップ 濃いピクセルはより高い相関係数を示し(赤色は正の相関、緑色は負の相関を表す)、各相関がBayes factor (BF10) ≥ 1であったピクセルにのみ、BF10値と95%信頼区間が示されている。*:BF10 ≥3は実質的な証拠、**:BF10 ≥30は非常に強い証拠、***:BF10 ≥100は決定的な証拠を意味する。 その結果、日常生活環境では、診療環境と比較して、歩行速度の調節能の低下、速度の低下、歩幅の狭小化、左右非対称性の増大がみられましたが、ケイデンスは変わらないことが明らかになりました。また、速度の低下によって歩幅やケイデンスは低下しますが、左右非対称性には有意差がありませんでした。また、日常生活環境における歩行速度の調節能とパーキンソン病の重症度(MDS-UPDRS-III)、転倒回数、生活の質(PDQ-39)に有意な相関が認められました。さらに、近隣環境の歩きやすさは(Walk score)、日常生活環境における歩行速度の調節能との相関関係はありませんでしたが、相対的に高い速度の割合との有意な相関関係が明らかになりました。これらの結果は、パーキンソン病患者の歩行制御が環境の影響を受けることを示唆しています。 本研究の臨床的意義および今後の展開 環境の違いによる歩行速度の調節能を明らかにすることは、PD患者の歩行適応性を理解するために臨床的に重要な示唆を与えます。今後は環境や文脈の要因を詳細に評価することで、PD患者における環境適応の病態をさらに明らかにする予定です。 論文情報 Yuki Nishi, Shintaro Fujii, Koki Ikuno, Yuta Terasawa, Shu Morioka. Adjustability of gait speed in clinics and free-living environments in people with Parkinson’s disease. Journal of Movement Disorders, 2024. 問い合わせ先 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長 森岡 周 Tel: 0745-54-1601 Fax: 0745-54-1600 E-mail: s.morioka@kio.ac.jp

2024.10.07

国際疼痛学会に本学教員、院生が参加しました!~健康科学研究科

2024年8月5日から9日まで、オランダ・アムステルダムで開催された国際疼痛学会( IASP 2024 World Congress on Pain ) に本学の教員および大学院生とともに参加しました。     本学会は、疼痛に特化した学会であり、特に基礎研究に関する発表が多く見られました。さらに、今回はIASPの50周年を記念する大会であり、規模も非常に大きく、数多くの優れた研究が発表されました。     私たちはポスター発表を行い、多くの方々から質問をいただきました。私と博士後期課程の高松昇三さん(オムロンヘルスケア株式会社)は変形性膝関節症に対する鎮痛目的の電気刺激の効果について、大住倫弘先生は脳波解析を用いた難治性疼痛患者さんの痛みについて、博士後期課程の井川祐樹さん(西大和リハビリテーション病院)は脳卒中後疼痛の病態特徴について発表しました。     海外の研究者はフランクで、前向きな姿勢で活発なディスカッションが展開され、とても刺激を受けました。英語力にはまだ課題がありますが、これを機にさらなる向上を目指し、世界の研究者たちと同じレベルで意見を交わすことができるようになりたいと強く感じました。       今回の大会は50周年記念という特別なものであり、講演も非常に豪華でした。特に、疼痛研究の過去、現在、未来に焦点を当てた講演では、テクノロジーの進歩を実感し、私たちもそれに適応していくことの重要性を学びました。     また、オランダの首都アムステルダムを少し観光する機会もあり、その文化に触れることで自分の価値観にも新たな視点が加わりました。         次回の国際疼痛学会は2年後にタイのバンコクで開催されます。それまでに良い成果を上げられるよう、引き続き研究に励んでいきたいと思います。   理学療法学科 助教 瀧口 述弘 関連記事 【快挙】挑戦と革新:第22回日本神経理学療法学会学術大会での輝かしい成果を収めました! 第12回日本運動器理学療法学会学術大会で発表した院生レポート!~健康科学研究科 瓜谷研究室|KIO Smile Blog 第12回日本運動器理学療法学会学術大会に参加しました~健康科学研究科・理学療法学科 瓜谷ゼミ|KIO Smile Blog 第14回呼吸・循環リハビリテーション研究大会を開催しました!~健康科学研究科 田平研究室|KIO Smile Blog 4大学での合同ゼミで学部生・院生・教員が交流しました!~理学療法学科 瓜谷ゼミ|KIO Smile Blog 第3回日本老年療法学会学術集会で大学院生と修了生(客員研究員)が発表~健康科学研究科|KIO Smile Blog 森岡研究室の同門会に院生・修了生49名が参加!~健康科学研究科 健康科学研究科の記事 理学療法学科の記事

2024.10.04

【快挙】挑戦と革新:第22回日本神経理学療法学会学術大会での輝かしい成果を収めました!

最優秀賞を含む各賞に本学関係者が受賞!   2024年9月28日、29日に開催された第22回日本神経理学療法学会学術大会が2,100名以上の参加者を集め、大きな成功を収めて閉幕しました。本学関係者の活躍が光る素晴らしい大会となりましたので、その成果をご報告いたします。   大学院修了者ならびに在学生の輝かしい受賞 本学大学院健康科学研究科の修了生および在学生が、666演題の中から、見事に受賞の栄誉を手にしました。 最優秀賞(1名) 宮脇 裕 氏(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人間拡張研究センター、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター;2021年3月本学大学院博士後期課程修了、森岡周研究室) 演題名:運動主体感の減少が脳卒中後の上肢使用量にもたらす影響とは?   優秀賞(3名のうち2名) 藤井 慎太郎 氏(西大和リハビリテーション病院;2024年9月本学大学院博士後期課程修了、森岡周研究室)※写真向かって左から2人目 演題名:パーキンソン病患者における歩行障害の特徴―重心追尾型歩行計測システムを用いた運動学的特徴に着目して― 三枝 信吾 氏(東海大学文明研究所、畿央大学大学院博士後期課程在籍、森岡周研究室)※写真向かって一番右 演題名:回復期脳卒中患者はなぜ歩行を重要と認識しているか―半構造化インタビュー法を用いた質的研究―   奨励賞(5名のうち2名) 奥田 悠太 氏(公益財団法人脳血管研究所美原記念病院;2023年3月本学大学院修士課程修了、岡田洋平研究室)※写真向かって左から2番目 演題名:脊髄小脳変性症患者の歩行中における転倒発生状況の検討   赤口 諒 氏(摂南総合病院;2024年9月本学大学院博士後期課程修了、森岡周研究室)※写真向かって一番左 演題名:脳卒中症例の物体把持動作の特徴-予測制御の成否と過剰出力・動作不安定性との関連に着目して   これらの受賞は、本学の教育・研究プログラムの質の高さを示すとともに、修了生たちの継続的な努力と成長を表しています。 セレクション演題選出者 博士後期課程(森岡周研究室)に在籍中の乾 康浩 氏と立石 貴樹 氏(武蔵ヶ丘病院;2024年3月本学大学院修士課程修了)は、惜しくも受賞には至りませんでしたが、666演題の中から25題しか選ばれないセレクション演題に選出されたことは、大きな評価に値します。特筆すべきは、乾氏が2年連続でこの選出を受けたことです。   新たな研究の潮流 今大会では、最優秀賞に「脳卒中後片麻痺患者の身体性(運動主体感)の変容」に関する研究が、優秀賞に「脳卒中後片麻痺患者の主観的意識経験に関する質的研究」が選ばれました。これは、【新学術領域研究】および【CREST研究】から進展している神経理学療法学の分野の新たな方向性を模索していることを示唆しています。   未来への展望 本学では、これらの最新の研究動向を踏まえ、より革新的かつ包括的な理学療法教育・研究を目指してまいります。学生の皆さんには、この分野の無限の可能性に挑戦し、自らの「粘り」で、こうした先輩たちに続くように、新たな知見を切り開いていってほしいと思います。 最後に、今回の成果を支えてくださった全ての関係者の皆様に心からの感謝を申し上げます。皆様の継続的なサポートが、本学の研究者たちを大きく後押ししています。 今後も本学は、理学療法学、ならびに世界の科学の発展に寄与し、社会に貢献できる人材の育成に全力を尽くしてまいります。高校生の皆さん、現場で働いている皆さん、研究者の皆さん、ぜひ本学の取り組みにご注目ください。   畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター長 森岡 周   関連記事 森岡研究室の同門会に院生・修了生49名が参加!~健康科学研究科 本学にて第33回奈良県理学療法士学会が開催されました。~健康科学研究科・理学療法学科 第28回 日本ペインリハビリテーション学会 学術大会で大学院生が一般口述演題奨励賞を受賞しました!~健康科学研究科 【快挙】大学院生の研究において、脳卒中患者の物体把持の測定における新しいアプローチを開発しました。 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.2~岩佐さん×赤口さん 【学生×実習先インタビュー】実習での症例を基にした卒業研究が国際誌に!vol.1~淡路さん×渕上さん 健康科学研究科の記事 理学療法学科の記事

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